パルコ・プロデュース2026『リチャード三世』演出・森新太郎インタビュー 「前例のないシェイクスピア劇になると思っています」
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森新太郎
パルコがプロデュースするシェイクスピア作品を森新太郎演出、吉田羊主演で上演するシリーズの第三弾、パルコ・プロデュース2026『リチャード三世』。これまで同シリーズでは、2021年に全キャスト女性の『ジュリアス・シーザー』、2024年に『ハムレット』の原型と言われる戯曲『ハムレットQ1』を上演し、物語の壮大なスケールはそのままに登場人物の繊細な心理を丁寧に描き出した演出で好評を博した。満を持して上演する『リチャード三世』は、これまでの“ブルータス”や“ハムレット”とは、真逆とも言える悪の権化が主人公。吉田が、平和になった世を憎み、王位への野心を抱いたリチャード三世を体現する。今回は、演出の森に、吉田との3度目となるタッグや本作の見どころを聞いた。
ーーシェイクスピアシリーズの第3弾として、『リチャード三世』を選ばれた理由をお聞かせください。
第一弾、第二弾と、吉田羊さん主演でやってきましたが、いずれも清廉な役柄で、それが羊さんご自身の内側にあるものと重なっていました。第三弾を作るにあたって、その清廉さが悪の道具として使われたらどうなるのか。そこに興味が湧いたことが、一番の理由です。これまでとは真逆のベクトルで、羊さんの清廉さが機能したら面白いのではないかと思いました。
ーーそうすると、吉田さんが体現する悪や権力への執着が、今回の大きな見どころとなるのでしょうか?
最初にこの作品を上演しようと思ったときは純粋にそうでした。ただ、準備を進める中で世界情勢が大きく動き、今、この作品が持つ暴力性と重なり合うかのような世の中になってしまい、どうしても、我々の抱える憂鬱な気持ちと切っても切り離せない状況になりました。人が人を支配するとはどういうことなのか、そんなことを見つめ直せる舞台にしたいと思いながら、日々稽古に取り組んでいます。
ーーその「見つめ直す舞台」にするにあたって、吉田さんに求めるリチャード三世像も、当初とは変わってきているのでしょうか?
そうですね。基本的にシェイクスピア劇の主役には男性が配されるので、大きな声で力強く演じるというのが主流だと思いますが、羊さんは女性の身体ですから、いわゆる男性的なマッチョな演技はできない。ですが、彼女の中には常に感情の嵐が吹き荒れている。囁いているのに、叫び声以上に激情が伝わってくる。今回のリチャードには、これまで以上にその静かなる凄味を求めているという自覚があります。
パルコ・プロデュース2026 『リチャード三世』
ーー「人が人を支配していく恐ろしさ」も、そうした静けさの中にこそ宿るものということですね。
その通りです。直接的な暴力だけではなく、羊さんには、囁き声で人の心を支配していくような悪党になってもらいたいと思っています。そっちのほうがよっぽど怖い。
(愛希れいかが演じる)アンを口説くシーンでの羊さんの迫力はすごいですよ。僕はこれまで一度も、納得のいくあの場面を観たことがなかったんです。夫と義父を惨殺した相手に、あれほどわずかな時間で口説き落とされるなんて、どう考えても無理がある。でも、今回、「この真実味で迫られたら騙されるよな」と素直に思えたんですよ。きっと、こんなリチャード三世は誰も観たことがないと思います。アンを演じる愛希さんも、「台本を読んでいるときは全く(アンの感情が)分からなかったけど、すごく腑に落ちた」と話していました。だからこそ恐ろしい。そうしたところを観ていただきたいです。
ーーこれまでも度々、舞台化されてきた『リチャード三世』ですが、ご自身が演出を手がける上では、どんな『リチャード三世』にしたいですか?
先ほども話しましたが、現実とあまりに重なってしまったこともあって、今回はとりわけ詩を詠いあげるような劇にはしたくないと思っています。俳優たちにも、リアリティに重きを置いてほしいと伝えてあります。そうすることによって、言葉だけでなく、間(ま)や沈黙の持つ暴力性といったものまで表現できるはずです。
同時に、シェイクスピア劇ならではのメタシアター、つまり「演劇である」ということを常にお客さんに感じていただくことが重要なのかなと思っています。そうすることで、お客さんが一歩引いて、俯瞰で観ることができます。今回は、わずか10名の俳優で作っていますが、皆さん、ほとんど出ずっぱりで、次から次へと別の役を演じていくんですよ。このやり方には「人間はあるひとつの状況において、あるひとつの役を演じているにすぎない」と感じさせる効果があると思います。
ーー『リチャード三世』という戯曲の魅力は、どのようなところに感じていますか?
