中川晃教・濱田めぐみが語る、ミュージカル『マーダー・バラッド』の魅力
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(左から)濱田めぐみ・中川晃教 (撮影:安藤光夫)
■ 同じ星の人だと思った
-- お二人が舞台で共演するのは初めてですか。
中川晃教・濱田めぐみ 初めてです。
-- 舞台以外の場で接点はありましたか。
中川 実はあるんです。濱田さんがまだ劇団四季にいらっしゃった時、二人の共通の知り合いであるソニンちゃんから誘っていただき観に行った舞台が『ウィキッド』でした。緑色の魔女エルファバを濱田さんが演じていらっしゃいました。初めて彼女の舞台を観たのですが、大変な衝撃を覚えました。
-- その時は終演後に面会はされたのですか。
中川 劇団四季は楽屋に行けないので、濱田さんに出てきてもらって。
濱田 面会をする場所があったんです。そこにソニンちゃんと来てくれて。「あ、本物だ」と(笑)。
中川 (笑)。
濱田 ソニンちゃんが引き合わせてくれたんです。「とにかく縁を繋げたい」って言ってくれて。
中川 『ウィキッド』は本当にすごかった。濱田さんの歌の力と存在感。役との相性。
濱田 そう言ってもらえると嬉しいな。あの時、中川さんと初めてお会いして、カーッってテンションが上がっちゃったの。
中川 本当?
濱田 うん。同じ星の人だと思ったの。テレパシーじゃないけど、口で言わなくてもわかる人がここにいる。この方と私、いずれ同じ舞台に立つんだろうって。そういう日がきっと来るって、思いました。
中川 僕たちの仕事って、そういう感覚があるんです。思えば叶うっていう気持ち。きっとこの人とは何か一緒にやるだろうなって。
濱田 そう、あるよね。目を見たときに「あっ」て思った。
中川 あ、そうなんだ。同じ星が見えたんだ。
濱田 同じ星だし。「この人、感受性おばけだな」って思った。
中川 おばけの部分だけ、ちょっとこわいね(笑)。
濱田 感受性おばけだから、いろんなことへのチャンネルがものすごくある方なんだろうなって。それをすごくガーッと感応出来ちゃうのがソニンちゃんなんだけど、でも中川さんはそこをうまくコントロールできるタイプ。そこは男子と女子の感覚の差なのかな……今日、ソニンちゃんの名前、出まくりじゃない?
中川 そうだね(笑)。この間ソニンちゃんの出てる『キンキーブーツ』を観に行って、彼女に「実は今度、濱田めぐみさんとやるんだ」って話をしました。「ソニンちゃんが引き合わせてくれたんだもんね」と言ったら、「ほんとだねえ」と喜んでくれました。彼女は今とても頑張ってて、すごく輝いてる。劇団四季の時に出会った濱田めぐみさんも今、こうして、四季の経験をもとに、それ以上のものを掴みかけている。気が付けば僕たちの世代が次代に向けたエンターテインメントというものを牽引している、そんな時代に突入しつつあるんだなという気がします。
-- 今後お二人は『マーダー・バラッド』『フランケンシュタイン』と立て続けに共演する予定ですが、コミュニケーションも増えているわけですね。
中川 今日はインタビューという場ではありますけれども、こうやって打ち解けた感じの会話をするのは、『フランケンシュタイン』の記者会見の時に「今度一緒だよね」と話してから、今日で二回目なんです。でも今後、作品を作りながら、どんな風にコミュニケーションを取っていこうか、なんてことを、今まさに緊張と緩和の中で思っているところです(笑)。
中川晃教
■ 化学反応がきっと生まれる
-- 濱田さんは舞台で中川さんをご覧になられたことは?
濱田 最近では 『グランドホテル』を拝見しました。最初、どこか他とは違う雰囲気の人がポツンと舞台の中にいるなと。すごく気になって、もうその人ばかり見てたんですよ。彼が歌い始めたら、それが中川さんだったんです。彼は求心力が“異常”なの。“すごい”とか“不思議”とかじゃなくて、本当に“異常”なの。
中川 求心力って何ですか?
濱田 持って行かれちゃう感じ。
-- 群像劇なのにね、『グランドホテル』は(笑)。
濱田 そう(笑)。この人の魅力は何なんだろうって思って。結局、その答えは出ないんですけれども……たぶん答えに出せないニュアンスなの。彼の持っている資質って普通じゃないんだなって思います。ソニンちゃんに紹介された後に、YOUTUBEとかDVDとか見たら、ピアノの弾き語りをしてたんです。え、こんな人日本にいたのって。絶対に外人かハーフが日本に長く住んでいて、こういう感じになったのかなって思っていたら「彼、日本人だよ」って人から教えられたんです。
中川 気仙沼と東京のハーフです(笑)。
濱田 いやー、ちょっと、何がどうなってこんなすごくなっちゃったの?
