ビッケブランカ 祝・メジャーデビュー記念! 意外に長くて険しい激動の音楽歴を一気に振り返る
ビッケブランカ
インディー・ポップシーンからまたひとり、大きな才能が登場した。その名はビッケブランカ。サウンドはきらめくピアノポップ、歌はパワフルで美しいファルセット、緻密な多重コーラス、歌詞は物語とメッセージを一体化したプロットツイスト(どんでん返し)系。フレッシュな驚きにあふれた音楽と、明るく饒舌な性格、その裏に秘めた創作への動機もきわめて興味深い。果たしてビッケブランカとは何者か? メジャーデビュー・ミニアルバム『Slave of Love』のリリースを機に、その音楽経歴を一気に振り返る初インタビューをお届けする。
21歳でピアノを覚え、22歳でメンタルが変わり、
23歳でファルセットを覚えた。この3年間が肝です。
――個人的に、インディーズの頃から聴いているのでうれしいです。どうですか、メジャーデビューというステージに立って。
インディーズの最初のアルバムを出す時は、“メジャーデビューっていいなあ”とか思っていたんですけど。一つひとつ積み重ねて、次はメジャーデビューというのは自然な流れだよね、という感じです。気張ることもなく、飛び跳ねるほどではないけど、事実として関わってくれる人が増えたのを感じて、それがただうれしいという感じですね。
――なるほど。頼もしいです。
メジャー1枚目というよりも、僕の中では3枚目。ここでたくさん面白いことが起きそうな予感がする3枚目です。
――音楽的なプロフィールの話をしましょう。もともとどこから入ってますか。
さかのぼればマイケル・ジャクソン、ベイ・シティ・ローラーズ、チューリップとか、両親に聴かされたルーツはあるんですけど。自分で楽器を持って歌い始めるのは、中学校でRIZEを見てバンドを始めたことですね。
――ロック入りなんだ。
はっきりしたロック入りですね。順番で言うと、キング・オブ・ポップのマイケル・ジャクソンを親に教えられ、チューリップというちょっと前の時代のポップスを聴いて、自分ではSMAPが好きになって。で、中学に入ってRIZEをきっかけにギターを始めて、バンドをやる楽しさを覚えて、だけど曲を作るほうが楽しいと思って、宅録で曲を作っていた。ライブをしたことがなかったんですよ。高校に入ってからも、リンプ・ビズキット、リンキン・パークのようなミクスチャーロックを作り、大学に入っても2年間はギター&ボーカルでした。でも何か違うと思ってすぐに解散。ひとりになってまた始めて、音楽事務所に入るんですけど、ある時急に“俺のパートナーはギターじゃない!”って思い始めるんですよ。
――おや。それはなぜ?
しっくりこないんです。映像を見ても。どうしよう?と思った時に、家にピアノがあって、ちょっと弾いたことがあったので、ピアノでも弾いてやるかと。当時はピアノを弾いて歌うJ-POPのアーティストはいないような気がして、面白そうだと思ってやり始めるのが21歳の時ですね。1年間ぐらい集中して練習して、なんとか人さまに見せれるぐらいにスキルを上げて、その間に知ったベン・フォールズ、ビリー・ジョエル、エルトン・ジョンとかをどんどん吸収して。今まではロックを根底にして曲を作っていたんですけど、今度はピアノから曲作りが始まっていったんです。
――そこが大きいターニングポイント。
そこですね。21歳の時です。あの頃はいろんなことが変わって、成熟できた時期でした。いい曲を作る自信はあったんですけど、それまでは人間的に子供だったんですよ。
――と言うと。
“君は何を歌いたいんだ?”って聞かれても、“そんなのわかんないですよ”って。“これがかっこいいからいいじゃないですか”って。歌詞に意味を求めてなかったんですよ、音楽を作り始めてからずーっと。たとえば「ONE MORE KISS」という曲だったら、その言葉だけがサビで伝われば、ほかはサウンドがかっこよければいい。そう思っていたんですけど、当時所属していた事務所の副社長とがっつり向き合って、“君にも音楽を作る理由が絶対にあるはずだ”って。君はそれがないって言うけど、絶対あるんだって。なかったら作らないんだって言うんですよ。
――えらい人です。
でも、どんだけ考えてもわかんなかったんですよ。だって“音がかっこいいから”でしかないのに。そういうものを作って聴いて“楽しいでしょ?”って言いたいだけなのに。と思ってたんですけど、掘りに掘っていけば、ずっと昔に嫌なことがあったりした時に、音楽ばかり聴いていたんですって、僕。“子供の頃、スピーカーの前に座ってたよ”って。
――ああ。親が言うには。
