マオ from SID バンドのカラーを抜け出し新境地を切り拓く、バンドとは? 音楽とは? 本音を語る
マオ from SID 撮影=大塚秀美
新しい顔、新しい音、新しい歌。シドのボーカリスト、マオの1stミニアルバム『Maison de M』は、バンドのカラーを抜け出して自由にはばたく姿が印象的な、とてもフレッシュな作品だ。R&Bやソウルに接近したサウンドも、大人の恋愛にフォーカスした歌詞の世界も、アダルトオリエンテッドなポップスの新境地を切り拓く意欲に溢れている。マオにとってソロとは、シドとは、音楽とは? 肩の力を抜いて本音を語る、誠実な言葉に注目してほしい。
シドを聴いた時に、ちょっと箸休め的な感じで聴いてくれれば。
あくまでもシドがあって、空いた時間で歌おうということなんで。
――マオ from SIDというソロプロジェクトは、そもそもどんなきっかけで始まったんですか?
本当に急発進だったんですけど、今年に入ったぐらいだったかな。今年はシドのスケジュールがそんなに入ってないねということで、どうしようかな、けど歌は年間通してずっと歌っておきたいなと思って、スタッフと相談して、“ソロはどう?”ということになって、“ああ、確かに”と。俺の中にソロという考えはまったくなかったんですけど、確かにその手があるなと思って始まった感じです。それからすぐに動き出して、シングルを作って、という感じですね。
――ビジュアルも音もシドとはかなり違う。すごく新鮮に楽しんでいる様子が見えます。
かなり趣味を出している感が強いですね。なので、いい意味で肩の力が抜けてます。バンドにはもう色があるし、ボーカル・マオはこうだというイメージもあったので。徐々に壊しながらは来てたんですけど、根本的なものはやっぱりあるので、肩の力を抜いてやれる活動がいいかなと思ったんですよね。音に関しては、バンドだとこの先もあまりやらないだろうというものが……今バンドが13年なんですけど、さすがにこっちは行かないだろうというものがいくつか見えてきたんで、そっちの中で、ソロでやりたいものをやるという。だいぶ狭めてる感じです。
――ざっくり言うと、R&B、ソウル、AORとか、アダルトな感じということでいいのかなと。
そうですね、わかりやすく言うと。
――そのへんは、もともと好きだった?
そうですね、流して聴くぶんには好きなジャンルだったし、あとは自分が“いつかはこういうものを歌えるようになったらもっと楽しいのかな”とか。バンドで使うかわかんないけど“こういう歌唱法もあっていいのかな”とか、いろんなことを考えた結果、こういう曲調へどんどん行きました。
――歌唱法の違いというと、具体的には?
きれいにまとめちゃうと、きれいになりすぎるので、ちょっと味を残しつつ。レコーディングの時も……正直、今は歌をどうにでもいじれるようになってるんですけど、大事な部分はちゃんと残して、よく聴いたらここ音程違うかな? というものもたぶん入ってると思うんですよ。でもそこも味として楽しんでもらえるような、歌がバン!と前に出てるようなものになったと思います。
――サウンドは、nishi-kenさんがプロデュース。
かなり引っ張ってくれました。ミュージシャンの方も全部nishi-kenさんが選んでくれて、こういう人が合いんじゃないか? と。もちろん僕のリクエストとして、誰がいいとかじゃなくて“こういうベースがいいです”とか、そのへんはいちおう言ったんですけど、絶妙なバランスのバンドを1曲ごとに作ってもらったので。
――ですね。ジャズ寄りのグルーヴだったり、派手なホーンセクションが入るファンキーな曲があったり、1曲ごとに個性がはっきりしてる。
