サウンドとホログラフィックに“連れて行かれる”見たことも聴いたこともないセカイ VRDG+H #3ライブレポート
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去る8月11日(木・祝)、横浜駅からほど近い“世界初”の常設ホログラフィック専用劇場・DMM VR THEATERにて、新時代の音楽と映像のための“実験的”ライブイベント『VRDG+H #3』が開催された。VRDG+Hは、サカナクション、KANA-BOONらを擁するヒップランドミュージックが新たに立ち上げたクリエイティブ・ディビジョン「INT」と、独自の切り口で音楽×映像の表現を追求してきたBRDGのコラボレーションによるイベントで、今年3月の第一回、GW開催の第二回に引き続いて、今回が第三弾。
VRDG+Hの最大の魅力は、サウンドとヴィジュアルが対等にライブな時空間を作り上げてゆくマッチアップにある。
過去2回と同じく、今回もまた「この組み合わせ以外考えられない!」と叫びたくなるような最高のマッチングが4組、舞台上で展開された。
Ray Kunimoto
オープニングアクトを務めたRay Kunimotoは、自身が演奏するKey+エレクトロニクスにViolinとCelloを迎えたトリオによる、極めてシックかつ静謐な音響空間。テクノロジーへの親和性の高い出演者が多いVRDG+Hにあって、アコースティック楽器を中心に据えたセットは新鮮であるが、映像を担当したKezzardrixの得意とする無数のパーティクルを用いた揺蕩う光陰の空間表現とあいまって、アコースティック/デジタルという対立の向う側にある、新たな自然さ、快適さを提示していた。
Tomggg
続くTomgggは一転、自身のアートワークを担当するkazami suzukiと、これまでもライブの映像を担当してきた大橋史を擁する定番のチームによって、キラキラとしたポップネスを全面に押し出したファンタジックな世界観をシアター全体に展開した。先月リリースしたニューアルバム『Art Nature』からのトラックを中心としたDJセットを前半に据え、後半は神秘的なウィスパーボイスをもつボーカリスト・ボンジュール鈴木を迎え、絵本的な劇空間を演出してみせた。世界観・サウンド・ボーカルの起用と、これまでのVRDG+Hにない試みを含みながらも、調和を感じるパフォーマンスに、今後への期待感が高まるアクトだった。
DUB-Russell
VRDG+H初回からの連続出演であり、またBRDGを代表する出演者であるDUB-Russellは、前回・前々回に引き続きKeijiro Takahashiのヴィジュアルを迎え「これぞVRDG+Hの標準形」とも言える堂々たるパフォーマンスを披露した。
自身たちで開発したプログラムから繰り出されるデジタル・サウンド濃縮還元のようなビートが、虚空に実在感を伴って浮かぶ石膏の女神像を激しく変形させてゆく。巧妙に設計されたホログラムによる錯覚が、複雑なリズムとともに脳内の物理法則を書き換えられてゆくような鮮烈な体験をもたらした。視聴覚が受ける刺激の強さでいえば、4組中最も強いセットでありながらも、危険よりもむしろ安心感を覚えることにこのイベントの真髄をみた心地がした。
DE DE MOUSE
トリを飾ったDE DE MOUSEは、自身が「夏祭り」と称した通り、篠笛や和太鼓を交えた土着性の強いリズムと、その上に纏った極めてポップなエレクトリック・サウンドによって、唯一無二の「祭」空間をVRシアターの舞台上に出現させた。映像を担当した北千住デザインは、点と線のみからなる動的なタイポグラフィから、無数のemojiによって構成されたパーティクルの離合集散、そして本人からモデリングしたというDE DE MOUSEの頭部がモーフィングし乱舞する光景へとシームレスに繋げてゆくことによって、その祝祭的音響に肉体的な存在感を与え、奇妙で、しかし神々しい時空間を作り上げていた。
VRシアターのホログラフィックの力を得ることで、映像はそれまでの「音楽に寄り添うもの」という位置関係を超えて、より有機的で高次元な表現の可能性を獲得する。今回の4つのアクトも、サウンドとヴィジュアル双方がリアルタイムに“演奏”され、相互に影響を与えながらクライマックスに向かっていった。そこに「作り置いたムービーをポン出し」といったやわな発想はない。ひりつくような緊張感の中、うなりを上げて高速で演算するCPUを武器に、サウンドとビジュアルは不可分なひとつになる。「見たことも聴いたこともないセカイ」に直面すること。その圧倒的な快感こそが、VRシアターに足を運び、VRDG+Hを“目撃”するという唯一無二の理由だ。
VRDG+Hは観客に上演中の撮影、SNSへのアップを推奨するユニークなイベントであるが、それは同時に「記録では絶対に味わえない何か」が劇場に存在しているという自信のあらわれでもある。アーティストたちがステージの上で繰り広げるライブの気配、ホログラムが生む視覚と錯覚のリアリティ、そして体幹を揺さぶる高純度のデジタルサウンド。
そのどれもが唯一、VRシアターとVRDG+Hの組み合わせでしか体験できないものだ。文字では決して伝わらないことのもどかしさを感じつつ、より多くのひとに味わってもらいたいからこそ、次回の開催を楽しみに待ちたい。
撮影=林響太朗 レポート・文=神田川雙陽