金属恵比須のプログレッシヴ・レポート~「激レア曲だらけのイエス・ライヴをデータ解析する」の巻
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YESの公演会場・オーチャードホールに到着した筆者・高木大地(金属恵比須)
ロック界の「生けるレジェンド」、プログレ界の「即身仏」(特にギターのスティーヴ・ハウ)――イエスが来日中だ。
これを機に、今までの来日公演の全セット・リストをデータベース化、精緻な分析を行ない、今回の来日がいかにレアかを証明しようと試みた。
今回は、1973年3月の初来日から数えて実に10度目の日本ツアーで(1990年アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ公演含む)、ツアー初日の2016年11月21日は日本での51回目のライヴとなる(1990年アンダーソン云々含む)。
「アンダーソン云々」とは、ズバリ「お家騒動」。イエスを脱退した主要メンバーが4人(アンダーソンさん、ブラッフォードさん、ウェイクマンさん、ハウさん)集まるも当然のことながら「イエス」と名乗れず、仕方なくツアーを「イエス・ミュージックの夜」という嫉妬深くて執念深いタイトルにして全世界を回った「分派活動」である。
バンドの歴史が長ければ人の入れ替わりも多い。1968年の結成以来、基本的には5人編成であるにもかかわらずこれまで16名が「正式メンバー」としてレコーディングに参加してきた。ゆえにこのような「分派活動」で分裂するような黒歴史があってもやむを得ない。
かくいう私は、小学校5年の時にイエスを聞いたことにより人生が変わってしまった「信者」である。25年間プログレッシヴ・ロックにドップリと浸かり、それだけでは飽き足らず、プログレ・バンド「金属恵比須」を率いて今年で20年になる。20年もやっていればイエスと同様関わってきたメンバーの数も多い。現在はイエスと同様5人編成だが、在籍者数もイエスと同じで16名。
ただし一つだけ違うのは、「分派活動」を未だかつてされたことがないこと――。脱退したメンバーはこぞって金属恵比須のメンバーだったことをひた隠しにする。う~ん、まだまだ、である。
さて、さる11月22日、イエスの通算52回目のライヴを見に渋谷BUNKAMURAオーチャードホールに赴いた。
今回の来日公演の目玉は、次の3点。
◆『海洋地形学の物語』(1973)より「神の啓示」「儀式」完全再現
◆『イエスソングス』(1973)からのベスト・セレクション
◆『ドラマ』(1980)からのベスト・セレクション
3枚のアルバムの「おいしいとこどり」のセット・リストである。
表を見ていただきたい。11月22日のセット・リストと、2014年までの来日で何回その曲を演奏したかをまとめてみた。赤色の文字の曲が本邦初演奏の曲である。
◆白い車(ドラマ)
◆パペチュアル・チェンジ(イエスソングス)
◆神の啓示(海洋地形学の物語)
◆リーヴス・オブ・グリーン(『海洋地形学の物語』収録「古代文明」からの抜粋)
◆儀式(海洋地形学の物語)
セット・リストの12曲中、5曲(42%)が初演。
そして、初演ではないものの非常にレアだったのが次の2曲。『ドラマ』信者――通称「『ドラマ』ー」は狂喜乱舞必至。
◆マシーン・メシア
◆光陰矢の如し
ともに2012年のツアーでしか演奏されたことがない。ことに「マシーン・メシア」に関しては2012年4月18日渋谷公会堂ただ1日しか演奏されたことのなく超レア級。
それでは、順を追って曲の解説をしていこう。
■ 開演前:オンワード
開演の合図とともに会場を包んだのがこの曲。実際の演奏ではなくテープによる。2015年に亡くなったイエスの「人事部長兼ベーシスト」故クリス・スクワイアの画像が映し出され、黙祷。なお、クリス最期の舞台は2014年11月29日後楽園ホールでのライヴだった。舞台真ん中にクリスが愛用したクリーム色のリッケンバッカー4001ベースが飾られていたのが印象的だった。
■ 登場音楽:青少年のための管弦楽入門(ブリテン作曲)
「オンワード」で拍手が沸き起こってから間髪置かずにこのSEが流れる。この曲を登場として使用したのは、2012年ツアー以来。なお、1980年『ドラマ』ツアー(来日はせず)の登場音楽はこれで、一連の流れを作るための必然的な選曲だったのかもしれない。
登場メンバーは、
・スティーヴ・ハウ(ギター)
・ジェフ・ダウンズ(キーボード)
・ジョン・デヴィソン(ヴォーカル)
・ビリー・シャーウッド(ベース)
