挫・人間 アングラからポップへ、その狭間で気付いた“呪い”が導いたもの
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挫・人間
強力なサブカル性はそのままに、ポピュラリティを追求した前作アルバム『テレポート・ミュージック』から1年。挫・人間の新作ミニアルバム『非現実派宣言』が9月21日にリリースされた。自らのルーツであるテクノサウンドをフィーチャーしつつ、パンクな精神性が随所に漏れ出ている今作。聴けば聴くほどクセになる、その魅力の理由は一体何なのか? 淋しすぎる少年時代の出来事すらもポップな楽曲へと昇華させる、下川リオ(Vo)に話を訊いた。
メンバーの写真を見てもわかるように、挫・人間以外の将来の可能性を自ら失っていく方向に、みんなどんどん振り切っている。
――ライブを初めて拝見したときに、どうしたら10代でこういう音を鳴らすバンドが生まれるんだろう?って思ったんです。
フフフ。最近、改めて自分でも考えてみたら、何も取り柄がなかったんですよね、学生生活において。勉強もできない、運動もできない、友達もいない。ゲームはちょっと上手だったんですけど、あまり人に自慢できる特技じゃない。そんなときに、マンガやアニメを見ていると、できないヤツでも必ずひとつ取り柄を持ってるんです。それが当たり前のような感じで描かれているんですよ。
――あぁ、目立たない存在だった少年が、自転車に乗ったら坂道にやたら強いとか?
そうですそうです。人と会話してなかったんで、マンガ、アニメ、ゲームの世界の住人みたいな脳の作りになっていてですね。ということは、俺にも何かあるに違いないって。で、中学生の頃にバンドを聴き始めて、“コイツらどうやらダメッぽいぞ。俺、向いてるんじゃないか?”なんて大きな勘違いをしたんです。
――すべてがいい方向に作用した気がしますね。もし取り柄はないけど友達がいっぱいだったら、バンドを続けることに否定的な、超真っ当な意見を言うやつもいただろうし。
確かに。誰も止めなかったし、数少ない友達はみんな俺と同じように“逆転できるぞー!”みたいに勘違いしてて(笑)。ただ、勘違いし続けられる人ってそんなにいないんですよ。結果、地球上にいま挫・人間をできる人間が3人しかいないっていう。魂のステージが違い過ぎるというか、挫・人間のハードルって多分すごく高いんです。ドラムを叩くことよりもっと大事なものがあって、そこのバイブスが合う人がなかなかいなくって。ま、ポジティブに捉えれば、非常にレアなバンドになっているんだろうなと思うんですけど。
――話を聞いていて、作品ごとの変化の経緯が見えてきました。
あっ、本当ですか? 1枚目のときは復讐心が今よりもずっとあって、“シネ”とか、“コロス”とか、よくないことをたくさん言っていて。
――ただ、挫・人間の“シネ”や“コロス”からは、生命力が強烈に伝わってきたから。
そう! そういう言葉を使わないと生きてる実感がなかったっていうか、生きるのが下手だったんですよね。非常に重苦しい青春を過ごした人間なもんで。
――少しは上手になっていますか?
いやぁ、出し方は変わってきたものの、なんだかずっと怒ってますね。ベクトルが定まらないまま怒ってる。
――前作『テレポート・ミュージック』は怒りの感情をみんなに届くようにポップに変換しつつ、もうひとりの下川くんが“それでいいのか?”と問うて、結果、ふたりの下川くんが葛藤してるような、混沌としたアルバムだったと思うんですね。
まさに。他者との接触が本当になかったので、話し相手は自分しかいないんですよ。だから第三の自分が常に“お前はそれでいいのか?”って言ってきて、自分vs自分みたいなことになっちゃう。特に2枚目(『テレポート・ミュージック』)を出した頃は、願わくばみんなと仲良くしたい、楽しいことを楽しいって言いたい気持ちも出してしまおう! アングラバンドとしてNGだろうが、すべて解禁してポップに行くぞーって覚悟して作ったんですけど。結局、自分の中にある呪いみたいなものが一緒に出てきて、それが逆にポップな曲の中で鮮明になっちゃった。
――だけども今作『非現実派宣言』は自分の中のドス黒い部分も、実はポップ好きな部分も認めてあげてられているというか。いろんな意味で振り切れたことで、とても開かれた作品になっている気がしていて。
よかったぁ。どんどん迷いがなくなっていってるんですよね。メンバーの写真を見てもわかるように、挫・人間以外の将来の可能性を自ら失っていく方向に、みんなどんどん振り切っているし。それがいいのか悪いのか判断つかないですけど、非常に楽しくやらせていただいてます。
――だって1曲目「テクノ番長」から、モチーフのテクノサウンドは超ど真ん中だし、ハチャメチャな歌詞を自在に操る下川さんのボーカリゼーションはもはやひとりミュージカルのようだし、やりたい放題でしたもん。
ハハハハ。うれしい。歌詞は喫茶店で書いてるんですけど。
――この歌詞を? 大丈夫? ヘンな顔してない?