音楽でいろんなことを発散したり、目をそむけたり、そういう存在として音楽があったんですよ。そういうことを紐解いていった。中学校で転校して3か月間、ものすごくいじめられたんですよ。小学校で培ってきた信頼がないところに放り込まれて、自分に何の影響力もないし、また一からヒエラルキーをのぼっていかなきゃいけなかった。結果ハッピーな感じで終わってるからいいんですけど、その時にも常に音楽があった。さらにもっといろんなことがあるんですけど、意外と助けてもらってたんだなって、紐解いて紐解いて、自分と向き合う期間があって。
――それは正直、つらい作業じゃないですか。
本当に苦しかったけど、人間として成長した1年間でしたね。そこで人間性が変わって、歌詞を書いたらまた違う言葉が生まれてきて。本当に言いたいことがあったら、それを伝えたくてしょうがない。サウンドを少し削ってでも言葉を伝えたいという、昔の自分からはまったく想像できない状況になった。作詞は難しいからこそ楽しいという状況に、今いる感じですね。……こういう話でしたっけ?
――こういう話です。いい話だなあ。よくわかりました。もう今は強く意識せずとも、言いたいことを曲に乗せるのが普通になった?
それがスタンダードになりましたね。その上でさらに何ができるか?ということまで考えるようになりました。
――今、曲作りは完全に鍵盤ですか。
鍵盤です。ギターはあとで飾りで入れるくらい。
――ピアノ弾き語りの曲もありますけど、最初はああいう裸の形から。
そうです。あの「Your Days」という曲の感じですね、だいたいは。もっとアップテンポの曲になると、リズムと一緒に作っていきますけど。リズムとメロディとコード感が同時にできてくるみたいな。
――「Natural Woman」は?
あれもリズムとコード進行、メロディ先行ですね。CMのタイアップ(en Naturalグリーンスムージー)として書き下ろしたので、最初はサビだけだったんですよ。速いテンポで、攻撃的で、裏声でスカッとしたメロディを、というオファーがあったので、わかりましたと。自然にできましたね。
――あの曲がこの中で一番古いですか。CMが春ぐらいでしたっけ。
5月ですね。楽曲を作ったのは4月です。でもメロディの構想自体は5年ぐらい前からあったし、「ココラムウ」のビートは6年前のデータをそのまま使ってるし。「Golden」も4年前ぐらいですね。当時は歌詞がまだ英語なんですよ。歌詞の意味なんてどうでもいい、音が気持ちよければいいという時代の曲。22歳の頃の転機を経て、音楽が生まれる本当の理由、音楽がずっと愛され続ける理由、人の心に刺さる、記憶にさわる理由ということを学んだ上で、もともとあった曲に新たに歌詞をつけました。メロディは昔の自分、歌詞は今の自分が作ってます。
――これは本当にいい歌詞。ピュアな友情ソングというか。
レコーディングが始まって、「Golden」の歌詞はまだできてなかったんですよ。なんとなくのイメージと、母音ぐらいしか決まってなかったんですけど。レコーディングのさなかで、年齢も違えば役割も違う、エンジニアの人やオーケストラの人や、全然違うルーツを持った人たちが集まって一つのCDを作るために、ああでもないこうでもないと言い合う様子を見てて、“友情やん”みたいな。
――ああ~。なるほど。
尊敬する人ばっかりだったんですよ。エンジニアは渡辺省二郎さんで、ドラムは佐野康夫さんで、ベースは沖山優司さんで。学ぶべきところがたくさんある人たちなんですけど、一緒にやってると“ダチやん”みたいなメンタルになっていくんです。失礼かもしれんけど、同じ仲間と思ってしまったので、それを広げて書きました。
――友情が“いつかは金色に光る銅像になる”という。どこから出てくるんですか、こういう発想。
なんですかね(笑)。みんなで一緒になって最後にいいものができて、それぞれがやっているところの銅像がいっぱい並んでたらいいな、みたいな感じ。いいじゃないですか、モニュメントって。永遠に生き続ける変わらない象徴になるなんて素敵やん、みたいな感じですね。
――ビッケブランカは歌詞に特徴があって、起承転結というか、オチがある。「Slave of Love」とか、恋多き男の独白みたいな曲ですけど。もう苦しい、もう嫌だ、一生恋なんてしない、とか言いながら、オチは“この恋が最後だから”って。まだするのかよ!って。
しちゃうんですよ。もうこれが最後にするから、ごめん、するわっていう(笑)。そういうふうに展開していくのって、面白いじゃないですか。
――めっちゃ面白いです(笑)。そういう展開は最初から考える?
