鍛治本大樹&西川浩幸、キャラメルボックスの代表作『嵐になるまで待って』の魅力を語る!

2016.8.28
インタビュー
舞台

キャラメルボックス『嵐になるまで待って』に出演する左より、鍛治本大樹&西川浩幸(撮影/石橋法子)


昨年、劇団結成30周年を迎えた演劇劇団キャラメルボックスが、代表作のひとつ『嵐になるまで待って』を8年ぶりに再演する。本作は声優志望の女の子・君原ユーリを主人公にした、サイコ・サスペンス。声をテーマに俳優らが手話を交えて演じるのが特徴で、上演は今回で5回目。グリーティングシアターの第3弾でもあり、過去最大の全国11ヵ所でツアーを行う。2016年版ではストーリーテラーの精神科医・広瀬教授役以外、キャストを一新する。大阪のサンケイホールブリーゼで開かれた記者懇談会には、93年の初演から一貫して広瀬教授を演じる西川浩幸と、主人公と敵対する波多野祥也役を演じる鍛治本大樹が顔を揃え、意気込みを語った。

「先輩に甘えることなく『やってやる!』という強い気持ちで挑みます」(鍛治本)

ーーお二人の役どころから教えてください。

鍛治本:僕が演じる波多野祥也は、ある特殊能力を持った作曲家の男です。普段話す声に加えてもうひとつ、人の行動を操れる”裏の声”を持っている。その能力を使って耳の聞こえない姉・雪絵(岡内美喜子)を守ろうとするのですが、ある事件を起こしてしまう。主人公の君原ユーリ(原田樹里)が彼の能力に気付いたことで、事態が発展していく。物語のキーパーソンとなる役柄です。

西川:ヒロインは波多野の力によって声が出なくなり、僕が演じる精神科医の広瀬教授を訪ねてくる。相談に乗るなかで広瀬も、波多野姉弟に関わっていく。物語は広瀬教授の回想劇として進んでいくので、語り部のような役どころですね。

西川浩幸

ーー今回で5回目の再演ということで、上演が繰り返される本作の魅力とは?

鍛治本:サイコ・サスペンスと銘打つ通り、スタンダードな劇団の作品とは少し違うのですが、劇団が大切にしている「人を想う気持ち」もちゃんと入っている。本当に良くできた作品なので。普段、劇団を観たことがない方におすすめを聞かれると、僕は一番にこの作品を挙げています。

西川:今回のチラシを見ていて「良くできているな」と思うのは、タイトルの文字が少し歪んだような配列になっていますよね。それは、普通とは少し違った生き方をしている男の存在や、周囲の人々の不安を表していると思う。この作品は、色々な悩みを抱えながらも「人は前を向いて進んでいくんだ」ということを伝えています。声優学校を出たばかりの主人公のように、特にこれから新しい道に進んでいこうとする人たちには、勇気を与えられる作品になるのではないかと思います。

ーー今回演じる上で難しい部分、特に変えたい部分はありますか。

鍛治本:波多野という役柄は、お客さんのなかでも過去に演じてこられた役者のイメージが強く残っている役のひとつだと思うんですね。そこをまったくの別物にするのも違うと思うので、良いところは取り入れつつ、過去作品にはない個人のパーソナリティの違いみたいなものが出せたら良いなと。挑戦としては手話ですね。波多野の姉・雪絵が耳の聞こえないろう者なので、日常的に通訳している雰囲気も必要になってくる。そこは(習得できるか)焦っています。

鍛治本大樹

西川:大丈夫だよ。根拠はないけど(笑)。今回、手話指導に劇団員の三浦剛と奥さんの忍足亜希子さんが初めて入るのですが、二人とも過去に『嵐に~』に出演した経験があるので、そこは僕らにとっても強みになる所だと思います。僕は8年ぶりの再演というのは、「8年間上演できる役者がいなかった」と理解しているんですよ。それが今役者が育ってきたり、あるいはこの作品に挑戦することで伸びると思われる者たちが増えてきたことで、演出家が再演を決めたのだと思う。稽古場で苦しむほど、みんな役者として何段階も上にいけるので。個人的には鍛治本が波多野役をやることが、非常に楽しみですね。

ーー西川さんからご覧になっても、鍛治本さんは劇団のホープですか?

西川:ホープだと思います。今が伸び盛りなんじゃないかな。役者ってどんな役をどのタイミングで頂くかによって(成長の度合いが)まったく違うので。いい時期にいい役が巡って来たなと、引きが強い男だと良いと思います。波多野というキャラクターは難しいんですよね。お客さんにある程度浸透した役者がやらないとダメですし、冷たい部分も表現できないといけない。バランスがいい人にしか出来ない役に、いま挑戦できる段階に来ているのだと思います。きっと、鍛治本をよく知るお客さんには「ついに来た!」と思われるんじゃないかな。

西川浩幸

鍛治本:普段の僕は全然しっかりしていなくて、半袖半ズボンのダメな弟みたいな役柄が多いんですが(笑)。でも、そうですね。僕自身入団10年目なので、昨年劇団が30周年を迎えたあたりから、先輩たちに甘えてばかりでもいられないなと。自分たちが先輩たちを凌駕していくぐらいの気持ちでやらないと、集団ってどんどん停滞してしまうので。そんな思いでここ2、3年過ごしていたので、波多野役が決まったときは驚きましたが、気持ちとしては不安よりも「やってやる!」という思いの方が強かったですね。

ーー頼もしいですね!