の正式メンバー。そしてサポート・ドラマー、
・ジェイ・シェレン(元エイジア他)
の5人。
正式ドラマーであるアラン・ホワイトは、腰の手術後で本調子とはなっていないようで、ほとんどはシェレンに任せるかたちとなっていた(後半に登場)。
■ 1. マシーン・メシア(来日演奏率:2%)
♪ドゥルルドゥルルドゥルルドゥルル……と狂暴に歪んだギターのリフレインがフェイドインすることによって、オーディエンス一同一気に湧き上がる。実は「『ドラマ』ー」という「隠れキリシタン」は多いのではないだろうか。
こうして『ドラマ』再現のコーナーで幕を開けた。
とにかく、スティーヴ・ハウのギターが冴えに冴えていた。正直言って前回の来日を見てハウの衰えに失望したものだが、こんなに若々しいギターが蘇るとは誰が想像しただろうか。I get down, I get up――である。
YES『DRAMA』ジャケット
■ 2. 白い車(来日演奏率:0%)
ジェフ・ダウンズとジョン・デヴィソンのデュエットの小曲。本邦初の演奏で超レア。
10台のシンセサイザーを操るダウンズはツアーを経るごとにうまくなってきている。そして、とにかく音色のセンスが秀逸だ。あのころのシンセサイザーの音は一歩間違えると非常に間の抜けたチープな音になってしまうのだが、当時の音を再現しつつも現在流にアップデートされており、センスの若さが感じられた。
■ 3. 光陰矢の如し(来日演奏率:8%)
『ドラマ』コーナーを締めるのはこの人気曲。
故クリス・スクワイアの代役ビリー・シャーウッドは、クリスそのままのベース音でブリブリいわせる。おそらくこの曲においてオーディエンス全員が彼を後継者と認めたであろう。衣装もクリスのようなピチピチズボンに羽織系の上着、そして割腹の良い体型で、目を細めて見てみるとそこにクリスが立っているのではないかと錯覚するほど。うねりのあるベースが映えた1曲だった。
■ 4. アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル(来日演奏率:84%)
ハウがマンドリンに持ち替えたらもちろんこの曲。ここから『イエスソングス』コーナーが始まった。
そして演奏率も84%、なじみのある曲なので手拍子・大合唱コーナーとなる。
ハウの爪弾く開放弦の音で音程を取るジョン・デヴィソン。そしてアカペラから始まるのだが、ジェフが何を血迷ったのかドアタマから手拍子を煽るアクションを起こした。しかもテンポが違う。すっかり温まっているオーディエンスはすぐに呼応しジェフに合わせて手拍子を始めるが、当然歌とは全く合っていない。焦りに焦った一部のオーディエンスはすかさずダウンズに反旗を翻し、歌の方にテンポを合わせなおす。
手拍子でポリリズム。
さすがプログレ!――って感心するところではない。スティーヴ・ライヒか。とにかく冷や汗ものだったけれども、そこは大ベテランの即身仏ハウがマンドリンでリズムを刻み、体勢を立てなおす。
YES『YESSONGS』ジャケット
■ 5. パペチュアル・チェンジ(来日演奏率:0%)
意外だったのがこの曲の来日演奏率。1994年『トーク』ツアーのオープニングで抜粋は演奏されていたものの、完全演奏は1度もなかったという事実に驚愕した。
ハウがこの曲を演奏するとあらかじめ公言していたのも、
ハウが公言しただけあって、ギター・プレイは鬼気迫るものがあった。音色はここ10年の傾向であるクリーン・トーンとは一線を画し、『イエスソングス』で聞ける荒々しい音色にスイッチ。ライヴ盤と寸分違わぬフレーズがいくつも飛び出してきた。聞き馴染んでいたあのプレイが目の前で奏でられていることに感動を覚えたオーディエンスも多かったかもしれない。
アレンジもスタジオ盤ではなく『イエスソングス』に準拠。ことにシェレンのドラムがビル・ブラッフォードを意識し、同じフレーズを再現していたのが微笑ましかった。ただ、ドラム・ソロはカット。どうせアランが叩けないのだったら逆手に取ってそこまでこだわってほしかった。
■ 6. 同志(来日演奏率:100%)
来日のセット・リストではおなじみの大曲。「Ⅲ.牧師と教師」ではビリーがブルース・ハープを披露。とことんクリスになりきる姿勢に頭が上がらない(厳密に言えば『イエスソングス』ではブルース・ハープは使用していないが)。ビリーの演奏でもう1点気になったのが最終章のファンファーレでのベース・ペダル・シンセサイザー(足元に置き、足で弾く鍵盤楽器)。足を上にあげペダルに向かって大げさに振りかざし鍵盤を押す。それに合わせてメンバーがリズムを取るという非常に高度な技を使っていた。足で指揮を執る人を初めて見た。本当にこの人、器用なのだ。
