ストレイテナー『Step Into My World TOUR』ファイナル 視覚、聴覚、そして嗅覚を研ぎ澄ました三軒茶屋の夜
ストレイテナー 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
Step Into My World TOUR 2016.11.10 昭和女子大学人見記念講堂
デビューから13年もやっていると、ファイナルであること自体に特別な想いはない。だけど今日のこの空気感の得難さ、大切さというような、昔は感じなかったものを感じてグッときている——MCでナカヤマシンペイ(Dr)はそんなことを口にした。続けて、オーディエンス一人ひとりの存在を感じられるから、ホールでやった2本は良い日になった、とも。それらの言葉が全てを表している。
気負うことなく自然体で、緩急もアレンジも自在に音を奏で、気ままなトークの合間に心に響くこともちょっとだけ言う。そして、集まった一人ひとりそれぞれに対して、特別な一曲を届けに行くような全25曲。ストレイテナーの『Step Into My World TOUR』ファイナルは、そんないつも通りで一度きりのライブとなった。
ストレイテナー 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
途中に夏休み(?)を挟みながらおよそ5ヶ月に渡って続けられた今回のツアー。「今日、学祭(のライブ)だと思ってた人いるでしょ? 違うから」との発言も出ていた通り、ファイナルの会場となったのは、昭和女子大学人見記念講堂だ。メンバーが登場するとオープニングから総立ちで出迎える客席。「『Step Into My World TOUR』千秋楽、人見記念講堂お待たせしました!」とホリエアツシ(Vo/G/Pf)が口火を切り、七色の照明が明滅する中「Dark City」からライブはスタートした。シンペイが全身をしならせるようにして叩き出すたくましいビートが興奮を煽る。OJ(大山純・G)の奏でるアルペジオのイントロに沸いたのは「PLAY THE STAR GUITAR」。続く「Super Magical Illusion」ではひなっち(日向秀和・B)が笑顔でクラップを要求しながらパンチの効いた重低音を弾き出す。「昨日はぐっすり寝た」からか、ホリエの歌声はいつも以上に伸びやかで、高音部にいくほど凛と響く。
ストレイテナー 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
即効性の高い楽曲を頭から並べ、一気に場内の空気をつかんでいくあたり、思わず感嘆してしまうほど百戦錬磨なロックバンドっぷりを見せつけるストレイテナー。冒頭のブロックを終えたあと、「The Place Has No Name」からは緩急をつけた構成で楽しませてくれた。間奏部、リズムに合わせて色や照射角度を目まぐるしく変える演出に歓声の上がった「VANDALISM」。「5月に始まったこのツアー、春が夏になって秋になって、冬になろうとしています……11月になりました」という気の利いたホリエのフリから幻想的な美メロが響き、やがて荒々しい幕切れが訪れる「The Novemberist」。この曲と、続く「Goodnight, Liar Bird」ではOJがギターとキーボードの二刀流を披露した。「目の前の大切なものを何があっても守りたい」とホリエがアコースティックギターに持ち替えて歌い上げたのは、名バラード「NO 〜命の跡に咲いた花〜」だ。曲が終わるたびに場内を満たすホールならではの拍手と歓声の渦は、曲を追うごとにボリュームを増していく。また、天井が高いため音がよく回り、2階席で観ているとこのあたりのミディアムテンポな楽曲や、空間系のエフェクト、スケールの大きなアレンジが特に際立っていた。余談だが、途中で1階席にも行ってみたら、こちらは案外硬質な音が飛んできており、ライブハウスに近い雰囲気も味わえた。
ストレイテナー 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
ここ最近、4人はMCになるとだいぶ自由になる。この日の話題は、会場の立地が三軒茶屋であることから展開し、ディープ系横丁・居酒屋にまつわるトークにひとしきり花を咲かせたあと、シンペイのMCで語られる食材で季節を感じる、オーラのあるバンドになりたい、など予測不能な方向へと進んでいく。会場自体が女子大の敷地内にあることに話が及ぶと、「女子大だからって、嗅覚を研ぎ澄ませてきた人……男。いるでしょ?」と場内を大いに笑わせてくれた。
もはや完全に軌道を外れたかと思いきや、ちゃんとMC内容を反映させて<踊ろう 嗅覚を研ぎ澄まして><踊ろう 三軒茶屋の夜に 愛のダンスを>と歌詞の一節を口ずさみ、「Alternative Dancer」からの中盤ブロックへ。4人の背後には巨大なミラーボールが姿を現わし、小気味好いカッティングとうねるベースの生むグルーヴがどこかオトナの色気的なものまで感じさせるダンスナンバーに、場内には自然とステップを踏む人が続出、大いに揺れた。ちなみに、この最新アルバムきってのダンサブルな楽曲と続けて披露される楽曲、いわば相方的な役割を果たすレパートリーは複数存在しており、本ツアーでもその前後に出演したフェス等でも、会場によって「Discography」であったり「DONKEY BOOGIE DODO」であったりしたのだが、この日は「Wonderfonia」であった。原曲よりテンポが上がって軽やかな印象で、爽快な横ノリが実に気持ち良い。
ストレイテナー 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
アルバム『COLD DISC』のリリースツアーではあるものの、新しい楽曲と様々な時期の楽曲とを織り交ぜながら進んでいったこの日のライブだが、アルバムの曲順をなぞった箇所が2箇所だけあった。一つ目は「原色」から「シーグラス」。「原色」では、これまで無地だった背景に映し出された雨だれのような光の演出がやがて光の柱へと変貌を遂げ、4人の姿も様々な色で浮かび上がる。そのままホリエがノーカウントでギターとともに歌い出した「シーグラス」はクラップとシンガロングで彩られ、すっかり彼らのライブに欠かせないアンセムになったなぁという印象を受けた。
