匿名性に包まれた謎の音楽集団・yahyel 1stアルバム『Flesh and Blood』にかける、哲学と情熱を訊いた

インタビュー
音楽
2016.11.12
yahyel

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2015年3月に池貝峻(Vo.)、篠田ミル(Sample, cho.)、杉本亘(Sample, cho.)の3名で結成され、神秘のベールを纏いながらインディシーンに降り立った新星・yahyel(ヤイエル)。ポスト・ダブステップ、R&Bの系譜を継いだ、スペースでダークなサウンドは瞬く間に注目を集め、結成1年半、メンバーの平均年齢は23歳という若さでありながらMETAFIVEのワンマンライブのオープニングアクトを務めた。また先日限定リリースされたシングル「Once/The Flare」も即刻完売するなど、その勢いを増し続けている。そんなyahyelが満を持して11月23日に1stアルバム『Flesh and Blood』を解禁する。“ボーダレス”“匿名性”を信条とする彼らの音楽活動における、ストイックでクレバーな哲学、そして情熱をご覧いただこう。

 

撮影=Shun Komiyama

撮影=Shun Komiyama

――yahyeにとっての1st アルバム『Flesh and Blood』がリリースされます。なぜこのタイミングでアルバムを出そうと思ったのでしょうか?

杉本亘(以下、杉本):タイム感を守りたかった、というのはありますね。

篠田ミル(以下、篠田):7inchを出したり、海外ツアーをやったりフジロックに出演してきた中で、そのテンポを保ちたかったという感じです。次やるならアルバムだなと。

池貝峻(以下、池貝):今年は自分たちだけでやれることやって、色んなとこに音源送って、海外にも行ってすごく濃かったけど、自分たちだけの力でやるには限界を感じた部分もあったんです。なので今年の終わりにBEATINK(yahyel所属レーベル)さんの力も借りて、どこまでいけるかっていうのを試したかった。

杉本:「まだ早いんじゃないか」っていう声もあったんですけど、それぐらいのスピード感で制作できるという自信もあったし、それが叶ってよかったなと思います。

――作品のタイトル『Flesh and Blood』に込められた意味を教えてください。

池貝:込めた意味としては、タイトル通り“血と肉”ですね。もともと“Flesh and Blood”という言葉は、「Why」というアルバムの最後の曲の歌詞から引用されています。僕が海外にいたときに友人が、“Flesh and Blood”という言い訳をよく使っていて、これは要するに「人間だからしょうがなくない?」という意味なんですが、それはとても冷たく残酷な表現だなと思っていて。そう言ってしまえばもうなんでもありだし、傷つけられ放題になっちゃうんじゃないか?と。でも、そういう感情を感じ取れるのも、自分が血と肉でできた人間であるからだという矛盾がそこにはあると思ってます。僕らの音楽は無機質で、冷たい音像を加えつつも、表現としては“人間は、すごく生々しい”ということを謳っている。なので、僕らの音楽自体を一言で表現出来ているこの言葉を、タイトルにしました。

――アルバムの楽曲全体に一貫しているコンセプトは?

池貝:音楽としてオンタイムなことをやりたい、ということですね。自分たちが海外の音楽を聴いて育ってきたという自負もあって、海外のプラットフォームに乗っても全く遜色のないものを作りたいし、作れると思っています。今の音楽のコンテクストを踏んだ音楽でありつつも、ユートピアを提示するいまの音楽の流れとは一線を画した、生々しい質感を出していきたいんです。

――そんなyahyelの楽曲は、どういう人々に向けられた音楽なのでしょうか。

池貝:思考停止の中で暮らしている人々、です。世間は未だに、僕らより上の世代の人々が守ってきた価値観に踊らされていますが、そんなこととは全く関係なく、固有のアイデンティティを僕達は問い続けています。あとは人種についての価値観も破壊したいと思っていて。海外の人たちが日本に対して持ち続けているステレオタイプのようなものや、逆に日本人が海外に持つコンプレックスというものがありますよね。そういう認識自体をぶっ壊したいですね。

