及川浩治(ピアノ) 21年目の感謝、多彩な曲を演奏するプログラムで全国ツアーを敢行【動画あり】

2016.9.9
動画
インタビュー
クラシック

及川浩治(ピアノ)


支えていただいたお客様への感謝を込めて、
思い出に残る作品を中心に演奏します。

2015年にデビュー20周年を祝うプログラム(リスト、ワーグナー/リスト、ショパン、ラフマニノフ)で全国ツアーを成功させた、ピアニストの及川浩治。そして2016年、再び行われている全国ツアーは新しいスタートであると同時に、これまで自分の演奏を聴いてくれた方々への感謝を込めたプログラムになった。及川自身の回想、新しい道への確かな一歩。そして現在の彼自身を投影させた絶妙な選曲である。そんな及川からツアーに臨む心境を聞いた。

―― 1995年にサントリーホールでデビュー・リサイタルを行い、2015年にはピアニスト生活の20年をお迎えになりましたが、大きな転換点になりましたか。

昨年は、学生時代に留学したブルガリアのソフィアを訪れてコンサートを行うことができ、「この20年間、いろいろなことがあったな」という感慨深い思いに浸りました。記念ツアーのプログラムは、ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番をメインに置きましたが、この曲は僕が高校生のときに初めてホロヴィッツのレコードで聴き、ピアニストはなんてかっこいいんだろう!と感動した作品です。コンサートのライヴ盤ですが、ブラヴォーの声やヒューヒューという口笛なども客席から飛び、聴いていて興奮するレコードでしたね。音楽への強い憧れこそが、自分の原点だなと実感できました。

―― そのラフマニノフの作品も含め、21年目のツアーは実に多彩な曲が並ぶプログラムです。

それぞれに思い出のある作品ばかりですが、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」はコンサートで演奏することがほとんどなかったと記憶しています。「ラ・ヴァルス」も「亡き王女のためのパヴァーヌ」も,僕はオーケストラの演奏が強く印象に残っていますので、オーケストレーションの魔術師と呼ばれていたラヴェルらしい音色や響きを、ピアノで表現したいですね。若い頃でしたら技巧にまかせてバリバリと弾きまくる演奏もありでしたが、そこはもう50歳を迎えようとする大人ですから(笑)、あらためて作品本来の美や魅力を追求したくなりました。

及川浩治

―― J.S.バッハの「シャコンヌ」やリストの「ラ・カンパネラ」をフェルッチョ・ブゾーニが編曲した版など、演奏技術を前面にアピールする曲も今回のプログラムには多いのですが、ラヴェルと同様に音楽を大きくとらえるようなアプローチになりますか。

「この『シャコンヌ』はバッハなのか、それともブゾーニなのか?」という問いを突きつけられますが、ヴァイオリン独奏のための原作をピアノに編曲したという表面的なことではなく、バッハの音楽はどう編曲してもバッハであることを証明してくれたものだと言えるでしょうね。今回は自分の感情を正直に表出し,人間らしさを前面に出して弾こうと思います。リストの「ラ・カンパネラ」もブゾーニ編曲のものを弾きますが、皆さんがよくご存知の通常版にも魅力を感じつつ、若いピアニストたちに紹介したいという思いもあって、今回はブゾーニ版を選びました。

―― ドビュッシーの「月の光」も及川さんがお弾きになるのはちょっと意外な印象を受け、とても新鮮でした。

まだ僕が小さい頃に父親が練習していたという記憶が鮮明に残っており、なんて素敵な音楽なんだろうと感動したことが忘れられないのです。その気持ちを、今の自分がどう表現できるのか、自分自身も楽しみにしています。ショパンの「ラルゲット」や「別れの曲」は、15年ほど前に『ショパンの旅』というコンサートツアーをしたことがありましたけれど、エキエル版(ナショナル・エディション)の楽譜を使って今だったらどう弾けるだろうかという自分への挑戦でもありますね。リストやラフマニノフの曲は,自分にとってはずせない存在ですから、ずっと僕の演奏を聴いてくれた方にも、初めて出会える聴き手の方にも聴いていただきたい作品ばかりです。

―― あらためて21年目となるいま、音楽を表現する上で大事にしていることはありますか。

ピアニストというより音楽家として、また芸術家として、神に選ばれた作曲家たちの作品をどう伝えていくかということを考えます。演奏家は作曲家たちのメッセージを感じ、追求して,表現へ結びつけなくてはいけないのですが、そもそも自分自身が幅広い表現のできるだけの器でなくてはいけません。『こんなに素晴らしいものがあるのですよ』ということを聴衆と共有するのがコンサートであり、人に伝えるというシンプルな行為の重要性を、あらためて感じますね。この5年ほどは仙台にある宮城学院女子大学の音楽科で教えていますが、学生たちにもそうしたことを伝えています。ソフィアで師事したコンスタンティン・ガネフ先生や奥様であるジュリア・ガネヴァ先生にもあらためて感謝したいですし、自分の音楽もますます深めていかなくてはならないと決意を新たにしています。

及川浩治

本人は「区切りはあまり意識しない」と口にしていたものの、ツアーに賭ける意気込みは熱く深い。デビューを飾った思い出の舞台である東京サントリーホールをはじめ、各地でその思いを伝えるツアーは2017年2月まで続く。
 
【SPICE SPECIAL動画】 メッセージをいただきました↓

 
(取材・文=オヤマダアツシ、写真撮影=大野要介)
 
公演情報
及川浩治「リサイタル・ツアー2016

■日時・会場
[静岡] 
2016年93(土)19:00
青嶋ホール
[青森]
2016年910(土)14:30
リンクモア平安閣市民ホール
[東京]
2016年9月17日(土)
14:00
サントリーホール 大ホール
[大阪]
2016年10月15日(土)14:00
ザ・シンフォニーホール
[石川]
2016年10月27日(木)19:00
白山市松任学習センター
[北海道]
2016年12月18日(日)13:30
札幌コンサートホール Kitara大ホール
[宮城]
2017年2月19日(日)
14:00
東北大学百周年記念会館 川内萩ホール

■予定曲目
J.S.バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ ニ短調 BWV1004より
ショパン:ラルゲット(ピアノ協奏曲第2番 op.21より第2楽章)
ショパン:練習曲《別れの曲》ホ長調 op.10-3
リスト:ラ・カンパネラ(ブゾーニ編)嬰ト短調
リスト:愛の夢 第3番 変イ長調
リスト:メフィストワルツ 第1番
ドビュッシー:月の光
ドビュッシー:アルペッジョのための練習曲
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラフマニノフ:前奏曲《鐘》嬰ハ短調 op.3-2
ラフマニノフ:ヴォカリーズ(コチシュ編)嬰ハ短調 op.34-14
クライスラー(ラフマニノフ編):愛の喜び 
ラフマニノフ:練習曲《音の絵》 ニ長調 op.39-9
※演奏曲目・曲順は変更になる場合がございます。
■公式サイト:http://www.koji-oikawa.com/
 
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