minus(-) 楽曲を通して森岡賢が脳裏に蘇った赤坂ライブ、minus引くマイナスはプラスという未来
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minus(-) 撮影=北岡一浩
minus(-) LIVE2016 summer “Voltaire”
2016.8.13 (SAT) 赤坂BLITZ
森岡賢のお別れ会のつもりだった。去る6月3日に彼が亡くなったことにより延期となったツアー。その中で唯一1日だけ行われることが決まったのがこの日、8月13日の赤坂BRITZ公演だったのだから。
真夏日ゆえ白っぽい服を着たいところを、あえて黒系のものを選んで会場に向かった。案の定、会場入り口の脇に森岡の遺影が飾られており、その下は寄せ書きコーナーになっていた。自分も参加するべく近づいて驚いた。一人分の枠がひかれているかのように整然とした書き込みで布は半ば埋まっていたからだ。おめでたい時の寄せ書きは爆発しまくったメッセージの脇に縮こまったメーセッージがあったりして、その緩急で躍動している。でもこの日見た、まるで曼荼羅のようにピシーッと配置されたファンの声には、厳粛なものを感じずにはいられなかった。このノリのお客さんを前に、一体どんなライブが展開していくというのだろう?
minus(-) 撮影=北岡一浩
開演前のBGMは穏やかな現代音楽だった。献花のバックに流れていても似合いそうな。ムードが一変したのは開演を告げるノイズ。一言でノイズと言っても色々ある。当たり触りのないモノ、包み込むようなモノ……。そしてここで流れてきたのは体の中まで犯されるような音量と圧迫感を持ったモノだった。しかもそれが5分ぐらいは続いてだんだん大きくなる感じで……。しめやかなお別れ会気分を叩き出す強烈な音の暴威。その中で藤井麻輝と3人のドラマーが登場して、位置についた。
曲が始まる。またまた雰囲気は一転して美しく静かなアンビエントチューン「No.9」だ。歌はない。つづく「No.6」もゆったり目の基本インストで、所々にアクセント的に声が入る。お客さんもどのように反応していったらいいのか、どんな風に気持ちを持っていったらいいのか、迷っているようにも見えた。けれどもその数十分後、場内はレイズ・アワ・ハンド状態になっていた。要はこの日のセットリスト、極めて静的なナンバーからアッパーな曲たちへ、10数曲をかけてフェードインしていくような構成になっていたのだ。
とはいえそこに、これまでのようにステージを右に左に腰をくねらせて歩きながら歌う森岡の姿はなかった。藤井はセンター奥で動かない。3人のドラマーのうち従来からの女性2人が舞台の左右で視覚的なカッコ良さをも発していたものの、舞台中央のパフォーマーは不在だった。森岡の歌声は基本録音されたものとして流れているだけ。にも関わらずあれだけ盛り上がった、というのがすごく新鮮だった。
minus(-) 撮影=北岡一浩
ボーカリストが不在のステージというマレな状況になって初めて分かったこの事実。それは彼らの楽曲が持つパワーをあからさまに証明したシーンでもあった。マイクを持つものが誰もいなくても、時には曲が終わると“YEAH!”という叫びまで上がる。その光景を目の当たりにして藤井と森岡がたどってきた道のりを思った。'80年代からプロとして活動を開始し、広義な意味でテクノと言うしかないぐらい幅広い表現を続け……といったら世界を見回しても類例は数少ない。結成2年のminus(-)の背後にはこの膨大なキャリアが控えていいるのだ。
だからなにをやっても説得力がすごい。ライブ冒頭のノイズからしてあんな浸透力を込められるのは藤井ぐらいなもんだろう。「No.9」のアンビエントなピアノや「Maze」等でのポップな力強さは森岡ならではのセンスを感じる。EDMの盛り上げ部分でよく使われる4つ打ちクラップを曲のテーマ的に大抜擢していまった「Descent into Madness」には、流行りの音の上をゆく強靭さがある。ラストで藤井が歌った「B612」の崩れ堕ちそうな美しさには、トム・ヨークやカート・コバーンが歌ってもおかしくないロックがある。そしてやはり、この表現の幅広さが同一アーティストから発信されている所が只者じゃない。minus(-)がこのまま継続して海外まで出て行くようになったら、彼らは大きなリスペクトの対象になるに違いない。今回のたった一夜の公演のために用意された周到な映像の部分なども含めて。
そもそも森岡のお別れ会のつもりで足を運んだライブは、その未来を想像させるものとして終わった。折しもセットリストの中には3曲の新曲があり、ニューアルバムも完成間近だという。さらには今後、いくつかのライブの予定もアナウンスされている。藤井がそれをどんな場にしようとしているのかはわからない。けれども既存のものにも常に新たなバージョンを用意してくる彼のこと、確実に今より新たな何かを見せてくれることだろう。今回は楽曲を通してお客さんの脳裏に森岡が蘇っていたはずだけど、それがVRとして再登場する未来ですらあるはずだ。
minus引くマイナスはプラスという未来。アンコールというよりは追悼と感謝を込めた拍手が鳴りやまない会場で、それを想った。
取材・文=今津 甲 撮影=北岡一浩
minus(-) 撮影=北岡一浩
2016.8.13 (SAT) 赤坂BLITZ
01. No.9
02. No.6
03. The Victim
04. LIVE(new song)
05. No.4
06. RZM
07. Maze
08. Beauty(new song)
09. Descent into Madness
10. No Pretending(new song)
11. Peepshow
12. Down words falling
13. B612
2016年11月19日(土) 恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
minus(-) LIVE2016 “Vermillion #2”
2016年12月28日(水)新宿 ReNY
開場 18:45 / 開演 19:30
料金:¥5,500(税込み)+D代別
オフィシャルサイト先行受付
◎受付URL:http://w.pia.jp/s/minus16of/
◎受付期間:8/13(土)22:00-8/31(水)23:59
※3歳以上
制作 com agent