柄本時生らキャストたちの芸達者ぶりは圧巻 KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』が開幕
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KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』舞台写真
2026年6月19日(金)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて、KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』が開幕した。この度、舞台写真&開幕レポートが公開されたので紹介する。
KERA CROSS第七弾『シャープさんフラットさん』東京公演開幕!
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)による選りすぐりの戯曲を、才気溢れる演出家が異なる味わいで新たな舞台として創り上げる、連続上演シリーズKERA CROSS。その第七弾は、ナイロン100℃が2008年に上演した、KERAの“半自伝的戯曲”でもある『シャープさんフラットさん』だ。演出を手がけるマギーは、当時この舞台に出演者として参加していたこともあって作品への理解度は充分で、さらに主人公のケムリが“笑い”を作りだすことに人生を賭けている劇作家・演出家である点も含め思い入れも深く、新たなテイストの『シャープさんフラットさん』の降臨に注目が集まっている。
いよいよ6月19日(金)に初日が開幕した。
舞台は1990年初頭、バブル経済が崩壊に向かう時代。東京から車で3時間ほどのとある場所に建つサナトリウムは、ソファやテーブル、公衆電話、フリードリンクコーナーなどが用意されていて、入居者がくつろげる談話室兼レクリエーションルームを中心に、そこから階段で上がるとガラス張りの小さなサンルーム、玄関や各自の居室にも繋がっている吹き抜けの廊下もある。そんな、凝った建物をイメージさせる、高さを活かした舞台装置に出演者たちが数人ずつ順繰りに登場し、この戯曲の導入部分の“ト書き”を一言、二言ずつリレーのようにして語り出す。背景となるこのサナトリウムのこと、そこに入居してきた人たちのことなどが説明されていく途中から、徐々にソファなどにかけられていた布が取り払われていき、セットが露わになると本編のプロローグへ。気が付くと談話室の隅の机に、突っ伏している青年。彼が、柄本時生演じる辻煙(ツジ ケムリ:ペンネーム)こと、田中正明(タナカ マサアキ:本名)だ。小学生の頃に、バスター・キートンの身体を張った喜劇映画に衝撃を受けたことから始まり、両親との微妙な関係、恋人との更に微妙な関係、主宰する劇団を放り出し、すべての責任から逃げるようにしてこのサナトリウムに入居したいきさつが、本人の口から語られる。
サナトリウム、と名前はついていても、ここにいるのは簡単なカウンセリングと食事療法を行う程度の患者ばかり。まるで避暑地のホテル滞在に近い、贅沢な日常。とはいえ、入居者はそれぞれに複雑な家庭事情を抱えているようで、その理由や本当の関係が物語の進行とともに明かされていく。
ケムリの元には本人の幻想と思われる父親(田中俊介)が現れ、元芸人の研々(マキタスポーツ)は精神を病んでいる妻・春奈(安達祐実)と夫婦揃って入居中。一見、賑やかで明るい音波(堀部圭亮)は娘・小骨(小野晴子)の反抗的な態度に手を焼きながらも、可愛い娘が来てくれただけでやたら嬉しそうだ。サナトリウムで働く職員の南(トリンドル玲奈)を筆頭に、砂川(白石優愛)、熊林(土屋翔)もそれぞれに濃いめの個性の持ち主ばかり。そこに入居を希望して付き人・不二山(岩男海史)と共に施設見学にやってきた、独特の空気を纏った妙齢の女性・赤坂(松永玲子)。彼女が実は研々の元相方のベテラン芸人“コンコン”であったこと、劇団とのトラブルの関係で施設を訪ねた劇団員の小柱(森準人)の車に同乗し、ケムリに会いに来ていた恋人・美果(高梨臨)が突然ある行動をとったことで、それぞれの人間関係のバランスが崩れていく……。
たびたびケムリが脳内で想像する世界が少々奇妙なノリで、面白いようで微妙に気味悪さが滲んでいたり、ブラックなようでポップで可愛いところも見え隠れして、笑えたり、切なくなったり。また入居者たちそれぞれの“笑い”へのスタンスや理解、想いや深度が少しずつ違って、そんな細かい描写からも作者のこだわりが肌感で伝わってくる。
中でも、見応えを強く感じたのがキャストたちの芸達者ぶりだ。
