舞台『星回帰線』向井理にインタビュー「舞台には魔力がある。もっと舞台に出たいんです」
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向井理
――前回の舞台から3年ぶりなんですね。
舞台はなるべく年に1本はやりたいと思っていたので、3年も空いたのは逆に意外でした。「やりたい」というより「やらなければならない」と思っていたのでようやく実現して嬉しいです。また蓬莱さんと一緒にやりたいと言っていたことが実現したことも嬉しいです。蓬莱さんとはよく飲みながら「一緒にやりたいね」って話をしていたんです。蓬莱さんと直接お仕事をしたことはないのですが、毎回モダンスイマーズの公演は観ているし、その飲み会にお邪魔することもありまして。
――蓬莱さんとの出会いは?
いちばん最初は、2008年の映画『ガチ☆ボーイ』。この原作が蓬莱さんの『五十嵐伝~五十嵐ハ燃エテイルカ~』で、その時の脚本を書いているのが今、朝の連続ドラマ小説『とと姉ちゃん』を書いている西田征史さん。そこから間接的に知り合って、そのうち個人的に親しくなり、モダンスイマーズを観に行くようになったんです。
――向井さんから観た蓬莱作品の魅力は?
蓬莱さんの作品って、登場人物はそれほど多くないんです。青山円形劇場でやった『真夏の迷光とサイコ』(2010年7月)や『ポテチ』(2010年10月)も観ましたが、やはり大きい規模の舞台じゃなかった。僕もどちらかといえば、小さい規模の作品が好き。今まで僕がやってきたのも10人を超える作品はなくて、最初は4人、そして5人になって、「小野寺~」も9人くらいかな。そういう点でも蓬莱さんの世界が好きなんです。
また、日常を描いた作品が好き。ちょっとしたことに気付いたり、普通に会話しているのに喧嘩になったり……売り言葉に買い言葉でケンカになっていく展開が毎回おもしろいなって思います。観客として観ているんですが、自分が演じる側なので、脚本の構成などをどうしても気にしてしまうのですが、本当によく作られているなと思います。
蓬莱さんの作品は、どこに話の種をまいているか予想がつかないので、集中して楽しんでいます。あれはそういうことだったんだ、とか、伏線をきっちり回収していくのが絶妙におもしろい。芝居をやる側としては、それを出しすぎてもあざといし、サラッと流したらわからないし。だから、演じる側としては難しいと思いますね。
向井理
――向井さんが小規模の舞台が好き、と思う理由は何でしょうか?
劇場も登場人物も少ない方が観やすいと思うんです。何も知らないで観る人って、まずは登場人物のキャラクターを理解しようとすると思うんですが、それが大人数だと中々大変ですよね。やる側としては、少なければ少ないほど出番が増えるから大変なんです(笑)。
――今回の『星回帰線』について。プロットをお読みになった感想は?
ちょっと特殊な環境なんですが、そこで生きている人はごく普通の人たち。舞台って非日常なものなのですが、「非日常」の中で描かれる「日常」。そこから違和感が生まれてくるのですが、それが観る方へのメッセージになったり、感じることなのかなと。力んでしまうと滑ると思うので自然体でやろうと思っています。
――舞台に出演するときに向井さんが思うことは?
普段から、わかりやすいお芝居をしないように、と気を付けています。それって観ている側もつまらないと思うので。舞台はお客さんがディレクターで、自分のカット割りを持って観ている。ドラマや映画だと見えないところまで舞台は見えているんですよね。
映像のお仕事では、セリフを覚えたらどんどん消化していくものなので、一日何回かしかそのセリフをしゃべらない。台本を読んでいる時間は長くても、撮影は一瞬で終わってしまう。映像の仕事が重なっていたときに、ふと「もったいないな、セリフが」って感じたんです。書く人はすごい労力で書いていると思うんですが、それをどんどん消化していくのがもったいないな、って。もちろん映像そのものは残りますが、感覚的に何か垂れ流しているような気がする。それで舞台をやりたいと思ったんです。舞台は稽古も含めて100回、200回とやるので膨大な回数でセリフを言う。より「セリフを大事にしている」気がするんです。
舞台は「修行」とも思っています。あまり人前に立つのは得意じゃないので、毎回本当にやめておけばよかったと思うんです。幕が開くブザーの音を聞くたびに「本当にやめときゃよかった。やらなきゃよかった。いや、もう二度とやらない」と(笑)、それくらい怖いです。
――それなのにこうしてまた舞台に出演するという(笑)。
千穐楽を迎えるとまたやりたくなるんです(笑)。で、また稽古が始まり本番がくると……その繰り返しなんです。舞台には魅力というか魔力がありますね。中毒性があるというか。それを客観的に観ると「舞台が好き」となるんでしょうね。
あと、「ライブ」であることが舞台の魅力ですね。観客のリアクションが直接分かるし、明転して最後に灯りがパアッと付いた時に見える観客の表情ですべてがわかりますよね。
向井理
――『星回帰線』の話は既存の共同体の中に外部から一人入っていくというものになるようですが、向井さん自身は、同じような状況になったとき、自然に溶け込んでいけますか?
