筒井康隆のSF長編小説を2バージョンで舞台化

2016.8.31
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舞台

perky pat presents 10&11『霊長類 南へ』チラシ表

47年前の名作『霊長類 南へ』が、2つの劇場でよみがえる!

1969年に出版された筒井康隆の『霊長類 南へ』は、米ソ冷戦の中、ある場所から期せずして核ミサイルが発射されたことにより、人類が混乱していく様をシニカルに描いた作品だ。これを原作に、劇作家で女優の故・瀬辺千尋が戯曲化した作品が、perky pat presentsにより9月1日(木)から5日間に渡って名古屋の「七ツ寺共同スタジオ」で、また9月24日(土)には別バージョンが「愛知県芸術劇場」で上演される。

元々は、現在開催中の「あいちトリエンナーレ2016」の〈舞台芸術公募プログラム〉参加作品として立ち上がった企画だが、構成・演出を務めるperky pat代表の加藤智宏いわく、「新作を上演するには、公演日が1日しかないのでもったいない」と、同じくトリエンナーレの〈パートナーシップ事業〉として「七ツ寺共同スタジオ」でも上演することにしたという。

さらにそもそもは、共に筒井作品を好んで読んでいたことから、加藤が妻である瀬辺に執筆を勧め、2013年末には台本が完成。それから上演許可を取り、2014年3月に公演を行う予定で準備を進めていたのだが、その最中、同年1月に瀬辺が病で急逝。それによって頓挫していた企画なのだ。

そこで今回は、原作に即した瀬辺のホンを【七ツ寺バージョン】として上演。【トリエンナーレバージョン】は原作の“その後”を描いたものを加藤が構成し、いわばスピンオフ作品のような形で上演するという。このふたつのバージョンの違いや今作が生まれた経緯について、稽古場で加藤智宏に話を聞いた。

稽古風景より

── 瀬辺さんにこの作品を書くよう勧めたのは、何か理由があったんですか?

僕がこれを選んだのは、人類が最後に「ナンセンス」っていう言葉を遺して死んでいくシーンがあるから。それがやりたかった、というのが動機です。

── 原作から戯曲化するにあたって、瀬辺さんはどういった視点で書き換えているんでしょう。

結構、原作に忠実に書いてます。ただ、ものすごく場面が飛ぶから大変(笑)。

── 演出としてはどのように見せていこうと?

別に変わったことはしなくて、オーソドックスにやります。普通に対話を中心とした劇なんだけど、とにかく場面がコロコロ変わっていくから、同じ絵面なのにどう場面が変わったかのように見せるか、っていうのがテーマ。七ツ寺(のスペース)では大きな転換ができないので。廻り舞台を作ろうと思えば作れるけど、それで賄える数のシーンじゃないんですよ(笑)。

稽古風景より

── どれくらいあるんですか?

13シーンあって、全部場所が違う。そんなもんやれるか! っていう(笑)。原作自体もロードムービーみたいな話だから。

── ホンが書き上がった時は、どんな感想を?

ふーん、って(笑)。(最初に上演しようとした時は)2つの劇場で同時進行形の作品にしようと思ったんです。1本の戯曲で1本の作品なんだけど、2つの劇場でそれぞれ違うシーンをやって、ある時はネットの画面で繋がるっていう。例えば、アメリカがソビエトに電話するシーンの時、本当に電話が掛かってきて、相手のシーンが映像でバーンと映し出される、っていうことを考えてた。

── 今回の上演では、【七ツ寺バージョン】はどんなセットになるんでしょう。

平場があって斜面があって、高台があると。最初にイメージしたのはガレキの山だったんだけど、それを作るとかえって動きが不自由になるなと思ってやめました。シンプルなんだけど、廃屋であるとか荒野みたいなものがうまく作れればなぁと。

稽古風景より

── 【トリエンナーレバージョン】の方はどういった構成に?

