心に寄り添う長谷川陽子のチェロの音色にカフェがひと時の“涼”に包まれる
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長谷川陽子 (撮影=荒川潤)
日本を代表するチェリスト・長谷川陽子初登場! 第39回“サンデー・ブランチ・クラシック” 8.14ライブレポート
夏真っ盛りの日曜日の午後も、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGで開催される『サンデー・ブランチ・クラシック』は、静かにその開演の時を待っていた。登場してくれたのは、日本を代表するチェロ奏者のひとり・長谷川陽子。30分という短い時間ながら、チェロの音色と長谷川の技を堪能できるプログラムが届けられた。
大きな拍手で迎えられ、一人ステージに上がった長谷川が椅子に腰を下ろすと、カフェには静寂が訪れた。一呼吸を置いたあと、優雅に滑り出した弦が奏で始めたのは、バッハ作曲「無伴奏チェロ組曲第一番」より『プレリュード』だ。無伴奏だからこそ、音色の表情が優しく浮かび上がる。
挨拶する長谷川 (撮影=荒川 潤)
1曲弾き終えると、「皆様こんにちは。お食事やお飲み物は、楽しまれていますか?」と、長谷川はほがらかに客席へ語りかける。そして、「本日は暑い中、来てくださりありがとうございました。今日は、チェロの音色で一瞬の涼しさをお届けしたいと思います」とひと時の“涼”を約束した。
長谷川は、ここでピアニストの田中英明を呼び込んだ。田中は、長谷川に「田中さんはすごく素直で明るくて、私の大好きな前途有望なピアニストの方です。今日は皆さん、青田買いです(笑)。ぜひ注目してださい」と紹介され、はにかんだ表情を見せていた。
ここからはチェロとピアノでの演奏となり、プログラム2曲目は、ピアソラ作曲「リベルタンゴ」を披露してくれた。「この曲は説明の必要がないかもしれないですね」と、チェロの優しい音色に情熱を乗せて、夏にぴったりのラテンのノリを響かせた。
長谷川陽子(チェロ)、田中英明(ピアノ) (撮影=荒川 潤)
田中英明 (撮影=荒川 潤)
続いては、ジョニー・マーサー作曲の「ムーン・リバー」を演奏した。この日、長谷川が弾いたのは、長谷川の友人であり、以前『サンデー・ブランチ・クラシック』にも登場してくれた、加藤正則がピアノとチェロのために編曲したものだという。チェロの柔らかな音色が一層引き立つアレンジを聴きながら口にする昼食は、また格別だ。
来年デビュー30周年を迎えるという長谷川は、記念イヤーに向けて今秋よりコンサート企画を準備している。中でも注目なのが、10月22日(土)に東京オペラシティ コンサートホールで行われる『長谷川陽子&錦織健~チェロと歌のデュエット』だ。
長谷川陽子 (撮影=荒川 潤)
これは、オペラ界のスーパースター、錦織と長谷川がタイトルの通り1対1で音楽を紡ぐという試みになっている。もちろん、歌とチェロだけのために書かれた曲はないため、このコンサートのために、名曲の数々をアレンジするのだという。「歌とチェロ一本だけなので、非常にシンプルなステージになりますが、このコンサートでしか聴けないバージョンの曲を皆様にお届けしたいなと思います」とニッコリ微笑む長谷川に期待せずにはいられない。
「錦織さんの歌声は本当にすごいんです。お聞きになられたことはありますか?」と嬉しそうに話す長谷川は、錦織についてこんなエピソードを明かした。「以前、サントリーホールで一緒の企画に出させて頂いたことがありまして、錦織さんがステージに立っていらっしゃる間、私は袖に控えていたんです。そして錦織さんが歌い出した途端に、その袖の床がビリリリリッて振動したんです!」と、長谷川は改めて人の声のパワーを実感したと語っていた。
「私はこの曲に、晴れ渡った空を見る一瞬のような光を感じます」と演奏されたのは、チェリストであったオッフェンバック作曲の「ジャクリーヌの涙」。“シャンゼリゼのモーツァルト”と言われたオッフェンバックの美しいメロディが光る。チェロの低音の深さが、それを一層際立たせていた。
長谷川陽子(チェロ)、田中英明(ピアノ) (撮影=荒川 潤)
続いて、ポッパー作曲「演奏会用ポロネーズ」を披露してくれるのだが、実はこの曲、ポッパーもチェリストであったことから、超絶技巧の大変難しい曲である。弾き始める前に長谷川は「難しいので、ちょっと(弾くのに)ドキドキするんですけど(笑)。無事に弾き終わったら、ぜひ拍手をください」と冗談めかしつつ、鬼気迫る演奏を聴かせてくれた。出演者のテクニックを間近でじっくり見ることができるのも、ステージと距離の近いカフェライブの醍醐味だ。見事、曲が終わると、約束通り観客から惜しみない拍手が贈られた。
