飯森範親と日本センチュリー交響楽団による快進撃が始まりそうな予感 ~望月正樹 楽団長に聞く
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日本センチュリー交響楽団 首席指揮者 飯森範親 (c)s.yamamoto
今年4月、ザ・シンフォニーホールに飯森範親指揮、日本センチュリー交響楽団の演奏するマーラー「交響曲第9番」が鳴り響いた。「死に絶えるように ersterbend」と書かれた第4楽章最後の音が消えた後の静寂、そして起こった爆発的な拍手喝采は、首席指揮者 飯森範親体制3年目となる日本センチュリー交響楽団の更なる発展を予感させるかのようであった。
日本センチュリー交響楽団と首席指揮者 飯森範親 ザ・シンフォニーホールにて (C)s.yamamoto
2011年、大阪府政改革により大阪府からの補助金が全廃され、民間のオーケストラとして活動することを余儀なくされた大阪センチュリー交響楽団は、日本センチュリー交響楽団と名称変更し、経営改善を重ね、設立時に大阪府から出資された基本財産20億円を運営財源に演奏活動を続けている。
2014年には首席指揮者に飯森範親が就任すると、楽団は活動の幅を広げ、攻めの戦略を打ち出した。ザ・シンフォニーホールでの定期演奏会を1公演から2公演に増やし、いずみホールでの年4回の定期演奏会を「ハイドンマラソン」と称し、ハイドンの交響曲を全曲、演奏・録音するプロジェクトとしてスタート。
新たに今シーズンよりジャンルを超えたコンサート「エンジョイ・センチュリーシリーズ」を実施し、「ゴジラ音楽祭」や「ドラゴンクエスト」といった映画音楽やゲーム音楽の世界にもチャレンジ。そして、オーケストラが劇場の指定管理事業に関わるという事で大きな話題となった豊中市立文化芸術センターの「こけら落とし記念演奏会」も盛況のうちに終え、年明けからホールは本格稼働することに。
コンサート以外でも、社会貢献事業やアウトリーチ活動など多岐にわたる活動を行っている日本センチュリー交響楽団。彼らのこういった活動は意外と知られていないのではないか。
3年目のテーマは 発展 !と力を込める首席指揮者 飯森範親 (C)山岸伸
3年契約でスタートした首席指揮者 飯森範親体制も2年半を経過。現在、楽団はどのような状況にあるのか。望月正樹 楽団長に聞いてみた。
--飯森範親さんが首席指揮者になられて2年半が経過。どんな変化がみられますか?
望月正樹: 定期演奏会を金曜、土曜固定で2公演にした効果としては、1回の時と比べて2日間で平均300~400人動員が増えました。楽員にとっても本番が1回増えると演奏力は格段に進歩します。お客さまに聴いていただく機会を増やす意味でも、財政的に許される状況であれば2公演で行きたいと思っていますが、欲を言えばあと100人でも200人でもお客さまを増やしたいですね。」
--2年目を迎えた「ハイドンマラソン」はいかがですか?
望月: ハイドンは地味なイメージがあり動員につながるのか心配でしたが、毎回確実に500人ほどの固定のお客さまにお越しいただいています。そこからどれだけ動員数を積み上げられるかが鍵ですね。飯森マエストロとがっちり向き合っての音楽作りはとても刺激的です。ハイドンだからといってピリオド的なアプローチにこだわるのではなく、ピリオドとモダンの良いとこ取りの、センチュリーらしいハイドンの音楽を作っていければとマエストロとも話しています。やり始めて、アンサンブルがしっかりしたとお客さまのお褒めの声も多くいただいています。ハイドンのシンフォニーは多いので、8年から10年がかりの長丁場になりそうですが、なんとか最後までやり遂げたいです。
--コンサート以外の社会貢献事業やアウトリーチ活動にもしっかり取り組まれていますね。
望月: はい。そういった活動は、楽団のもう一つの柱だと考えています。単に演奏が上手いオーケストラになることを目指すのではなく、優れた才能の発掘・育成に寄与したり、地域連携事業に携わり、地域の力を発信したり、国際相互理解や平和に積極的に貢献することなどを理念に置いて活動をしています。
豊中市立文化芸術センター「こけら落とし記念演奏会」(2016.10.10) (C)s.yamamoto
--待望の豊中市立文化芸術センターがオープンしました。
望月: そうなんです!グランドオープンは来年1月の谷村新司さんとのコンサートになります。先日の「こけら落とし記念演奏会」は、豊中出身のヴァイオリニスト神尾真由子さんをお迎えして、飯森マエストロの指揮で満員のお客さまに囲まれて行いました。
首席客演指揮者 アラン・ブリバエフ
チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」の独奏はエフゲニー・スドピン (C)Mark Harrison
「アレクサンドル・ネフスキー」の独唱は小山由美(メゾ・ソプラノ)
