ティム・バートン好きは見ちゃいけない?本当は怖い童話『五日物語-3つの王国と3人の女-』#野水映画 “俺たちスーパーウォッチメン”第十四回

2016.11.24
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怪物の心臓にかぶりつき!ロングトレリス国の女王を演じたサルマ・ハエック (C)2015 ARCHIMEDE S.R.L.-LE PACTE SAS

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。

『シンデレラ』や『赤ずきん』、『ヘンゼルとグレーテル』など、よく知られたおとぎ話といえば「子どもが読むもの」というイメージがあるのではないだろうか。だが、かの有名なグリム童話にも影響を与えた世界で最初の民話集『ペンタメローネ(五日物語)』は、そういったおとぎ話のイメージとは異なる、子どもに読ませるには少々過激な物語だ。今回紹介する『五日物語-3つの王国と3人の女-』は、カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを2度も受賞した経験を持つマッテオ・ガローネ監督が、その『ペンタメローネ(五日物語)』を映像化したものである。

 

(C)2015 ARCHIMEDE S.R.L.-LE PACTE SAS


3つの国に、それぞれ強い願望を持つ3人の女がいた。不妊に悩むとある王国の女王は、母親になることを望み、国王の命と引き換えに息子を産んだ。ある王国では、若さを望む老婆が美しく若返り、国王の妃となった。そしてある王国の王女は、大人の世界に憧れ、幸せな結婚を望んでいたのだが……。



ファンタジーの皮をかぶった“リアル”の恐ろしさ

 

ロングトレリス国 国王=ジョン・C・ライリーと女王=サルマ・ハエック (C)2015 ARCHIMEDE S.R.L.-LE PACTE SAS


本作は、全51話の『ペンタメローネ(五日物語)』より『魔法の牝鹿』『生皮を剥がれた老婆』『ノミ』の3話をモチーフに展開する。元画家の経歴を持つガローネ監督がその感性を活かし、ファンタジーの世界観を求めてロケ地に選んだイタリアの歴史遺産は、それだけ見ても楽しめるほど絶佳だ。しかし、ビジュアル面でのポイントは画像を見てもらえばわかるので、今回のコラムでは多くを語るつもりはない。それよりも私がお伝えしたいのは、美しいビジュアルに吸い寄せられてこの作品にたどり着いた方が、もしかしたら痛い目を見るかもしれない!ということなのだ(笑)。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のティム・バートン監督や『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロ監督作品のようなダークファンタジーにも思える本作だが、その真ん中にあるのはエグいほどの女性の性(さが)であり、人間の本質だ。たとえば母になった女王は、息子をそばに置くためなら鬼にでもなる覚悟を持つ。でもそれは、なんとしても子どもを守ろうとする親の気概ではなく、自分の所有物を守ろうとする意固地な執着。姉に執着する老婆は狂気にも似た妄信で突っ走り、うら若き王女は自分が守られていることにも気づかず夢見る夢子ちゃんな毎日を過ごす。
 

(C)2015 ARCHIMEDE S.R.L.-LE PACTE SAS


人間、特に女性ならではのこの“執着心”をまざまざと見せつけられる本作は、ファンタジーではなくホラーだと言っても過言ではないだろう。あなたが男性ならば、女性の恐ろしさに全身が粟立ち、もしも女性ならば、覚えがある感覚にゾッとするかもしれない。ここまで恐ろしい物語に仕上がったのは、元々『ペンタメローネ(五日物語)』が持つ特性でもあるが、ガローネ監督が映像化するにあたり、“リアル”を求めたからなのではないかと、私は思う。元より人間の争いや暴力・愛に興味があるというガローネ監督は、今作でも、一見現実的には思えない魔法や、怪物の存在するファンタジー世界の芯に“現実”を据えた。どんなに美しい世界にも人間がいる限り現代と変わらぬ社会があり、バイオレンスな一面を提示してくるのだ。

 

キャラクターの濃い役者たちが揃い踏み

 

好色な国王を演じたヴァンサン・カッセル (C)2015 ARCHIMEDE S.R.L.-LE PACTE SAS

 

監督が求める“リアル”を体現するのは、実力派かつとても個性のある役者たちだ。どこか情けない国王陣には、ヴァンサン・カッセル、トビー・ジョーンズ、ジョン・C・ライリー。中でも私は、トビー・ジョーンズがお気に入りだ。トビーは夢見る王女の父親(国王)役なのだが、小さめの体とふてぶてしい顔つきで、娘よりもノミに愛を注ぐ変人を怪演している。その様はなんともいびつで情けない。
 

ハイヒルズ国王を演じたトビ―・ジョーンズ (C)2015 ARCHIMEDE S.R.L.-LE PACTE SAS

オーガ役のギヨーム・ドゥロネ(左)とヴァイオレット役のべべ・ケイヴ(右) (C)2015 ARCHIMEDE S.R.L.-LE PACTE SAS

 

女性陣では、姉にべったりの妹老婆・インマ役のシャーリー・ヘンダーソンがいい。『ハリー・ポッター』シリーズでは、三十代後半~四十代にして少女の霊・嘆きのマートルを演じ、特徴的な高音ボイスと童顔っぷりで存在感を見せつけた彼女だ。本作でもその高い声が耳に残るが、今回は哀れで気味の悪い老婆を演じて見せてくれている。そして、夢見る王女・ヴァイオレット役のべべ・ケイヴ。さほど美人ではない(失礼)し、似合わない巻き巻きツインテールのヴァイオレットをもっさりとした印象で演じているのだが、クライマックスでのヴァイオレットはまた一味違う。ヴァイオレットは、女性の“執着心”だけでなく、“強さ”を体現するキャラクターでもあると私は思っている。その“強さ”を、べべ・ケイヴはしっかりと演じ切っているのだ。

無駄な台詞を省き、前面に押し出されたビジュアルは絢爛豪華に、けれど隠された中身には毒がたっぷりと詰まっている……。そんな印象を受ける本作。“本当は怖い童話”の世界を存分にご堪能あれ。

『五日物語―3つの王国と3人の女―』は、11月25日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー。
 

作品情報

映画『五日物語-3つの王国と3人の女』
 


(2015/伊・仏/シネスコ/カラー/5.1ch/133分)
原題:Tale of Tales
レーティング:PG-12

監督:マッテオ・ガローネ 『ゴモラ』『リアリティー』
出演:サルマ・ハエック ヴァンサン・カッセル  トビー・ジョーンズ ジョン・C・ライリー
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

<ストーリー>
3つの王国が君臨する世界。ある王国では、女王が“母となること”を追い求め、また、ある王国では、老婆が“若さと美貌”を熱望し、そして、もう一つの王国では、王女がまだ見ぬ“大人の世界への憧れ”を抱いていた。
やがて、それぞれの願いは叶えられるが、そこには皮肉な運命の裏切りが待っていた…。

(C)2015 ARCHIMEDE S.R.L.-LE PACTE SAS

公式HP:  http://itsuka-monogatari.jp

 

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