インタビュー:パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)〜2年目のシーズンに期待が膨らむ“世界的”コンビ
パーヴォ・ヤルヴィ C)Kaupo-Kikkas
パーヴォ・ヤルヴィのNHK交響楽団首席指揮者としての活動も、2016年秋から2年目のシーズンに入った。この1年余り、名演の連続で聴く者を虜にしているパーヴォだが、自身も大きな手応えを感じている。
「とてもエキサイティングな1年だったと思います。最初はお互いを知るために、多種多様なレパートリーを取り上げましたが、素晴らしいオーケストラで反応もよく、楽員との関わりも密になってきました。中でもハイライトは、R.シュトラウスの3つの録音。1年目でこれだけのプロジェクトを成し遂げるのは稀なことです」
N響の印象にも多少変化がある。
「2015年2月に10年ぶりに指揮して、N響の進化を感じ、特にドイツ・ロマン派の音楽を得意にしているとの印象を受けました。そして先日、武満徹とラフマニノフの作品を演奏した際には、ロマンティックな音楽全般にマッチしているのを実感すると同時に、自分とオーケストラの関係がどんどん良くなっていく感触を得ました」
快心の演奏を聞くと、「どのコンサートも思い出深いし、完璧な演奏というものは絶対にないのですが」と前置きしながら、快く答えてくれた。
「特に印象的だったのがブルックナーの交響曲第5番。これからN響と取り組んでいくブルックナーの最初の演奏でしたが、オーケストラが培ってきたものとは異なるアプローチにもかかわらず、私の考えを受け入れてくれて、素晴らしいスタートが切れました。あとは、マーラーの交響曲第2番『復活』、年末のベートーヴェン『第九』、先日のブルックナーの交響曲第2番など。もちろんレコーディングしたR.シュトラウスの各曲が、新鮮さと深みのある響きで、とても良かったのは言うまでもありません」
パーヴォ・ヤルヴィ C)Julia Baier
2月には3プログラムを指揮、そしてヨーロッパ公演も
次の共演は、2月の3プログラム、及び「今シーズンの1番のプロジェクト」と語る同月のヨーロッパ公演。まずは、ペルト、トゥール、シベリウスの作品が並ぶ定期公演のAプログラムが注目される。
「これはバルト海の国を意識したプログラムです。エストニアで最も有名な作曲家ペルトとは家族ぐるみのお付き合いをしてきました。今回の『シルエット』は、エッフェル塔の設計者に捧げた作品で、塔の構造そのものが描かれています。ペルトはその構造に興味をもち、雲の上に行くに従って細くなり、剛健であるのに透明で風通しが良いことに想像力をかき立てられました。ですから音楽にも異なる“レベル”があり、高くなるに従って音も変化していきます。そして一番上の“レベル”では、ピッツィカートをふんだんに使って、塔の先端の風通しの良い空間が表現されます。弓で弾けば壁になりますが、ピッツィカートでは空間になるというわけです。私の朋友トゥールの『プロフェシー』は、アコーディオン協奏曲。トゥールは、クラシックではあまり使われない同楽器の可能性を探り、イメージを覆すほど効果的な使い方をしています。ソリストのクセニア・シドロヴァは、アコーディオンのトップ奏者。才能があるだけでなく、若くて容姿も美しい女性です。彼女はエストニアの隣のラトヴィア出身なので、その点でもバルト海の国に焦点を当てたプログラムになります。日本でもおなじみのシベリウスの交響曲第2番は、ロシアや中欧の19世紀のロマンを色濃く反映した名曲で、それらの影響を受けつつ自分の声を探ろうとする一人の作曲家の意気込みが強く感じられる作品。私は、北欧的でクールな解釈ではなく、情熱的で情感たっぷりな演奏を目指します」
次いで、シベリウスのヴァイオリン協奏曲とショスタコーヴィチの交響曲第10番が並ぶCプログラム。これはヨーロッパ公演でも披露される。
「ショスタコーヴィチの10番は、とてもドラマティックな作品。昨年の5番におけるN響の壮絶な演奏に新鮮な驚きがありましたので、彼の交響曲のもう1つの中核たる同曲を選びました。非常に中身が濃い音楽で、彼自身と彼が恋する女性の音名象徴が含まれるなど、曲を熟知した者でないと良さが出せない作品でもあります。シベリウスはショスタコーヴィチとの最高のペアリング。ヨーロッパ公演ではジャニーヌ・ヤンセン、日本では諏訪内晶子がソロを弾きます。共に親しい友人で大変優れた奏者なのでラッキーですね。諏訪内さんは、音楽の解釈に面白いアイディアが沢山あり、しかも説得力のある演奏をされますので、毎回の共演が楽しみです」
もうひとつは、武満徹の「弦楽のためのレクイエム」とマーラーの交響曲第6番が披露される「N響横浜スペシャル」。こちらもヨーロッパ公演の演目だ。
「マーラーの6番は特に好きな作品。古今の交響曲“第6番”の中でこれに勝るものはないと思っています。やはりドラマティックで革新性に富んでおり、終楽章の悲劇的な最後には心を打たれます。ちなみに議論の的である第2、3楽章は、スケルツォ→緩徐楽章の順に演奏し、ハンマーも最近は2発にしています。武満作品は、ヨーロッパ公演には日本の曲をとの思いもありますが、それ以上にマーラーの6番とのストーリー的な繋がりを考えて選びました」
ヨーロッパ公演は、主要音楽都市の有名ホールばかり。パーヴォの意気込みも熱い。
「世の中には、オーケストラといえばヨーロッパが主流で、次にアメリカ、その下がアジアとの偏見があります。なので私は、N響がいかに世界有数のオーケストラであるかを見せつけたい。今や、国や言葉など関係がなく、作曲者の音楽言語を巧みに話せるか否かが重要。N響の素晴らしさをぜひ聴いて欲しいですね」
R.シュトラウスの第3弾CDもリリース予定
R.シュトラウスのCDは、第2弾の『ドン・キホーテ 他』も絶賛を博し、2017年には第3弾の「メタモルフォーゼン」「ツァラトゥストラはかく語りき」がソニー・ミュージックよりリリースされる。
「演奏がとにかく素晴らしい。曲の隅々まで熟知した楽員が、心をこめて深みのある演奏をしてくれています。『ドン・キホーテ』は、ライヴ録音が難しい曲ですが、トゥルルス・モルクと佐々木亮という最高のソリストによって高みを極めることができました。それにトロンボーンのコラールや細かいリズムなどがすべてピタリと合っていますので、聴かれた方は驚かれるでしょう。また『メタモルフォーゼン』は2倍の奏者で演奏したのが効果を発揮しています。これはN響の弦の強みあってこそ。最初の2枚も大満足でしたが、第3弾はそれらを超える出来ではないかと思っています」
あらゆる点でエキサイティングなパーヴォ&N響コンビ。首席指揮者の契約も2021年8月までの延長が発表され、今後への期待はいっそう膨らむ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ12月号 BravoTipsに大幅加筆したものです)
第1856回定期公演(Aプロ) 2/11(土・祝)、2/12(日)
第1857回定期公演(Cプロ) 2/17(金)、2/18(土)
NHKホール
2/22(水)、2/23(木) 横浜みなとみらいホール