神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2015 オペラ《金閣寺》制作発表会から
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前列左から)小森輝彦、一柳慧(公益財団法人神奈川芸術文化財団・芸術総監督)、下野竜也、田尾下哲、宮本益光 後列左から)三戸大久、嘉目真木子、飯田みち代、吉原圭子
神奈川県民ホール開館40周年記念事業を締めくくる公演に選ばれたのは、黛敏郎作曲のオペラ《金閣寺》(ドイツ語上演)。ベルリン・ドイツ・オペラからの委嘱により1976年に初演。日本では1991年に岩城宏之指揮による初演を含め、これまでに4回しか全曲上演はない。三島由紀夫の原作は、三島文学の傑作のひとつであると同時に、近代日本文学の金字塔ともいわれている。8月19日に東京で制作発表会が行われた。
(取材・文:室田尚子 写真:T.Shiroma/Tokyo MDE)
演出を手がける田尾下哲は、現在、日本のオペラ界において若い世代を代表する存在。近年その活躍ぶりが常に注目を浴びている売れっ子演出家だ。「三島はもっともリスペクトする作家」という田尾下が演出に際してもっとも悩んだのは、原作とクラウス・H・ヘンネベルクによるオペラ台本との相違、特に主人公の溝口が、吃音(会話に障害がある)から手が不自由な存在へと設定が変更されていることだったという。溝口という人物の人間性に関わるこの変更を「何度読んでも腑に落ちない」と思ったそうだが、いちど三島の原作から離れて台本を真摯に読み解いた時、「手が不自由な存在としての物語がきちんと描かれていることに気づいた」。今、田尾下は「黛敏郎作曲、ヘンネベルク台本によるオペラ版『金閣寺』の物語をきちんと語っていきたい」と決意を新たにしている。
演出上最大のポイントは「金閣寺をどのように燃やすか」だが、田尾下は「原始的かもしれないが、美しく燃やす」と語っており、今から想像が膨らむ。他には、従来カットされてきた第3幕第4場の「夜の京都の街」の場面を復活。ヴィジュアル的にもっとも印象に残る美しいシーンが展開されることになるようだ。
指揮は読売日本交響楽団首席客演指揮者を務める下野竜也。田尾下とは10年ぶりの共同作業になるが、同世代ということもあり息はピッタリだ。黛の音楽を「ただ迫力あるサウンドだけではない、色気のある音楽を」と語る下野のタクトにも期待がかかる。
主役の溝口に小森輝彦、宮本益光というまさに「色気のあるバリトン」2人を据え、他にも現在望み得る限り最高のキャスト陣が集結したオペラ《金閣寺》。今年の最後に最大の話題作となることは間違いない。また、公演前に様々なプレイベントも企画されているが、中でも、オペラ台本を日本語に翻訳したものを俳優が演じるという「日本語による朗読劇『金閣寺』」は注目。オペラ本編を観る前の予習として『金閣寺』の世界を理解する手助けになるだろう。
第22回神奈川国際芸術フェスティバル
神奈川県民ホール開館40周年記念 神奈川県民ホールオペラシリーズ2015
黛敏郎 作曲/三島由紀夫 原作/クラウス・H・ヘンネベルク 台本
オペラ《金閣寺》
全3幕(ドイツ語上演・日本語字幕付)
上演時間 約2時間20分(休憩含む)
2015年12/5(土)、6(日) 15:00神奈川県民ホール
【指揮】下野竜也
【演出】田尾下哲
【装置】幹子 S.マックアダムス
【衣裳】半田悦子
【照明】沢田祐二
【音響】小野隆浩
【ドラマトゥルク・字幕】長屋晃一
【出演】
溝口:小森輝彦(12/5)/宮本益光(12/6) ※溝口役のみダブルキャスト
父:黒田博
母:飯田みち代
若い男:高田正人
道詮和尚:三戸大久
鶴川:与那城敬
女:吉原圭子
柏木:鈴木准
娼婦:谷口睦美
有為子:嘉目真木子
【合唱】東京オペラシンガーズ
【管弦楽】神奈川フィルハーモニー管弦楽団
S10,000円(Sペア19,000円) A8,000円 B6,000円 C4,000円 D3,000円
問:神奈川県民ホール事業課 045-633-3798
http://www.kanagawa-kenminhall.com/kinkakuji/
【関連企画】
●音楽講座 黛敏郎と「金閣寺」
11/7(土)14:00〜15:30 神奈川県民ホール6F大会議室 一般800円 学生600円
●文学講座 三島由紀夫と「金閣寺」
11/29(日)13:00~〜14:30 神奈川近代文学館 一般800円 学生600円
●日本語による朗読劇「金閣寺」
11/29(日)16:00 大ホール 入場料500円 ※
●プレトーク
12/5(土)14:30〜田尾下哲×幹子 S.マックアダムス
12/6(日)14:30〜田尾下哲×片山杜秀