これは稽古をしながら感じたことですが、これまで羊さんが演じてきたブルータスやハムレットには、自分の中に守るものがあったんですよ。それは、民主主義であったり、父親への思いだったりしますが、自分が何のために戦っているのかが明確だった。でも、リチャードにはそれが全くない。本当に空っぽの人間なんです。だからこそ、自分の空っぽを埋めるために、とにかく行動し続けるようなところがあって、その行動が何かというと暴力なんです。ただ、そういう彼の生き方は、今の時代には決して珍しいことではないのかもしれない。とても現代的な主人公だと思いますね。
ーー本作に出演されているキャストの皆さんが、「この舞台はあっという間に終わる」とおっしゃっていたそうです。演じている側もそうした体感があるということもまた、本作の魅力の一つでもあるのかなと思ったのですが、いかがですか。
1人の人間が王になり、そこから転落していくという物語を、わずか2時間あまりで観せられるのは、シェイクスピアだけだと思います。この凝縮された人間ドラマを、今回はあくまで“史劇”としてお客さんにお届けしたい。どう叙事的に表現するか、稽古場で試行錯誤を繰り返しているところです。
ーー横長の舞台空間も印象的です。
これも、歴史絵巻のように見せたいという考えから生まれたものです。どの登場人物もはじめは「自分こそが歴史を作っている」と信じていますが、やがて破滅をむかえ、そうじゃなかったことを思い知る。リチャード三世とて同様で、彼もまた、歴史に翻弄されるひとりのちっぽけな人間にすぎなかった。リチャード三世とて同様です。彼も結局は歴史の巨大さに勝てなかった。それをこの舞台セットで表現できればと思っています。後にも先にもこれほど横長の空間で芝居をすることはないと思いますが(笑)。
ーーおっしゃるように、舞台セットには驚きました。
僕も、自分でオーダーしておきながら、実際に組み立てられたセットを見て驚きました。俳優さんたちも、初めて見たときは、ポカンとしていましたね。とにかく、前例のないシェイクスピア劇になると思っていますし、きっと俳優さんたちもそれを望んでくれているはずです。
『リチャード三世』出演者
ーーお稽古場の雰囲気はいかがですか。
すごく風通しのいい現場だと思います。問題意識を共有したかったので、今回は読み合わせを普段の倍ほど時間をかけて行いました。ベテランの(渡辺)いっけいさんをはじめ、どなたもご自分の考えを積極的に表明されていますし、僕のいないところでも話し合いを相当重ねられているみたいです。それが嬉しくて。こうした意思疎通を可能にしている最大の理由は、やっぱり少数精鋭だからでしょうね。10人が10人とも、ほとんどのシーンに関わっているからこそのチーム力だと思います。
ーー愛希さんのアンはいかがですか?
すばらしいです。毎回、小返し稽古のたびに涙を滝のように流しているんです。僕は、これまでそういう俳優は吉田羊しか知りませんでした。羊さんも「もう泣かなくていいですから」と言っても毎回泣くんですよ。20回稽古をしたら、20回床が水浸しになる。それに匹敵する、激情の方だと思います。その多感さゆえに道を誤ってしまうアンの不幸を見事に体現してくれている。
愛希さんにはリチャードの側近ラトクリフも演じてもらっているのですが、これがまた絶品です。爬虫類のような、感情をけっして見せない無表情キャラ。アンとは正反対で、リチャードが唯一心を許している存在なので、ふたつの役の対比がとても面白いですね。
ーーありがとうございました。最後に、改めて読者にメッセージをお願いいたします。
数あるシェイクスピア劇の中でも、『リチャード三世』は特にエンタメ性の高い作品ではないでしょうか。中世イングランドの歴史など知らなくても、十分に理解でき、存分にワクワクできる物語です。翻訳の松岡さんの言葉をお借りすると、シェイクスピアの“史劇”には、“悲劇”と“喜劇”と“ロマンス劇”、そのすべての要素が詰まっています。どうぞ楽しみにしていてください。劇場でお待ちしております。
取材・文=嶋田真己
公演情報
ニイタカプラス 022-380-8251(平日11:00~15:00)
奥州市文化会館Zホール 0197-22-6622(火曜日休館)
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