チェロの音色の魅力と長谷川の演奏力を存分に堪能できた30分の最後は、バッハ作曲「G線上のアリア」で締めくくり、再び拍手喝采となった。
サイン会の様子 (撮影=荒川 潤)
終演後、長谷川に話を聞くと、「私もイープラス会員(※)なので、ニュースレターなどでこちらの企画を拝見して、皆さん楽しそうでいいな、私も弾かせていただけたらって思っていたんです」と出演の機会を楽しみにしていたと明かしてくれた。
(※会場である『eplus LIVING ROOM CAFE & DINING』は、
さらに、「ワンコインでクラシックが楽しめるというのは画期的ですし、30分という時間は、クラシックを聞いてみたいけど、長く聞く自信がないという方にも、足を運んでいただきやすいし、何よりこの空間がリラックスさせてくれると思うんです。皆さんのリラックスが伝わるのは、演奏家にもいい意味の相乗効果を生んでくれました」と、普段のコンサートとは違う喜びを感じながらの演奏となったという。
インタビューに答える長谷川 (撮影=荒川 潤)
トークの中でも語ってくれたが、長谷川は来年デビュー30周年を迎える。「いろんな思い出がありますので、感慨深く思いつつ次の目標として20年後のデビュー50周年を見据えて、これからまた一歩ずつ重ねていきたいなと思っています」とさらなる活躍を誓った。
最後に、「演奏中にちらちらと拝見した皆様の表情から、音楽を心から楽しんでくださっているのを感じ、“音を楽しむ”という音楽の原点を共有できた気がいたしました。この感動を胸に、また演奏活動を続けてまいります。ありがとうございました」とメッセージをくれた。
長谷川陽子 (撮影=荒川 潤)
クラシックをお好きな方はいつもとちょっと違ったカジュアルな楽しみとして、クラシックに馴染みがないけど興味があるという方は、一歩踏み出すきっかけとして、誰でも気軽に音楽を楽しめる空間として、『サンデー・ブランチ・クラシック』から世界を広げていってほしい。次回もお楽しみに。
日時:2016年10月22日(土)
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:長谷川陽子(チェロ)/錦織健(テノール)
<曲目・演目>
・瀧廉太郎:荒城の月
・モドゥーニョ:ヴォラーレ
日時:2016年11月9日(水)
会場:HAKUJU HALL
出演:長谷川陽子、向山佳絵子、辻本玲、上野通明(以上、チェロ) 、原田節(作曲、オンド・マルトノ)
<曲目・演目>
・モーツァルト(D.B.Moore編):歌劇「フィガロの結婚」より “序曲”
・ヘンデル:グラーヴェとフーガ(合奏協奏曲 第5番 ニ短調 op.3 より)
・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV.1009
・原田節:Untitled 3(J.S.バッハ“無伴奏チェロ組曲第3番”をモチーフにした委嘱新曲世界初演)
・原田節:透明な陶酔パガニーニ:モーゼ幻想曲
・ピアソラ(寺嶋陸也編):オブリビオン、リベルタンゴ
日時:2016年12月17日(土)
会場:杜のホールはしもと
出演:長谷川陽子(チェロ)、三浦友理枝(ピアノ)
<曲目・演目>
・ベートーヴェン:ユダス・マカベウスの主題による12の変奏曲
・メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ 第2番
・ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ
・サン=サーンス:白鳥
・ポッパー:演奏会用ポロネーズ
・シベリウス:5つの小品 作品75より 第5番 樅の木(ピアノ・ソロ)
・チャイコフスキー:《四季》作品37bより 12月 クリスマス(ピアノ・ソロ)
・ピアソラ:ル・グランタンゴ
米津真浩/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500
10月30日(日)
鈴木舞/ヴァイオリン&岩崎洵奈/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500