マキタスポーツpresents Fly or Die がピアノゾンビとの対バンライブを開催『悪性のエンターテインメント』
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マキタスポーツpresents Fly or Die
マキタスポーツ扮するDark’~ness(ダークネス)が率いるV系ロックバンド・マキタスポーツpresents Fly or Die(以下F.O.D)が定期的に行っているライブイベント『悪性のエンターテインメント』が7月17日に原宿アストロホールで行われた。毎回多彩な音楽ゲストを対バンに招待するこのイベントだが、前回の清流人25に続き、今回はピアノゾンビが登場した。同じ日本コロムビアのレーベルメイトでもあるピアノゾンビとの共演は、“あまりにも濃い組み合わせ”との前評判もきこえてくるほどであった。はたして、どのような化学反応が起こったのか。そのライブの模様をレポートする。
去年の11月以来の開催となる『悪性のエンターテインメント』は、マキタスポーツ扮する“ダークネス”によるMCで幕を開けた。最近筋トレにはまっているというダークネスは「最近は痩せて、押尾学みたいになった。一年後にはGackt化する」と夢を膨らませつつ、「善良なエンターテインメントならば、ディズニーランドに行け。善性のエンターテインメントならば、ファンキーモンキーベイビーズを聞け」など、時事ネタを盛り込みながら会場を盛り上げ、ゲストのピアノゾンビを呼び込んだ。
SEが流れると、ピアノゾンビのメンバーがステージに登場する。そして舞台中央の白い箱の上には、白塗りのホネヌキマン(大王)が。ウェルメイドなロックサウンドにそぐわない、不可思議なダンスとも舞踏ともつかないモーションを終始展開する。「HOLD ME DIE」、「Hey You!!」と立て続けに演奏し、ホネヌキマン、そしてGEBOKU(下僕)の振りに合わせて、会場のボルテージはしょっぱなから最高潮に。
ピアノゾンビ ホネヌキマン
途中、GEBOKUがいったん袖に隠れたかと思うと、ほどなく全身白タイツで下腹部に白鳥を装着した、ある意味古典的なスタイルで再登場した。さらには巨大な牛骨のような物体でギターを弾いてみたり、このGEBOKUのステージ上での動きが終始トリッキーで、目が離せない。しかしやはり目が離せないのがホネヌキマン。「ピアノが弾けない」疑惑の目を向けられている彼だが、シンセの前で鍵盤をおさえているようにみえて、実際に音がでているかは確認できない。するとすぐに鍵盤を離れ、やはり踊りとも何ともつかない動きを展開し、結果として最も存在感を放っているからやっかいだ。
ピアノゾンビ
終盤に入ると「dream tablet」ではラップを披露するホネヌキマンだったが、ラップもそこそこに、なんとピアノでメロディをやおら弾き始めた。ピアノ教室を3年でやめ、7年充電しているというホネヌキマンだったが、実にたどたどしく、メロディともなんともつかない音を鍵盤でつまびくと、客席から笑いとともに暖かい拍手が沸き起こった。
終始ホネヌキマンとGEBOKUの面白パフォーマンスのインパクトに、くぎ付けになってしまいそうになるが、ディスコ、ラップ、ハードロック調、さまざまな曲調を駆使しながら、つねに高水準の演奏で下支えしているバンドメンバーのクオリティの高さこそが、このピアノゾンビというユニットのユニークかつ唯一無二の魅力だ。
Fly or Dieと同じく、メジャーレコード会社に所属しながら、ななめ45度から突き刺さってくるような独特の存在感を放っているピアノゾンビ。『悪性のエンターテインメント』というイベント名にふさわしい、一筋縄ではいかないステージを展開して終了した。
ピアノゾンビ
休憩をはさみ、マキタスポーツpresents Fly or Dieのステージが幕を開けると、聞き覚えのあるピアノのメロディが聞こえてきた。あの「世界にひとつだけの花」だ。ダークネス、そしてオーディエンスでこの名曲を浪々と歌っていると、瞬間「NO!」といきなり絶唱を断ち切るダークネス。
