#野水映画 “俺たちスーパーウォッチメン” 第十一回レビュー『ルーム』

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2016.9.26

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。

 

今年4月に公開された映画『ルーム』は、私がプライベートで劇場に足を運んだ作品の一つである。このコラムを読んで下さっている方々には、「野水といえばホラー映画」のイメージが強いかもしれないが、この作品はホラーではないぞ(笑)。しかし、私に大きな感動を与えてくれた作品なのでDVDとBlu-rayが発売されたこのタイミングに、ぜひ紹介させてほしい。

 

映画『ルーム』 (C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015

映画『ルーム』 (C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015


小さな男の子・ジャックは、生まれてからずっと、“部屋”でママと2人きりで暮らしていた。ママと体操をして、テレビを観て、遊んで、毎日が過ぎてゆく。ジャックが5歳になったとき、ママは“ジョイ”という自分の名前、そして“部屋の外には本当の世界があること”を明かす。ママは突然の話に驚き混乱するジャックに協力するよう言い聞かせ、部屋からの脱出を試みる。ジャックのモノローグから始まる冒頭では、ふたりの生活は不便だが幸せそうにも見える。しかし、“ママ”であるジョイは、“オールド・ニック”という男に7年間も部屋に監禁されているため、そこで生まれたジャックは外の世界を見たことがない、というお話なのだ。

これだけ読むと、スリラー作品のような気がするだろう。だがしかし! この作品の見どころはそこではないのだ。ちょっとだけネタバラシしてしまうと、ジョイとジャックは、ジャックの頑張りにより無事に保護されることになる。だけどそれで物語は終わりではなく、むしろそこからが本編なのだ。部屋の外の世界へと脱出したジョイとジャック。念願叶って家に帰ると、両親は離婚しており、母親は新しい恋人・レオと暮らしている。ジョイは環境に適応しようと頑張るが、事件をかぎつけたマスコミへの対応も強いられ、みるみるうちに疲れてしまう。

そりゃそうだ!ジョイは今までオールド・ニックに暴力を振るわれても、ジャックを守るためならばと、泣き言も言わずに踏ん張ってきた。なのに家に帰ってきたらきたでコレだ。どんな気持ちだったろう? 自分のせいで両親が離婚し、マスコミには「何故ジャックを養子に出さなかったのか」と責められるなんて。私だったらこんな気丈には振るまえないだろうなぁ……。泣いて喚いてしまうかもしれないし、キレてしまうかもしれない。胸がギュッと締め付けられるような、そんな気分で観ていた。

けれど、対してジョイの母やその恋人のレオは、2人をあたたかく受け入れてくれる。特にレオなんて、ジョイやジャックとは血の繋がりもなければ初対面である。それなのにとても優しい。やっぱり、フィクションだからなのだろうか? (笑) あるいは血の繋がりもない他人だからこそ、ある意味冷静で、優しく出来るのかもしれないな、とも思う。

 

左から、ジャック役のジェイコブ・トレンブレイ、ジョイ役のブリー・ラーソン (C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015

左から、ジャック役のジェイコブ・トレンブレイ、ジョイ役のブリー・ラーソン (C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015


この映画の中で私がもっとも好きなシーンは、他人に強い警戒心を抱き心を閉ざしたジャックを、レオが食べ物で釣る場面だ。家に二人きりになってしまい、物陰からレオの様子をうかがうジャック。視線に気づいたレオは、無理に声をかけるでもなく、わざと大きな声で、「あ!おいしいたべものがあったなぁ。あれを食べよう」と独り言をつぶやく。その言葉に釣られたジャックは、一緒にコーンフレークを食べながらレオに少し心を開いてゆく。夢中になって食べるジャックを見るレオの表情は慈愛に満ちていて、観ている私も癒されるような顔だった。母親とレオの協力があっても、追い込まれてゆくジョイを救うのは、やっぱりジャックなのである。

ジャックはずっと部屋で光を浴びずに暮らしていたため、肌は真っ白で、髪の毛も伸ばしっぱなし。まるで女の子のような見た目のジャックを演じるのは、この『ルーム』で一躍天才子役と称されるようになったジェイコブ・トレンブレイ。子どもらしく多感な時期の天使のような表情から、世界のことを学び、ママを支えるために成長していく様子まで、ガラッと変わるお芝居をみせてくれる。まぁとにかく最初っから可愛い! ジャックという名前を聞いても、しばらく「女の子かぁ」と勘違いしてしまうほどには可愛い!!けれどきっと、ラストシーンでジャックが発するセリフに、あなたも涙を誘われるはずだ。その結末は、ぜひあなたの目で確かめてほしい。

 

(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015

(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015


監禁事件の恐ろしさや復讐にスポットを当てるのではなく、“その後”を描いた『ルーム』はDVD&Blu-ray発売中。
 

作品情報
映画『ルーム

(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015

(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015



(2015年/アイルランド/カナダ)

DVD&Blu-ray発売中
価格 DVD:3,900円、Blu-ray:4,800円(税抜)
(レンタルはTSUTAYAだけ)
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
販売元:ハピネット
 
【キャスト】
ママ(ジョイ):ブリー・ラーソン 『ショート・ターム』『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』
ジャック:ジェイコブ・トレンブレイ 『スマーフ2 アイドル救出大作戦!』
ナンシー:ジョアン・アレン 『ボーン・スプレマシー』『ザ・コンテンダー』
ロバート:ウィリアム・H・メイシー 『ファーゴ』『マグノリア』『サイコ』
 
【スタッフ】
監督:レニー・アブラハムソン 『FRANK -フランク-』『ジョジーの修理工場』
原作・脚本:エマ・ドナヒュー 『部屋』(講談社刊)
撮影監督:ダニー・コーエン 『レ・ミゼラブル』『英国王のスピーチ』
衣装デザイン:リア・カールソン 『テイク・ディス・ワルツ』『もしも君に恋したら。』<未>
プロダクション・デザイン:イーサン・トーマン 『最高の人生のつくり方』<未>『もしも君に恋したら。』<未>
編集:ネイサン・ヌーゲント 『FRANK -フランク-』『ジョジーの修理工場』
 
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
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