ちょっと大きいスペースだし、あまり芝居芝居したものよりも、ダンスとか抽象性の高いものをやった方がいいかなと。ストーリー上、国と国が争う部分と、日本に住んでる夫婦とか仕事仲間とかのパートが分かれているので、こちらでは市井の人たちの方を残しました。要するに、国と国の話じゃなくて“市民の話”にしようと。で、国と国とのやりとりを、ダンスであるとか抽象的な身体表現で見せられればなと。
この作品は生物が死滅して終わるっていう話なんで、なんかそれは寂しいなと思って。我々生物は死滅するのかもしれないんだけど、それでも次の何か息吹というか、そうしたものが残ってほしいなと思ったんです。その、残るんだぞっていうところを【トリエンナーレバージョン】のラストに持ってきた。でも何が残るかわからないから、すごく抽象度の高い身体表現にはなってるけど。

── 実際の身体でやってみなければ、見えてこないということですね。

そうそう。演劇やってる連中に、ダンスとか身体表現をいきなりやれと言ってもできるものじゃないから、7月から週に一回、振付の服部哲郎に任せて。身体を使った表現をいくつか試してます。

稽古風景より

── 具体的にはどういった感じのものを?

例えば、軍隊の行進であるとか、コンタクトインプロとか。 要するに、他者と接触することによってお互いの駆け引きを感じながら、何か身体を変異させていくっていう。

── 即興で表現するということですね。これは本番でも?

そういう感じになると思う。

── 出演者は全部で29人と多いですね。

【トリエンナーレバージョン】の方は、さらにアンサブルが増えるかもしれません。

前列左から・南立敬、とおやま優子、早川綾子、大野ナツコ、白木ちひろ  中列左から・羽多野卓、上田勇介、堀伸夫、木木リョウジ、杉浦真子、生瀬和歌、演出助手の森秋音 後列左から・篠塚将宏、二瓶翔輔、今池ヴァイオレット、石川明弘、松田泰基、山形龍平、山本義尚、川瀬結貴、構成・演出の加藤智宏

愚かな人類の姿と、それによって引き起こされた世界の終末が描かれた本作。今回の公演は、発表から半世紀近く経っても色褪せることのない普遍性を持ったこの強烈な作品世界を、生身の人間の演技を通してリアルに体感できる貴重な機会と言える。
先に始まる【七ツ寺バージョン】では、収容人数70名の劇場に最大約20名の役者が一度に登場するという濃密な群像劇の迫力も見どころのひとつだ。一方、四方に客席を配した囲み舞台という開放的な空間で展開される【トリエンナーレバージョン】は、原作にはない“未来への希望”がどう描かれるのかが見もの。筒井ファンならずとも、これはやはり両バージョン観に行かなくては!

perky pat presents 10&11『霊長類 南へ』チラシ中面


 
公演情報
perky pat presents 10&11『霊長類 南へ』

■原作:筒井康隆
■脚本:瀬辺千尋
■構成・演出:加藤智宏
■出演:石川明弘[劇団ノヴィス]、今池ヴァイオレット、上田勇介[電光石火一発座]、大野ナツコ、雷門福三、川瀬結貴、榊原耕平[よこしまブロッコリー]、篠塚将宏[劇団ゼロ]、白木ちひろ、杉浦真子、とおやま優子[劇座]、生瀬和歌、南立敬[劇団翔航群]、二瓶翔輔、にへいたかひろ[よこしまブロッコリー]、羽田野卓[巣山プロダクション]、早川綾子[ブリッジプロモーション]、原みなほ[劇団翔航群]、久川徳明[劇団翔航群]、深見優、藤村昇太郎(※七ツ寺公演のみ)、堀伸夫、松田泰基[劇団翔航群]、木木リョウジ[劇団翔航群]、山形龍平[タツノオトシドコロ]、山口純[天然求心力アルファ]、山本義尚[劇団さらすば]、吉森治[試験管ベビー] 他

【perky pat presents 10】
■日時:2016年9月1日(木)19:00、2日(金)19:00、3日(土)14:00・19:00、4日(日)14:00・19:00、5日(月)19:00
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般前売2,800円(当日3,000円)、学生以下前売1,800円(当日2,000円)
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から徒歩5分

【perky pat presents 11】
■日時:
2016年9月24日(土)15:00
■会場:愛知県芸術劇場 小ホール(名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センターB1F)
■料金:一般3,000円、学生2,000円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「栄」駅下車、オアシス21から地下連絡通路または2F連絡橋経由

■問い合わせ:perky pat presents 090-6090-8973(佐和) perkypatpresents@gmail.com
■公式サイト:http://perkypatpresents.wix.com/2016