横浜のヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』はひと味違う? tvk特番も9/27放送!

インタビュー
舞台
2016.9.22
(左から)石田剛太・本多力・上田誠

(左から)石田剛太・本多力・上田誠


ヨーロッパ企画の第35回公演『来てけつかるべき新世界』。大阪・新世界の串カツ屋を舞台に繰り広げられる"SF人情喜劇”ともいうべきヨーロッパ企画の新たな扉を開く作品だ。プレビュー公演を含め全国10カ所をまわっている最中のこの作品について、また10月の横浜公演について、脚本・演出の上田誠、劇団メンバーの石田剛太本多力に話を聞いた。

ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』(撮影:清水俊洋)

ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』(撮影:清水俊洋)


—— 本公演『来てけつかるべき新世界』を栗東、京都、東京と上演してきて、現時点(取材は東京公演の休演日)の手応えはどうですか?

上田: これまでの本公演で上演してきた「企画性コメディ」というシリーズから、さらにもう一歩進んだ挑戦をしようと思っている、その第一弾がこの作品なんです。で、だいたい第一弾って、そんなにうまくいかないことも多いんですけど……。

石田・本多: (笑)。

上田: わりと今回はいいスタートがきれている気がします。具材が多い作品にしようと思っていたんですが、その総量がうまく伝わっている感じが。

石田: 今回、関西弁でお芝居をするということがヨーロッパ企画としては初めての挑戦なんですよね。それはやっていて楽しいです。わかりやすいボケ・ツッコミがあって、12人のキャストが本当に漫才のような掛け合いをする。でもね、はっきりとボケて、ツッコんでるのにウケなかったりすると……いままでは「劇」だからそんなに気にならないんですけど、ちょっと今回は……(笑)。

本多: 自分がツッコミをしたときに失敗したらボケの人に「ごめんね」って思いながらやってる(笑)。

石田: そうそう。いままでやってきたことも詰め込んだ上で新しいことをやっている楽しさはありますね。

石田剛太

石田剛太

本多: 今回、新しいテクノロジーの要素もふんだんに取り込んでるから、どこまで伝わるんかな? と思ってたんですよ。でも、自分の親が同世代の友達を連れて観に来てくれたときにも充分楽しんでもらえてたから、よかったなって。

上田 それはうれしいよね。自分らではかなりこみいった材料を扱ってるつもりでいるので、ちゃんと伝わるか不安もあったんですけど、意外と杞憂で。それがうれしくもあり、必要以上に心配していたことがちょっと恥ずかしくもあります(笑)。

—— 先ほど上田さんが「具材の多い作品に」とおっしゃっていましたが、まさにその通りで、たくさんの要素が次々と展開する、濃密な作品ですよね。

上田: そうですね。今までならたとえば「移動の本質を取り出したらこうなる」という芯の部分をごそっと書くという、かなりソリッドなつくりになってたんです。でも今回は仕組みや骨組みだけでなく、新世界のいろんな場面をスケッチ的に、しっかり楽しく書くという形に変えたんですよね。経験を積んで脚本がうまくなると、やっぱり無駄な部分をどんどん落とすようになる。でも今回は、なるべく具体の話をしようと。

—— 濃密になればなるほど、演じる側はセリフも増えていくと思いますが……。

石田: いや、まさに。セリフも多いですし、とにかく展開が早くて、気持ちが追っつかなかったりするんですよ。でもお客さんはすんなり理解いただいているみたいで。観ている側のほうが理解が早いんですよね。

本多: 僕はここ何作か、最後の方に出てくる役が多かったんです。でも今回は群像のなかの一人として存在してる。ヨーロッパ企画ってやっぱり群像の劇やと思うので、その流れをみんなで作っていくのは気持ちいいですね。

上田: やってて楽しいよね。

石田: うん、楽しい。

本多: 本番を重ねていくごとに、ちょいちょい役者同士が裏芝居をしだしたりして。

本多力

本多力

—— サイトを拝見すると、最初は2時間20分と発表されていた公演時間が、「(上演内容は変更していません)」という説明つきでどんどん短く更新されているようですが、それはキャストがノッていくことで早くなるわけですか?

上田: 僕ら、ふだん映像もつくるんですけど、たとえば撮れ高が40分くらいあるなっていう素材をぎゅっと23分くらいに縮めて放送すると、すごく面白くなるんです。それってお芝居でも一緒で、ふつうに上演すると2時間20分くらいかかるものを面白さのエッセンスを減らさないようにぎゅっとできると、単純に面白さの密度が上がる。これは演者の生理というよりお客さんの生理を優先してやっていることなんで、役者は大変やと思いますけど。

—— それは、日々のダメ出しによって、公演中に少しずつ縮まっていっているんでしょうか?

上田: そうですね。多少語尾を縮めたりして、あくまでも心地よいペースのなかで早くするように調整したりはしています。でも役者の側にもそういう感覚があるんじゃない?

