八代亜紀インタビュー~ディズニー映画EDテーマからフジロックなどのフェス出演、そして熊本への思いまでを直撃で語ってもらった~
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八代亜紀 撮影=大塚 秀美
――それは是非聴きたいです!桑田さんは昭和の歌を歌い継ぐという主旨のライブもやっていました。それにしても通常のステージだけで年間150本というのは凄い本数です。本当に今、充実してる感じですね。
本当にそうですね。絵を描く時間がないくらい充実しちゃって。それでも月2回は箱根のアトリエに描きに行っています。
――そこは死守しているんですね。
私にとってはそれが精神のバランスを取る方法のひとつになっているので。ギアチェンジというか、精神のチェンジというか。
――真っ白いキャンバスに、その時の精神を全部ぶつけて出している感じですか。
そうです。日々肉体労働ですから、その疲れを癒してくれるのが絵なんです。
――感情を全部キャンバスにぶつけるから、絵にすごく力があります。
そうです。集中して、写実ということにおいての絵なので、心がそのまま出るんですよね。
――感情がほとばしってる絵もあれば、動物を描いている癒しの系の絵もありますよね。
八代亜紀を描くときは、感情の代弁者を描いてるんですね。でもお花とか動物を描くときは本名のあきよ、あきちゃんが入ってますからね。この入れ替わりがものすごく楽しい。
――オンとオフの切り替えがしっかり出来ているんですね。
そうですね、精神のね。それは30年近く前からやっています。だからいつもフラット。シャイでフラット(笑)。
――ご自分の精神安定のためというか、絵は感情をぶつける“場”でも、結局お客さんに喜んでもらえているということですよね。
そうなんですよ。私の絵って病院の待合室に飾ってあったりするんですね。そうすると、患者さんがずっと絵を見ていたらもう治ったって言うんですって。絵って力があるんですね。ある時、猫の絵を買っていかれたおばあちゃまから手紙がきまして、二人暮らしのおじいさんがいつもイライラして、おばあちゃんが作るものもいつも美味くないって言っていたと。そんな時、おばあちゃまが「これ亜紀ちゃんが描いた絵なんだよ」って言って、おじいちゃんがその絵を毎日見て、猫ちゃんの絵に向かって亜紀ちゃんって言ってるんですって。そうしたら優しくなったって書いてくれていました(笑)。
八代亜紀 撮影=大塚 秀美
――絵の力でファンを癒していますが、女子刑務所への慰問をずっと続けていて、歌の力で受刑者励ましていらっしゃいます。もう何年くらい続けていらっしゃるんですか?
慰問は昭和48年に、少年院からスタートしました。それから女子刑務所に行くようになり、もう35年間になります。
――35年!もうライフワークのひとつになっていますね。
最初は受刑者の方を観た時はショックだったけど、でも人生紙一重、誰でも犯罪を起こす可能性がある。人間は感情的な動物だから。それを35年前に実感したんです。私の歌は、男を愛して捨てられてという女の歌が多いじゃないですか。
――逆に歌に救われる人がたくさんいるということも、実感されてるんですよね。
だから私はずっと誰かの代弁者なんですね。私の歌は自分の経験ではなく、誰かのことなんですね。だから丁寧に言葉を伝えるということが大事だと思うんです。その人たちの辛さを、代わりに父譲りのこの声で表現して、それを聴いた人は歌の主人公が自分に似ているんだけれども、自分よりももっと辛い人がいるんだ、だから頑張らなくちゃいけないって思うんですって。
――刑務所の中で歌うと、泣かれてる方がたくさんいらっしゃるそうですね。
みんな泣いています。でも大声出して泣いちゃいけないから、声を押し殺して泣いています。
――それが逆に悲しいですね。
そうなんです。それが辛いですね。うちの照明とか音響のスタッフが男性で、その姿を見てみんなもらい泣きしながらやっています。
――受刑者の方で、出所後に八代さんのコンサートに行って再会する方もいらっしゃるとか。
そうなんです。私は「卒業」と言っていますが、卒業して、もし自分の街で八代亜紀コンサートがあったら必ず訪ねておいでって言うんです。実際何度か訪ねてきてくださったことがあります。
――いつも同じ刑務所に行かれているんですか?
