エンタメの今に切り込む新企画【ザ・プロデューサーズ】第六回・節丸雅矛氏
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ザ・プロデューサーズ/第6回 節丸雅矛氏
――節丸さんが若手を育てるポジションになって、若手にいつも言っていることがあったら教えて下さい。
先ほども出てきましたが、いつも新しくて面白いことやろうと。ちょっと前にベスト盤やコンピレーションがすごく売れて、なんか懐かしいムードが漂ってきたのですが、それが嫌で。懐古主義のようなものはすぐに終わりが来るので、そういう時こそもっと面白いことをやろうと言っていました。一番新しいエッジのものをやろうよと。だからゴールデンボンバーを見つけることができたんです。「何、そのエアバンドって? 演奏していない奴が現れたって?それ学芸会じゃん、でも面白そう」という話から始まったんです。それで「TOKYO VISUAL FESTIVAL 2010」に出てもらって、注目を集めました。
――やっぱり敏感なアンテナを常に張っていなければ、次のスターは見つけられないんですね。
気持ち的には、そのジャンルの一番を見つけようということです。ラジオの場合“喋らなきゃいけない人”がいるんですよ。で、凄く才能があるんだけど“喋る必要のない人”もいるんです。例えば、喋る必要のない人の典型的が宇多田ヒカルです。16歳の時に番組はやっているんですけど、彼女は凄い才能なので、音楽で全部事足りているんです。売れているアーティストには番組で喋って欲しいと思いますが、彼女の場合はラジオで喋る必要がなかったと。それに対して、大槻ケンヂは音楽だけでは足りないというのが本人も最初からわかっていて、だから本を書いちゃうんですよ。それでみんなに驚かれたのが、小栗旬を「オールナイトニッポン」のパーソナリティにしたことです。
――やっていましたね。何年くらいやっていたんですか?
2007年から2010年までやっていました。
――小栗さんってあまりラジオで喋るイメージがなかったですよね。
それでピンときて、すでに超売れっ子俳優だったのですが、まだみんな小栗旬のかっこよさに気付いていないと思っていました。それと同時に、彼と話をしていたら、将来的に絶対映画を撮ると思ったんです。実際『シュアリー・サムデイ』(2010年)という作品で、監督をやって、今でもプロデュースとかやっていますが、その時に、彼は俳優だけど、もっと喋ったり、人に色々語らなければいけない人なんだと思ったんです。自分でこういうものを作りたくて、こうやりたくて、こういう風にやって欲しいということが明確にある人なので、ラジオに向いていると思いました。 ただ、役者の中でも監督志向がない人は、ラジオは向いていないんです。自分の中で完結して演技できる人はあんまりラジオ向きではないんです。だけど人に伝えたいことがある人は、すごくラジオとの相性がいいです。
――小栗さんの口説き文句を教えて下さい。
彼は「なんで僕なんですか?」ってずっと言ってました(笑)。だから「演じるだけじゃ足りないこともあるんじゃないかと思った」と説明しました。
――2011年の大震災以降、ラジオの役割というか役目が改めて見直されて、ラジオって絶対必要なメディアだと言われいますが、もっと小さいところでいうとコミュニティFM がどんどん出来てきたりしてますけど、これからラジオはどういう風になっていくべき、なってほしいと考えていますか?
1強とコミュニティラジオという状態になるのではないでしょうか?
ザ・プロデューサーズ/第6回 節丸雅矛氏
――ニッポン放送が1強ということですか?
それはわからないです。ラジオ局の統合が進んでひとつのネットワークになっていくのではないかと。要するにメジャーな局はひとつにまとまって、その代わりコミュニティFMはこれからもどんどん増えていって、2極化すると思います。でもやっぱり日本全国に届いているということが必要だったりするんです。「オールナイトニッポン」って、ひとたびそこで誰かが喋ったら、36局ネットなので全国隅々まで届くということが重要で、そういうネットワークを持つことは必要です。だけどその一方で、渋谷区でしか聴けない「渋谷のラジオ」のようなコミュニティFMもすごく面白いと思います。
――これまでラジオから生まれたヒット曲も数多くありますが、ラジオ局と音楽業界とは常に密接に繋がっていますが、節丸さんに目には今の音楽業界はどう映っていますか?