そして、「Force」「覚醒」という本編を締めくくった流れもまた、アルバムのラストと同じ完璧な流れであった。さらにその前のブロックで「From Noon Till Dawn」「TRAVELING GARGOYLE」「Melodic Storm」という、フィジカルなことこの上ない畳み掛けをしたことが、余計にこの2曲がもつ繊細さと美しさを際立たせていたように思う。もともとオルタナティヴやインディロック的アプローチが前面に出ていた時期にあっても輝きを放っていたストレイテナーのメロディセンスは、ここへ来てよりストレートに、聴く者の心を正面から打つようになっている。
ストレイテナー 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
アンコール、観客による撮影OKの時間が設けられたあと、「最後の幕が今まさに降りようとしています」と「Curtain Falls」を、そしてストレイテナー屈指のドラマティックなバラードソング「MARCH」が届けられた。ホリエがセンターのピアノに陣取って途中まで3ピースの形態で演奏し、後半からはOJのギターも交えた4人でのダイナミックな音塊が場内を震わせる。ラスト、いつものように4人で肩を組んで深く一礼した4人は、晴れやかな表情で快作とともにまわったツアーを終えた。ひとつ付け加えると、着席指示(?)があった長めのMC以外、場内は終始総立ち状態で歌い、踊り、拳を突き上げ続けていた。
「みなさん一人ひとりの人生の中に僕らの音楽があることを誇りに思って、これからも活動していきたいと思います」(ホリエ)
デビュー13年、結成からは18年。これまでの彼らの歩みはすなわちファンの歩みでもある。アンコールでのホリエのMCからは、最新曲はもちろんのこと、かつての楽曲もアップデートを施しながらちゃんと鳴らしてくれるストレイテナーの矜持が伝わってきた。肩肘張ってより大きな会場を目指すわけでもなく、かといってシーンに対して斜に構えるアングラな姿勢でもなく(むしろフェスにもどんどん出るし、後輩バンドにも慕われまくっている)、地に足をつけた状態で自分たちの音楽やリスナーと向き合いながら、新たな音楽表現に挑み続ける彼ら。これってキャリアを重ねてきたバンドのあり方として、とても理想的な姿なのではないだろうか。
このツアーの初日レポでも書いたことなのだけど、もう一回言っておく。今のストレイテナー、すごく良い状況だと思う。
取材・文=風間大洋 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
ストレイテナー 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
2. PLAY THE STAR GUITAR
3. Super Magical Illusion
4. The Place Has No Name
5. Ark
6. VANDALISM
7. The Novemberist
8. Goodnight, Liar Bird
9. NO 〜命の跡に咲いた花〜
10. DAY TO DAY
11. Alternative Dancer
13. Wonderfonia
14. BLILLIANT DREAMER
15. 彩雲
16. AGAINST THE WALL
17. 原色
18. シーグラス
19. From Noon Till Dawn
20. TRAVELING GARGOYLE
21. Melodic Storm
22. Force
23. 覚星
[ENCORE]
24. Curtain Falls
25. MARCH
『COLD DISC』
・通常盤【CDのみ】:TYCT- 60080 ¥2,800(税抜)
【CD】(初回限定盤、通常盤共通)
1.原色(2016年夏公開 映画「U-31」主題歌)
2.シーグラス(2016.4.20発売シングル)
3.Curtain Falls(2015.7.15発売シングルカップリング)
4.Alternative Dancer
5.Dark City
6.DAY TO DAY(2015.11.11発売シングル)
7.NO 〜命の跡に咲いた花〜(2015.7.15発売シングル)
8.The Place Has No Name(2015.4.22発売シングル)
9.Goodnight, Liar Bird
10.Force
11.覚星(2015.4.22発売シングルカップリング)
【DVD】(初回限定盤のみ付属)
『EMOTION PICTURE SOUNDTRACK 4』
・ミュージックビデオ 全7曲収録
「Super Magical Illusion」(2014/6/25 Single)
「冬の太陽」(2014/9/17 Single)
「The World Record」(2014/9/17 Single)
「The Place Has No Name」(2015/4/22 Single)
「NO ~命の跡に咲いた花~」(2015/7/15 Single)
「DAY TO DAY」(2015/11/11 Single)
「シーグラス」(2016/4/20 Single)
ent 3rd Album『ELEMENT』
2017.1.11 Releasse
品番:初回盤デジパック TYCT-69108
1.How To Fly
2.悲しみが生まれた場所
3.Autumn Nightmare
4.Healer
5.Perfect Light
6.The Awakening
7.Forever and Ever
8.Imagine
9.素子-Soshi-
10.Sunset Moonrise
11.Silver Moment 12MIX