ケムリを演じた柄本は、紙一重というよりは既にもう狂気の領域に足を突っ込んでいるような危うさをリアルに熱演。美果役の高梨は劇団でヒロインを演じる女優としてのプライドと、恋人だったはずのケムリの自分への態度、扱いの理不尽さに揺れる気持ちを丁寧に表現していた。
研々へのピュアな愛情と熱烈なファンでもあることから生まれる厄介さを持つ春奈と、ケムリのトラウマで毒親とも言えそうなケムリの母という、ギャップのある二役を安達は抜群の演技力でキュートに怪演。さらには今回、物語のテーマがより深掘りできているように感じられたのは、特に“笑い”へのこだわりや想いが演技からも溢れ出るように伝わってきていた松永、マキタ、堀部の参加も大きいとしみじみ思った。
南を演じるトリンドルの一生懸命さに同居するズレの匙加減も絶妙で、ケムリの父親と劇団の新たな演出家・塔島を演じる田中の優しさとチャラさの演じ分けの妙も印象に残る。加えて、森、岩男、白石、土屋、小野といったフレッシュな若手たちが演じるクセ強めなキャラクターもそれぞれに魅力的。この後、本番を重ねて成長していく彼らがいかなる爪痕を残していくか、果たして先輩たちはそれにどう応えるのかなど、興味は尽きない。
的確に“オモシロ”のツボを押してくるマギーの演出には、やはりKERA作品、及びこの『シャープさんフラットさん』への思い入れが人一倍ありそうだと感じた。あらすじを文字にしたら、もしかしたらシリアス過ぎて胸が潰れそうになる事実や出来事もたくさん待っているのだが、そこには“笑い”もあちこちに仕掛けられていて。「これ、笑っちゃっていいんだろうか?」と迷ったとしても、その逡巡に対するKERAとマギーからの答えもしっかり、登場人物の台詞に託されていると思う。
ケムリが繊細に執拗に“笑い”を追求する姿には、いや、“笑い”に限ることなくそれはきっとどんな道も同じで、極めたいと思えば思うほど痛み、苦しみからは逃れられないのだろうと思い知らされる。そして“笑い”に魅かれる人であれば特に物語の展開の行方には心乱れるだろうし、さまざまな方向性に思考が転がっていくはずだ。
人生を賭けてしまうほどのめりこむ“業”とは、自分自身(あるいは家族、周囲の関係者もろとも)を削ってまでこだわりたいと思ってしまう生き方とは、どんなものなのか。KERAの、マギーの笑いへの想いが重なり、融合し、そこに芸達者なキャストたちの力も加わり進化して、昇華していく舞台。それぞれの人生、大事なものをわかりあいたいと思う気持ち、わかりあえないほうが幸せかもとも思ってしまう気持ち、そんな揺れる想いをぶつけ合う、世の中の価値観とはズレている人たちの群像劇だ。ものを生み出す難しさと尊さとが、希望の光を発している物語でもある。
上演はこの後、東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAでは7/5(日)まで、さらに7/11(土)~12(日)には名古屋公演、7/18(土)~19(日)には大阪公演もある。
取材・文 田中里津子
公演情報
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
柄本時生 高梨 臨 安達祐実 田中俊介 トリンドル玲奈
森 準人 岩男海史 白石優愛 土屋 翔 小野晴子
松永玲子 マキタスポーツ 堀部圭亮
【東京公演】
日程・会場:2026年6月19日(金)~7月5日(日)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
※6/24(水)昼夜公演は収録のため客席にカメラが入ります。予めご了承ください。
※開場は開演の30分前。
※未就学児童入場不可。
※車椅子でのご来場は、
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●平日昼・土日公演:9,900円
■平日夜割:9,400円
主催・お問い合わせ:キューブ 03-5485-2252(平日12:00~17:00)
日程・会場:2026年7月11日(土)13:00・18:00/7月12日(日)13:00 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
11,000円(前売・当日共/全席指定/税込)
主催・お問い合わせ:キョードー東海 052-972-7466
(月~金 12:00-18:00 土 10:00-13:00※日・祝日休み)
日程・会場:2026年7月18日(土)12:00・17:00/7月19日(日)12:00 サンケイホールブリーゼ
11,000円(前売・当日共/全席指定/税込)
主催:サンケイホールブリーゼ キューブ
協力:リコモーション
お問合せ:ブリーゼ
企画製作:キューブ
https://x.com/keracross2019