あとはナマであることが、こだわったところですね。全体的に“楽器はナマがいいです”と。
――それ、今の時代には相当ぜいたくなことですよ。
そうですね。でも聴いてきたものがナマが多かったので、やる時はナマでやりたかったですね。レコーディングにも立ち会ったんですけど、普段見ない楽器のレコーディングはすごく楽しかったです。普通に“サックスかっこいい!”みたいな目で見れたので、すごく楽しかった。
――そうすると、歌の表情も変わりますか? ボーカルブースに入る時の気持ちは。
同じ気持ちで行きたかったんですけど、スタジオミュージシャンの方たちの録りが早くて、プレッシャーというか、自分が“遅っ!”というのがあったんですよ(笑)。恥ずかしかったですね。もし次にレコーディングをやるなら、もうちょっと速く録れるようにしたいなと思いました。あの人たちは下準備も無しで速く録れるんですけど、俺はまだ全然なんで。ちゃんとしなきゃという気持ちに改めてなりました。
――曲のムードに合った、陰影の濃いボーカルだと思いますよ。
もっとやれたのにな、という気持ちは正直あります。でそれが1枚目の良さだったりするんで、今後何かをやるたびに育っていけばいいなと。あと、このアルバムはどうしても楽器を聴いちゃいますね。楽器が新鮮で楽しいなと思います。
――歌詞は全曲、アダルトな恋の世界にフォーカスした世界になりました。
シドでもけっこう多いんですけど、そっちの世界をより突き詰めたいという気持ちは最初からありました。ただずっと書いてきていることなので、シドとソロとの住み分けはあまり考えずに、書く時は作詞家として書こうと。で、歌う時は別人として歌う、みたいな感覚はありました。
――ちなみに、曲を作った順番で言うと?
「月」「星」を最初に作って、シングルを先に出して。あと4曲、何を入れたら面白いかな?という感じでした。
マオ from SID 撮影=大塚秀美
自分が人前に出られない時期のこととか、ファンの方はまだ俺のことを思ってくれているのかなとか、いろんなことを考えながら書いてましたね。
――1曲ずつコメントをもらっていいですか? 「chandelier」はラブソングでありつつ、ライブの風景が浮かぶような設定になってますね。
ソロでもライブをやってみたいなという気持ちが大きくなってきて、それをそのまま歌詞にしました。ライブをやりたい!というだけの曲です(笑)。だからライブをやるとしたら、1曲目にやるんじゃないかな。
――「マニキュア」は?
「マニキュア」というタイトルはずっとストックとしてあって、どこかはまらないかなと思っていた時期にこの曲に出会って、これは「マニキュア」だなと思ってはめた感じです。イメージがすぐに湧きました。歌はたぶん、テクニック的にはこの中で一番難しいですね。
――改めて「星」は?
シドのマオからは離れたところに行けた感じがしたので、うれしかったですね。ここに到達できたんだったら、こっちのジャンルは見えてきたなという感覚になれたので。
――そして「サヨナララスト」。
これは楽しかった。アレンジもすごく気に入ってて、ミックスもよくて、演奏もよくて。nishi-kenさんたちとずっと“うわー、ヤバイヤバイ”って言いながらやってました。ミュージックビデオもついてるんですけど、それも楽しかったので、楽しい思い出がある曲です。あえて俺にない要素というか、洋楽っぽさを出そうと思って、サビのボーカルをダブルにしたりしましたね。歌を聴いてくれというよりは、薄く流していてもスッと入ってくる音楽というか。
――洋楽要素って、あんまり自分の中にないですか?
