荘村清志(ギター) ギター作品における“武満サウンド”とは

2016.8.1
インタビュー
クラシック

荘村清志(ギター) ©得能通弘 CHROME


 クラシック・ギター音楽界における夏のフェスティバルとして定着し、11回目となる『Hakuju ギター・フェスタ』。今年は2006年の第1回でテーマ作曲家となった武満徹の没後20年であり、今また彼の音楽を総括しようというプログラムだ。

 第1回から福田進一と共にプロデューサー役を務めている荘村清志は、「フォリオス」「ギターのための12の歌」「エキノクス」ほか多くの作品を初演するなどして“武満のギター”という“ブランド”を作り上げた一人である。
「ギター・フェスタの1回目は武満さんの没後10年でしたが、ホールのスタッフも含め、みんなが武満作品で3日間だと集客がどうなるのか、と心配していました。でも蓋を開けてみたら3日間とも満員で、多くの人に関心をもたれているということが証明されたのです。それから10年がたちますけれど、コンサートではますます武満作品が若いギタリストによって演奏され、いよいよスタンダードなレパートリーになりつつあるなと実感しています。武満さんご自身は自分の作品についてあれこれと演奏者に口を出さず、いろいろなギタリストが演奏して違った音楽が生まれるのを楽しんでいたと思います」

ギター作品における“武満サウンド”とは

 荘村はどのようなプログラムを今回披露するのだろうか。
「今年はギターのオリジナル曲や『12の歌』を、僕と福田さん、それからジェレミー・ジューヴという素晴らしい才能の持ち主が振り分けて演奏し、ほかにもいっしょに歌いたくなるような『SONGS』や、鈴木大介さんが中心となる映画音楽のコンサートがあります。面白いことに大介さんが映画音楽関係の資料を調べていたら、僕がずっと以前にギターを弾いた『しあわせ』という映画の楽譜を探しあてたそうで、実は僕自身も弾いたのを忘れているほどでした。その曲を今回、大介さんとの二重奏で、数十年ぶりに演奏できるのは自分でも楽しみです」

武満がギターという楽器に愛着をおぼえ、独自の響きを生み出そうとしていたのは事実。演奏者にとっては、どういった魅力がある音楽なのだろうか。
「楽譜にピアノやピアニッシモが多く、ハーモニクスも非常に効果的ですね。そうした中から生まれる繊細さや、ギターのサウンドホールの奥から響いてくるような余韻がお好きだったのだと思います。その柔らかな響きを味わうことが、演奏者にとってもお客様にとっても素晴らしい体験になるのでしょうね。僕も若い頃と比べて、一音一音をかみしめるように弾くことが多くなりましたし、間もたっぷりととって次のフレーズへ移るようになりました。そうした自由な呼吸も許容してくれるのが武満作品の素晴らしさだと思いますし、ホールいっぱいに広がる響きを堪能していただけるはずです」

実力派の若手、そしてcobaの新作初演も

 3日間のコンサートでは、フルート奏者の工藤重典が登場する回や(ソロやギターとのデュオ)、荘村が「将来のマエストロ候補なので今から聴いておいて欲しい」と称賛する猪居謙のリサイタルにも注目だ。さらにはアコーディオン奏者であり、実は武満が生前に愛用していたピアノを所有しているというcobaの新曲(ギター・フェスタ委嘱作品/荘村+福田デュオで初演予定)も演奏される。また、フィナーレでは、武満の『SONGS』をカウンターテナーの藤木大地が歌うのも注目だ。

 リピーターも多いという『Hakuju ギター・フェスタ』だけに、お聴き逃しありませんよう。

取材・文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ 2016年8月号から)


第11回 Hakuju ギター・フェスタ 2016 武満徹へのオマージュ2

第1日 8/19(金)19:00 【第一夜】 荘村清志 ソロ、武満のフィルム・ミュージック
第2日 8/20(土)
16:00 【旬のギタリストを聴く】 猪居 謙 リサイタル
18:30 【第二夜】 福田進一 ソロ、武満が描く風景〜coba新曲世界初演
第3日 8/21(日)15:00 【フィナーレ】 ジェレミー・ジューヴ ソロ、武満SONGS
Hakuju Hall
問合せ:Hakuju Hallセンター03-5478-8700
http://www.hakujuhall.jp