濱田めぐみ
中川 (笑)。一つの道を極めることに向かわせてくれた最初のきっかけは、ピアノでした。小さい頃からピアノを習っていて、先日もデビュー15周年でピアノ弾き語りコンサートを白寿ホールで初めてやったんですけれども、そこでピアノに向かいながら思ったんです。自分の子供の頃、友達と遊ぶことよりも、ピアノと向き合って、そこから生まれてくる歌や曲を作ることに夢中だったんです。それが自分のルーツなんだよなって思って……。そういうことが自分の核になっている。ただ、ミュージカル俳優っていうのは、音楽と俳優の経験が両方必要なんです。俳優だけでできるものでも、もちろんないので、これは専門職だと思うんですよ。濱田さんの舞台を幾つか観て思うのは、ミュージカル俳優に求められる技術的な部分を彼女は確実に、しっかりとやられてるなっていうことです。
濱田 ふふふ。
中川 もちろんそういうスキルもあるけど、それ以上に、持っているハート……魂と言ってもいいかもしれない。そういうものがしっかりとあって、今持っている以上の違うチャンネルを持ちたいっていうハングリー精神もある。ミュージカルから入った人間ではない僕からすると、共に作品に向き合いながら何か高みを目指していくパートナーとして、濱田さんは無限大の人だなって思うんです。
-- 無限大、アンリミテッド……。
中川 そう、思い起こせば『ウィキッド』の劇場を彼女が無限大の宇宙に変えていた歌声と重なる。今回、そんな彼女も含めた4人の共演で、誰もが立ち会ってみたくなるような化学反応がきっと生まれると思うんです。
-- お二人の初共演となる『マーダー・バラッド』は、中川さんの演じるトムと、橋本さとしさんの演じるマイケルが、平野綾さんの演じるサラをめぐって三角関係のもつれ話に発展してゆくというものですよね。濱田さんはそれを客観的なポジションから物語るナレーターという役ですね。だからお二人の直接的な絡みは少ないかもしれないですよね。
中川 そうですか。『マーダー・バラッド』はご覧になられているんですか。
-- ええ、まあ……一応、ニューヨークで1回と、ソウルでは2回ほど。
中川 どうでしたか? いろいろ聞きたいくらいなんですよ(笑)。
濱田 いや本当に。どうでしたか?
-- いやいや、観ているわりには記憶が曖昧ですみません(笑)。トムとナレーターの直接的な絡みはあったかな……。
中川 作品の資料はいただきましたが、台本はこれからです。台本と言っても、歌ばかりですよね。森雪之丞さんが訳詞・上演台本を書き進めていらっしゃる。その途中までの訳詞をいただいている段階です。
中川晃教
■ パンドラの匣を開ける危険さ
-- 中川さんの演じるトムという役は、マイケルに比べてやや暴力的というかチョイ悪というか、女性に対する誠実味に些か欠けていた印象を持ってます。中川さんといえば、これまでどちらかといえば誠実な役のほうが多かったと思いますが、今回トム役を演じることについて、どう思いますか。
中川 面白いなと思っているところです。自分の資質だと思っている方向とはちょっと違う役を、どんな見せ方で表現しようかと、あれこれ考えている段階ですね。それにしてもプロデューサーは、なんでこのキャスティングを思いついたんだろう(笑)。
全員 (皆の視線が一斉にプロデューサーに注がれる)
プロデューサー 演出家の方と、トムをやれるのは誰かという話になった時、結果、二人とも中川さんじゃないかという話になったんです。中川さんがピュアなイメージであることはみんなわかっているんだけど、それをちょっとずらしたいなと思ったんです。
中川 僕にチャレンジさせたかったんですね。
濱田 今も中川さんを見ていて思ったんだけど、本当にピュアで、不純物が一切入ってない感じだからね。
中川 (笑)。
濱田 常にクリアーなの、汚されていない感じ。でもそういう人、なかなかいない。
中川 そうですか。
濱田 すごく安心するっていうか、すごい信頼度マックスなんで、彼についていけば絶対なんとかなるって思います。
中川 いや、僕のほうこそ、ついていきますよ。
濱田 いえ、私のほうがもう衛星のように回っていきます(笑)。
(左から)濱田めぐみ・中川晃教 (撮影:安藤光夫)
-- 濱田さんの演じるナレーターは、冒頭から気だるい官能性を漂わせて歌うイメージがあります。ニューヨークやソウルの上演を観たかぎりでは衣裳の露出度も高めでした。
濱田 あら大変(笑)。
中川 バッチリですよ(笑)。
濱田 やば。
中川 ナイスですよ。
-- そういう役って今までは?