ないですね(笑)。nishi-kenさんとやりとりしていると、いろんなことを教えてくれるので、すごく楽しかったです。ボーカルをダブらせるとこうなるんだよ、とか。確かにこういうの、カフェとかでよく聴くよなって感じでしたね。
――では「頬づえ」は。
これも歌っててすごく楽しくて、味を出しまくれました。ハモるのもやめて、一本でズバっと行きました。
――そして最後が「月」。
これは、自分が人前に出られない時期があったんですけど、その時期のこととか、いろんなことを思い出しながら書きました。久々に人前に出る気持ちとか、ファンの方はまだ俺のことを思ってくれているのかなとか、いろんなことを考えながら書いてましたね。
――全体的にスロー/ミディアムテンポで統一してます。
それが理想だったんですよ。シドに対してのソロということをずっと考えてて、シドを聴く人がメインで聴いてくれると思うので。シドを聴いた時に、ちょっと箸休め的な感じで聴いてくれれば。
――箸休めというのは謙遜しすぎなような……。
でも本当にそういう感覚なんですよ。どうせ箸休めするんだったら、違うジャンルの違う音楽を聴いてもらうよりは、同じ声だけどシドとは違うものを、というものを想像して。それと自分の中でも、シドがメインで今後もソロをやっていく中で、どういう曲だったら俺は肩の力を抜いて箸休めできるのかな?ということも、けっこう考えましたね。こっちを力んじゃうと、当初の考えと変わってくるので。あくまでもシドがあって、空いた時間で歌おうということなんで。だからキー設定もちょっと低いものもあります、あえて。思いきり大声で歌うというよりは、たとえばギターと声だけでもふらっとライブができるような音楽がいいなと。時間が空いた時に“歌いたい、じゃあやろう”と言ってやれるような。シドだと“歌いたい!”と思っても、じゃあ会場を押さえて、スタッフを集めてとか、いろいろあると思うんですけど、ソロはラフに行きたかったので。ただCDに関してはゴージャスにしたかったです。
マオ from SID 撮影=大塚秀美
どうせ色褪せるんだったら変な具合じゃなくて、かっこよく色褪せたいなという感じは最近すごく思ってますね。
――そしてタイトルが『Maison de M』。
Maison(メゾン、家)という言葉がずっと好きで、使いたいなと思っていて、これははまりそうだなと。ちょっと趣味っぽいことをやっているので、家っぽいなということと、肩の力を抜いてふらっと遊びに来れるようなアルバムになればいいなということと。
――改めて、ソロ活動に対するファンからの反応はどんなふうに受け止めてますか。
最初にシングルを出した時は、やっぱり驚きと、“バンド大丈夫?”みたいな感想がとても多くて。それは予想していたし、もし自分だったら……ってよく考えるんですけど、自分が好きなバンドのボーカルがソロをやりだしたら、“あれ?”って思うだろうから、これは当たり前だろうなと思いました。だったら、どうすればそうじゃないということをわかってもらえるのかな?と思いながら、言葉を発信したり、スケジュールを決めたり、いろんなことをやっていったんですけど、やっぱり一番は音楽で、歌詞と曲で伝わるものがあればそれが一番なので。これはそういうアルバムでもあるし、これを聴いた上で、不安がなくなる人もいれば、増す人もいるかもしれないですけど(笑)。どちらにしろ、俺が今やってみたいと思ってやっていることはわかると思うので。SNSとかで発信しても伝わる限界があるので、あとはCDを作っていつかライブをやって、それを積み重ねていけば徐々に伝わっていくだろうと思ってます。
――誠実なやり方だと思います。
今もすでに“ソロの音楽性も大好きです”と言ってくれる人もたくさんいるので。まずは好きか嫌いか言ってもらえる土俵に立たせてもらえるまで、いい音楽を発信し続けないとなと思いますね。それぐらいファンの人にとっては重大なことだと思ってるので、ソロというのは。そこは責任をもってやっていきたいです。
――ちなみにメンバーの感想は?
メンバーのリアクションはいいですね。特にドラムのゆうやくんは、すごく聴いてくれて、感想をくれますね。あいつはやっぱりリズム隊を聴くので、それに対しての感想が多かったですけど、すごくうれしかったです。
――もちろん、シドのファン以外にも聴いてもらいたい。
そうですね。入り口は広いほうがいいんで。それで最終的にシドまでたどりついてくれれば、やってやった感があるんですけど(笑)。なかなか大変だと思うんですけど、そこまで頑張りたいと思います。ソロを知ってシドを好きになったという人が出てくるぐらいに。そのためにも、続けないとなって思います。
――ライブ、観たいですね。まだ具体的な予定はないようですが。
やりたいですね。でもシドも動きますし、俺はその隙間で(笑)。
――バンドと並行してもソロはできる?
