水田航生と悠未ひろに訊く 個性派&実力派の俳優たちで繰り広げる熱い音楽劇『ダニー・ボーイズ』とは
-
ポスト -
シェア - 送る
(左から)悠未ひろ、水田航生
音楽劇『ダニー・ボーイズ』が10月26日(水)から東京国際フォーラム(ホールC)にて上演される。原作は、2008年に手塚治虫文化賞を受賞した島田虎之介による傑作漫画『ダニー・ボーイ』(2009年発行)。1976年にNY・ブロードウェイのウィンター・ガーデン・シアターに初めて日本人俳優として出演した実在の人物・サトウイサオらの活躍をモチーフにした漫画を初の舞台化。音楽を通じて絆を深めていく日本人俳優たちの姿を描く。出演者は、ミュージカル主演初挑戦の真田佑馬と数々の舞台で注目の水田航生のW主演で、悠未ひろ、ベンガル、剣幸、ほか実力派の俳優陣が集結する。
1970年代に、海外初進出を目指した日本人俳優たちの情熱やエネルギーが、存分に感じられる音楽劇になりそうだ。本編&劇中劇では、デューク・エリントンの名曲「極東組曲」や当時のブロードウェイ・ミュージカルの珠玉のナンバーはもちろんのこと、親しみやすいオリジナルナンバーも多数楽しめる内容となっている。稽古がスタートしたばかりの10月初旬、若手ながら数々の舞台で活躍中の俳優・水田航生と、元宝塚男役スター・悠未ひろの2人に、本作の魅力や見所を伺ってきた。180㎝の長身を誇る2人の、この舞台にかける熱いトークをお届けする。
――今回のお話は、ブロードウェイ初進出を目指した日本人の役者さんたちのお話なんですね。
水田:そうなんです。実在の人物であるサトウイサオさんをモデルにした、主人公の伊藤幸男と共に、劇団員仲間の3人がアメリカに渡り、ブロードウェイ・ミュージカルのオーディションを受けて、共に役を勝ち取って舞台に立つ姿を描いています。
――おふたりが今回演じられる役について教えてください。
水田:僕は、田上英喜という、幸男の親友の役を演じます。幸男とは日本に居た頃からの劇団仲間なんですが、英喜は幸男に嫉妬心だったり、劣等感を感じながらも、彼に対するリスペクトがずっとあって……。彼を超えられないというジレンマを抱えながらも、最終的には日本に帰って、俳優を続けるという決断をする役です。でも、基本的には明るくてずっと笑顔がたえない存在。周りからも、スマイリー英喜と呼ばれていて、今回出演する人達の中では、一番明るいキャラクターなのかな、と思っています。
悠未:私は、三春うららさんという大女優が演じられて伝説となったピアフを演じる女優・湖島みちるの役を演じます。日本でずっと女優をやってきて、アメリカに渡って、最終的にはまた日本に戻ってピアフを演じることになる役ですね。その中で、まだお稽古の途中なので、どういう展開になるかはわからないんですけど、英喜が足をケガした時に、3人で頑張ってきた仲間だからこそ励ましたり、説得するシーンもあったりします。英喜や仲間に対して、頼もしい存在の女性でもあるのかなと思っています。
水田:全てが細かく台詞になっている訳ではないんですけど、幸男と英喜とみちるは、同志的な仲間です。3人でわざわざブロードウェイに渡ってきて、苦労を共にしてきたという一体感や、見えない絆みたいなものを、表現できるといいなと思っています。
――おふたりは、同年代くらいの設定なんですか。
悠未:私がちょっと上なのかな。でも、同世代といえば同世代ですね。
水田:なので、青春物語的な要素も強いです。戦後30年くらいの、まだ日本人や東洋人がそこまで世界で活躍していない時代のお話なので、差別があったり、西洋人との違いにショックを受けたり、戦争に関する台詞も結構出てくるので、先駆者の人たちの苦労や心境、重さみたいなものも、いかに表現できるかが課題ですね。
悠未:そうそう。音楽がわりとJ-POPみたいな親しみやすい曲も多いんです。つい現代っぽい雰囲気になってしまいがちなんですけれど、あくまでも戦後の日本の傷あとを背負ってる人達が、希望に向かって頑張っているというところは、しっかり演じていきたいなと思っています。
水田:1970年代って、最近と言ってしまえば最近なんですけど、僕は遠く感じることが多くて。アメリカで知られている日本人が、ほとんどいなかったような時代に、無名のままで海を渡った役者の先駆者の人達に、かなりの覚悟を感じてしまうというか……。有名になりたいというより、純粋にそこで演りたいと乗り込んでいった人達の思いは、自分自身、役者をやっているからこそ、感じることが多いです。
――英語を話すシーンもあるんですか?
