出会いから8年、これぞ日本のギターロック ircleが『ハチテン』に残した深い痕跡
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八王子天狗祭 【白狐ステージ】 ircle
白狐ステージのキャパシティに似合わないというか、キャパシティを無視した轟音、激音をぶっ放したircle。叙情を激情で表現するというのは語義矛盾なのは重々承知だが、河内健悟(Vo,Gt)の瑞々しいほどの歌が、時にがなったり、叫びを必要とするタイプのものだから自然とそうなるのだろう。
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会場の壁がビリビリ震える凄まじい出音でいきなりクラップを巻き起こし、サビで一斉に手が挙がった「風の中で君を見たんだ」から、気迫がこの場をドライヴさせるような「ベニ」と、立て続けにギターロックバンドでありつつ、エクストリームな印象すら残す音塊を轟かせていく。
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「聞こえますでしょうか? 頼むよ、俺だってまだ消えてたまるか、セブンティーン!」。河内のMCが、この時間、ここにいるすべてのオーディエンスにircleの存在を刻み付けるようだ。未来が見えない、自分が自分が自分でなくなるかもしれない、そんな”17歳”の頃の永遠の命題を、おそらく最もビビッドに感じているだろうこの日のフロア。音源ではリリカルな印象のあるこの曲すら、今日のircleはものすごい質量の演奏で攻めてくる。
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「グッドモーニングアメリカとは、約8年前、八王子のライブハウス、平日の通常ブッキングで出会って、たなしんと盛り上げていこうって話してて、8年後、こんな大きなお祭りを実現して、そのステージにいるなんて人生、そんなにないですよ」と河内が興奮気味に語る。しかし、反面「何年やっても何かが始まって、何かが終わる現場に俺たちはいるんです」と、簡単ではなかったし、これからも簡単ではない道のりを匂わせる。だからこそ、心そのものを音楽にして届けているんだ、と鳴らされた「光の向こうへ」は、多くの心を打った様子。ガレージロックもかくや、な音にも関わらず歌に食い下がり、歌に聴き入っていた。
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ラストに敢えて新しい曲を持ってきたという河内。「いつか初めての『ハチテン』でこの曲やりよったな、と思い出してくれたらいい」と、淡々と始まる「orange」。重いギアのまま、ギシギシ音を立てて進む車のように、青い思いと激情を轟音に込める。喉が千切れるように歌う河内を軸に、屈強なアンサンブルを奏でた楽器陣もまさに渾身。あらゆる体温のあるものを指しているのか、「orange」は、激しい中にこの上ない温かさを内包して、短い時間ながらircleというバンドの輪郭をクリアに残した。改めてラインナップの中に硬派なギターロックバンドが多いフェス、『ハチテン』の個性を感じたアクトでもあった。
取材・文=石角友香 撮影=白石達也