確かにネットが発達して、配信が増えたので音楽がダメになったという考え方もありますが、世界のレベルからいうと全然そうじゃなくて、ネットが発達したおかげで、プロモーションコストが下がったという考え方があるんです。アリアナ・グランデは自撮りした映像をネットに配信して、世界中でCDが売れるわけで。ネットをまだ敵と思っている人が音楽業界にはたくさんいるんです。もう抵抗するのなんて無理なんだから、なんで早く諦めないかなと思います。そこに違和感を感じますね。
――レコード会社の在り方も変わってきますよね。
最近よくする話があって、レコード会社は音楽だけ作っていたらダメなんです。で、これは今意識してる人もいるし、意識していない人もいるのですが、例えば去年ネットでヒットした音楽のランキングがあって、全部YouTubeが貼り付けてあって、それを観ていて気付いたことがあります。今は映画みたいなMUSIC VIDEOが多いんですよね。演奏シーンのあるMVなんかほぼない。その時まあまあ売れているアーティストで、音楽の演奏シーンがあったのはSiggyJr.だけでした。他は、例えば渋谷の街を歩いていて、109を見上げるとそこのビジョンに歌詞が流れているというリリックビデオみたいな感じで、それで出てくる人が全員ヘッドフォンをしていて。これは作り手が、ヘッドフォンで音楽を聴きながら観ていた風景なんだろうなと。で、それおかしいなって思っていたら岡崎体育がそれを「MUSIC VIDEO」という曲にして、大爆笑しました。
――あれはいいですね。
あれは裏を返すと、曲を作った人達がもう見えてる画があるということなんです。そこに見えている物語があって、やっぱり音楽というのは映像より先にあるものだと思うので、映像と音楽を一緒に作るのが正しいと思うんです。それを実はもうディズニーは「ショートコンテンツ」という形でやっていて、音楽と映像が一体となった作品です。それがネット上でヒットするコンテンツという答えを出して、動画制作会社を買収したんです。映像でもアニメでも映画でもない、動画というひとつジャンルだから、それはやってみないとわからないということだと思います。
――世界的にもそういう方向に向かっていると。
だから音楽だけ作るという発想が、もう通用しない。今に合っていない。映像がない時代はそれでよかったと思いますが、今は映像があるわけじゃないですか。だからそれを作らないとダメなんですよ。みんなYouTube観ているし、映像ごと作らないとダメだと思ってます。
――時代の流れをしっかり汲んで行かなければ、どんどん置いて行かれるばかりだと。
例えばレディー・ガガはソーシャルの担当が10数人いるらしいんです。僕は2008年頃、番組が終わってからもそれを走らせておく時代が来ると思ったので、マイスペースを使ったんだけど、全く社内に理解されなかったんです、マイスペースを使うという意味が。Twitterが始まった時も営業セクションにいたので、部下全員にすぐアカウントを取らせて、Facebookも始めさせました。それで編成にもTwitterのアカウント取れと言ったのですが、やらないんですよ。だから営業促進部のアカウントを作って、営業情報を発信しろと言って始めました。それをTwitter社に言ってオフィシャルにしてもらって。その流れで今の吉田尚記が、日本で最初のTwitter公認アナウンサーになれたんです。
――節丸さんより若い人達がもっと新しい事、面白い事をキャッチしていかなければいけないですね。
最近のラジオ局を受ける人の傾向って、アニメ、ゲーム好きが多いんですよ。でもそういう人ってラジオ好きじゃなかったりするんです。そういう意味ですごくラジオ局の人材採用って難しいと思いますね。面白い話があって、言い得て妙だなと思ったのが、今のIT企業の社長の特徴ってあって、親がファミコンじゃなくてMSXを買ってくれた人が多いそうなんです。
――そうなんですね。
それが今の40歳前後の人達。それって理解できる話で、僕はゲームを一切やらないんですよ。だって人が作った世界で遊ぶのなんかつまらないじゃないですか。そうやってつまらないと思うことが、クリエイティブの基本だと思っています。僕が大学生の時にファミコンが流行っていましたけど、やっぱりMSXを買いました。だってそっちの方がプログラムを自分で作って無限に遊べるじゃないですか。ファミコンなんて人の作った世界の中で遊ぶだけで、そんなのつまらない、全然クリエイティブじゃないと思っていました。
ザ・プロデューサーズ/第6回 節丸雅矛氏
――その根本的な考えが仕事の基本になっているいうことですよね。
ゲームって人が作った世界の中で、ずっと作業させられているだけ。だから企画する人と作業する人と、人間どんどん分かれていっていて、それは怖いことだと思います。だからクリエイターはゲームをやったら途中で飽きると思うし、ものを作る人が多い方が、いいに決まっています。
――最後に、今もバンドをいくつもやっていると聞きました。
少し減らして2つやっています。ジャズフージョンバンドで、ライブもやっています。やっぱりできなかったことができるようになるという体験が好きなんです。だからジムにも行くし、走りますし。まだこれから上手くなるんですよ、楽器って。今もずっとサックスをやっていますが、この前もう1回ギターとベースを引っ張り出してきて、弦を張り直しました。そっちももう1回いじってみようかなと。
――仕事も趣味もとにかく楽しそうです。
楽しそうって言われているのが好きなんです(笑)。
【編集後記】
ラジオとネットメディアという、別の媒体を扱ってはいるが、やはり改めて「コンテンツ」を見出し、創り出し、適正な人間が適切な形で世に送り出すということの重要性を感じた。そして作り手側がいかに「ワクワク感」を持って楽しんで演出をするのか。時代の大局もみてアンテナを張り心の底から音楽やエンタメを楽しんでいる節丸さんとお話していて強く感じました。改めてエッジのあるコンテンツとは、自らが発信しているものへ自信を持ちつつ掘り下げ、そして緩和していくもの。最終のアウトプットがキャッチーであればマニアックにならないんだろうな。そんなことを思わせてくれる素晴らしい「プロデューサー」でした。
次回もお楽しみに
編集・企画・撮影=秤谷建一郎 文=田中久勝
1965年生まれ。ニッポン放送で深夜番組「オールナイトニッポン」に長く関わり、松任谷由実、福山雅治、吉井和哉、ポルノグラフィティ、ゆず、ロンドンブーツ1号2号、X JAPANのhide、小室哲哉などの番組を担当。また番組のみならず、ライブイベント、映像制作、出版、音楽などのコンテンツプロデュースなども数多く手がけている。