"光"と"闇"の鮮明なコントラストを描ききった、andropのツアーファイナル
androp Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
one-man live tour 2016 "best blueprint" 2016.10.16 Zepp DiverCity
今年3月、image worldを立ち上げ、7月にはキャリアを総括するようなベストアルバムを発表、さらに先日10月12日にニューアルバム『blue』をリリースしたばかり――と、現在andropは変化の季節真っ只中にいる。そんな中で全国5都市をまわるツアー『one-man live tour 2016 "best blueprint"』は開催され、Zepp DiverCityにてファイナルを迎えた。
誰もいないステージが照明によって真っ青に染められると、場内にSEが鳴りわたる。それに合わせてフロアからは手拍子が自然発生し、オーディエンスに迎えられるようにメンバーが姿を現した。1曲目は「Voice」。イントロを聴いてこの曲の始まりをいち早く察したオーディエンスが歓声を上げ、場内が歓喜に包まれていく。早々に熱を帯びていく伊藤彬彦(Dr)のビートはまるで今この時を待ちわびていた私たちの鼓動そのもののよう。リズムの要を担う前田恭介(Ba)のプレイは聴き手の昂揚感を引っ張り出し、大きな放物線を描く佐藤拓也(Gt/Key)のフレーズはステージとフロアを繋ぐ架け橋となった。<今 誰の代わりもいない君の 生まれた声を聞かせてよ/どこにも代わりのいない君が 信じた声で叫んでよ>――先述のように今はバンドにとって転機ともいえるタイミング。何年後かに振り返ってもきっとandropにとってのターニングポイントだと言えるであろうこのツアーで真っ先に届けられたのが、聴き手とバンドの関係性を体現した「Voice」であることが彼らの性格をよく表している。ライブの場で進化を重ね、聴き手とともに次なるステージを目指し続けてきたこのバンドが大切にしているのは、結局そういう部分なのだ。
androp Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
image world立ち上げ直後の今年春に行われた全国ツアーが“これまで”の軌跡を確かめるものだとすれば、『blue』リリース直後に行われた今回のツアーは“これから”へ向かう意志を改めて提示するものだった。サポートにキーボーディストを招き、できる限り人力で演奏していた点にも「自分たちの足で歩いていくんだ」というバンド側の想いが表れていたし、実際、彩度と肉体性の増したアンサンブルは説得力十分。そんなサウンドを携えながら、内澤は一語一語をはっきりと相手に伝えるように、同時にその言葉の意味を自ら噛みしめるように歌っていたのだが、特に<羽はないけれど/飛びたけりゃ自分で飛ぶんだ>と歌う「One」にはセットリスト序盤ながら胸を熱くさせられた。性急な展開の中で一糸乱れぬチームワークを見せるバンドに圧倒される「Roots」、前田&伊藤にサポートキーボードを加えたセッションが歓声を集めた「Colorful」と、畳みかけるような展開で以ってバンドの現在地を伝えていく中、「みんなの声聞かせて」とフロアへ語りかける内澤。すると早速、目一杯のシンガロングが返ってきたのだった。
androp Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
歓喜とともにドライブしていく前半戦から徐々にテンポを落としていき、バラードに行き着いたあとには再び加速――というふうに鮮やかに起承転結を描いていくセットリスト。“best blueprint”というツアータイトルからも察せられるようにこの日はベストアルバム収録曲が多く披露されたが、どの曲も最新型のandropサウンドにアップデートされている。そうしてサウンド面での探求を相変わらず怠らないところからも、また、ステージ上のメンバーの表情がやわらかくて変に気負っている様子のなかったことからも、バンド内の風通しのよさが伺えた。
androp Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
14曲目、結成当初から大切にされてきたバラード「Hana」が一際優しく届けられる。その直後、ライブ冒頭と同じようにステージが真っ青に染まり、軋むようなギターの音がこれまでの空気を切り裂いた。そう、この日のライブは二部構成ともいえるセットリスト。今思えば、「ありきたりでもいいから信じた道を進んでほしい」というメッセージを持つ「Hana」がその境目で演奏されたことはとても意義深い。
androp Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
ステージ背後のスクリーンに無数の目が映し出される中、<殺したいほど憎んだ あなたを憎んだ>と叫びながらボウイング奏法でギターを掻き鳴らす内澤の姿が鮮烈な「Kaonashi」、淡々としたリリックの中に野心がギラつく「Irony」、デジタルサウンドを用いたダンスチューンといえども享楽的なテンションとは程遠い「Digi Piece」……と、15曲目以降は『blue』の曲を収録順通りに完全再現してみせた。光や希望を想起させるサウンドが主だったこれまでの作品とは異なり、闇や絶望ですべてを塗りつぶすような作品となった『blue』。内澤曰く、「音楽を通して光や希望を描いてきたのは、聴く人の背中を押してくれる音楽の力を信じてきたから」であり、「強烈な闇や絶望を表現すれば聴く人それぞれによって違う想いがわくし、それが光の欠片になる」と考えているのだそう。
androp Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
光がある限り影は生まれ続ける。絶望に陥ってしまうのはその直前まで相手のことを信じていたからこそである。言葉にするのは簡単、でも実は実感が得難い“表裏一体”という概念に真正面から対峙していっているのが今のandropである。そしてそれは、バンドとして鳴らせるもののバリエーションを増やし、自らの表現により確かな“音楽の力”を宿らせるため、であろう。結成当初まで遡ってみれば、メンバー名すら公表せずに活動していたのは自分たちの音楽を先入観のない状態で受け取ってもらうためだったというし、つい最近の話でいうと、「聴き手にどのように音楽を届けていくか」を考えた上でimage worldを立ち上げようという決断に至ったという。つまり、やっていることは変わらない。天から降り注ぐ光そのもののように開放的なサウンドを鳴らそうとも、心のカサブタをあえて剥がすかのように闇深くに潜り込もうとも、匿名主義とともに構築美を追求しようとも、バンドの生身の姿を打ち出すような方向性にいこうとも、どれもこれも音楽の純度を保つ/高めるための手段であって、そういう意味でこのバンドには嘘がないのだ。
androp Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
全20曲を演奏したこの日のライブは、内澤の「ようこそ、andropへ!」という言葉で始まり、「また音楽で会いましょう」という言葉で幕を閉じた。4人の真ん中にある気持ちが変わらないかぎり、andropという名の音楽はますます他に代えがたいものになっていくことだろう。大切な想いを携えながら、彼らの旅はまだまだ続いていく。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=橋本 塁(SOUND SHOOTER)
androp Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
発売中
『blue』通常盤
androp 会員サイト限定盤(CD+特殊パッケージ仕様)
ZXRC-2006 ¥4,167+税
※収録楽曲のデモ音源3曲の中からランダムで1曲聴くことができるシリアルナンバー封入の特殊パッケージ仕様
[収録曲]
1. Kaonashi
2. Irony
3. Digi Piece
4. Sunny day
5. Kienai
6. Lost