考えます。こんなふうだったら面白いな、最後には恋しちゃうんでしょ、わかるわー、じゃあそれを書き始めようって。
――詩人というより、物語の作り手。作家なのかな。
小説を読むのが好きな時期はありました。そんなに深いものは読まなくて、推理小説とか、プロットツイスト(どんでん返し)系。最後に驚きのある小説が好きです。映画もそうですけど、『ユージュアル・サスペクツ』のようなどんでん返し系。『ゲーム』とか、『ファイト・クラブ』もそうか。なので自分で歌詞を書く時も、“うわーっ”と驚くまでは行かなくても、“あ、そうなるの”とか、“ああ、はいはい”とか、納得してほしいと思ってます。
――プロット・ツイストは、ビッケブランカの作詞法には大事なキーワード。
そうですね。それは歌詞だけじゃなくて、ライブも、アートワークも、“こんなので来る?”という驚き。賛否両論になろうとも、そういうものが好きですね。驚かせるのが好き。
――このインタビューでも驚いてますよ。ポップでロマンチックな曲と、饒舌にぶっちゃけるキャラクターの落差がすごい(笑)。
幼少期から目立ちたがりなもので(笑)。何かできたら披露したくなるし、何でも一番を目指したい。目立ちたがり屋でした。
売れたいです。曲に込めた思いがたくさんの人に伝わってくれるんだったら……って、小賢しいことを言うようになったんですよ(笑)。
――あと、なんといっても特徴的なのは歌。ファルセットと多重コーラスがビッケブランカの最大の魅力だと思うんですけど、これは昔から?
いや、最近ですね。ピアノで曲を作り始めた、さらにあとなんで。当時の所属事務所の人に、ミーカを教えられたんですよ。それまでは地声で歌ってたんですね。地声が低くて、声域が狭いから、その間でメロディを作らなきゃいけない。大きい声を出しても、ガナる声になっちゃって聴いてられない。そこがずーっとコンプレックスだったところに、ミーカを教えられて、“こんな裏声で歌うのを良しとして、作品にして、それが売れちゃうんだ”ということを知って、やってみたら、けっこう高いところまで出た。裏声喉だったんですよ。
――パワフルで、のびやかで。
今ほどじゃないけど、スカーッと行ったんですよ。“これは行ける、見えた!”と思って、作曲に使う鍵盤の数が増えた。こんなに楽しいことはない、もっと新しい曲が作れるぞって、毎日ミーカの歌や、クイーンの歌や、女性の歌をファルセットで歌い続けたりしてたんですよ。楽しくて。それで徐々に、キュッと締まった突き抜けるような声が出るようになって、今に至る。それが23歳の時ですね。21歳でピアノを覚え、22歳でメンタルが変わり、23歳でファルセットを覚えた。この3年間が肝です。
――あらためて、今回のメジャーデビュー1作目『Slave of Love』。どんな作品になったと思いますか。
インディーズの1枚目『ツベルクリン』も自己紹介アルバムではあったんだけど、ジャケットで顔を隠してるんですよ。で、あらためて華やかに自己紹介という時に、顔面ドーン!で行こうと。ちょっと隠したり、遠目だったり、色がくすんでたり、脱力感がオシャレとなっているこの時代に、“いやいや、そうじゃない”と。昔のCDジャケットなんて、みんな顔面ドーン!だぞと。草食だとか、はっきりものが言えないとか、規制が増えたとか、そういう世の中だからちょっと隠すのがオシャレだと思われてるけど、本来こっちが正義だと。
ビッケブランカ『Slave of Love』
――なるほど。
それと合わせて曲も、自分の中の受け入れやすい部分をデフォルメするよりも、やれることを全部詰め込む。英語で軽快に歌い上げる、ブラック寄りの要素の入った「ココラムウ」を1曲目に置いて、サビでドーンと裏声を聴かせる「Natural Woman」があって、歌詞の構成がしっかりしていて、展開がどんでん返しで楽しい「Slave of Love」があって。だけどちゃんとしたJ-POPバラードの「Echo」もしっかり入れて、自分の本来の根幹にあるピアノと歌だけで勝負する「Your Days」があって、最新の歌詞の書き方をした「Golden」で新しい世界を見せて、小細工しないピアノロック・サウンドを装飾せずに入れて。で、「Natural Woman」の英語版は……ビッケブランカは裏声で行ったり地声で行ったり、歌詞も男らしいと思えば女々しかったり、共存があるんで、男だけど女の化粧をしたんですよ。ジャケットで。