悠未:喋ってるよね(笑)。今、苦しんでいるところですけど(笑)。
水田:はい(笑)。英語の歌も歌ってます! でも、本当に覚えられなくて……(笑)。悠未さんは、劇中劇の「極東組曲」で、マッカーサーというスターの役でも、英語の歌を歌ってますよね。
――マッカーサー? 悠未さんは、今回の舞台で初の女性役を演じられると伺っていましたが……。
悠未:一応そうなんですけれど、台詞の中で、「日本では、女性が男性を演じる劇団の中で活動してきました」みたいなことを言ってるんですよ。それ、私じゃん?みたいな(笑)。最初は、女性役だっていうので、すごく緊張してお稽古に入ったんですけれど、マッカーサーを演っちゃったりもするので(笑)。わりと、自分の素の感じでいいのかなと。宝塚でやってきたことや、今までの自分の人生を活かせる役だと思って取り組んでます。
水田:悠未さんの男役、カッコいいですよねー! 所作、ひとつひとつカッコ良いいんです。マッカーサーも、ただ居るだけで存在感があるから、流石だなと思っています。
悠未:そこは大丈夫なんですけど、普通に「英喜!」って励ましに行ったり、女性として自然に振舞うシーンの方が、どうしたらよいのやらって慣れなくて(笑)。今まで作り込む役ばかりをやってきで、等身大の自分で自然に舞台に立つことがあまりなかったので、勉強になっています。
(左から)悠未ひろ、水田航生
――おふたりがミュージカルで、日本人の役をされるのは、新鮮ですね。
水田:確かに、ミュージカルで日本人役を演じることはあまりないかもしれません。僕は今年初めてですね。外国人やハーフの役が多かった(笑)。
悠未:私も、本当に少なかったですね。宝塚時代にも演じたことはあるんですけど、戦国時代とか……。現代に近いものだと、白州次郎さんの時代の作品を演じたことはあるんですが、その時は、アメリカ人の役だったんです(笑)。でも、自分が日本人なので日本人の役は、すごく共感できるし、気持ちを入れやすいです。そもそも外国人だと、どんな国かをとことん調べたりするんですが、日本人魂みたいなものは調べなくても自分の中に入っているものなので、わかりやすい部分は多いですね。
水田:でも、70年代を表現するということには、まだ苦労しています。台本の口調がそこまで昔風ってわけでもなく、現代と全く同じでもなく……。ふと気がつくと、すごく現代風にテンポよく読んじゃったりするんです。その時代ならではのテンポや雰囲気っていうのをもっと研究してほしいと演出でも言われています。そのあたりは、これから詰めていきたいなと思ってます。
悠未ひろ
――音楽劇とのことですが、好きなナンバーなどはありますか。
悠未:まだ全部は聴いていないのですが、自分的には、オープニングのマッカーサーの歌かな。日本人で出ているみんなも一緒に英語で歌って、その後日本語の歌に続くのですが、そのシーンが楽しみです。英語の歌の際には、字幕で訳詞も出るそうです。あと、テーマ曲がすごく元気になるような、若い方にも楽しんでいただける作りになっているので、堅苦しくならずに、楽しんでいただけるといいなと思っています。
水田:「ダニー・ボーイ」っていう、昔からある曲を歌詞を新たにして歌っています。でも、全体的にはオリジナル曲が多いですね。あまり時間がない中、みんなであーでもないこーでもないと言いながら頑張っている段階です。
――お互いの魅力について教えてください。
水田:ええっ! ご本人を前にして僕が語るのは、なんか申し訳ないんです……(笑)。
悠未:とても魅力的です(笑)。私は一方的に以前から舞台を拝見していたんですが、役者の方って舞台のイメージと違う方もいらっしゃるじゃないですか。でも、水田君は舞台のままの爽やか好青年でした。その好青年ぶりが、英喜に活かされているし、いつもニコニコしていて。もう、スマイリー英喜にぴったりですよ!