いや、苦手ですね。人見知りですし。「ゲスト」としてそこに入るときも、内輪で盛り上がっているその輪を壊さないようにそっとしているほうです。外から傍観しているほうが楽しいですし。今回の座組みはどうなるんだろうなあ。
奥貫薫さんは10年くらい前にドラマで一緒になりましたが、それも一瞬だったので、ほとんど皆さんと初顔ですね。緊張こそしますが、一緒に板の上で闘う人たちなので敵対する訳じゃないですしね。チームワークでやっていかなきゃと思っています。でも自分が「座長」だとは思ってないです。ステージに出ちゃえばみんなそんなこと考えないでやっていると思います。しいていうなら、カーテンコールのときの立ち位置をちょっと考えるくらい?(笑)
――舞台中は演じている役をプライベートでもひきずるタイプですか? それとも、すぱっと切り替えられるタイプですか?
僕は全然ひきずらないですね。稽古はちょっと違いますけど。衣装でなく稽古着でやっているから家の中で着るような服だし。役柄的にご飯を食べられなくなることはあるけれど、気持ちはひきずらないですね。ただ、舞台の場合、始まりから終わりまでの間に自分が変わっていく役の場合、それを毎日、昼夜やるとストレスがたまるんです。精神的なプレッシャーが。
――それはどうしてですか?
物語の最初は鬱屈している設定で、最後にはちゃんとした人になる話の場合、夜公演でまた鬱屈した人に戻らなければならない訳です(笑)。せっかくちゃんとしたのにまた戻る、この繰り返しが結構キツイんです。
――キツさを感じるとき、どんな気分転換をするんですか?
気分転換はしないです。キツイままでいきます。変に楽になっちゃうと元に戻れなくなりそうで。だから辛いときは辛いまま、むしろ寝ずにやったり。公演が終わったら自分を解放しますが。それまでは抱え込んでどんどん落ちていく感じにしていますね。
向井理
――それにしても、向井さんがこんなに演劇ファン、演劇男子だとは思いませんでした。
本当はもっともっと舞台に出たいんですけどね。僕、本当に舞台が好きなんです。時間があったらすぐ観にいきますし。今だとWOWOWなどでも観ますけど、やっぱり生の舞台が好きです。何十回しかやらない中の1回を見ることができるのはすごい事だと思う。以前、ブロードウェイで『ビリー・エリオット』を観たことがありますが、その時のことは今もすごく覚えています。生で観る迫力は他のものには代えがたいです。
僕自身に舞台というイメージがないと思うので、誰と組んでも珍しがられると思います。初舞台があのポツドールの三浦大輔さんの演出ですから(笑)。蜷川幸雄さんと生前にお会いしたときに「お前、なんでアイツ(三浦)と舞台やったんだよ!」って言われました! でもそういう小さい箱でやるような作品が好きだから。大きい箱でどかっとやる作品もいつかやりたい、とは思っていますけど。
どうせなら「なんか、面白かったねー」じゃなくて、観る人の心に爪痕を残すような、賛否両論あるような舞台をやりたいです。その結果、お客さんを置いて行っちゃうこともあるかもしれないけど。頭を使わないとわからないのが舞台だと思います。
対して映像ってなんでもできるので、わかりやすさを追求されると本当にわかりやすくできあがってしまう。そのわかりやすさを強いられるのがすごく苦手なんです。もっと観る側に考えさせるほうがおもしろいと思うのに、テロップとか、手紙を声に出して読んじゃうのとか苦手ですね。内容をわざわざ見せるんじゃなく、演者の表情で読み取ってほしい、って思うこともあります。
でも今は、それが許されない時代でもあると思うので、ただやりたくないと思うより、そうじゃないところをやっていこうと思っています。舞台はちゃんと見ていないとわからないですしね。舞台の
向井理
■日時:2016年10月2日(日)~30日(日) ※10月1日(土)プレビュー公演
■会場:東京芸術劇場 シアターウエスト
■作・演出:蓬莱竜太
■出演:向井 理、奥貫 薫、野波麻帆、高橋 努、岩瀬 亮、生越千晴、平田満
※2016年11月 愛知、札幌、新潟、京都、広島、北九州、鹿児島 公演あり
■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/news/?id=296