アンダーワールド、35年の共同作業の賜物『Barbara Barbara, we face a shining future』を紐解く
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アンダーワールド
実は先日、来日中のカール・ハイドから突然連絡があり、私たちは会うことになった。もちろんそれはアンオフィシャルであり、取材などではなく私たちgalcid(ギャルシッド)のトラックを聞いたカールからの個人的な連絡であった。
ここ10数年、日常的に人様の音楽をほとんど聴いてこなかった私たちはもちろん現在のアンダーワールドがどのようなサウンドになっているのか、またカール・ハイドがどのような人なのか、そして何故私たちのトラックに興味を持ったのか全く情報を得ないままその日を迎えた。
イギリス人らしく紳士的な彼は、早速 紅茶をすすりながら話し始めた。
話はアンダーワールドが結成される20年以上前、60年代当時のミュージシャンシップが非常にオープンであり、様々な思想やテクニックの共有をお互いに惜しみなく行っていたという事から始まり。しかしながら90年代に入るとお互い手の内を見せず、閉鎖的になったと。
また、70年代になると、アートスクールに通うようになったカールはサイケデリック、グラムロック、パンクロック全盛の時期、そこで出会う師匠に膨大な実験音楽を教えてもらったことが現在の彼を形成していると語った。モートンサボトニック、ディックハイマン、モートガルソンなどなど。
変な音楽をしこたまインプットされたそうだ。「きっとその師匠がまだ生きていたら、君たちgalcid(ギャルシッド)の音を間違いなく聴かせてくれただろう」と。また、アナログシンセサイザーが見せる動物的な音動は素晴らしいとも語っていた。
その後、シンセサイザーによる実験音楽とジャマイカンルーツダブの虜になった彼はニューロマな化粧をし、様々なクラブやスタジオに出入りしていたそうだ。しかしながら、「最近は電子音楽に疲れてボブ・ディランを聞いているよ」とも。
さて、そんなカール・ハイドとリック・スミスが作り上げたアンダーワールドの最新作『バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』は、35年の共同作業の賜物だ。カールが語るように、アルバム中に彼が受けたであろう影響の端々がちりばめられている。
サイケデリックな世界を見事にアンダーワールド色に消化した「I Exhale」「Santiago Cuatro」「Motorhome」またカールはアンダーワールドが世界的にブレイクした直後から度々言われ続けてきた事に言及した。「僕たちは歌モノだから、クラブの連中には“バンドっぽすぎる”、そしてバンド好きな連中からは“クラブっぽすぎる”といつも文句を言われ続けてきたんだ(笑)。でも自分を信じてスタイル突き通す事は大事な事だよ」と。「Low Burn」を聞いた時、彼のそんな言葉を思い出した。
また、紳士ながらもカールの人懐っこい可愛らしい人となりを感じる「Ova Nova」。そしてズルいほどのシズル感を内包した「Nylon Strung」。カールのボーカリストとしての存在感、リックの巧みな音像処理が見事に融合した名曲に仕上がっている。そして、アルバム最終曲「Twenty Three Blue」のラスト10秒の個所で、何故カール・ハイドが接見しようとしたのかが理解できた。
アンダーワールドはポップスという武器を纏いながら、常にアンダーグラウンドミュージックの探求を忘れていない。繰り返し聞く事で味わいの増す傑作をまた一つ作り上げた。
アンダーワールド
文=齋藤久師
サウンドプロデューサー&デザイナー
twitter: @hisashi_saito
facebook: https://www.facebook.com/hisashi.saito.50?fref=ts
オフィシャルサイト: http://www.hisacid.com/
1991年『GULT DEP』でビクターエンターテインメントよりデビュー。 『Yセツ王』やLogic systemなどに参加。 2013年より、即興テクノユニット「galcid」をプロデュース。国内外問わず活躍の場を広げ、日本文化庁主催のメディア芸術際に召集されるなど、日本を代表するメディアアートの地位を確立。 最新著書「DTMテクニック99(リットーミュージック)」や、 CM、映画の他、シンセサイザーの開発なども手掛ける。更に、2016年10月より、Hisashi Saito名義として自身22年振りとなるDJ活動を開始。
(バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー)
国内盤CD: BRC-500 ¥2,450 (+tax)