――そのためのツールの一つとして、メンバーの顔・姿を表に出さない“匿名性”という表現を選んだ。

篠田:匿名性に関しては、完全に人種の問題ですね。僕らは海外でやりたかったんです。かつてこの国から外に出て行って、ミュージシャンとして尊重・尊敬されてきたアーティストも、衣裳や見た目などでどうしても日本的なギミックを使うしかなかった。というより、そういう風にからめ捕られてしまった。でもそういったギミックを使うと、結果的に日本と海外の壁は変わらず存在してしまって、フィルターがかかってしまう。なので、そういったフィルターを外すために、僕たちは自分たちの見た目にフィルターを掛ける必要があったんです。

池貝:外側の問題だよね。俺らがどうこうというより、外側からの見方がそうだから、こうするしかないって感じですね。

篠田:ただ、匿名性は諸刃の剣というところもあって、それを利用して遊んでいる人もいるよね。

池貝:被り物をする、とかね。

篠田:そういうギミックとしての匿名性を僕らはやりたいわけではないではないし、大々的に身を隠したいというわけでもない。むしろ「そういうキャラみたいなものって本当に大事ですか?」ということを言いたくて、匿名性を選んだって感じですね。

池貝:いうなれば皮肉だよね。

撮影=Shun Komiyama

撮影=Shun Komiyama

――そういった徹底したコンセプトを持つ音楽・演出をグループ内の複数人で作っていく際には、衝突や弊害などもあるかと思いますが。

篠田:衝突はめちゃくちゃありますよ。でも、弊害だと思ったことはない。

池貝:話し合いがないと、ぶつからないと意味がないじゃないですか。

篠田:ぶつかり合いは、匿名性や曲作りに関してもあるし、曲ひとつひとつの細かいパーツに関してもありますよ。コードがこう、とか、シンセがこう、とか。

池貝:そういう時、基本僕らは会話ベースです。感覚で“これでいいべ”といった感じではなく、完全に理詰めですね。

――昨年、ラフ・トレード(イギリスのインディーズ・レーベル)での公演を含むヨーロッパツアーをさらっとやっていますが、無名時代にラフ・トレードでライブってすごく大変だったのでは?

池貝:そうですね、マジで何の用意もなかった(笑)。

篠田:楽曲も、4~5曲しかなかったよね。

池貝:ライブが決まってから作りましたから。

杉本:地獄だった。60分の持ち時間で4~5曲しか持ってなかったので、残り30分ぶんを二か月で作らないといけなかった。

池貝:その時はさすがに結構追いつめられていて、結構やばかったよね(笑)。

――そのロンドンツアーをやるきっかけは何だったのでしょうか。

篠田:最初、池貝が個人的に旅行に行こうとしていて。

杉本:“どうせだったらみんなで行かね?”という流れになり。

池貝:その時から異常な“やるっしょ”みたいな雰囲気があったんですよね。それでもう、ロンドンのレコード店やライブハウスに片っ端から連絡しまくって。

杉本:ガイ君(池貝)がリストアップして表にして、「ハイじゃあこれ共有しまーす。音源送ったらチェックつけてください」みたいな感じで。みんなで手分けして連絡しまくりましたね。それでOKが出たところで、やらせていただきました。それがほんといい塩梅で、日程的にも綺麗に毎日ライブできるっていう状態でした。

――YouTubeやSound Cloudにアップロードした、ブリストル・サウンドの代名詞とも言えるポーティスヘッドの「Glory Box」のカバーも、ヨーロッパツアーに向けての布石だったのでしょうか。

杉本:その通りですね。

――現地での反応はいかがでしたか。

篠田:めちゃくちゃ良かったと思います。

池貝:ちょうどその週が、デヴィッド・ボウイが亡くなった週だったんですよ。それで僕すごい煽ったんです。“お前らの音楽は極東まで届いてるぞ!”的な(笑)。

篠田:そんな言い方してないでしょ(笑)。

池貝:まぁそうだけど、僕もすごいエモーショナルになっちゃって。「そういう音楽シーンを、感謝した方がいいと思う。尊敬を込めてイギリスの音楽を俺らがカバーするから、聴いてくれよな」ていう言い方だったかな。でももう最後はエモすぎて、マイクぶっ壊れたままアカペラで歌ったりしてました(笑)。

杉本:いやほんと大変でした。

池貝:でもそういうツアーの経験は、今後自分たちがどういうことをしていくべきなのか考えるきっかけになりました。グループとして活動していくにあたってのスタンスや覚悟が、きちんと固まったというのはあります。

――そういった経験も踏まえ、みなさんが感じた海外と日本のオーディエンスの違いは?

