舞台『雪まろげ』高畑淳子にインタビュー「森光子さんの“心根”をお守りにして演じたい」
-
ポスト -
シェア - 送る
高畑淳子
『放浪記』『おもろい女』とともに、故・森光子の3大代表作として知られる舞台『雪まろげ』が、9月24日(土)からTHEATRE1010にて、その後9月28日(水)から日比谷シアタークリエにて上演される。本作の舞台は昭和50年代の青森・浅虫温泉。温泉芸者の夢子がついた小さな嘘が、まるで雪玉が転がりながらどんどん大きくなるように大騒動へと発展していく様を描いた喜劇。主人公の夢子を演じるのは高畑淳子。「劇団青年座」の舞台女優であり、舞台にとどまらずTVドラマ、バラエティ、情報番組と幅広く活躍する高畑が、森からバトンタッチされた本作をどのように作っていこうと考えているのだろうか。
――『雪まろげ』に出演が決まったときの率直なお気持ちからお聞かせください。
このお話をいただいたのは結構前なんです。森さんの代表作3作……その中の『雪まろげ』をやりませんか? と言われて、嬉しかったので「やってみたいです」と言ったんです。言っちゃったものの「できるかなあ」と後で思いましたけどね。
――そんな由緒ある作品に出ることになって、やはりプレッシャーを感じることもあるのでは?
周りの皆さんが「すごいわね、森さんの跡を継がれるのね」とおっしゃってくださるので、だんだんプレッシャーにはなってきました。でもあまりそこを意識してもね。最終的にはお客さんに喜んでいただくことですから。「楽しかったなあ、今日お芝居を観に来てよかったなあ」と思っていただけることを第一に考えていきたいです。
「雪まろげ」を以前観た時、共演者の方々の印象が強烈で、おそらく森さんがうまく周りの方々を転がして物語を作ってらしたのでしょうね。そういう森さんの「心根」を「お守り」にして演じていきたいです。
――森さんが演じてきた「夢子」。この役をどう演じていこうと考えていらっしゃいますか?
私のタイプがどうしても「しっかりしている」「凛としている」「風が吹いても倒れない」というイメージなので(笑)、「夢子」が孤児である、そういう環境で生きてきたからこそついついウソをついてしまう、というイメージとかけ離れていて、そこが難しいところではありますね。その一方で、自分にない役のほうが作りこみやすい、ということがお芝居ではよくあるので、そこに望みをかけております。
他の方がやっていた役を演じるときはどうしても外側を真似たくなるんですが、それではいけないと思ってます。私は見目かたちで夢子にはなれないので、その精神性を掘り下げていきたいです。自分にもし両親がいなくて独りだったら、転々と色々な家に預けられて育ったら……自分の身を守るための術として空想の世界で遊んだり、必要なウソをつくのでは、と思うんです。
高畑淳子
――森さんとは『本郷菊富士ホテル』『放浪記』で共演されていらっしゃいますが、印象に残っていることは?
森さんは「ここをこうしましょう、ああしてください」とは一言も言わないんです。山ほどお知恵を持っていらしたと思うのですが、私みたいな、いっぱいいっぱいで演じている相手に対しても、「心」でしっかり受けとめてくださるので、それをひしひしと感じましたね。稽古場でも舞台でも生身のまま受けとめてくださる。その記憶がすごく残っています。今思えばもっと話を伺っておけばよかったと思うんですが、それをしなかったんですよ。「森さんは亡くならない」と本当に思っていたから。
よく『放浪記』の記憶が甦るのですが、「森光子さんは毎日ガチで私と芝居をしてくださっている」と嬉しかったです。森さんは他の誰でもなく「私と」芝居をしてくれているんだって。でも実は誰に対してもそうなさっていたんでしょうね。板の上に立ったら子役さんでも新人でも役者としてはみんな同じ……そういうことを暗黙のうちに教えてくださっていたと思います。相手役と芝居をすることが「心を紡ぐ」であることを教わりました。
――最近の高畑さんは映像のお仕事を多くなさっています。一方、舞台も年1回は確実に出ていらっしゃいます。今後もこのくらいのペースでじっくリ取り組んでいかれるんですか?
できれば年2回は舞台に出たいと思うんです。日本のブロードウェイとも呼べる日比谷で、こういう日本ならではの舞台に。一方で私は「バテレン女優」と呼ばれ、洋モノ(海外作品)でデビューしたという背景もありますから、そちらのほうの作品にも出たい。どうも私の顔形や性格は洋モノが合うといわれているので、実験的な核のある、少し毒があるような劇もやりたいんです……ちょっとゲスいとかイヤラシイ外国劇も好きなんです。その間でTVドラマとかやっていたらどうなるんだろうと思いますけど(笑)。「青年座」のお芝居もありますからね。なかなか思うようにはいかないですが、身体も年々変化していますので、年一回がやっとかもしれませんね。
――実は、以前高畑さんが出演されていた『Pal Joey~パル・ジョーイ』(2010年 青山劇場他)で、海外作品に出る高畑さんを初めて観たんです。それ以前の出演を知らなかったので「素敵だな、こういう外国作品にもっとたくさん出てほしい」と思っていたんですよ。
あら! でも昔は本当に「外国劇をやるなら高畑淳子さんに」って言われるくらいだったんですよ。水泳をやっていたので肩幅もしっかりしてますし、着物が似合わないことがすごいコンプレックスだったんです。でも最近は着物ばかり着ているような気がして。時って移ろうんですね。
結局、自分がどうしたいというよりも、皆さんが求めるところ、皆さんが何かを企んでくださっているところに乗っかって、知らない自分に出会ってみるのがいいのかもしれませんね。「皆さんがこの役を選んでくださったんだから、きっと私にはできる!」っておまじないを自分にかけながらね。
高畑淳子
(取材・文・撮影:こむらさき)
■日時・会場:
2016年9月24、25日(土、日)シアター1010
2016年9月28日(水)~10月19日(水)シアタークリエ
2016年10月21日(金)クロスランドおやべ
2016年10月23日(日)富山県民会館
2016年10月25、26日(火、水)北國新聞赤羽ホール
2016年10月29、30日(土、日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2016年11月2日(水)まつもと市民芸術館 主ホール
2016年11月5日(土)山形市民会館 大ホール
2016年11月7日(月)桐生市市民文化会館 シルクホール
2016年11月12日(土)新潟県民会館 大ホール
2016年11月16日(水)コラニー文化ホール
2016年11月19、20日(土、日)山口県立劇場 ルネッサながと
2016年11月23日(水・祝)はつかいち文化ホール さくらぴあ
2016年11月26日(土)レクザムホール(香川県県民ホール)
2016年11月30日(水)岸和田市立浪切ホール 大ホール
2016年12月3、4日(土、日)刈谷市総合文化センター アイリス
■監修:小野田正
■脚本・演出:田村孝裕
■出演:
高畑淳子、榊原郁恵/
柴田理恵、青木さやか、山崎静代、湖月わたる、的場浩司 ほか
■公式サイト:http://www.tohostage.com/yukimaroge/