頭の中で歌いながら、好きなものと語呂を組み合わせて『ぷよぷよ』とか『テトリス』をしていく感覚でノンストップで書くんで、多分すごい顔になってると思います。どんどん盛り上がって、熱くもないのにダーッと汗かいちゃったりして、相当キモいオタクですよ。
――ウェイトレスさんがお水を注ぎに来て、<デトロイトうまれの若大将中野メカノにレッツらゴー>を覗き見したら、話しかける声が震えちゃうかも(笑)。
そうそうそう。全然中野区じゃないのに。
――『テトリス』をしていく感覚って表現にハッとしたというか。言葉が音にはまってどんどん曲になっていく絵が浮かびました。
仏像を彫る人って、丸太を見た瞬間に仏の姿が見えるらしくて。あとはその仏を掘り出してあげる作業だ、みたいな話を聞くんですけど。そんな感じで、僕の歌詞も最初から(頭の中には)用意されてるんで、そこにバーッと当てはめていく感じで。
――下川くんが一心不乱に掘り進めたら「テクノ番長」が姿を現したんだ。
そうなんです。目の前に“曲”っていうむき出しの丸太があって、僕がガーっと彫ると「テクノ番長」が出てくるんですよ。面白い。俺には最初から君の姿が見えていたよ、みたいな。
――しかも最後のひと彫りが<伝われ 君に!>。綺麗にストンと納まってるからね。
最初からゴールは見えていたというか、伝わればいいと思って書いてるんで、落としどころがそこにいくんですけど、フォーマットは「テクノ番長」だったりして。フフフフ。だからラブソングだってあるし、言ってることは他のバンドと変わんないのかもしれないですけど、人間性の違いでこうなってしまうっていうね。
小学生時代の俺は誰とも通信ケーブルをつなげなくって、妹のを借りてひとりで2台のゲームボーイを使って通信するという遊びをしてて……。
――うん。リード曲「ゲームボーイズメモリー」は<青春依存>と<大人>というフレーズが共存する、25歳のリアルでした。
そろそろ自分の世代の曲を歌ってみようと思って。僕らが生まれてすぐからあって、一緒に大きくなっていったものってポケモンなんですよね。ポケモンは変わらないじゃないですか。そこにずっとあって、自分の人生と照らし合わせていける存在で。大人になるとしがらみも増えてくるし、今日も同級生から電話で、俺たちが学校でつきまとってた女の子が銀行に就職してたのを発見したって報告されて。立派だなぁと思う。みんなはポケモンとお別れして自分の人生を歩み出してる。でも僕はまだポケモンにしがみついてバンドを続けてる。ならばここで、こういう大人として振り切るしかないんですよね。それが歌になっちゃったっていう感じです。
――それを表現する方法として、2年前だったら吐露になっていたと思うんです。だけど2016年のこの歌には共感というか、つながる人が多いんじゃないかなぁと思う。
そうかもしれないですね。共感しちゃったらまずいかもしれないけど(苦笑)、同じことを考えてる人はいるんじゃないかな。メンバーもそうだって言ってたし。そしてつながってくれたらうれしいなぁ。曲に出てくる<通信ケーブル>は、ゲームボーイをつなげて友達と遊ぶツールなんですけど、親に買ってもらったものの、小学生時代の俺は誰ともつなげなくって、妹のを借りてひとりで2台のゲームボーイを使って通信するという遊びをしてて。
――ヒィィィィ。涙で前が見えません。
フフフ。僕の“大人の通信ケーブル”である音楽で誰かとつながれればうれしいですよね。
――つなげていきましょう! ま、続く「君とメタモル」は美少女人格曲だけども。
もはや僕の人格のひとつというか、これを書いてるときは、美少女と下川リオの境界線がなくなっちゃってるんで。脇を閉めて、内股気味で、小指も立っちゃうみたいな(ニッコリ)。非常に美少女的でありながら、言ってることは本当に気味が悪い、しかも曲はアイドル。こんなバンドは他にないぞ!って喜んでやってたんですけど。作業を終えて、みんなで完成したこの曲を聴いたときは苦痛でしたねぇ。自分の人生を自分で傷をつけていたことにハタと気付いたというか。
――しかし歌ってるときのウキウキ感は音源からドバドバ伝わってきましたよ。
すっごく楽しかったです。歌入れしてると、ミックスルームから“キモ…”って声が聞こえてくるんですよね。それに対して“なんですって〜!? ”という美少女的な怒りを覚えつつ“でも楽しいー!”みたいな。マンガにも映画にもアニメにも自分は入っていけないし、登場人物になんて絶対なれないけど、音楽ならそれができるんで。夢を見せたいんで。俺みたいなダメ人間でも、バンドをやれば美少女になれるんだっていう夢を、みんなにも。まぁだいぶ特殊な夢ですけど。ハハハハ。
――そう考えると、ロックスターにもなれれば、伝説にもなり、美少女にもなれるんだ。
本当にDREAMS COME TRUEですよ。
――なのになぜラスト2曲は地獄ソングなんでしょうね?
