舞台オリジナル外伝「魔劇『今日から(マ)王!』〜魔王暴走編〜」囲み取材、ゲネプロレポート
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舞台写真 撮影=竹下 力
『今日から(マ)王』は2000年に角川ビーンズ文庫で刊行されて以来、アニメ、漫画、ゲームと人気を博し、舞台は3度目の上演になる。今回は、原作のストーリーを取り込みながらもオリジナルにこだわり、小説やアニメなどから伺えないアナザー・サイドの“まおみゅ”になっている。今作が舞台初主演となる小西成弥を主人公・渋谷有利に迎え、2016年11月3日(木・祝)から13日(日)まで、全13公演を全労済ホール/スペース・ゼロにて上演。初日前日の囲み取材、ゲネプロのレポートをお届けする。※(マ)は○にマ。
――それぞれの役どころと今回の舞台の見どころを教えて下さい。
小西成弥(渋谷有利役):主人公の有利を演じるにあたって、演出家の菅野臣太朗さんに「日本を変えるつもりで演じてくれ」と言われました。最近の日本では珍しい「殿、ご乱心」というぐらい、他人の目は気にしないで、自分の思った通りに行動する。芯の強い心と正義感をあわせもつキャラクターです。一見仲が悪そうなグウェンダルと有利の仲が深まるところが見どころですね。
小西成弥 撮影=竹下 力
兼崎健太郎(グウェンダル役):眞魔国という魔族が住む国の、前魔王・ツェリツィーリエの子供3兄弟、グウェンダル、コンラッド、ヴォルフラムの長男です。普段は、真面目で頑固ですが、小さくてかわいいものが好きで、編みぐるみが趣味と意外性のあるキャラクターを演じています。個人的に好きなのは、ヴォルフラムと岡田地平の演じる勝利の関係性が好きです。稽古中も、ちょこちょこ見ていました。面白いやり取りをしているので見どころですよ。
兼崎健太郎 撮影=竹下 力
渡辺和貴(コンラッド役):いつも優しく有利を見守っているけれど、今回は優しい一面だけではなく、亡くなったスザナ・ジュリアという女性とアーダルベルトと三角関係になって、恋愛バトルを繰り広げる場面がありますので、そちらも楽しみにしてください。
渡辺和貴 撮影=竹下 力
樋口裕太(ヴォルフラム役):初演では、有利のことを魔王と認めなかったのに、2回目は婚約者であり恋人として、今回は夫婦のような仲を見せられたらと思っています。
樋口裕太 撮影=竹下 力
小谷嘉一(ギュンター役):王佐、有利の補佐をする役です。いつも血盟城にいますが、今回はお城を飛び出して砂漠に旅だったり、3回目にして、初めて殺陣をやったのでぜひ観てください。
小谷嘉一 撮影=竹下 力
進藤学(グリエ・ヨザック役):眞魔国の諜報部員で、女装が趣味というキャラクターです。さて、今回は女装が飛び出すのかな(笑)。一癖も二癖もあるキャラクターの中で、そこにスパイシーをプラスして、スパイシー・アンド・セクシーを披露していきたいと思っています。僕の鳩胸から登場する鳩をどう活かすか……実は重要な見どころです。
進藤学 撮影=竹下 力
反橋宗一郎(村田健役):地球での有利の友達ですが、実は隠された姿を持ち、それが描かれる作品です。村田の正体ですが……観てのお楽しみ(笑)。今回は3作目にしてソロ曲もあって充実したムラケンになります。期待してください。
反橋宗一郎 撮影=竹下 力
岡田地平(渋谷勝利役):僕は有利の兄で、しかも、ゆうちゃんを溺愛してやまないんです。それでも、臣太朗さんから「兄弟に見えないからもっと愛せ! 本当に愛しているのか?」と怒鳴られながら必死に演じています。今回はオリジナル・ストーリーなので、勝利のブラコン愛がどう有利に絡んでいくのか観ていただけたら。
岡田地平 撮影=竹下 力
下村青(アーダルベルト役):20年前の戦争で恋人のジュリアを亡くし、魔族を裏切ることになる孤高の魔族です。“太マッチョ”と言われるガタイでありながら、ジュリアを一途に思い、恋に生きる男の生き様が見どころです。
下村青 撮影=竹下 力
――舞台初主演が決まった時の心境はいかがですか。
