「フレディは一人しかいない」新伝説を日本音楽史に刻んだクイーンの日本武道館ライブレポート
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クイーン+アダム・ランバート 2016.9.21 撮影=森リョータ
新たな伝説が生まれる。きっと誰もがそうした期待を抱いて迎えたクイーンの3日間連続の日本武道館公演は、日本のクイーンファンにとっての“夢”であった。夢とは本来、叶わないものであるはずなのだが、様々な人々やその心が交差して奇跡が起き、この夢は現実となってやってきた。
今回は、その奇跡のライブの最終日、2016年9月23日公演の模様をお届けする。
会場に入ると、大きなクイーンの紋章が描かれた幕がステージを覆うように吊り下げられていた。それはまるで重く閉ざされた門戸のようで中の様子は窺い知ることはできない。それもそうだ、ここはクイーンの館なのだから。幅広い年齢層の人々で埋め尽くされていた客席を眺めると、自分が王の謁見を待つ民衆の一人であるという考えが浮かぶ。そんな空想を楽しみながら門が開くのを待つ。そして19時過ぎ、その大きな門はパイロと共に盛大に吹き上げられる形で一気に開かれた。いよいよクイーンのおでましだ!
「セブン・シーズ・オブ・ライ」で口火が切られるとアダム・ランバートとブライアン・メイが走り出し、それぞれ別のステージの左右、前方へと行ったり来たりとのっけから大きな動きを見せる。ステージ中央には、巨大なQの文字の形をかたどった照明トラスとその内部となるスクリーンが据えられ、ステージの中央、左右には花道が設けられていた。また、昔から照明演出が伝説的に語られるバンドであるだけに、そのおびただしい数の照明に目が釘付けになる。そうしたひとつひとつを目で追うことで過去のライブに想いを馳せられてしまうことすら、開演しても尚信じ難い。
メンバーは全員黒のコスチュームに身を包み、アダムは顔を覆い隠すような黒のサンバイザーも付けていたのでその表情はまったくわからない。2曲目は、ロジャー・テイラーの抜け感抜群のスネアが武道館の日の丸目掛けて響き渡った「ハンマー・トゥ・フォール」へ。「ストーン・コールド・クレイジー」も軽快に飛ばした後、真っ赤に彩られたステージでレースが施されたトップスを身につけたブライアン・メイがセクシーにアルペジオを奏でる。
続いては、美しいハーモニーが響く「ファット・ボトムド・ガール」。ここでアダムが「Hello, Tokyo!」と第一声を放つと、まだ4曲目なのにライブの後半かと思うほどオーディエンスは興奮した盛り上がりを見せていた。その後も間髪入れずに「ドント・ストップ・ミー・ナウ」へと傾れ込む。
ここでアダムは少し戯けてみせ、その後でようやくサングラスを取って顔を晒した。冒頭からこの時点まで、その‘顔を覆う’という酷く謙虚な演出によって、フレディの面影をより自由に思い起こさせる時間をオーディエンスに与えたアダムに最大の賛辞を送りたい。
そして、センターに伸びた花道の先端に置かれた漆黒に光る美しい玉座に身を沈めて歌われたのは「キラー・クイーン」だった。
「Are you having fun?/楽しんでる?」という言葉から始まったアダムによるMCは非常に印象的だった。まずオーディエンスに感謝を述べた後で、「ロジャー・テイラーとブライアン・メイ。ロックンロールのレジェンドである二人と、こうして4年も共にすることができているなんて、僕はいまだに信じられないんだ! クイーンとして演奏することはあまりにも光栄なことだから」と瞳を輝かせて語りかけ、言葉を紡いでゆく。
「僕のヒーローであり、君も愛するフレディ。フレディは、この世に一人しかいない。みんなと一緒に彼を讃えたいと思う。フレディはとても素敵な愛すべき人だったから」。
こうした言葉のひとつひとつから、いかに彼がクイーンを、フレディ・マーキュリーを、愛を持って尊重し、尊敬しているかが強く伝わってきた。感動的なMCに続いたのは「サムバディ・トゥ・ラヴ」。歌詞にある ‘Can anybody find me somebody to love?’というフレーズと先にアダムが述べたフレディへの愛ある敬意が溶け合って胸を熱くさせられたし、楽曲の持つパワーとバンドの迫力とで武道館がとても小さく感じた。きっと31年前の初の武道館公演でも同じだったことだろう。そして「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」へと続き、今度はブライアン・メイが口を開いた。
「東京の皆さん、こんばんは。お元気ですか? Good, いいです」と英語混じりの日本語で挨拶した後で、「これまで忘れたことがない皆さんに再び会えた今日は特別な日です。武道館公演20回目、この美しい会場で20回も演奏することができました。来てくれてありがとう。一緒に歌いましょう」。
日本のファンに想いを伝えてからセンター花道の先端で「手をとりあって」を弾き語り演奏し、大合唱となった。この曲は歌詞の一部が日本語であるため日本のファンにとっては特別な意味を持つ美しい歌だ。フレディの歌声とともに映像も映し出され、多くのオーディエンスが静かに泣いていた。
続く「デイズ・オブ・アワ・ライヴズ」では、ロジャーがボーカルをとり、スクリーンには武道館でのリハーサルの風景や、レコーディングなど、昔の来日時の様子が映し出され、昔を、フレディを、偲ぶ2曲となった。