できると思います。ソロとしてのチームワークが、けっこう出来上がっているので。本当に早かったんですよ。実はこのミニアルバムも、もともとシングルの予定だったんですよね。
――あ、そうなんですね。
でも楽しくなっちゃって、やっぱりアルバムにしようということになって。“間に合わないかも”“いや、行けるっしょ”みたいな感じで、結局行けたんで。やればできるんだなって(笑)。みんな限界のところで頑張ってくれたんで、よりチームワークも生まれましたね。
――今後のソロについては、どんなイメージを持ってますか。
やったことのないことをやってみたいですね。やったことがなくて、なおかつ一人だからやれるようなことを見つけていきたいなというのが一番ですね。あとは、何回も言ってますけど、最高の箸休めになるような、肉を食いすぎたら野菜をどうぞみたいな感じで(笑)。そういうことをやっていけたらなと思います。
――最後に一つ質問を。マオさんにとって、かっこいい大人とは?
さっきのレコーディングの話にもあったんですけど、わざとアラを残したままにしたとか、自分の良くない部分も見てほしいとか、そういうふうにどんどんなってきたんで、これが大人なのかな?というのがちょっとだけあります。「月」の歌詞に“一緒に色褪せていこう”という言葉があって。前は“俺は色褪せないから。キラキラしてるものをずっと見せなきゃ”というものをずーっと続けてきてたんですけど、何か違うなというか、不可能だなということに気づいて。だったら、どうせ色褪せるんだったら変な具合じゃなくて、かっこよく色褪せたいなという感じは最近すごく思ってますね。そっちに近づけるような大人になっていきたいと思います。
――色褪せるという言葉を使うのは、早すぎると思いますけどね。
そうですね(笑)。でもファンの人も長い人が多いですし、みんな年をとらないわけにもいかないので。一緒に“あの時は大変だったね”とか……たとえばライブを観て “マオ、今日は調子悪いね”とか言うファンもけっこういるんですよ。前だったら“ちゃんと歌えてなかったですけど、大丈夫ですか?”っていうものが多かったんですけど、“今日は調子悪かったけど、あの曲は味があってよかった”とか。ファンレターをよく読むんですけど、お客さんもだいぶわかってきてくれたなというのがあって。一緒にそうなっていけたらいいなと思いますね。
取材・文=宮本英夫 撮影=大塚秀美
マオ from SID 撮影=大塚秀美
2016年9月28日発売
【初回生産限定盤A】 (CD+DVD)
マオ from SID『Maison de M』初回盤A
特典DVD 「サヨナララスト」Music Video
【初回生産限定盤B】(CD+DVD)
マオ from SID『Maison de M』初回盤B
特典DVD 超密着! 「Maison de M」スペシャルオフショット~長編映像集~
【通常盤】(CD)
マオ from SID『Maison de M』通常盤
[収録楽曲]
01. chandelier
02. マニキュア
03. 星
04. サヨナララスト
05. 頬づえ
06. 月
『Maison de M vol.1 in Billboard Live TOKYO』
2016年11月26日(土) Billboard Live TOKYO
<1st SHOW>
OPEN 17:00 / START 18:00 ※ID-S会員対象公演
<2nd SHOW>
OPEN 20:00 / START 21:00
【ID-S会員優先受付】
受付期間 10月4日(火)12:00~10月11日(火)18:00
※1st SHOW・2nd SHOWともにお申し込みは可能です。(1st SHOWのみ、ID-S会員対象の独占公演となります。)
※お申込の詳細は、後日ID-Sサイト内TICKETページでご案内いたします。
【Billboard Live会員先行販売】
日時 10月21日(金) 11:00~
受付番号 ビルボードライブ東京 03-3405-1133
※2nd SHOWのみの販売となります。
※ClubBBL会員への入会が必要です。詳細はコチラ http://www.billboard-live.com/membership/
【一般発売】
日時 10月28日(金) 11:00~
受付番号 ビルボードライブ東京 03-3405-1133
※2nd SHOWのみの販売となります。
【料金】
<サービスエリア> ¥9,800(税込/プレゼント付き)
※ビルボードスタッフによる座席までのご案内、またフード、ドリンク販売のサービスがござます。
<カジュアルエリア> ¥8,300(税込/プレゼント付き/1ドリンク付き)
※軽食のみのフードサービスと、セルフサービスでのドリンクの販売がございます。
【お問合せ】ビルボードライブ東京 03-3405-1133
ビルボード東京はコチラhttp://www.billboard-live.com/pg/shop/index.php?mode=top&shop=1