sumikaが踏み出した“第2章”に向けた初めの1歩――地元・川崎で迎えたツアーファイナル
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sumika 撮影=後藤壮太郎
「アンサーパレード」Release Tour Final OnemanLive -Answer Parade-【Little crown #3】
2016.9.19(MON) CLUB CITTA’
今年の夏は東名阪ワンマンや全6公演の対バンツアーを通して全国を廻ってきたsumika。9月19日には川崎・CLUB CITTA’にて『「アンサーパレード」Release Tour Final OnemanLive -Answer Parade-【Little crown #3】』が行われた。
sumika 撮影=後藤壮太郎
昨年には片岡健太(Vo/Gt)が体調不良を訴え、声を出せない状態にまで至ってしまったことで活動休止していた時期もあった。数ヶ月の療養のあと、無事彼は復帰し、4人での活動を再開。11月に行われたshibuya eggmanでのフリーワンマン、それから今年3月の東名阪ワンマンを通して、バンドが復活を果たしたのだということをオーディエンスへ直接伝えたのだった。つまり、その後リリースした4thミニアルバム『アンサーパレード』を引っ提げた本ツアーこそが、sumika第2章に向けた初めの1歩と言えるだろう。だからこそ彼らはこのタイミングで地元・川崎の地に帰ってきたのかもしれない。
sumika 撮影=後藤壮太郎
奇しくも会場外では雨空が広がっていたこの日の1曲目は「明日晴れるさ」だった。<今から僕が歌うこの歌は/世界を救うようなスケールではなくて/現在目の前で戦うあなたの/幸せをただ願う歌だ>と、たった一人の“あなた”を受け止める意志をまず初めに伝えていく。同曲を終えたところで空気は一変。これまでステージを覆っていた紗幕が落とされると、堰を切ったようにステージ上から溢れ出すバンドのサウンド。「最強の仲間を連れて、最強の武器を手に入れて、sumika、最強バージョンで始めます!」と片岡が宣言し、「Lovers」へと突入した。
sumika 撮影=後藤壮太郎
小川貴之(Key/Cho)や黒田隼之介(Gt/Cho)が作曲に携わった曲があったり、ストリングスや電子音を取り入れたりと、音楽家としてやりたいことを詰め込んだアルバムだという『アンサーパレード』を、この日はベース+女声コーラス+ストリングスカルテットをサポートに迎えた計10名の大所帯編成でライブ仕様に再構築、躍動的なアンサンブルで以ってそれぞれの曲の魅力を全開放させていった。因みに、他公演ではまた違う編成だったらしく、のちのMCでは「初日の赤坂BLITZに観に来ていたストリングスチームと『一緒にできたらいいね』という話になり、今回それが実現できた」というエピソードも明かされていた。
sumika 撮影=後藤壮太郎
最新作収録曲だけではなく、『新世界オリハルコン』(2013年発売の1stミニアルバム)収録の「カルチャーショッカー」「FUN」、『I co Y』(2014年発売の2ndミニアルバム)収録の「リグレット」「彗星」、『Vital apartment.』(2015年発売の3rdミニアルバム)収録の「Amber」「グライダースライダー」……と、自らのバイオグラフィとディスコグラフィとを網羅するようなセットリスト。メンバー曰く「部活の合宿のような日々だった」という今回のツアーを経て、改めて音楽を鳴らすうえでのピュアな楽しさを実感してきたというだけに、荒井智之(Dr)の軽やかなビートを土台にした彼らのサウンドは活き活きと弾む。定型の“ロックバンド”の枠組みから痛快に飛び出していくような冒険心に満ちたアンサンブルは、聴き手の心に昂揚感をもたらすまではあっという間。「みんなと合奏をしたい」と片岡がフロアへ語りかけるよりも先に、オーディエンスはハンドクラップや大合唱で応戦したのだった。
sumika 撮影=後藤壮太郎