涙の空気を一変したのは、ロジャーとその息子・ルーファス・タイガー・テイラーによるドラム・バトル。フレディからミドルネームを授けられたルーファスは、現在、ザ・ダークネスのドラマーである。見応えある、息がピッタリ合ったドラムセッションが終わると、スクリーンには亡き盟友、デヴィッド・ボウイの写真が掲げられた。「アンダー・プレッシャー」である。
過去に想いを寄せた後は、センター花道の先端に全員で集まって「クレイジー・リトル・シング・コールド・ラヴ」を披露。小気味よいリズムにオーディエンスにも笑顔が戻ったところで、うねるベースが心地好い「アナザー・ワン・バイツ・ザ・ダスト」。フレディーばりにマイクを構えて歌うアダムは、ブライアン・メイが称した通り、モダン・ヒーローとして存在していた。
「アイ・ウォント・イット・オール」では、ギター・ヒーローを目の前に両手を突き上げるサラリーマン風の男性の姿が続出。そして、ブルーとホワイトのレーザーに、ミラ−ボールで幻想的な中でアダムが歌い上げる「フー・ウォンツ・トゥ・リヴ・フォーエバー」へ。圧巻とはまさにこのことで、演奏が終わってもただ息をのむばかりで、うまく反応できないオーディエンスの姿が印象的だった。
続いて、ギターソロ。レーザーに包み込まれたブライアン・メイは上空へと昇り、後方スクリーンに映る銀河に浮かんだ。‘ブライアン・メイがギターをかき鳴らせば、それはクイーンである’が体現されたシーンであったと言えよう。銀河から地上へと舞い戻ったブライアンはバンドに帰還し、「タイ・ユア・マザー・ダウン」、ワウを踏み鳴らす「アイ・ウォント・トゥ・ブレーク・フリー」を披露。「Tokyo! 愛してるよ、東京。東京に来ると感じるんだ。‘東京を愛するために生まれてきた’ってね」とアダムがオーディエンスを煽って「アイ・ワズ・ボーン・トゥ・ラブ・ユー」へ。長いマントを翻すブライアン・メイが魅せる「ボヘミアン・ラプソディ」では、スクリーンにPVが投影され、盛り上がりは最高潮へ。さらに「レディオ・ガガ」を畳みかけて本編は終了。アンコールでは、アダムが王冠を被って登場し、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「ウィ・アー・ザ・チャンピオンズ」の2曲で応え、大歓声が轟く中で奇跡の夜の幕を閉じた。
クイーン+アダム・ランバート 2016.9.21 撮影=森リョータ
アンコール2曲含む全22曲、2時間のショーでは、その魅力的な楽曲の数々を誇るバンド・クイーンの偉大さと、それに引けを取らないアダムの表現力に脱帽。とはいえ、アダムもはっきりと‘There is only one Freddie.’と述べていた通り、フレディはこの世に一人しかいない。だからこそ、新生クイーンという呼び名よりも、やはり、クイーン+アダム・ランバートの方がしっくりくる。
クイーンの過去を知る、または過去の記憶を大切にする人たちの中には、アダムに限らず、過去にもビッグネームとの共演を訝しく思う人もいるようだが、過去のクイーンをリアルタイムで観ることができなかった世代である一人としては、アダムのような才ある他人がいたことから生まれたこのミラクルに遭遇できたことへの感謝と、奇跡を現実に起こしてくれたメンバー、クルーに賛辞を送りたい。
言うまでもないがフレディのいたクイーンを観たかったという想いは当然あって、オリジナルを超えるものなどあり得ないとも思っている。しかし、このクイーン+アダム・ランバートは、オリジナルとは別物として成立し、素晴らしいエンタテインメントを魅せてくれた。だからこそ、シンプルに‘同じ時代に生きている’ということを実感できたこの奇跡体験を心から楽しむことができたのだろう。
フレディ生誕70年、没後25年である2016年に行われた31年ぶりのクイーンの日本武道館公演は、日本音楽史に残る今世紀最大のミラクル・ショーだった。
文=早乙女‘dorami’ゆうこ 撮影=森リョータ
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03. キラー・クイーン
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05. バイシクル・レース
06. マイ・ベスト・フレンド
07. ドント・ストップ・ミー・ナウ
08. セイヴ・ミー
09. 愛という名の欲望
10. 愛にすべてを
11. ナウ・アイム・ヒア
12. 懐かしのラヴァー・ボーイ
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14. フラッシュのテーマ
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06. イニュエンドウ
07. 永遠の誓い
08. ブレイクスルー
09. リヴ・フォーエヴァー
10. ヘッドロング
11. ザ・ミラクル
12. 狂気への序曲
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15. 心の絆
16. ショウ・マスト・ゴー・オン
17. ONE VISION-ひとつだけの世界-
18. ボーン・トゥ・ラヴ・ユー