今のクリープハイプが過去最高にカッコいい理由を見た、Zepp Tokyoライブレポート

2016.12.12
レポート
音楽

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

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全国ツアー2016「熱闘世界観」 2016.11.9  Zepp Tokyo

​「みんなも演るほうもどんどん変わっていくと思うけど、変わったからこそ今ここにいられると思っています。変わりながら、ずっと一緒にいましょう」

時期で言うと3rdアルバム『一つになれないなら、せめて二つだけでいよう』がリリースされる2ヶ月半ほど前、ツアーファイナル・NHKホールのステージ上で尾崎世界観(Vo/Gt)がそう話していたのをよく憶えている。当時(2014年)は尾崎自身が30代に突入した節目の年だったこともあってか、クリープハイプは“変わっていくこと”に対して自覚的だった。というか変わらなければならないという思いを抱えていたのかもしれない。しかし、口ではそう言っていても、レコード会社移籍以降の彼らの音楽はどこか聴き手の元に“置きに行っている”ように聴こえてしまって、言っていることとやっていることがチグハグになっているように感じていたのが正直なところ。薄情な私はそれ以来彼らのワンマンライブへ行かずにいたのだが、あれから2年が経ち、今回ライブレポートが書きたいと申し出た。理由は至って単純で、今年9月にリリースされた『世界観』がまさに“変化”のアルバムだったから。ということで、ここでは『全国ツアー2016「熱闘世界観」』、10回表のZepp Tokyo公演について綴っていきたいと思う。

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

この日がちょうど尾崎の誕生日だったため、「こんなこというのも恥ずかしいけど、今日誕生日なんですよ。32歳初日、最高の日にしてくれますか? その代わり、今まで生きてきた31年かけて、最高の日にします」と告げてから演奏がスタート。ズッシリと、音の重心が低い。観ていなかった2年の間で何が起きていたんだ、とショックを受けてしまうほど完全に変わっていた。バンドとしてひとつに固まっているというか、まるでひとつの生き物のように大きな体内リズムを共有しながら呼吸を繰り返している感じ。ステージに立つ4人が纏っている気迫も以前とはまるで違っているが、だからといってやたらシリアスな空気が流れているわけでもない。その温度感がとにかく絶妙で、危うく「うわ、めちゃくちゃカッコいい」とシンプルすぎる言葉を漏らしてしまいそうだった。

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

これまでの王道パターンを踏襲したような「手」が1曲目にあり、尾崎が初めてバンドのことを記した曲「バンド」がラストを飾っているからかろうじてアルバムとしての体を成しているが、『世界観』は今までのクリープハイプとは考えられなかったような曲ばかりが収録されたアルバムだった。そのため、同作のレコ発ツアーということで収録曲を多数披露したこの日のライブも歪なものに。猫が毛玉を吐き出すみたいに感情のドロッとした部分だけをオエッと出したり、抑制を効かせてスッと俯瞰の視点を取り戻したり、尖ったり、丸くなったり、叫んだり、こぼしたり、吐き捨てたりしながら、2時間で20曲超を演奏するセットリスト。4人が鳴らす生身の音楽に、吞み込まれては搔き乱されていくような感覚に陥っていく。

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

この日はステージ対フロアの向き合い方もいい感じだった(というか、今回のツアーはどこもこういう空気感だったんじゃないかと思う)。温かいけど温くはない、張るときは張っていて、緩むときは緩む、ニュートラルな関係性。「寝癖」演奏前、「寝癖を見たいんですよ、行儀のいい姿じゃなくて。こんなこと言うバンドじゃなかったのになあ。でもそう思ってるんだからしょうがない」と尾崎が呟いていた通り、バンドもオーディエンスも互いの手の内を曝しあってはいたが、自分と相手との何となくの距離感をわきまえている者同士の間合いの取り方になっている。そこがまたクリープハイプらしかったし、やっぱりバンドとファンってだんだん似てくるよなあと、微笑ましい気持ちにもなる。

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

自分のことを理解してもらえないことに対する苛立ちと、そんな簡単に理解できるもんじゃねえぞみたいな意地。天邪鬼をこじらせた果てに自分たちに求められている“らしさ”を探してはそこに音楽を置きに行っているように見えたあの頃は、今思えば転がり方が下手なだっただけだった。そこから“結局すべては伝わらない”と諦め、開き直ったことによって解放されて自由になれた、それでバンドがいい方向に転がり始めているのが今。だからこそ、バンドと聴き手が直接対面するライブという場所では、“それでも分かろうとしてくれる人”への温かい気持ちが流れ続けることとなる。ライブの終盤、尾崎は、バンド活動を続けていく中で「これだ!」と思えた経験がないことや、「上手く行かないところにばかり目がいってしまう」という自身の性格に触れながら「答えを出せなくて申し訳ないなと思ってます。その分一緒に悩んでいきたいなと思ってます」と語りかけた。そのあとフロアから返ってきた拍手は、このバンドのことをまるごと肯定しているかのようだった。

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

振り返ってみればすべての道のりは無駄じゃなかったということになるのだが、そんなこと言えるのは現在の状況があるからで、やっぱりバンドには苦しみの季節もあった。そんな中で新人バンドともベテランバンドとも呼べない彼らが、環境的要因に頼ることなく自ら“変化”を手繰り寄せた。そして、化けた。今のクリープハイプが過去最高にカッコいい理由は、間違いなくそこにある。

この日のZepp Tokyoにあったのはいい演奏といい関係性、本当にそれだけだったし、それ以上でもそれ以下でもないからこそ刺さるものがあった。だからファンの方々だけではなく、彼らの元から離れていってしまった人や、あまりいい印象を抱いていなかった人も含めて、もっとたくさんの人に現在のクリープハイプを観てほしいと思う。それでも分からないようならば、もうしょうがないかなっていう、それだけの話ではあるんだけど。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto

クリープハイプ 撮影=神藤 剛 Takeshi Shinto