そうして会場内が幸福感で満たされていく一方、その“楽しさ”は一時的な快楽に成り下がらず、胸にグサッと刺さってくるような、切実な感触を持っている。それはなぜか。このバンドが、音楽が人間の心にもたらす魔法の存在だったり、人と人とを繋ぐ縁の存在を心から信じている人の集まりだからであり、sumikaが歌う感情はどれも純色では表せないような、汚い感情も綺麗な感情もごちゃっと混ざり合ったものばかりだからだろう。例えば、「明日晴れるさ」では、現実というフィールドで戦う孤独な“あなた”を守る屋根としての音楽で在り続ける覚悟を歌っている。「ソーダ」では軽快な曲調とは裏腹に、本心でぶつかり合えなかった関係性への後悔が描かれている。「ふっかつのじゅもん」で勇者が突き進んでいるのはいばらの道だし、「sara」には綺麗事では語れない感情がそのままぶちまけられている。以前、片岡にインタビューしたとき、「音楽は排泄行為だ」と言っていたことに驚いたのだが、つまりそれは“相手からどう思われるか”をとりあえず度外視した状態で、自分の内側から溢れるものをそのまま出しているということ。しかし――というか、だからこそ、聴き手側からしてもどんな感情も垂れ流してしまっていんだ、と思えてしまう。日常を上手く過ごすために心に着せていた鎧だって、この音楽の中でなら外してもいいのかもしれないと思えてしまう。そうして今この場所で、嘘のない関係性が築き上げられていくのだ。
sumika 撮影=後藤壮太郎
中盤のMCで片岡は「ここ(ステージ上)で鳴ってる音じゃなくて、そこ(フロア上空)に集まってる音がsumikaの本当の音だと思う」というふうに話していた。バンド自らもすべてを曝け出しながら、さらにオーディエンス一人ひとりの内側から溢れる何かを引っ張り出しながら、そうやってあらゆる感情を引き連れてハッピーエンドに着地させるのがsumikaのすごさだ。そんなパレードを先導していくバンドの頼もしさが感じられる場面がこの日は何度もあったが、特に、本編ラストに演奏された「「伝言歌」」にて<伝えたい>という言葉を会場全体で歌い上げていく光景は、この上なく眩しいものだった。
sumika 撮影=後藤壮太郎
sumika 撮影=後藤壮太郎
メンバーそれぞれがツアーを振り返ったアンコールで、「音楽って縋るものだと思うんです。『もう音楽がなくても頑張れるよ』っていう人には『いってらっしゃい』と言えるような音楽でいたいし、必要としてくれているうちはずっとそばにいたいと思っています」と片岡が語っていたのが印象に残っている。音を全身に浴びながらとにかく目一杯身体を動かしたいんだという人。目の前で鳴らされる様々な曲の主人公に共感しながら、心の奥にしまいこんだ思い出を投影させていく人。一時的だとしても構わないから、楽しい空間に身を置くことによって現実を忘れたいんだという人。自分が抱えている悩みとしっかり対峙するためのパワーを補給するためにやってきた人――当然、ライブに来る理由は人それぞれだが、そのすべてを尊重するような“逃げ場”としての音楽を鳴らし、自分だけの道を歩いていくうえで必要になる少しの勇気を芽吹かせてくれるのが、このバンドだと思う。
sumika 撮影=後藤壮太郎
既にニュースが出ているとおり、12月にリリースされる『SALLY e.p.』のレコ発ツアーでは東京・Zepp DiverCityを含む大きな会場をまわるというが、それでもきっと大切な部分がブレることはないはず。「雨が降ってこようとも、槍が降ってこようとも、これからも丈夫な屋根を作って待っています」と、この日の最後に演奏されたのは「雨天決行」。誰一人置いてけぼりにしないsumikaの音楽は、これからもあなたの居場所であり続けてくれることだろう。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=後藤壮太郎
sumika 撮影=後藤壮太郎
sumika 撮影=後藤壮太郎
2016.9.19(MON) CLUB CITTA’
2. Lovers
3. ソーダ
4. カルチャーショッカー
5. ふっかつのじゅもん
6. FUN
7. グライダースライダー
8. 1.2.3..4.5.6
9. Amber
10. リグレット
11. enn
12. sara
13. 溶けた体温、蕩けた魔法
14.「伝言歌」
15. 彗星
16. 雨天決行
発売日:2016年12月7日(水)
品番:NOID-0015
価格:未定
収録曲:後日発表
OPEN/START 18:30/19:00
2017年2月8日(水)福岡・BEAT STATION
OPEN/START 18:30/19:00
2017年2月10日(金)大阪・なんばHatch
OPEN/START 18:00/19:00
2017年2月17日(金)愛知・DIAMOND HALL
OPEN/START 18:00/19:00
2017年2月25日(土)東京・Zepp DiverCity TOKYO
OPEN/START 17:00/18:00
全公演