石田: うん、ある。お客さんの反応で、「ここはまくし立てても雰囲気で伝わるんだ」っていうところと、「ここは丁寧に言ったほうがいいんだ」っていうところがあるんですよね。

本多: セリフのやり取りもそうなんですけど、人の出捌けが多いんですよ。誰かが捌けている間にこっちで話がはじまるというのが、公演を重ねてかなりスムーズになってきた感じはあります。その、次から次へと何かが行われてるテンポが密度につながってるんかな。

上田: でも実際やってみて、2時間2分だとちょっと短いね。2時間4分くらいがちょうどよさそうです。

上田誠

上田誠

—— そんなにも細かい調整が……! この作品は全国を回って、10月には横浜公演で再び関東地方に戻ってこられますね。

上田: KAAT(神奈川芸術劇場)という劇場に独特の空気があるから、ちょっとネクタイ締めなおす気分ですね。

石田: 「まさに芸術劇場!」みたいな感じがしますもんね。

上田: 芸術とエンターテインメントって、僕らの中ではタテ軸とヨコ軸なんです。ふだんはエンターテインメントの方で認識されているけれど、芸術……というとちょっと大げさかもしれませんが、たとえば今回だったら丁寧にフィールドワークするとか、身体性を考えるとか、そういう方向の観方をされたいこともある(笑)。そういう意味で、僕はKAATでの公演は気が引き締まる感じですね。

本多: 客席と近いので、ほかの劇場よりも「観られてる!」っていう緊張感がありますよね。客席の背もたれもわりと直角なので……。

石田: お客さんみんなこうやって(背筋伸ばして)観てるもんね。

本多: そうそう。

上田: そういう上演環境による空気の違いって、絶対あるよね。

石田剛太・上田力・本多力

石田剛太・上田力・本多力

—— 全国ツアーも終盤ということは、キャストどうしのグルーヴ感も高まっているのでは?

上田: そうなんです、よくも悪くも緊張が解けて、煮込みすぎたスープみたいに……。

石田: なるよね、どうしても。

上田: それをKAATで引き締め直す、というのが毎年いい感じなんですよね。

本多: 中華街も近いし。

石田: そうそう、中華街みんなで行ったりするよね。

上田: 毎回、ツアー終盤の楽しみ。

—— 横浜公演に向けてtvkで特番が放送されるんですよね?

上田: はい。この特番は『来てけつかるべき新世界』のエピソード0なんですよ。新世界をフィールドワークしたり、客演のかたにインタビューしたりというなかにフィクションも混じっていくっていう。

石田: 福田転球さんのシーンが、めちゃくちゃ面白いです。っていうと観る方のハードルが上がっちゃうかもしれませんけど。僕はすごく好きなシーンです。

本多: 新世界をメンバーがぶらぶら歩いてるその空気がいいんですよ。まだ新世界でのフィールドワーク序盤で、慣れてる人もいれば、ビビリながら歩いてる人もいて。

上田: これまでの「企画性コメディ」シリーズのおさらいもありますし、この番組を観てもらえると、劇がかなり面白くなると思います!

(左から)石田剛太、本多力、上田誠

(左から)石田剛太、本多力、上田誠

(取材・文:釣木文恵  写真撮影:岩間辰徳 ※舞台写真=撮影:清水俊洋)

番組情報
ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界~エピソード0~』

■放送局: tvk(テレビ神奈川)
■放送時間: 9/27(火)23:00~23:30
■放送地域: 関東エリア
■内容: 京都の人気劇団・ヨーロッパ企画が送る第35回公演『来てけつかるべき新世界』の神奈川公演にに先立ち、ヨーロッパ企画の過去の舞台作品を振り返りながら、新作舞台の魅力や見どころを紹介。さらに、モデルとなる大阪・新世界の街をフィールドワークしながら作品の世界観が明かされる。
■出演: 石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力(以上ヨーロッパ企画)、金丸慎太郎、藤谷理子、福田転球
 
公演情報
ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』

■日時・会場:
栗東プレビュー公演 2016年9月3日(土) 栗東芸術文化会館さきら 中ホール
京都公演 2016年9月8日(木)~11日(日) 京都府立文化芸術会館
東京公演 2016年9月16日(金)~25日(日) 本多劇場
広島公演 2016年9月29日(木) JMSアステールプラザ 中ホール
福岡公演 2016年10月1日(土)、2日(日) 西鉄ホール
大阪公演 2016年10月5日(水)~11日(火) ABCホール
四日市公演 2016年10月15日(土) 四日市市文化会館第2ホール
高知公演 2016年10月21日(金) 高知県立県民文化ホール グリーンホール
横浜公演 2016年10月27日(木)~30日(日) KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
名古屋公演 2016年11月2日(水) 名古屋市東文化小劇場

■作・演出:上田誠
■音楽:キセル
■出演:石田剛太 酒井善史 角田貴志 諏訪雅 土佐和成 中川晴樹 永野宗典 西村直子 本多力
/金丸慎太郎 藤谷理子 福田転球
■公式サイト:http://www.europe-kikaku.com/

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