鍵と赤い糸が紡ぎ出す、圧倒的空間 塩田千春『鍵のかかった部屋』を観た
©girls Artalk
10月10日(月・祝)までKAAT神奈川芸術劇場にて塩田千春展『鍵のかかった部屋』が開催される。『鍵のかかった部屋』は、昨年の第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で発表した作品『掌の鍵』を、帰国記念展として再構成した新作インスタレーション作品だ。『掌の鍵』でも使用した、赤い糸や鍵といったマテリアルを用いつつ、新たに5つの古い扉を加えて再構成されている。美術館にはない、劇場空間の特性を最大限に生かした唯一無二の展示といえよう。
White cube(ホワイトキューブ)と呼ばれる美術館とはまた違う雰囲気が、劇場ならでは。 ©girls Artalk
作家・塩田千春とは?
1972年大阪生まれ、ベルリン在住のアーティストである。 普遍的な、人間の永遠のテーマ「生と死」に向き合い、作品を作り続けている。『掌の鍵』は、 昨年の第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館で展示された作品だ。 大きな舟を中心に、約400kmに及ぶ赤い毛糸を展示室いっぱいに張り巡らせ、約18万個使用したうち5万個の鍵を吊るしたこのインスタレーションは、世界中の人々に感動をもたらし、高い評価を得た。
キュレーター・中野仁詞氏について
本展のキュレーターは、ヴェネチア・ビエンナーレの『掌の鍵』でもキュレーションを担当した中野仁詞氏。塩田氏にとって中野氏と展示会を行うのは、本展で3度目となる。ヴェネチア・ビエンナーレが行われていた時から、展示の計画は始まっていたとのこと。ヴェネチア・ビエンナーレでも使用されていた鍵のうち、本展では約1万5千個を使用している。そして、今回の『鍵のかかった部屋』では舟ではなく、5つの古い扉が設けられているのが見所だ。
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塩田氏に訊く、ベルリンで活動し続ける理由とは
塩田千春(以下、塩田):日本に住んでいると、自分が日本人であることを忘れますよね。外国にいると、自分のアイデンティティーを感じながら制作するので、そういう面では、自分を見つめやすいです。自分なりの生き方を見つけなくてはいけないということもあるし、その中でどういった作品をつくるかなど、自分だけの問題じゃなくて、いろんな問題に触れることができる。」
海外で制作するからこそ、見つめることのできる「自分の存在」。 塩田氏は誰よりも繊細な眼差しで、人間を客観視しているのかもしれない。そうした中で生まれた作品は、私たち人間がせわしなく生きていく中で、見落としがちな"大切な何か"を教えてくれている。
塩田:美術は特別なことではありません。空間に入ったときの感じ方や、作品の受け取り方は人によって違うと思いますが、この絵の気持ちがわかるとか、作品の気持ちがわかるとか、普段うまく伝えられない世界が表現できているものを見つけ、共感できることは、人間にとってとても大切なことだと思います。なので、そういった機会がもっと増えると良いなと思っています。
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会期中は、『鍵のかかった部屋』を中心とした様々なダンス公演や音楽プログラムが行われる。特設ページからスケジュールをチェックして、展示とセットで楽しむのがいいだろう。黒い劇場空間に赤い糸が映える塩田氏の美しいインスタレーションと、ダンスや音楽のプロフェッショナル達が織り成す、贅沢なパフォーマンスを是非堪能して欲しい。
文・たなお 写真・たなお、新井まる
会期:2016年9月14日(水)~10月10日(月・祝)
会場:KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ
開館時間:10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで)
休館日:会期中無休
入館料:一般 900円、学生・65歳以上 500円、高校生以下無料
特設ページ:http://www.kaat-seasons.com/chiharushiota/
住所:神奈川県横浜市中区山下町281
お問合せ:KAAT神奈川芸術劇場 045-633-6500(代表)