河原雅彦にインタビュー「人間模様がおもしろい作品ですね」舞台『夜が私を待っている~ナイト・マスト・フォール~』
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心理サスペンス劇の決定版『夜が私を待っている~ナイト・マスト・フォール~』がついに日本初上陸。劇作家エムリン・ウィリアムズが1935年に執筆した本作は、とある夫人の失踪事件を巡り、猜疑心にさいなまれ絡まりあう人間模様を描く。80年前の戯曲でありながら、いまだ世界各地で上演され続けている傑作のひとつだ。
今回、入江甚儀、秋元才加、前田美波里らが出演し、10月15日(土)から紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演される本作の演出を務めるのは、河原雅彦。2006年に『父帰る/屋上の狂人』で第14回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞、2014年に『万獣こわい』で第22回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞するなど、次々と話題作を手掛ける河原が、この作品にどう臨んでいこうとしているのか、現在進行中の稽古の模様なども含めて話を伺ってきた。
――河原さんが手掛ける作品はいずれも個性的で、どこかとんがった部分があるというイメージでしたが、この作品はそういう感じではないので意外でした。
ミュージカルだろうが、古い日本の作品だろうが、そのジャンルなりの面白さがあって。本を読んでピンときた作品だったら僕なりの感覚でやってみようと。僕は“面白さ”をむさぼることに欲張りですから。
でも、久しぶりですね、こんなシックでクラシカルな作品は。たまにやらないとダメですね。勉強にもなりますし刺激にもなる。最近たまたまとがったものが続いていたので、タイミングとしてもいい機会だったと思います。
――この作品で河原さんがおもしろい、と感じたところは?それは難しさでもあるかもしれませんが。
心理サスペンスですが、物語の運びがとてもデリケートなんです。このお芝居は本を深く読み込んだ上で、確かな力量を備えた俳優陣と、場面場面を繊細に積み上げていく作業が必要なので、そこが面白いですね。
――イギリスが舞台となる作品ですが、時代もかなり昔なので、日本で上演するときに伝わりづらいところもありそうですね。
伝わりづらいところも、ノイズになりうる要素は排除して、必要な部分は日本のお客さんにもわかるように工夫して直しています。宗教観とかお国柄の感覚とか、そういったものをナシにしてしまうと、話の本筋にも影響が出てしまうので。
とはいえ、日本人から見ても理解しやすい作品ですよ。まずシチュエーション。森に囲まれ、閉鎖された村の一軒家で起きる猟奇事件。日本でいう地方都市に近いですよね。毎日毎日同じ人と顔合わせるだけの煮詰まった日常の中で、想像もつかない残忍な犯行が行われたりするっていう。
僕はホラー映画が好きなんですが、海外では『ツイン・ピークス』しかり、「森」って象徴的に使われることが多くて。それぞれの登場人物が腹の中で抱えているモヤモヤがあって、みんながみんな意味深。横溝正史的とでも言いましょうか。なので、日本人の感覚でこの作品を見ても十分楽しんでもらえると思います。
この作品は、犯人探しをする通常のサスペンスではないんです。最初から犯人はわかっているから、むしろそれらを取り囲む人間模様がおもしろい。そこがこの芝居の見どころの一つになると思います。どのように犯行が進められたか、犯人につけこまれる側が重要で、個性的な登場人物たちがどのように彼に取り込まれていくのか…犯人がわかっているだけに、極端な表現かもしれませんがコメディに近い感覚で僕はとらえていて。全員、煮詰まり方が半端ないんです。演出をする上で、おもしろみの重きをどこに置こうと最初思ってましたが、やっていくうちにいろいろな楽しみ方ができると思ってきました。コミカルなところも作ろうと思えば作れるな、と。もちろん、「笑い」といっても上品な笑いですけどね。そういった意味でもよくできた本だなと思います。
――現在のお稽古の様子はいかがですか?
いいキャスティングになりましたね。繊細な心の機微を様々に表現出来る俳優さんたちが集まってくれましたから。一人ひとりが大切な存在となってます。
――入江甚儀さん、他の作品で拝見したとき、とってもマジメで一生懸命な方なんだろうなぁ、という印象を抱いてましたが、今回はいかがですか?
そうですね。とても熱意を感じる若者です。彼の「やるぞ!」というエネルギーのベクトルをどこに向けたほうがいいのか…意外と「力を抜く」ということに力を入れたほうがいいのかなって。力を入れるぞ、というタイプの人間には難しいことなんですが。役作りにおいて、これまでの彼のアプローチでは歯が立たないことばかりだと本人も痛感していると思うので、なんとかこの大役を乗り切ってもらえれば、と。
――秋元才加さんはいかがですか?
シンプルにすごくいいです。相当センスがいいと処々に感じます。この若さでなかなかいないですよ。本読みや立ち稽古の最初の段階で彼女の良さがビンビン伝わってきました。
お芝居ってあたり前ですが、「そこにいること」が重要なんです。話が流れる瞬間瞬間で心と体をどこに置くのか。特に今回はサスペンスというジャンルなので、それが全てだと言ってもいいくらい大切なことなのですが、彼女はそこに気を配りながら正確に芝居を組み立てている。素晴らしいと思います。
いつか賞を取る人になるんじゃないかな。ジャンルは違うけど、ゆくゆくはソニンみたいな存在になるんじゃないかなぁ。玄人目から見ても「彼女、いいね」って思わせる力があると思う。で、潜在能力も高くて、努力を惜しまずガツンとした華もある。あの年齢ですでに頼りがいもあるし(笑)
今回、演技態が異なる人がたくさんいる座組なのですが、スッとその人たちに空気を合わせていけるんです。
――さらに大ベテラン・前田美波里さんの存在があります。
美波里さんも実に素晴らしいです。恐縮ながら大尊敬ですよ。あれほどのキャリアをお持ちの大ベテランでらっしゃるのに、稽古場の雰囲気を誰よりも和ませて下さるし、芝居への向き合い方もエネルギッシュでとっても真摯。今回はセリフ量や段取りもかなり多くて大変なはずなのに、稽古初日から台本を持たずに演じてらっしゃいました。若い人の中にはまだ本を持ってやっている役者もいるっていうのに(笑)。
誰に対してもオープンで向上心を強くお持ちの美波里さんに対しては、こちらが変な気遣いをする方が失礼にあたると思い、気兼ねなくいろいろ要求させてもらっています。やはり長きに渡り現役でらっしゃる方って、皆さん、人間性が素晴らしいっていう共通項がありますよね。とにかく美波里さんが演じるブラムソン夫人は、ぐうの音も出ないほど魅力的です。劇中で『気難し屋の鬼婆』と呼ばれていますが、始終とってもチャーミングですし、圧倒的な存在感がある。この作品の屋台骨を支える大きな存在として君臨して下さってますので、どうぞみなさまご期待下さいませ。
■演出:河原雅彦
■翻訳:常田景子
■出演:
入江甚儀/秋元才加
明星真由美/久ヶ沢徹/岡部たかし/弘中麻紀/白勢未生
前田美波里
■日程:2016年10月15日(土)~10月30(日)
■会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
■日程:2016年11月12日(土)
■会場:仙台電力ホール