--今月の定期には首席客演指揮者アラン・ブリバエフが、来月の定期には飯森範親さんが登場します。聴き所を教えてください。
望月: 今月の第212回定期演奏会を指揮するのは、首席客演指揮者アラン・ブリバエフ。鉄板ピアノ協奏曲チャイコフスキーの第1番をロシア期待の若手ピアニスト、エフゲニースドビンが演奏します。メインは、アランが愛してやまない作曲家プロコフィエフのカンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」。この曲、元は映画音楽ですが、オーケストラの奏でるドラマチックなメロディと150名の迫力ある合唱の響きをご堪能ください!この曲を得意にされているメゾ・ソプラノ小山由美さんをお迎えするのも楽しみです。
世界のファジル・サイがセンチュリーの定期演奏会デビューを果たす! (C)Marco Borggreve
11月の第213回定期演奏会には、世界的なピアニストにして作曲家のファジル・サイが初登場します。彼とは何度も共演実績のある首席指揮者 飯森範親の指揮で、モーツァルトのピアノ協奏曲第21番と、ファジル・サイ自身の作品、交響曲第1番「イスタンブール・シンフォニー」を演奏します。この曲は2014年に飯森マエストロ自身が日本初演されました。イスタンブールの風景が目に浮かぶようなとても聞きやすい曲です。また、モーツァルトのピアノ協奏曲第21番はファジル・サイが好んでよく取り上げる曲で、彼のオリジナルのカデンツァに注目です。そして、なんと言っても注目はアンコール!きっと本編に負けず劣らず楽しませてくれることでしょう。
ハイドンマラソンにチェロのヨハネス・モーザーが登場。 (C)WVE ARENS
12月のいずみホール定期演奏会「ハイドンマラソン」は、ソリストに2002年のチャイコフスキーコンクールの最高位受賞(1位なしの2位)チェリスト、ヨハネス・モーザーでハイドンのチェロ協奏曲第1番と、初期、中期、後期の代表的なシンフォニーを3曲演奏します。飯森マエストロとセンチュリーが作り出すハイドンの調べをぜひ一度お聴きください!
* * *
指揮者 飯森範親と云えば、山形交響楽団での活動記録をまとめた「マエストロ、それはムリですよ…」が2009年発刊当時、ビジネス本としても話題となり、すぐに書店に走り興味深く読んだ事を思い出す。表紙の帯に書かれていた「ムリ」を「当たり前」に変える!と云うコピーがとても刺激的だった。2014年、日本センチュリー交響楽団に彼が首席指揮者で来ると聞いた時には「なるほど、センチュリーの現状を打開するには、彼くらいのアイデアやリーダーシップが必要なんだろうな。これは面白くなりそうだな!」と思ったものだ。
就任から2年半、マエストロとオーケストラ、ファンの関係はどうなっているのか?予断を許さない楽団の状況は好転しているのだろうか? 今回、望月楽団長に話を聞いて理解した。予想していた事では有るが、やはり関西人は一筋縄ではいかないらしい(笑)。少々時間はかかっているが、取り巻く状況は確実に変わりつつある。そして、マエストロもオーケストラも誰も諦めていない。これからが本番だと。
もともと関西きっての高度な技術を有するオーケストラ!と誰もが認める日本センチュリー交響楽団。技術はさらに熟成され、深みを増して……。彼らの演奏は今が旬!聴き逃すわけにはいかない。
(取材・文:磯島浩彰)
10月28日(金)19:00開演(18:00開場)
10月29日(土)14:00開演(13:00開場)
■会場:ザ・シンフォニーホール
■指揮:アラン・ブリバエフ
■独奏:エフゲニー・スドピン(ピアノ)
■独唱:小山由美(メゾ・ソプラノ)
■合唱;大阪センチュリー合唱団
■曲目:
チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番
プロコフィエフ/アレクサンドル・ネフスキー
料金:S席7500円、A席6000円、B席4500円、C席3500円、D席1500円
11月25日(金)19:00開演(18:00開場)
11月26日(土)14:00開演(13:00開場)
■会場:ザ・シンフォニーホール
■指揮:飯森範親
■独奏:ファジル・サイ(ピアノ)
■曲目:
モーツァルト/歌劇「後宮からの逃走」序曲(25日)
リュリ/バレエ音楽「町人貴族」~トルコ人の儀式のための行進曲(26日)
モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番
ファジル・サイ/交響曲第1番「イスタンブール・シンフォニー」
■料金:S席7500円、A席6000円、B席4500円、C席3500円、D席1500円
■会場:いずみホール
■指揮:飯森範親
■独奏:ヨハネス・モーザー(チェロ)
■曲目:
ハイドン/交響曲愛2番
ハイドン/チェロ協奏曲第1番
ハイドン/交響曲第50番
ハイドン/交響曲第88番「V字」
■料金:A席4500円、B席3500円