小西:第1弾の「魔王誕生編」(2013年、博品館劇場)、第2弾の「魔王再降臨」(2015年、全労済ホール/スペース・ゼロ)は、元木聖也くんが演じていました。役をいただいた時に、僕も成弥(せいや)という名前で、しかも仲がいいので、“まおみゅ”の有利を引き継ぐんだという強い想いがありました。初主演で緊張しつつも、原作と前作を見て、「コメディーも恋愛もあるから面白い」って、有利を演じるのがすごく楽しみになりました。
――兼崎さんと樋口さんと下村さんは、3作品すべてに出演されていますが、今回オリジナル・ストーリーということで、これまでの2作との違いを感じたことはありましたか。
兼崎:もともと原作があるので、作品自体は、原作の世界観に沿っていますし、今回のストーリーも、原作にあるような箇所を一部抜粋しているので、違和感はなかったです。
樋口:兼さんと下村さんが3回連続で、前回からの方もいて、新しいキャストが加わって、どう変化していくんだろうとは思いましたね。でも、蓋を開けて見たら、すごく新しい(マ)王になっていました。この興奮をお客様にみせられたらな。
――稽古の様子や初日に向けての想いを教えて下さい。
下村:3作品の中で一番いい稽古だった。今までの僕は、バッと出てきて、バッと帰るようなアーダルベルト。今回は敵対する魔族と一緒にいるシーンが多くて、ジュリアと三角関係のコンラッドと酒場で酒を飲んだり、有利が初めて“魔王モード”になるところを観ることができたりと、初めてづくしのシーンが多いし、とてもいいキャラが飛び出して(進藤学をチラッと見て)今までにない、スパイシーな感じが出るかな(笑)。
――舞台に来てくれる方にメッセージをお願いします。
小西:第3弾ということで、さらにパワーアップした、(マ)王が見せられると思っています。笑って笑顔になれる作品なので、ぜひ何回もご来場してくださると嬉しいです。
撮影=竹下 力
役者、スタッフすべてが1つになって紡ぐ感動ストーリー
ここからはゲネプロの様子をレポートする。スモークの炊かれた印象的な青いピンスポットが当たった舞台。その中央の砂場に“魔笛”が突き刺さっている。
そこから暗転して、舞台は夏へ。「M一族」と書かれた看板の海の家から物語は始まる。そこにいるのは渋谷有利、渋谷勝利、村田健の3人だ。有利は大好きな野球道具を買うために、有利の兄である勝利はどうしても弟を見放せずに付き添ってしまうなど、それぞれの思いがあってアルバイトに精を出している。有利はもうすぐ16歳になるっていうのに、なんかパッとしないそんな青春の一コマ……が!
とあるきっかけで、相も変わらず有利は眞魔国に連れ戻されてしまう。しかも、今回は何かの間違いで、勝利と健も道連れに。これがドタバタ喜劇の始まりである。
有利は眞魔国でグウェンダル、コンラッド、ヴォルフラムなどのいつもの人物に出会うものの、勝利と健の行方が知れない。有利は彼らを探すうちに、勝利と健が勘違いで砂漠の国に囚われていることがわかったり、有利と仲の悪いグウェンダルがいい感じになって婚約者であるヴォルフラムが嫉妬したり、とストーリーが展開していく。
やっと勝利と健を見つけたと思ったら、有利とグウェンダルが勝利と健の代わりに処刑されるという話になって……。どうしてそんなことになってしまったのか? そして彼らはどうするのか? なぜ「魔王暴走編」なのか?
答えは劇場で確かめてほしいのだが、ゲネプロを取材した筆者が感じたストーリーだけでない、本舞台を彩る10の見どころをざっと紹介する。
■主人公の小西成弥がやっぱりすごい!
舞台写真 撮影=竹下 力
どこが舞台初出演なんですか?と問いかけたくなるほど、セリフがはっきり聞こえてくる。佇まい、冒頭から半裸に近いエプロン姿で必死にアルバイトをしている姿から、かっこよさ全開なのだ。稽古で鍛えられた筋肉や、学生服姿、魔王という大役を引き受ける時の覚悟を持った表情。どれをとっても彼の成長がまざまざと感じられる。
■脇を固める出演陣がすごい!
囲み取材のインタビューを読んでいただければと思うが、それぞれのキャラクターが、小説や漫画・アニメの中のワンシーンにいるように生き生きしている。だからこそ素直に、笑うところは笑えて泣けるところは泣けるのだ。主人公以外のキャラクターの個性がしっかりとしている舞台。あなただけの推しメンを探そう!