いえ全国です。もう何周か回りました。男性の刑務所は、1度しか行ったことがないんです。それは盛り上がりすぎて大変だったからです(笑)。
――6月18日と19日には故郷の熊本に復興支援に行ったとお聞きしました。
はい行きました。トラックステージで歌ってきました。
――実際、被災地の光景を目の当たりにして、どんな感じだったのでしょうか。
本当びっくりしましたね。だって家が真っ二つになっていて、だけど、みなさんがすごく頑張った顔をしてらして、地元だから、逆にかわいそうと言うのはやめようという気持ちになりましたね。ステージに出た時に、みなさんの、待ってました!って感じの顔を見た時に、思わず「しょうがなか」って言葉が出てきました。「もうやるしかなかばい」って言ったら、みんな「そぎゃんたい」って言ってました。「前に進むしかなかばい」って、言葉が出てしまいました。そうしたらみんな「うん。そやたい」って言っていましたね。熊本はいい街なんです。自然豊かだし、阿蘇も綺麗だし、私の出身地・八代市の八代海の打瀬船とか。あとは熊本城がかわいそうだった。見るに忍びないから早く修復してあげて欲しいし、とにかく最新の技術を使って、倒れないようにしてあげて欲しいです。包帯巻いてあげてって言ったら、みんな泣いていました。
――八代さんが歌う、「Sweet Home Kumamoto」は元気が出ますよね。
熊本の人が応援歌だって言って、喜んでくれました。
八代亜紀 撮影=大塚 秀美
――本当にお忙しそうですが、八代さんの元気の源って、先ほど出てきました絵の他に何かあるんですか?
皆さんに愛してもらえると楽しい。愛されていることが楽しいから、毎日すごくワクワクしながらそれに応えようという想い。で、また愛してくれる、つまり褒めてくれるってことが嬉しいんです。小さい時に父に褒められたことが嬉しかったからね。それと同じです。
――八代さんの歌に共通しているのは情景がハッキリ見える事です。
20代の人にもそう言われました。八代さんの歌、景色が見えるって。嬉しい。こういうのが元気の素なんです(笑)。
――今は八代さんの活動の軸は、やっぱりコンサートですか?
そうですね、おかげさまでコンサートのオファーは沢山いただいています。
――そういったコンサートをずっと続けてきているから、そういった情景に溢れ、味もある歌を表現できる、鋼のような喉が完成してきたと言ってもいいですよね。
そうですね。軽く歌って声が出る時は調子がいいんです。だから10の力で歌う時がキツい時で、7で歌える時が最高の時なんですよ。
――八代さん昔からステージ上でドリンクは飲まないんですよね?
飲まないですね。昔からステージ上で飲むという行為自体をやったことがないので、不思議です。もちろん衣装の早替えの時とかに、ちょっと喉を潤す程度はありますけど、ステージ上では飲まないです。
――ジャズやブルースのコンサートの時は、八代さん、アンコールに応えていらっしゃいましたが、通常の演歌のコンサートではアンコールはないんですよね。
そうですね。ジャズとかブルースとかロックのコンサートは、本編が終わったらアンコールが形式的にあるんでしょ?でも流行歌手とかのコンサートは、アンコールがないんですよ。もう一本のコンサートを演出から何からきちんと作り込んでいるから、最後は歌い終わったら大エンディングが流れて、緞帳が降りてきます。
――だからアンコールは新鮮だったんですね。
新鮮でした。でも、時々あるんですよ、緞帳が降りてもアンコールの拍手が鳴り止まない時が。そういう時は緞帳の前に出て、ありがっとうって手を振ります。
――若い人達に“稀代の歌唄い”、八代さんのライブに足を運んで、泣いて欲しいです(笑)
ブルースのライブも最高だけど、演歌のライブも泣けて、また最高ですよ。是非皆さんに聴きに来ていただきたいです。
編集=秤谷建一郎 文=田中久勝 撮影=大塚 秀美
八代亜紀 new album「哀歌-aiuta-」
COCP-39274 ¥3,000+税
八代亜紀が歌い続けてきた日本人の心「歌謡ブルース」アメリカの心を歌い継いできた「BLUES」ジャンルを超えた二つのブルースのカバー曲に、THE BAWDIES・横山剣(CRAZY KEN BAND)・中村 中提供の新曲を加えた初のブルースアルバム。寺岡呼人プロデュース。
【収録曲】
01.St.Louis Blues
02.The Thrill Is Gone
03.別れのブルース
04.フランチェスカの鐘
05.Give You What You Want
(THE BAWDIES 提供楽曲)
06.ネオンテトラ(横山剣提供楽曲)
07.命のブルース(中村 中提供楽曲)
08.The House of the Rising Sun
09.夢は夜ひらく
10. Bensonhurst Blues
11.あなたのブルース
12.Sweet Home Kumamoto
2014年10月には、実話をもとに制作したメッセージソング「心をつなぐ10円玉」を発売。