小林沙羅(ソプラノ) 新アルバムに込められた母親としての愛と祈り

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2016.11.13
小林沙羅(ソプラノ)

小林沙羅(ソプラノ)

 可憐な容姿と多彩な美声を併せ持つ天性の歌姫、小林沙羅が8月初めに男の子を無事出産。母子ともに健康だ。

「お腹の中で歌を聴いていたので、音楽が大好き。歌うとニコニコ笑ってくれて。激しく泣いた時も、窓を全部閉めて熱唱すると泣き止みます(笑)」

 出産2ヵ月前に録音した新譜『この世でいちばん優しい歌』は、今の彼女の喜びをそのまま、「子守歌」や「アヴェ・マリア」の名曲など母子の歌に込めた美しいアルバムだ。

「私の音楽の原点は母の歌ってくれた子守歌です。母が間違って歌っていた箇所を今でもそのまま憶えているぐらい」

 そしてまさに“母の歌”である「アヴェ・マリア」への思いも深まったという。

「ずっと自分の演奏活動が一番大事でしたが、目の前に小さな命が生まれてきてそれが少し変化しました。生きているすべてのものが愛おしいと感じるようになりました。高校生の頃からずっと、アヴェ・マリアにはミケランジェロのピエタ像のイメージを重ねています。死んだ我が子イエスを抱きかかえたマリアの、悲しみ、優しさ、愛…。すべてを乗り越える、言葉で言い表せない超越的な、でも人間的なあたたかい何かを感じるのです」

 彼女ならではのパーソナルな視点の曲も選ばれている。

「池辺晋一郎先生の『風の子守歌』は小学校の合唱で歌って以来ずっと大好きな歌。そのことを池辺先生に話したら、愛子内親王の誕生祝いで作曲した『歌』の楽譜を送ってくださいました。東京芸大の同級生の作曲家・中村裕美の『子守唄よ』は、中原中也による、ちょっとぞくっとするようなテキストです」

 前作「えがおの花」に続く自作曲は「子守歌」。出産よりも曲作りのほうが難産で、苦しんだ末に一度は諦めたが、録音4日前にふと浮かんだメロディだという。

 すでに演奏活動も再開している彼女だが、最近強く意識しているのが、音楽に対して自己主張しすぎないようにすることだという。

「音楽が、自然に表現を導いてくれる」と思えるようになった。

「妊娠中、お医者さまから、動物だって妊娠したら動きがゆっくりになるのだから無理しちゃいけないと言われてハッとしました。一度立ち止まる時期なのかなと。そうしたら、いろんなことが今までと違うふうに見えてきたんです。自分を無理矢理主張しなくても、経験の積み重ねが自然に個性として出てくるはず。きっとお客さんもそのほうがほっとして聴けるよねって。私自身、過去の自分を否定することで成長してきたつもりでしたけど、昨日の自分もよかったじゃないと思える心境になりました。これを聴くと私もほっとできます」

 自身にとっても、タイトルどおり「優しい歌」なのだ。母の喜びの一端をおすそ分けしてもらえるような幸せな一枚。来年3月のアルバム記念リサイタルも期待したい。

取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ 2016年11月号から)


CD
『この世でいちばん優しい歌』
日本コロムビア
COCQ-85294
¥3000+税 11/2(水)発売

※リサイタル情報などは下記ウェブサイトでご確認ください。
http://sarakobayashi.com

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