あははははははは。そっか。結局、地獄にゴールしてるんだ。しかもただの地獄じゃない、大地獄に。
――<大地獄3丁目で会いましょう>から始まるラストナンバー「愛想笑いは後にして」がまた、その前の4曲でさんざん引き摺り回したことをチャラにして、とてもいいアルバムでした的な雰囲気に落とし込む、かなり質の悪い名曲で。
ありがとうございます。そうそう。喫茶店で考えながら、アルバムの最後を締めるのはこういうドラマだ!みたいに、自分の中で非常に盛り上がったことを覚えてますね。
自分に好意を持ってくれてるとか信じられないっていうか。みんな気を確かに!って思う。
――前作で<アイラブユー>って歌ってたじゃないですか、全然アイラブユー感は伝わらなかったけど(笑)。逆に「愛想笑はあとにして」の、<愛してるぜフォーエバー なんて うそさ今のはナシで>っていうのって、実は一番心地いい温度感だと思うんですよね。
確かに。これは死に際の人を歌った歌詞なんですけど。例えば、自分が明日死ぬとして、好きな人に気持ちを伝えるかな?って考えたら、一応言って、「うそでーす」みたいにかぶせちゃうんだろうなと思いながら書いたんで、うん、わりと素ですね。シンプルな言葉を探したらこうなっちゃったっていう。まぁ全然そういう経験がないんで、これ以上はなんとも言えないですけど。
――あら、妄想で作られました?
あたかもちゃんと恋愛してる人の曲みたいですけど、全部妄想なんですよね。前回のアルバムでも、恋愛の曲になると相手が人間じゃなく狐になったり。しかも僕、恋愛のこと考えると全部心中に行き着いちゃうんです。
――それはなんでなんだろう?
現実的じゃないから、ですかね。モテなさすぎて、もはやミソジニストみたいになってる。
――でもほら、ライブを観に来るファンは女の子も多いわけじゃない? みんな下川くんを求めてくれてるわけですよ。
自己評価がすごく低いんで、自分に好意を持ってくれてるとか信じられないっていうか。みんな気を確かに!って思う。
――クククク。そろそろいいんじゃないでしょうか、そこは自覚しても。
いやぁ、これは呪いみたいなものなんで。こじれっぱなしで、未だに初恋の女の子の亡霊を追いかけてたりするので。高校時代、素敵だなぁと思ってた女の人が、車で爆音でニルヴァーナをかけてる、髭の生えた20代後半のアパレル店員と付き合っているって話を聞いて、なんで、なんでそんなことをするんだー?!っていう絶望感がすごくあって。俺はそんな大人にならない!という強い気持ちを持ってしまって。そうかぁ。いつかたかが外れたりするのかな。たが、外れたいなぁ。願わくば外してしまいたいっ。
――ライブでこの曲を聴くのも、下川くんの恋愛のたがが外れるのも、楽しみにしてます。
是非! ライブを前提とした曲作りだったりもしたので。今までの曲にこのミニアルバムをプラスすると、“ロックバンドってなんだっけ?”みたいな外れ方をしたライブになっていくと思うんで。3曲目なんていっさい弾いてないですからね。モヒカンが楽器を脇に置いて、裏声で気持ち悪いこと歌ってるんだから、もう正気じゃないですよ。
――とか言いつつ、軸にあるのはグッドメロデイ&グッドサウンド。一緒に歌えて踊れる曲揃いですから。
そこはマストであるべきだと思うんです。ただステージから直接感情を放つってなったらもう、バンドが演奏にこだわる必要はないと思ってて。あのぉ、人生って悩ましいじゃないですか。けど迷って、ぶつかって、挫・人間のライブに辿り着いたなら、みんなどうでもよくなると思うんですよね。こんなに人生捨ててるヤツらがいるなら、私はまだまだ大丈夫、みたいな気持ちになると思うので。
――あぁぁ、だから『非現実派宣言』。
そうです。やっぱり現実は辛いんで、僕がゲームやマンガに潜り込んだように、現実を生きるには非現実が必要なので。そういう人たちの非現実になれたらいいですよね。
取材・文=山本祥子
挫・人間『非現実派宣言』
RCSP-0073 ¥1,700;税
発売元:redrec / sputniklab inc.
<収録曲>
M-1:テクノ番長
M-2:ゲームボーイズメモリー
M-3:☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆
M-4:人生地獄絵図
M-5:愛想笑いはあとにして
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