池貝:ライブのオーディエンスに関して言えば、海外の人たちの方が身体的でした。音楽に対して体で答えてくれますね。あとは、基本的に僕らの音楽って怒っているんですけど、その怒りっていう感情に対しての困惑がない。

杉本:それはそれで表現として受け入れてくれるし、そこに対してリスペクトがあるように感じましたね。

篠田:加えて、日常的にその場で音楽を楽しむこととは何なのかを体得している感じがします。特別なことをしに来ている感じがなく、フラットですね。

杉本:日本ではちゃんとバンドがプロモーションされて、あらかじめ知った上でライブに行くってなるけど、向こうではもう音が鳴っていれば、聴きに行くといった具合。

池貝:俺は一彌がどう思ってるか気になるけどね。

大井一彌(Dr.):僕はドラマーなので、“ドンッ”と鳴った音ひとつに対する、“ワッ”という観客の反応を身体を通してすぐに感じられました。海外のオーディエンスのその反応速度はありがたいですね。

撮影=Shun Komiyama

撮影=Shun Komiyama

――なるほど。

杉本:でも日本でやる上でそればっか言っていると甘えになっちゃう。“日本はあがらないから、しょうがないじゃん”とはなりたくないので、全然突き詰める余地はあるし、努力したいと思ってます。

池貝:良し悪しではなく、ただの違いですね。

――匿名性や神秘性によって徹底的にパッケージングされているyahyelですが、ライブなどでそれにヒビがはいるような、アクシデントやトラブルがあったことはありますか。

杉本:こないだのライブで「Age」っていう曲のMIDIキーボードの音が全くでないっていうのはありました。事前からプログラムして準備するべきものだったから、ライブ中にすぐ修正できるものではなかったです。

――どう乗り切ったのですか?

池貝:気合い。

篠田:気合い。

杉本:そうですね、気合いです。あとは……。

池貝:俺と一彌が若干音数を増した(笑)。

杉本:絶対に慌てふためかないで、ドヤ顔で全うしましたね(笑)。気付いたのも、レーベルの人くらいでした。

――そういった神秘的なパッケージや、何となくのお洒落感に惹かれてyahyelを聴きにくる方もいると思います。少し厳しい言葉でいえば、"本質に行き届かないリスナー"についてどう思いますか。

池貝:それは表現として成り立っている以上、僕たちの力不足だと思います。

篠田:そもそも僕らの音楽は現実世界に向けて皮肉を言っているのがコンセプト。なので、その中でそれを感知せずにもてはやしてくれる人がいれば、それ自体が皮肉の表現として成り立つと思いますね。

杉本:それもそうですし、気持ちいいというだけで踊ってくれている人がいてくれても、僕らとしては全然ありがたいですね。

――それでは最後に、12月16日に控えている『Flesh and Blood』リリースパーティーへの意気込みをお願いします。

池貝:アルバムを踏まえて新しい曲もやるので、セットとしてもかなりパワーアップしたものになっていると思いますね。最もアップデートされたyahyelのパフォーマンスをお届けします。

 

イベント情報
YAHYEL– FLESH AND BLOOD LIVE –
1st ALBUM RELEASE PARTY


日程:2016年12月16日 (金)
開場:19:00/開演:19:30
会場: WWW
Guests:TBA
 

 

リリース情報
yahyel『Flesh and Blood』
 


リリース日 : 2016年11月23日(水)
レーベル : Beat Records
品番 : BRC-530
定価 : ¥2,300( +税)

TRACKLISTING
1. Kill Me
2. Once (album ver.)
3. Age
4. Joseph (album ver.)
5. Midnight Run (album ver.)
6. The Flare
7. Black Satin
8. Fool (album ver.)
9. Alone
10. Why
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