水田:ははは。僕はこの間『NARUTO』を観て、本当に「怖い」と思ってしまうような大蛇丸(おろちまる)を演じられていましたから、普段もあんな感じの方だったらどうしようと思ってたんです。制作発表の時に初めてお会いしたんですが、すごく気さくで、悠未さんこそほがらかな笑顔をされていたので良かったなと(笑)。今回、バラードを歌うシーンも本当に素敵なので、楽しみにしていてください。
水田航生
――おふたりとも外見はクールな印象ですが、舞台は熱くてエネルギッシュですものね。
水田:ありがとうございます。でも、僕達だけでなく、今回の共演者の皆さんは、それぞれ個性が本当に強いんですよ。梅垣(義明)さんも、僕はTVで何度も観ていましたけど、スゴイ名人芸を持ってらっしゃいますし(笑)。それぞれが第一線で演っていらっしゃって、しかも多ジャンルの方々が集結している舞台なので、多種多様な人達が集まって、同じ夢を追いかけている感じが、この時代の色んな人やムードがごちゃまぜになっている雰囲気や熱気とも合っていると思います。
悠未:そうですね。ベテランの役者さんとの共演といえば、ベンガルさん。ベンガルさんは本当にスゴイ存在なんです(笑)。最初から役の人物として登場されて、セリフが完全に入っていない時も、役のままなんです。その様子や突然出てくるアドリブに未熟者なので笑ってしまう事がよくあります(笑)。ベンガルさんが、ご本人なのか、役の人なのかがわからなくなることがあったりして、新鮮な体験をさせていただいています。
水田:(笑)。ベンガルさんは、台詞以外にも、「あ、あれがさ」と勝手に始めちゃうことがあったりするので、アドリブなのか台詞なのかがわからない時があって、僕も焦りました。
悠未:年齢層も個性もバラバラの人が集まっての舞台ですので、お客様も、いろんな年代の方に楽しんでいただけるんじゃないかと思います。是非、観にいらしていただいて、たくさんの方に元気になっていただきたいですね。
(左から)悠未ひろ、水田航生
――では、最後に、この舞台の見所を改めて教えてください。
水田:少し前の時代のお話ですが、今生きている僕たちにも、すごく共感できる部分や、深いメッセージを感じる作品だと思います。友情であったり、愛情だったり、夢へ向かって走り続けることだったり、人間の普遍的な思いが描かれています。そういった部分がバシバシ伝わっていけば、お客さんの心を動かすことができる舞台になるんじゃないかと思っています。特に、僕の役は嫉妬心をぶつけたり、挫折をしたりする、誰しもが味わったことがある感情を出すシーンが多いんです。今、何かに悩んだり、何かにつまずいている人を後押し出来るように、演じる僕達も小手先だけでなく、この時代に生き抜いた人達の思いを、全身全霊でぶつけていきたいです。
悠未:私は、初めて原作を読んだ時に自分も大好きなブロードウェイの舞台の世界に、戦後の日本人が取り組んでいるという設定に、すごく興味を惹かれました。この舞台に参加できるのがとても嬉しいです。私自身も、音楽の力に励まされることがすごく多いので、観に来てくださったお客様も音楽の力と、私達キャストのエネルギーで元気になって勇気を持って帰っていただけるような作品になるように、頑張りたいと思います!
(左から)悠未ひろ、水田航生
海外で活躍している日本人がまだ少なかった時代に、果敢にミュージカルの本場・ブロードウェイにチャレンジした、日本人たちの青春物語。個性的な出演者たちのぶつかりあいから生まれる、熱や感情、そして素晴らしい音楽の数々を体験しに是非、劇場へ足を運んでほしい。
インタビュー・文=華川瑶香 撮影=荒川 潤
【東京公演】
日時:2016年10月26日(水)~10月29日(土)
会場:東京国際フォーラム ホールC
【大阪公演】
日時:2016年11月5日(土)~11月6日(日)
会場:新歌舞伎座
演出・上演台本:元生茂樹
脚本原案・作詞:石丸さち子
原作:島田虎之助『ダニーボーイ』より
音楽:YUKIYOSHI
<出演者>
真田佑馬、水田航生、柄本時生、悠未ひろ、AKANE LIV、梅垣義明、ベンガル、剣幸 ほか