濱田 そこまでのはないですね。それを聞いて、大変だなと思いました。
中川 冒頭の気だるい歌の雰囲気が、この物語の土台になっていくっていうことですね。
濱田 責任重大ですね。まっ(とお腹を手で隠す仕草)。
中川 それ、どういう意味ですか(笑)。責任重大ですねって言ってお腹を隠すのはちょっと。
濱田 さっきもジムに行ったんだけど、やばいと思って(笑)。
中川 大丈夫、自信持って。
濱田 今回の役は普段の自分の中にはないタイプの役だから、作品世界のアトモスフィアをきちんとキャッチできるように、役が求めるものを身体中パンパンにして舞台に出たいなって思っているんです。
中川 (インタビュアーに)ところで音楽ってどう思いました。実際に劇場で聴かれて。
-- それは逆にこちらから聞きたかったんです(笑)。……ニューヨーク版の音は、ユニオンスクエアの小劇場空間の中に場末感や頽廃感を漂せながら、音もザラザラした感じで、古い時代のロックの臭いがしました。魂にヒリヒリと沁みてくるような。一方、韓国のほうは劇場が小ぎれいな空間だったからかもしれませんが、全体的にスタイリッシュで研ぎ澄まされていた印象です。そうそう、アメリカのほうは最初にアナログレコードの針飛びの音がブツッ、ブツッ、と入って、やがてそれがリズムになり、ギターのイントロと重なってゆくのが始まり方として、非常にかっこよかったのですが、韓国ではそこがカットされていたと記憶してます。(※追記:2013.11.24マチネ回@ロッテカードアートセンター、2015.8.15マチネ回@ヒョンデカードアートセンターにおいて、冒頭の針飛び音は無かったとインタビュアーは認識していますが、2015年8月公演と2015年11月~2016年2月公演を10回以上観劇した方より、針飛び音の演出はカットされていなかったとの旨が寄せられています。)
中川 どちらもかっこいいですよね。ただ、もしかすると前者(NY)のザラザラした感じ、アングラ感のある手弾きの感じが、この役たちを助けてくれるのかもしれませんね。
濱田 資料の音源を聴いたけれど、本当に韓国版の方がクリアーで。
中川 スタイリッシュ。
濱田 完成された感があるけど、ニューヨークのほうがノスタルジックっていうか。「あ、これなんか知ってる」っていう懐かしい感じ。もしかしたら、今回のキャストではそっちのテイストの方が似合ってるかもしれないよね。なんかこう揺さぶられる感じ。
中川 わかる気がする。本家本元はね、理由があるんです。この間も『ジャージー・ボーイズ』をやってて思ったんだけどね。やっぱり、オリジナル作ってる人たちには、そういう何かがあるのではないかな。そういえば、今回の作品を作っている人は女性なんですよね。
-- ええ。脚本・歌詞がジュリア・ジョーダン、音楽・歌詞がジュリアナ・ナッシュ。どちらも女性が手掛けてます。
中川 それについては、どう感じられましたか? 実際にご覧になられて。
-- 男性の私から観ると、女性好みの官能メロドラマっていう印象は受けました。ひょっとすると、レディースコミックなどに通じる世界があるのかもしれません……といいつつ、そういうのを読んだことはないんですけど。
濱田 男性が描く女性像って、女性から見た場合、そんなこと言わないよとか、そんなことしないよっていうことが、多々ある。一方、女性が描く女性像って、ある意味グロいし、もうリアルすぎちゃって演じるのが本当にくたびれるんです。
濱田めぐみ
中川 なるほど。
濱田 別の取材で、この作品を表すとしたらと尋ねられて、私は「危険」って言ったんですよ。中川さんは「情熱」って答えたんです。それが、女性から見た視点と、男性から見た視点の差なのかなと思いました。この作品の世界観て、世の女性たちが、こうされたいっていう願望の現れを立体的に表現したものに私は思えるんですよ。
中川 うん、うん。
濱田 さっき言ってた、レコードの針がブツッ、ブツッ、て飛ぶところも、人間の本能を呼び醒ますというか。パンドラの匣を開けるような危険な感じ? そういう誰にも言えない秘密のテーマがこの作品の底流にあると思うんです。
■劇場全体が丁丁発止になる醍醐味
--ニューヨークでもソウルでも、舞台のセットがバーそのものでした。その(ステージシートの)中に本物の観客もいて、出演者による客いじりのようなことも行われるんです。たとえば女性客がトムに抱きつかれたりするとキャーッと嬉しがるんです。だから、わざわざその席を狙って買う人も少なくなかったんです。