「調子に乗るな。君たちは勘違いしている。君たちは意志をもったひとりひとりの存在だと思っているが、お前らはただの客だ! 十羽ひとからげに“消費者”だ。貴様らは世界中のどこにでもある花だ」と罵声を浴びせ、あの名曲の歌詞の意味を反転させたオマージュ曲「世界中にある花」を熱唱。続けて演奏されたライブの定番曲「Deathdonald」の激しい風刺に満ちた曲もあいまって、一気にF.O.Dならではの、ねじれた世界観に満ちたステージに引き込まれる。
マキタスポーツpresents Fly or Die Vo.ダークネス
曲が終わると、客席からは「ダー様!」と歓声が沸き起こる。しかし、この日の客席は男性が多いからか、「これは嬌声じゃなくて怒号だ」とくさすダークネスだった。
今年1月20日にリリースされたF.O.Dのアルバム『矛と盾』から、娘に男を獲られた母親の切な過ぎる心情を歌った「怨歌~あんたじゃなけりゃ~」で、ダークネスは40過ぎの女の心とシンクロしたかと思えば、黒夢の「少年」へのオマージュである「中年」では、サビの「中年!」のところで、オーディエンスは一斉にジャンプする。中年の悲哀を歌った歌詞とは裏腹に、会場はエネルギッシュで若々しいアクションが光る。
マキタスポーツpresents Fly or Die
3拍子のワルツのリズムに乗ってはじまる「ロンリーワルツ」では、まるでチェンバロのようなバロック調の音にのって、ダー様の舞踏への勧誘が始まる。ローズたち(F.O.Dのファンの総称)の中を物色するダークネスであったが、選ばれし女性にダー様ならぬ「ダーリン」と呼ばれて、束の間照れる姿を見せる。しかし、その後はしっかりと腰に手を回し客席にて2人で愛のダンスを披露。
サルサ調のセクシーな曲調が印象的な「愛は猿さ」では、ダークネスの「ウノ・ドス・トレス・クアトロ」(スペイン語で1・2・3・4)の掛け声に合わせ、腰を妖しく振るしぐさがなんとも印象的だ。さらに新たな試みとして、ラテン・パーカッション、ティンバレスがステージに登場。ダー様の気まぐれで導入された楽器だが、ダー様自らの手による、なんとも中途半端な手つきによるパーカッション・ソロコーナーが展開された。子供の遊びのようなそのソロに、生暖かい声援が飛び交う。「夏フェスまでには仕上げてくるから期待しておいてくれ」というダークネスだったが、果たして。
マキタスポーツpresents Fly or Die
F.O.D初期のナンバーである「放火魔だもの」は、ツービートのアップテンポで突き進む曲調で客席もおおいに盛り上がるが、その盛り上がり方が、どこか盆踊りのごとき様相を呈するのは、ダー様の実年齢ゆえか。
F.O.Dの代表曲のひとつ、「Virgin Marry」で本編は終了し、アンコールへとすすむ。1月リリースのデビューアルバム『矛と盾』から標題曲を演奏する直前のMCでダークネスは「アルバム(『矛と盾』)が売れてない」と吐露。今年4月に、ニコニコ生放送で“CD発売に関する謝罪会見”を放送し、アルバム『矛と盾』が思うように売れていない状況を公の前で暴露し話題となったダークネスだったが、今回、F.O.Dを愛するローズたちの前で改めて、その惨状を白状したかたちとなった。
「しかし我々F.O.Dはめげないし負けない、みなさん、これからもついてくるように!」と高らかに宣言し、満員の客を前に、「こんなにお客様がきているのに……、フェスでは1万人規模の人たちがダー様と叫んでいるのに……、なぜ財布のひもが固いのだ! これも矛盾……」と美しくつなげてアンコールの「矛と盾」がスタートした。曲のラストは、激しいリズムにのって、阿波踊りのようなダンスで締めくくられた。
マキタスポーツpresents Fly or Die
冒頭本人が述べていたように、最近肉体改造と称した筋肉増強に余念がない、ダークネスの“中の人” マキタスポーツだが、言われてみれば心なしか引き締まった肉体を駆使し、ステージを縦横に、エネルギッシュに歌いまくるV系中年の姿が笑いと感動をよぶ。しかし、そのステージの満足度とは裏腹の、あられもなく開陳されたCDの残念すぎる売れ行き状況。音楽を本拠地に今後も活動を繰り広げようとしているマキタスポーツは、果たしてその状況をどう打破しようとしているのだろうか。これからの動向に目が離せない。