#野水映画 “俺たちスーパーウォッチメン” 第十二回レビュー『高慢と偏見とゾンビ』

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2016.10.3

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。


皆さんは『高慢と偏見』という小説をご存じだろうか? 18世紀、女性が自立するのがまだ困難な時代を舞台に、姉妹たちの身分の違う恋の行方を描いた文芸作品だ。海外文学に疎い私は、タイトルとあらすじくらいしか知らないのだが……。私のように詳しくは知らないという方も、アクションやゾンビの要素をてんこ盛りにしたバージョンの古典ロマンス小説があるとしたら、ググッと興味が湧くのではないか。それが今回紹介する『高慢と偏見とゾンビ』だ!

 

© 2016 PPZ Holdings,LLC

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18世紀末のイギリス。謎のウィルスが蔓延し、感染者はゾンビとなって人々を襲っていた。片田舎に住む中流階級・ベネット家の5人姉妹は、得意のカンフーでゾンビと戦う毎日を過ごしている。しかし、彼女たちの母親は、娘を富豪のもとへ嫁がせねばと焦っていた。そんな折、近所に資産家のビングリーが引越してきたことで、彼の友人で騎士のダーシーとも交流を持つことになる。姉妹たちは喜ぶものの、次女のエリザベスは高慢な態度のダーシーに嫌悪感を抱く。ダーシーも身分の違うエリザベスに対し厳しい態度を取るが、共にゾンビとの戦いを経ていくうちに、二人の距離は近づき始める。

エリザベスとダーシーのお互いに第一印象は最悪そのもの。エリザベスはダーシーのことがちょっと気になったものの、陰口を叩かれそんな気持ちも一転。『耳をすませば』(95)でヒロインが、自分の書いた歌詞をからかってきた男の子に対してひとりごちたセリフ、「やな奴やな奴やな奴!」状態に。対するダーシーも、自分よりも身分が低く、かつつっけんどんな態度のエリザベスにはキツく当たるようになる。2人が交わす視線はロマンティックなそれではなく、厳しい睨みあいばかり。

 

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いやーもう定番! 古典のロマンス小説がもとなので当たり前なのだが、ツンケンしてしまうツンデレ女子と、プライドのせいで嫌な態度を取ってしまうツンツン男子。そんな2人が同じ目的のため共闘することで互いの素顔に気づき、惹かれ合う……。なるほど、こうして見ると昨今のライトノベルやアニメなどでもおなじみの設定だと気づかされる。ベッタベタではあるが、いつの時代も褪せることなくときめくことが出来る王道とも言えるだろう。かくいう私も「じれったいなぁー!」とムズムズしながらすっかり入り込んでしまった。そういう意味では、普段そんなに映画を観ないという方や女性にも入り込みやすい、易しい切り口だと思う。

 

そして、ここに“ゾンビ”が加わることにより、ピリリとスパイスが効いているのが『高慢と偏見とゾンビ』である。ドレスを着て優雅にティータイム☆な世界観なのに、街の周りには当たり前にゾンビが溢れかえっているアンバランスさはなんとも斬新。しかもゾンビが出没するのは日常茶飯事で、美人5人姉妹は結婚のお相手探しよりも、己の格闘技術を磨くことに日々夢中。舞踏会でお目当の男性と踊っていると、ゾンビ襲来!ならば私たちの出番ね、とばかりに、身につけたカンフーで綺麗なおみ脚をぶん回し、ナイフや剣で容赦なく叩っ斬る!! やだ、なにこれ格好いい……! 美しいドレスをまくり上げ、ガーターベルトにナイフをザンッ!と差し込むシーンなんて、それだけで画になるではないか!男性ならチラリズムにドキッとすること間違いなしだが、同性から見たら「一度はこんなことやってみたい」シーンのはず。ちなみにダーシーたち富裕層男子は、日本刀でゾンビに立ち向かう。コートをたなびかせ刀を華麗に振り回す姿は、コスプレしても様になりそう。こちらも「真似してみたい!」となること請け合いだ。

 

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しかし、なぜイギリスが舞台なのに彼女たちはカンフーや日本刀で戦うのだろう?と疑問が湧いたのだが、この世界では中流階級は中国流、上流階級は日本流、という戦い方の住み分けがなされているらしい。バー・スティアーズ監督は『七人の侍』(54)にならい、各登場人物のキャラクターに根差した戦い方を考案し、さらに階級によってスタイルを分けることで原作のテーマである“身分の違い”を際立たせたという。ふむふむ……と納得しかけたが、イギリスならば紳士が持つようなステッキや、ファンタジーな大剣をイメージしそうなのだが。もし、日本刀まで丸ごと『七人の侍』をモチーフにしているのだとしたら、黒澤明監督には感謝したいと思う。ドレスとカンフー、スーツと刀という“ギャップ萌え”が生まれることになったのだから。

ちなみにここまで私は、ゾンビのことに特に触れずにきた。というのも、この作品は『高慢と偏見とゾンビ』だ。『ゾンビと高慢と偏見』ではないからだ。あくまで『高慢と偏見』にゾンビ要素がプラスされた作品なので、ゾンビは恋を燃え上がらせる引き立て役に過ぎないのだ! しかし、がっかりすることなかれ。人間のフリをして社交界に紛れるゾンビは、パニックホラー系のゾンビ映画には無い憂いを帯びている。ロマンティックな恋物語に挟み込まれる、ゾンビのセンチメントを感じてほしい。

 

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『高慢と偏見とゾンビ』は9月30日(金)から、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて公開中。
 

作品情報
映画『高慢と偏見とゾンビ』
 
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監督 /脚本 :バー・スティアーズ『セブンティーン・アゲイン』
原作:「高慢と偏見とゾンビ」ジェイン・オースティン&セス・グレアム=スミス著(二見文庫 安原和見:訳)
出演:リリー・ジェームズ『シンデレラ』、サム・ライリー『マレフィセント』、ジャック・ヒューストン『アメリカン・ハッスル』、
ベラ・ヒースコート『ダーク・シャドウ』、ダグラス・ブース『ノア 約束の舟』、マット・スミス『ターミネーター新起動/ジェネシス』
配給:ギャガ
© 2016 PPZ Holdings,LLC  

公式サイト:http://gaga.ne.jp/zombies
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