濱田 日本にもあるんですよね。ステージシートは売り切れなのかな。
中川 キャーッてならずに笑いが起こるパターンはないのかな(笑)。
--お客さんいじりみたいなことは今までやったことありますか。
濱田 いいえ。私はすっごい苦手。
中川 その点、僕は以前『吉本百年物語』という舞台で、間寛平さんと一緒に兄弟の役をやっていますから。
濱田 あ、それじゃもう……。
中川 お客さんののせ方とか、いっぱい勉強しました。でも、この作品は、そういう客いじりではないでしょうね。むしろ空気感が大事なのかも。さっき言っていたパンドラの匣を開けさせようとするみたいな。
--『マーダー・バラッド』は9月末からロンドンでも上演されていますね。中川さんの演じるトムの役は、ラミン・カリムルーが、濱田さんのナレーター役はヴィクトリア・ハミルトン=ヴァリット。サラをケリー・エリス、マイケルをノーマン・ボーマンがそれぞれ演じます。観に行く予定はありませんか。
濱田 行きたいけど、行けないんです。
中川 稽古のスケジュール次第では、僕、行くかもしれない。
濱田 そうなの。稽古だし……。1泊3日のロンドン旅行になるかもしれない。
中川 1泊3日でもいいじゃない(笑)。ちなみに、俺たちが幕をあける頃には向こうではもうクローズしてるんですか。
--いえ、まだ上演してます。だから、ある一定期間は、日本と英国で同時上演されているんです。本当に、時間さえ許せば、日英両方の舞台を見較べたいものです。では、最後に読者の皆様にメッセージをいただけますか。
中川 橋本さとしさんは本当に僕の大好きな、尊敬している俳優さんです。やはり根に持っているロックが違いますよね、圧倒的です。平野綾さんとは初めて共演しますが、ある番組で一度お会いしたことがあって、とても頭のいい人だと思いました。その平野さんの持ってるポテンシャル、人は可愛いだけじゃなくて、その奥にはいろんなものがあるかもしれない……というような部分に触れてみたいので、今回の初共演がすごく楽しみなんです。そんな彼らと濱田さんと僕という4人の、丁丁発止の現場をぜひ楽しく味わって欲しいです。その中にお客様さんも取り込まれてゆき、劇場全体が丁丁発止になってゆく醍醐味こそ、この作品の魅力だと思います。
濱田 私も同じ。右に同じ(笑)。本当そのままなのよ。それから今日ふと思ったのが、もしかして、女性が見る『マーダー・バラット』と男性が見る『マーダー・バラッド』の観終わった後の印象というのが、似て非なるもので、実は違うんじゃないかなということ。中川さんが「情熱」って表現して、私が「危険」って表現したように、同じものを見た時のそこの感性の違いっていうか、それがとても興味深くて、皆さんの感想を聞かせて欲しいですね。それが、いまからすごい楽しみ。
中川 「情熱」とか「危険」といったイメージは、演じる役者たちがどれをチョイスするかで、その作品が変わってくるかもしれない。もし役者たちそれぞれが違うイメージを選んできたら、それは個性がせめぎ合って新鮮なものになる……。
濱田 そうだね。
中川 だからそういう意味では、4人のバラの個性が出せればいいよね。
濱田 個性バラバラですよ、この4人は。
(左から)濱田めぐみ・中川晃教 (撮影:安藤光夫)
(取材・文:安藤光夫)
■日時・会場:
<兵庫>2016年11月03日(木)~06日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
<東京>2016年11月11日(金)~27日(日) 天王洲銀河劇場
■出演:中川晃教・平野綾・橋本さとし・濱田めぐみ
■訳詞・上演台本:森雪之丞
■演出:上村聡史
■音楽監督:島健
■公式サイト:http://hpot.jp/stage/murderballad
■主催:ホリプロ/スポーツニッポン新聞社/WOWOW/銀河劇場
■企画制作:ホリプロ
【アフタートークショー開催】
●11月4日(金)14:00公演後(兵庫公演)
中川晃教×平野綾×橋本さとし×濱田めぐみ
●11月13日(日)17:30公演後(東京公演)
中川晃教×平野綾×橋本さとし×濱田めぐみ
●11月20日(日)17:30公演後(東京公演)
中川晃教×平野綾
●11月23日(水)17:30公演後(東京公演)
橋本さとし×濱田めぐみ
※該当公演の
※イベント出演者は変更となる可能性がございます。予めご了承くださいませ。