西川:そうなんですよ。役者って一声、二顔、三姿とかいいますけど、鍛治本の一番の良さは本作のテーマでもある「声」なんです。彼の声はとても響くので聞き取りやすく、劇場の隅々までよく通る。良い声を持っていて、なおかつ良い声になってきたなと。

鍛治本:本当ですか! 初めて聞いたな。ありがとうございます。演出家からはずっと声が小さいと怒られてきたのですが、最近は声が大きすぎると言われています。

西川:それは別の意味ですごいな(笑)。


「本当に嵐が起こったり、普段とは違う緊張感とドキドキを楽しんで!」(西川)

ーー鍛治本さんは手話に加え、本格的なアクションにも挑戦されるそうですね。

鍛治本:先日、過去作品の映像を見返したんですが、手話よりもアクションシーンの方が圧倒的に多かった。先程は「手話を頑張りたい」と言いましたが、じつはアクションの方が不安です(苦笑)。広瀬教授とも戦いますしね。

西川:確かに。だから最近、腹筋ローラーを使って体鍛えてるの?

鍛治本:それもありますし、ビール腹になってきたこともあって、今のうちから鍛えておこうかと(笑)。ここまでアクションシーンが多いのも初めてなので、怪我だけはしないように気を付けつつ、でも毎公演全力で挑戦できればと思います。

鍛治本大樹

ーー波多野の役作りとしては、やはり”怖さ”がポイントになりそうですか?

鍛治本:波多野本人は自分の行為が怖いことだとは思っていないと思います。姉への行き過ぎた愛情の延長線上に、狂気というものがあると思うので。怖さよりも、どちらかというと愛情。そこを研ぎ澄ませることが大事かなと。

ーーちなみに、鍛治本さんご自身にお姉さんはいらっしゃいますか?

鍛治本:はい。姉が2人の末っ子長男です。僕も姉のことは大好きですね。

ーーでは、役柄に共感する部分も?

鍛治本:ただ、僕の姉たちは強いので、あまり守ってあげなくてもいいのかなと(笑)。その点、波多野は姉を守ることだけに重きを置いて生きているので。演じるポイントはそこかなと思います。

ーー緊張感溢れるサイコ・スリラーの一方で、西川さんは笑いの部分も担当されますよね。

西川:笑いがないと僕も演出家も、生きていけない(笑)。苦しい状況だからこそ、登場人物たちは明るく元気に生きている人たちであるべきだと思っています。じつは97年版『嵐に~』の時に3ステージだけ広瀬教授の役を、劇団員の細見大輔くんとダブルキャストで演じたことがあって。その時、細見くんが僕には思い付かないような面白いことをやったのを観て、すごく嫉妬したことを覚えています。今回は自分としても、新しい笑いにも挑戦したいですし……とか言って、思い付くか分からないけど(笑)。でもやっぱり舞台は笑って笑って、最後に少しだけ心が痛かったねという思いが残ってくれたら、一番良いのかなと思います。

ーー全国11ヵ所を巡る過去最大規模のツアーですが、楽しみなことは?

鍛治本:役者ってどんな劇場でも一回は立ってみたいと思う”劇場マニア”な部分がありますよね。それぞれに違いがあるので、新しい劇場に行くときは賃貸物件の見学にいくような要領で眺めてしまう。「このキッチンいいな」「ここは板張りなんだ」とか、僕だけかな(笑)。あとは、美味しい食事も楽しみですよね。

『嵐になるまで待って』記者懇談会より

西川:栃木では餃子を絶対に食べたいですね。ただ、ツアーとしては過酷なものになると思います。僕らは仕込みから全部自分たちで行うので。

鍛治本:移動して、仕込んで、芝居して、ばらしての繰り返し。一致団結する感じが好きだし、僕は楽しみですね。

ーーでは最後に、改めてお客様にお誘いのメッセージを。

鍛治本:キャラメルボックスの芝居を初めて観る方にも、安心して楽しんでいただける作品です。劇団をよく知る方には、今回は西川さん以外のキャストが一新されていますので、役に向かう役者たちのチャレンジを観ていただければと思います。

西川:僕は初演からすべての公演に出演していますが、毎回新鮮な気持ちで向き合える。それほど再演に耐えうる作品なんだろうなと思います。それにすごく緊張感がある作品なんですよ。主人公がしゃべれなくなったり、特殊能力者が出てきたり、それこそ嵐が起きたり。普段とは違う緊張感がずっと続いていくので、出演者はもちろん、観ている方もすごくドキドキしながら楽しめるんじゃないかなと思います。

『嵐になるまで待って』記者懇談会より

 
公演情報
キャラメルボックス2016グリーティングシアターvol.3
『嵐になるまで待って』
 
脚本:成井豊
演出:成井豊+有坂美紀
出演:原田樹里、一色洋平、鍛治本大樹、岡内美喜子、久保貫太郎、毛塚陽介、木村玲衣、関根翔太、山﨑雄也、西川浩幸
■公式サイト:
http://www.caramelbox.com/​

<東京>
2016年9月21日(水)~25日(日)
会場:かめありリリオホール
 
<足利>
2016年9月28日(水)
会場:足利市民プラザ
 
<宇都宮>
2016年10月1日(土)
会場:栃木県総合文化センター メインホール
 
<山形>
2016年10月4日(火)
会場:シベールアリーナ
 
<愛知>
2016年10月8日(土)
会場:春日井市民会館
 
<三重>
2016年10月10日(月・祝)
会場:三重県文化会館 中ホール
 
<大阪>
2016年10月14日(金)~16日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
 
<姫路>
2016年10月19日(水)
会場:姫路キャスパホール
 
<広島>
2016年10月22日(土)
会場:はつかいち文化ホールさくらぴあ大ホール
 
<新潟>
2016年10月29日(土)
会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
 
<埼玉>
2016年11月3日(木・祝)
会場:所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール