福山さん「声優って楽しい仕事だなって思わせてもらいました」――『亜人』中野攻役・福山潤さんが宮野真守さん、大塚芳忠さんらとの共演で得た声優人生への衝撃を語る
『亜人』中野攻役・福山潤さんが宮野さんらとの共演で得たものとは
決して死なない新人類・亜人と、それを追う日本国政府、両者の戦いを本格的なアクションと緻密な心理描写で描く大ヒットコミック「亜人」(桜井画門/講談社『good!アフタヌーン』連載)。2015年11月27日第1部『亜人 -衝動-』、2016年5月6日第2部『亜人 -衝突-』が公開し、劇場アニメ3部作の最終章となる『亜人 -衝戟-』がいよいよ9月23日(金)より全国公開されます。
この度、映画公開を前に、第2部より登場した亜人・中野攻を演じる声優の福山潤さんにインタビューを実施。福山さんは、原作とは異なるラストを迎えるという『亜人 -衝戟-』への率直な思いや、印象的なシーンを演じた際のマル秘エピソードを明かしてくれました。
さらに、主人公・永井圭を演じる宮野真守さんを始め、圭らの最大の敵となる亜人・佐藤を演じる大塚芳忠さん、婚約者を救うために佐藤を倒すことを強く誓う厚生労働省亜人管理委員会の戸崎を演じる櫻井孝宏さんなど、業界きっての声優陣が肩を並べた『亜人』という作品を通して、改めて声優という仕事の「面白さ」を感じたことを語ってくれました。
■福山さんが思う、中野攻という一人の青年とは
――収録現場の雰囲気はどのようなものだったのでしょうか?
中野攻役・福山潤さん(以下、福山):圭との掛け合いのなかで、なれ合いじゃないんですけど、原作を読んで感じた圭と攻の関係以上に会話が楽しく感じられました。投げかけたものに対して、宮野さんがキャラクターから逸脱しない範囲で「ここまではいいかな」と探りながら会話をしてくれた部分があったりしたのは、プレスコ(先に音声を収録し、音声に合わせて映像を製作する手法)ならではのセッションのようでした。
――福山さんが演じる中野攻は死なない新人類・亜人。この亜人を演じるにあたって特に意識されたことはありますか?
福山:圭は自分自身が静かに過ごすために自分の意思を置いておいて、「こうあることが合理的でしょ」と生きてきた。それに対して攻は、直情的に目の前で起こったことを「それは止めなきゃいけないから止める!」「許せないからいく!」とか、あまり深く考えないで行動しているキャラクター。思慮を持ってしまうと自分の中で深読みしてしまうと思ったし、それは十分、他の人たちがやってくださっていたので、実は演じる上で、深く考えるのを辞めたんですよ。そして、圭には攻の前にカイ(海斗)という仲間がいる。カイはつかみどころのないように見えてしまうんですけど、とても圭のことを思っていて。圭に配慮して、圭の考えをくみ取って、圭の傍に寄り添う人物だったので、攻は圭のことを一切くみ取らないけど傍に居る人じゃないかと考えたんですね。なので、精神的に色々構築するんじゃなくて、肉体的アプローチである声がデカいっていうその一点から成り立つのかどうかを考えて演じていました。
■福山さん「収録が終わってからも“クズが”“バカが”って言い合っていました(笑)」
――先ほど宮野さんとの掛け合いが楽しいとおっしゃられていましたが、作中で圭が攻に対して「バカが」、攻が圭に対して「クズが」と言い合いするシーンでは、声がついたことでより2人の等身大の姿が感じられました。このシーンは、どのような思いで演じられていたのでしょうか?
福山:クズだバカだのやり取りに関しては、どうやったら楽しいかなとか色々考えていたら欲が出過ぎてしまって、よく分からなくなったんですよ(笑)。やっぱり、「クズが!」「バカが!」って楽しい掛け合いじゃないですか。こういう風にやりたいと思ったらどんどん欲が出てくるんですね。テストでは一番やりたいと思うことをやっちゃうんですけど、本番ではそれをそのままやるのではなくて、ある程度ブラッシュアップしつつもバランスはお互い演じながら探りあっていましたね。そして、収録が終わった後も宮野さんとは「クズが!」「バカが!」って言い合っていました(笑)。
あと、車の中で圭と戸崎が話している時に、攻が後ろの席から「なんで?……だからなんで!?」って話に入ろうとするシーンがありまして。車の中だからそんなに大きな声を出さなくてもいいんですけど、「成り立つかな~!」と思いながらめっちゃ大きな声を出してみたんです。声優界随一のバランサーである宮野さんと櫻井さんの2人が居る訳ですから、なんとかしてくれるんじゃないかなっていう投げっぱなしな感じで(笑)。2人に迷惑かけること前提で演じてみたんですけど、後で見たら2人が上手いことやってくれていて。とにかく、楽しくなったらいいなっていう思いが自分の中でありましたね。
――福山さんの「楽しくなったらいいな」という思いが乗った攻の存在は、シリアスな世界観のある作品の中でよい刺激になっているなと感じました。
福山:そう言っていただけると嬉しいですね! あと、自分もシリアスになるところはとことんシリアスになりたいなと思っていて。攻のバックボーンを想像しようにも原作では描かれていないので、そこのところは勝手に自分で作るしかない。彼は脳みそあるのか!? と思ってしまうくらいその場の反射で動いてしまう。だけど、そこで(攻として)正しく反射が出来ていれば、なんとなく彼の骨格が見えるのかなと思いながら演じていました。
――――映画冒頭では、圭や攻が筋トレに励むシーンがありますよね。福山さんは筋トレがご趣味だと拝聴したのですが、福山さんから見て2人の筋トレのレベルはいかがでしょうか?
福山:彼らは結構キツイことをやっていると思います。僕が筋トレを初めて1年~2年程なんですけど、「超楽しくなってきた!」という時期に丁度このシーンの収録だったので、「筋トレでどこに力が入っていて、どうやっているとかは漏らさずやるぞ!」という気持ちで収録に臨んでいまして。そうしたら、圭がゆっくり筋トレしているのに対して、攻は結構な早さで筋トレすることになってしまって。後ほど瀬下総監督に「実際にモーションの人たちがあの息のテンポに合わせて筋トレやることを無視してやったんですけど大丈夫でした?」って聞いたら、モーションの人は僕の息のテンポを聞いたときに、「え、この長さをこのテンポでやるんですか!?」って思われたらしくて(笑)。使われている映像自体はほんの数秒なんですけど、収録する段階では長めに撮っているんですよ。それを総監督がお願いしてやってもらったと聞いていたので、モーションの人にはごめんなさい! と思いましたね。なので、彼らはかなり頑張っていると思います(笑)。
■福山さんの声優人生に衝撃を与えた『亜人』の収録現場
――原作とは異なるラストを迎える本作。福山さんは原作を読まれているとのことですが、原作を読み、声優として参加した本作をどう見ていますか?
福山:めっちゃ面白かったですね。続刊中の作品に結末を迎えさせなければいけないとなったときには、ある程度オリジナル展開を挟まなければいけないと思うし、見ている方たちもそれを「しょうがない」と思われると思うんです。でも、今回はその「しょうがない」ではないと思っていて。
3部作の中である一個のエンディングを迎えるためにいくつか原作とシーンを変えたところや、声がついたことでよりキャラクターに確固たるものが生まれてきたと思うんですね。(読者の方が)それぞれに思い描いていたものだけじゃなくて、声がつくことで続編が固まることもあると思うんです。その中で、芳忠さんが演じる佐藤の存在はとても大きかったと思うんですよ。それを“彼はいったい何者だったのか?”というところで終わらすのではなくて、“彼を始末しなければいけない”というところまで考えたら、今回の終わり方はとても面白かったですね。なにより、第2部のグラント製薬のビルのシーンで、原作では飛行機で突っ込んでいたんですけど、劇場版ではビルの屋上から佐藤さんが笑いながら落ちていくようになって。より佐藤さんの狂気といいますか、とことん快楽を追い求めている人であることが端的に描かれていたので、あのシーンから続いている今回のエンディングはよくこんなに面白く作れたな! と思いましたね。原作が終わっていながゆえに結構難しい構成だったと思うんですよ。だけど、今回はとても素晴らしいまとめ方になっていて、凄いなと思いましたね。
――より最終章の公開が楽しみになりました……! 最後に、『亜人』という作品に携わったことで福山さんが得た事はありましたか?
福山:やっぱり、技術の進歩だけじゃなくて人が“こういう絵を作りたい”とか“こういう作品を作りたい”という思いが強ければ強いほど、素晴らしい作品ができるんだなということを改めて感じさせていただきましたね。
そして、声優のポジションから見るとやっぱり凄い人達がいっぱい居るなって(笑)。そういう人たちと仕事するのって凄く楽しいなと思いましたね。僕が声優活動を初めて来年で20年になるんですけど、いっぱいアニメーションも出させていただいてきたなかで、途中で「飽きるかな」と思っていたんです。だけど、こういう出会いや面白い作品が作れるんだったら飽きようがないなって素直に感じたくらい、この作品の完成度と衝撃、面白さ、現場の楽しさ、そしてなにより手練ればかりいる環境で少しでも気を抜いたら置いて行かれちゃうと思わせていただいたことはシンプルに面白いなって。もうお客さん代表として現場で楽しませてもらったくらい(笑)。声優って楽しい仕事だなって思わせてもらいました。
――ありがとうございました!
撮影現場ではカメラに向かって飄々と様々なポーズを披露してくれたかと思いきや、インタビューでは一転して真剣な眼差しで自身が演じる中野攻にかける思いを語ってくれた福山さん。『亜人』が持つシリアスな世界観の中で、福山さんが表現した中野攻らしい「楽しさ」、とくに宮野さんが演じる圭との掛け合いは是非とも注目していただきたいシーンの一つです。
劇場アニメとして、原作とは異なるラストを迎える『亜人』。もう一つの『亜人』のラストはきっと、あなたに強い衝撃を与えてくれるに違いありません。
[文・取材/河内香奈子]
■劇場アニメ3部作 最終章「亜人 -衝戟-」
2016年9月23日(金)より3週間完全限定公開
■TVシリーズ『亜人』第2クール
2016年10月7日よりMBS・TBS・BS-TBS“アニメイズム”枠にて放送開始!
>>『亜人』公式サイト
(C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会