――ああ。そういうことか。
無性別というか、両性別感が面白いよねという話になって。「Natural Woman」の日本語バージョンは男目線で歌って、英語バージョンは女目線で歌ってるんですよ。それを体現する曲で、最後を締める。そういうアルバムです。
――ありがとうございます。あまりに完璧で付け加える言葉がないです(笑)。
これがビッケブランカです、よろしくというアルバムです。
――売れたいですか。
それは売れたいです。曲に込めた思いがたくさんの人に伝わってくれるんだったら、売れたいです。……って、小賢しいことを言うようになったんですよ(笑)。昔だったら、“売れたいっすよ、武道館でやりたいっすよ”って感じでしたけど、今は“自分が何で売れたいのか?”と思うと、せっかく自分が生み出して、世の中が何かしら良くなれとか、聴いた人の気持ちがちょっとでもいいから良くなれとか、マイナス方向にだけは行かないでくれとか、それだけを考えてるんで。ちゃんとそういう曲が作れてるって、自分で思うんですよ。日本中の人が聴いてくれたら、日本中の全員の気持ちがポジティブになる。生まれた意味があるじゃないですか、このアルバムが。そういう意味でいろんな人に聴いてもらいたいから、売れたいです。
――老若男女。ポップもロックも。
何も限定してない。今の若者はギターロックしか聴かないからそっちをデフォルメしたほうがいいとか、アドバイスをくれる人もいるんですよ。でもそういうことじゃない。無性別感と同時に、無時代感も大事だと思っていて。音楽には歴史があるわけで、黒人音楽、白人音楽、アフリカ音楽、ギターの歴史、ピアノの歴史、パーカションの歴史、たくさんある中でどの歴史をどう紡いでいくか。その中で僕はどこに属するのか、どこにいたいのかを考えて、そこを紡いでいく。そういう意識ですね。今の時代がどうとかは一回無視して。そういうメンタルでいます。
取材・文=宮本英夫
ビッケブランカ『Slave of Love』
AVCD-93490 ¥1,800+税
<収録曲>
1. ココラムウ
2. Natural Woman
3. Slave of Love
4. Echo
5. Your Days ※s**tkingz舞台「Wonderful Clunkerー素晴らしきポンコツー」三浦大知 歌唱楽曲
6. Golden
7. Natural Woman[English] ※en Natural グリーンスムージー TV-CMソング
■TOWER RECORDSオリジナル特典
オリジナルCD [「Slave of Love」「Echo」2曲弾き語り音源 ]
※ご予約者先着となります。無くなり次第、終了となります。
10月29日(土) 13:00~ タワーレコード梅田NU茶屋町店 6F イベントスペース
10月30日(日) 18:00~ タワーレコード名古屋パルコ店 西館1Fイベントスペース
11月5日(土) 14:00~ タワーレコード札幌ピヴォ店 店内イベントスペース
11月6(日) 16:00~ タワーレコード福岡パルコ店 イベントスペース
11月12日(土) 14:00~ タワーレコード渋谷店屋上 SKY GARDEN
2017.1.13(金) 愛知・名古屋SPADEBOX OPEN18:30 / START19:00
2017.1.15(日) 大阪・心斎橋JANUS OPEN17:30 / START19:00
2017.1.20(金) 東京・渋谷WWW OPEN18:30 /START19:00
2017.1.22(日) 北海道・札幌SOUND CREW OPEN17:00 / START17:30
<前売>
¥3,000-(税込) ※ドリンク代別
一般発売開始日時:12/18(日) AM10:00~