舞台写真 撮影=竹下 力
■恋バナが切ない
この舞台は三角関係のお話といっていいかも。有利とグウェンダルとヴォルフラム。コンラッドとアーダルベルトとジュリア。勝利と有利と健の三角関係。切なくて、狂おしい気持ちが交錯しながら舞台を盛り上げていくものだから、思わず涙するところもあるのだ。
■歌で涙腺崩壊
音楽・歌唱指導はYOSHIZUMIが担当している。この舞台ではポップで、カラフルで、一度聴いたら忘れられないような15曲の歌が歌われる。特に、かつて劇団四季に所属していた下村青のアーダルベルトが歌う「叶うなら」は、恋人ジュリアを失ってもなお、彼女の影を一途に追い求めてしまうという曲だ。これを喉を震わすバリトン・ボイスで歌われたら思わず涙腺が崩壊してしまう。
健のソロ「僕は双黒の大賢者」も、自分を偽っていた苦悩からの開放感が素直に表現されていて清々しい。そして最後に、出演者全員で歌う「終わりのような始まりの歌」では<終わりなんかじゃない/もう僕達の物語は始まってる>という歌詞から、彼らが新たな道に踏み進む確固たる勇気を感じて胸が熱くなる。
舞台写真 撮影=竹下 力
■小道具が可愛い!
シーンごとに出てくる小道具が全部可愛い。編みぐるみが趣味のグウェンダルの作るブサ可愛いぬいぐるみに始まり、グリエ・ヨザックが鳩胸(?)から出すという赤い伝書鳩(曰く『機動戦士ガンダム』のシャアのように普通の伝書鳩の3倍早いらしい)など、舞台を彩る小道具が観客を飽きさせない。いっときたりとも目を離す暇はないのだ。
舞台写真 撮影=竹下 力
■衣装も見逃せない
海の家にいる現代っ子たちの服装が、突然、中世のヨーロッパのような重厚でいて、色彩豊かな衣装の世界に変わった時の新鮮さは、筆舌にしがたい。
舞台写真 撮影=竹下 力
■殺陣がダイナミック
冒頭から数十分後にある大きな殺陣はまさに必見。これを観に行くだけで価値があるかも、というくらいに。孤高の戦士アーダルベルトと敵対するグウェンダル、コンラッド、ヴォルフラムたちが舞台を所狭しと動いて魅せる。
舞台写真 撮影=竹下 力
■統制のとれたダンスが思わず目をみはる
青井美文が振付けを担当したアンサンブルも見逃せない。群衆が闊歩するシーンでは、様々な格好をしたアンサンブルたちが俳優たちをもりたてる。もちろん、主役たちもかっこいいけど、アンサンブルの統制のとれたダンスを観るだけでも素晴らしい経験になるのだ。
■演出の菅野臣太朗が舞台のスペクタクルを大いに魅せる
舞台写真 撮影=竹下 力
脚本・歌詞・演出を担当する菅野臣太朗は、原作の良さを余すことなく発揮していて、魔法という架空の存在を舞台上で上手に表現したり、恋バナのシーンをさりげなく見せたりと、それぞれのシーンに笑い、怒り、喜び、悲しみの感情が宿っているようで、思わず気持ちが高ぶってしまう。「『演劇を作る』と言うより、『世界を創る』」と言う意気込みで演出に臨んでいた通り、まさに(マ)王の世界が広がっていた。
■思わず唸った反橋宗一郎の演技と歌
舞台の見どころは、千差万別、人それぞれで、観た日でも観た会でも違う。観た人によって思うところはたくさんあるけれど、どうしても外せなかったのは、村田健役の反橋の演技。どこか影を背負っているのに、いつもコミカルに派手に動いて笑わせてくれる。幸運にもこの日招かれた観客の中では笑いが絶えず起こっていた。というよりも、どのキャラクターにも感情移入できるスペースがあるので、男性も、女性も、大人も、子供も、楽しめる舞台になっているのだ。
舞台写真 撮影=竹下 力
いかがだっただろうか。これ以外のも挙げたい点は山ほどあれど、舞台を作り上げるのは、たった一人だけではないのをひしひしと感じる。役者、スタッフ、みんなが精魂込めて、この素晴らしい原作を舞台にしようとした思いが結晶化されて、観客の心を強く撃つのだ。最後には素晴らしいフィナーレが待っている。それは経験するまでわからない。
舞台写真 撮影=竹下 力
(取材・文・撮影:竹下力)