三谷幸喜待望の新作『エノケソ一代記』主演の市川猿之助にインタビュー!
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市川猿之助 撮影=加藤孝
三谷幸喜待望の新作に主演するのは、次々と斬新なアイディアで歌舞伎界に旋風を巻き起こしている市川猿之助。今回彼が演じるのは、昭和の喜劇王「エノケン」こと榎本健一になりたかった男、「エノケソ」らしい。吉田羊、浅野和之ら魅惑の共演者の中に、なんと三谷本人もキャストとして名を連ねている。果たしてどんな舞台が誕生するのか、期待は膨らむばかりだ。
──三谷さんの台本はまだ影も形も……?
ないですよ(笑)。舞台では三谷さんの作品は『決闘!高田馬場』(06年)以来ですけど、あの時も稽古が始まった時に一幕一場しか台本がなかったんですよね。明くる日から三谷さん、3日間くらい風邪で稽古を休んで、「絶対にウソだ!」ってみんなで言ってました。顔合わせで僕ら役者を見て、パッと閃いて休みの間に書いたんだと思う。今回もそうしてくれないかな、稽古が休みになるほうが僕は嬉しいから(笑)。当時は僕も初めての外部舞台だったし、役者たちもペース配分がわからなくて、体力的にものすごく大変だった記憶しかないですね。結果的に満員のお客様が喜んでくださったから、三谷さん、やっぱりすごいんだなぁと思いましたね。
──ほかの三谷作品はご覧になってますか。
ドラマの『古畑任三郎』は大好きだった。あれは出たかったなぁ。(坂東)三津五郎(当時は八十助)さんが将棋の棋士役で犯人をやった回は、殺した相手の背広を着物みたいに畳んでバレちゃうんですよね。いくら着物を着ていても、背広は着物みたいに畳まないだろうって印象はあった(笑)。
市川猿之助 撮影=加藤孝
──今回の舞台は、「エノケン」ならぬ「エノケソ」の物語ということですが。
最初はエノケンとその妻の物語だと聞いていたんですよ。なのに、いつの間にか偽物の「エノケソ」になっていて、騙された、と(笑)。ただ「エノケン」と言っても今のお客さんは知らない世代ばかりだろうから、そういう人たちにもわかるように三谷さんが書いてくださるんでしょう。エノケンといえば浅草のレビューとか劇中劇とか、華やかなシーンも欲しいところですよね。僕は歌もあるみたいだけど、それがどんなものになるかは、まだまったくわからないんです。
──当時は本当に「エノケンもどき」が全国にいたそうですね。
テレビがない時代には、需要と供給で言えば供給が足りなかったでしょ。日本の演劇界でも昔はよくある話だったんですよ。北海道にも「市川團十郎」がいたし、僕のひいおじいさん(二代目猿之助、後に初代猿翁)も、地方でやっていた「猿之助一座」の公演を、隠れて見に行ったことがあるって言ってました。今だと考えられないけど、本物の役者の顔なんてわからないから。別に詐欺ってことではなくて、大衆も偽物だとわかったうえで楽しんでいたんじゃないかな。大らかな時代ですよね。
──そんなリアルな設定を三谷さんがどう膨らませて料理するかですね。今回三谷さんは久々に出演もされますが。
(チラシを見ながら)三谷さん、ワルい顔してるよねぇ。どこから見ても(古川)ロッパっぽいけど、何かたくらみがあるんじゃない? 僕は出番が少なくていいところでいいセリフを言う役にしてもらいたいけど、三谷さんはずっと出てればいいんじゃないかな。自分だけ美味しいところをさらっていこうなんて、そうはさせない(笑)。
市川猿之助 撮影=加藤孝
──稽古場でも猿之助さんと三谷さんの心を読み合う駆け引きがありそうな気が……。
あると思いますよ。でも今回は二度とないような顔ぶれだから、それはすごく楽しみですね。『ワンピース』にも出てもらっている浅野和之さん以外は、初めての方ばかりで。吉田羊さんに役者の三谷さん……どうなるのかなぁ。とにかく三谷さんに言いたいのは、「美味しい役にして」ってことだけです! いいセリフしか言わない、いい所しか出ない。それは鉄則。でもそういうこと言うと、逆ばっかりやるからね、あの方は(笑)。
取材・文=市川安紀 撮影=加藤孝 ヘアメイク=白石義人(ima.) スタイリング=三島和也(Tatanca)