華やかで残酷で哀しくて愛おしい『ミュージカル「黒執事」~NOAH’S ARK CIRCUS~』写真付き稽古場レポート
撮影=福岡諒祠
ミュージカル「黒執事」の最新作、『ミュージカル「黒執事」~NOAH'S ARK CIRCUS~』の稽古場が取材陣に公開された。ロンドンの町に頻発する子どもの失踪事件とその真相をめぐる悲しみに満ちたストーリー“ノアの方舟サーカス編”。この日見ることができたのは、物語の謎が解き明かされていく後半部分のドラマティックなシーン。主人公のシエル、執事のセバスチャン、サーカスの後見人・ケルヴィン男爵、そしてサーカス団ノアの方舟のリーダーで道化師のジョーカーが男爵の館で対峙する、クライマックスへの入り口である。
広い稽古場の中に組み立てられたセットは、仮のモノとはいえ高さも大きさも非常に迫力のある頑丈な造り。これだけですでに物語世界の重厚さが感じられる。その広いエリアの中、前回に引き続きセバスチャンとしてカンパニーを率いる古川雄大は、両手に白手袋をはめた“悪魔で執事”仕様で登場。常にスッっと伸びた背筋とどこか凍り付くような悪魔びた視線でシエル坊ちゃんに仕えている。
一方の若き貴族の当主・シエルを演じる内川蓮生は今回がシリーズ初参加だが、マントを羽織り、冷酷な台詞を口にするその凛とした姿はまさに気品のあるシエル。少年ながら堂々セバスチャンを従え、事件を解明するためにケルヴィンの屋敷へと乗り込んでくる。
撮影=福岡諒祠
ふたりを迎えるのは、生きるためにサーカスでの“裏稼業”もこなしてきた三浦涼介演じるジョーカーと、事件の鍵を握っている小手伸也演じるケルヴィン男爵だ。
小手はシエルに異様に執着し、その思いにとりつかれている男爵の狂気を幼児性という切り口で表現。不似合いな甘い口調が男爵の異常性を際立たせ、いい意味での居心地の悪さで場面を支配していく。
撮影=福岡諒祠
ここで内川シエルに要求されるのは、その男爵の狂気を上回るクールさ。演出の毛利亘宏はたびたび芝居を止め、相手が大人でも迷いなく拳銃を突きつけるシエルの心情について丁寧に内川に伝えながら、よりシエルらしい動きが生まれるように演出をつけていく。感覚を研ぎすませ、毛利の言葉ひとつひとつに大きく頷きながらピュアな脳みそをフル回転して食らい付いている様子が頼もしい内川。
撮影=福岡諒祠
男爵の頭の辺りを踏みつけるくだりでは多少の躊躇があったようだが、男爵のキャラにかぶせて「これもご褒美。どんどん踏んで欲しい」と小手がお茶目にフォローする場面もあり、緊張感の中にも和やかさを持って稽古は進んでいた。
撮影=福岡諒祠
撮影=福岡諒祠
孤児だった自分を助けてくれた男爵への思いと、自分たちの犯した残忍な罪との間で揺れ動くジョーカーの慟哭を叩き付けていく三浦の熱さもいい。言葉のひとつひとつがしっかりと観る者の胸へと届き、状況は破滅へしか向かわないんだというやるせなさが迫ってくる。そこへ追い打ちをかけるのが、愚かな人間たちのことを見つめ続ける古川セバスチャンの存在だ。
撮影=福岡諒祠
セバスチャンとジョーカー、古川と三浦のふたりが直接ぶつかり合うアクションシーンは「よりスピーディーに、よりスタイリッシュに」がテーマ。台詞の間に合わせながら何度も繰り返される一連の手。その流れをじっと見つめ、いざ繊細な調整に没頭していく毛利。アクションモノの達人でもあるだけに、ムダのない美しい殺陣への要求も高い。その思いに応えるべく一度聞いただけで華麗なターンでナイフをふるってみせる古川と、その動きに瞬時に反応して受け方を変えていく三浦のコンビネーションも鮮やか。
撮影=福岡諒祠
見応えのあるアクションシーンが確実に繋がり始める。ジョーカーは片方が義手という設定なので、生身の腕と義手を斬られたときの差異にも注目しながら殺陣が組み立てられていたのも興味深かった。
撮影=福岡諒祠
撮影=福岡諒祠
稽古全体の進行は「スピード感はありつつ丁寧に」という印象。アクションの流れ、男爵の車椅子のさばき方、全体のテンポなどの「動き」と、それぞれのキャラクターの「心情」とをすりあわせていく作業はコツコツと地味ではあるが成果も大きい。内川を気遣いながら『黒執事』の世界感をガッチリと構築していく大人3人の完成度はもちろん、同じシーンを何度も何度も繰り返し検証していく中、場面を返すたびに内川シエルの芝居が着実にのびのびと厚みを持っていくのが感じられ、改めて本番への期待値がグンと増した。
撮影=福岡諒祠
広い稽古場は、メインの稽古エリア以外でも歌練習をしているグループ、鏡の前で振りをおさらいしているダンサーなど、同時多発で進行。活気に満ちている。また、何度か取られたインターバルではセバスチャンとシエルがにこやかに談笑し、絆を深めていた。こうした何気ないひとときも、良い本番には欠かせない大切な時間となるのだ。
撮影=福岡諒祠
撮影=福岡諒祠
同じシーンに約2時間をかけたのち、場面は姜暢雄演じるサーカス団の専属医・先生の登場シーンへ……というところだが、この先はネタバレ注意! 『黒執事』のお楽しみのひとつ、事件の推理に関わる重要事項発生につき報告はここまでで。
とはいえ、このレポートもサーカス編の中のほんの一部をお伝えしたにすぎない。華やかで残酷で哀しくて愛おしいそのストーリーの全貌は、本番の劇場までもう少しのお預け。人生のサーカスの幕開けに、乞うご期待を。
取材・文=横澤由香 撮影=福岡諒祠
【東京公演】
日時:2016年11月18日~11月27日
会場:TOKYO DOME CITY HALL
【福岡公演】
日時:2016年12月3日~12月4日
会場:キャナルシティ劇場
【兵庫公演】
日時:2016年12月9日~12月11日
会場:あましんアルカイックホール
【愛知公演】
日時:2016年12月17日~18日
会場:刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
セバスチャン・ミカエリス:古川雄大
シエル・ファントムハイヴ:内川蓮生
ビースト:田野アサミ
ダガー:三津谷 亮
ウィリアム・T・スピアーズ:輝馬
アグニ:TAKUYA(CROSS GENE)
フィニアン:河原田巧也
メイリン:坂田しおり
葬儀屋:和泉宗兵
フレッド・アバーライン:髙木 俊
シャープ・ハンクス:寺山武志
ドール:設楽銀河
ピーター:倉知あゆか(G-Rockets)
ウェンディ:知念紗耶(G-Rockets)
ジャンボ:後藤剛範
ケルヴィン男爵:小手伸也
先生:姜 暢雄
※ドール役で出演を予定しておりました松井月杜は、変声期により本来のパフォー マンスを発揮できないという事情から、今回は大事をとりキャストを交代することにいたしました。新たなドール役は設楽銀河が務めさせていただきます。
■脚本:竜崎だいち/毛利亘宏
■演出:毛利亘宏
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ステージに近いアリーナ席やバルコニー席を含む【Sサイド席】あり。
申込時に座席番号を確認して購入いただけます。