■ 7. 燃える朝やけ(来日演奏率:98%)
こちらもおなじみの有名曲。ジョン・デヴィソンの「SHARP DISTANCE!」ののびやかな歌声が会場に響き渡り、この声がすっかりイエスに馴染んだという印象を受けた。
ちなみに、来日演奏率98%で全50公演のうち1公演だけ演奏されなかった日があったのだが、それは2012年4月18日、渋谷公会堂でのライヴだった。冒頭に書いたとおり、日本で唯一「マシーン・メシア」が演奏された日。つまり、「燃える朝やけ」と「マシーン・メシア」をチェンジするというセット・リストだったのだ。データ分析をすると非常に興味深い事実が見えてくるからたまらない。
これにて第1部終了。20分の休憩が入る。この間にトイレに行こうとすると長蛇の列ができ(特に男性用)、なかなか用を足すことができない。男子諸君、トイレはあらかじめ行っておこう。
■ 8. 神の啓示(来日演奏率:0%)
とうとう始まったイエス様の拷問――超問題作『海洋地形学の物語』再演の始まりである。
そもそもこのアルバム自体、1973年3月イエス初来日の時にジョン・アンダーソンが読みふけったヨガの本が元になっており、萌芽の地で今まで一度も演奏されなかったのが不思議なくらいだ。このアルバムが日本で再現されることが歴史的な出来事であるのは間違いない。
「神の啓示」で光っていたのはジェフ・ダウンズ。ハウ以外のメンバーはアルバムに参加していないにもかかわらず、違和感なくごく自然に耳に届いたのは、彼のキーボードの音色によるものが大きい。
YES『海洋地形学の物語』アルバム・ジャケット
■ 9. リーヴス・オブ・グリーン(来日演奏率:0%)
「古代文明」の後半のスパニッシュ・ギター・ソロからの抜粋。
イエスの来日では演奏されたことはなかったが、95年渋谷クラブクアトロでのスティーヴ・ハウ・ソロ・ライヴでは演奏されており、私は実際にそれを見て感動した思い出がある。その時のヴォーカルはハウだったが、お世辞にもうまいとは言えない彼の歌声はご愛嬌だった。だが今回はプロのヴォーカルが歌う。
デヴィソンとビリーがほぼノン・リヴァーブ(歌にエコーをかけないこと)でハーモニーを形成するのを聞いて、本人たちの自信を感じることができた。実際にハウのギターは最高潮だし、リズム感も往年のまま。間違いなくこのライヴでのハイライトだった。
■ 10. 儀式(来日演奏率:0%)
クリスのベースが強調された名曲だが、日本で演奏されたのは1988年『ビッグ・ジェネレイター』ツアーでの抜粋のみ。
注目は長いベース・ソロ。ビリーはここでも見事にクリスになりきっていた。フレーズすべてを完コピしているのではない。しかしクリスっぽい。「もしクリスが最高潮になった時、どんなフレーズ弾くの?」というのを想像しながらアドリブしているように見受けられた。
そしてドラム・ソロで念願のアラン・ホワイト登場。シンバルやタムは叩きづらそうだったが、力強いバス・ドラムとスネア・ドラムの音色は間違いなくオーディエンスが求めていたものだった。やはりメンバーが参加するとオーラが違う。
この曲で本編の終了。
■ アンコール1. ラウンドアバウト(来日演奏率:100%)
アンコールといえばもちろんこの曲。アランも続投。『イエスソングス』を意識してか、中間部もカットせずフルで演奏。オール・スタンディングとなり手拍子の嵐。やはり、この曲は文句なしに盛り上がるのだ。
■ アンコール2. スターシップ・トゥルーパー(来日演奏率:28%)
『イエスソングス』最終曲で締めるという通な演出。演奏率は28%で3~4回見にいかないと聞くことができない若干レアな曲である。かくいう私もイエスのライヴは3度目だったのだが、確率通りにやっと聞くことができた。
ベース・ソロは、「儀式」とは対極に位置しており、ビリーの完全なオリジナルとなっていた。この「オン・オフ」具合もまた素晴らしい。
分析の結果、今回のツアーは絶対にレアな体験であることが証明された。「レア」という言葉が好きなプログレ・ファンには大満足のライヴだったに違いない。
スティーヴ・ハウは『海洋地形学~』『ドラマ』はもう演奏することはないと公言している。それを加味すると更にレアになってくる。もう一生体験できないようなライヴだったのだ。
演奏を楽しむという従来のフィジカルな楽しみ方に、レアものを楽しむという頭脳での楽しみ方も加わり、すっかり上機嫌で会場をあとにしようとしていたのだが……。
なんと、アンダーソン・ラビン&ウェイクマンの
ということで、迷わず
アンダーソン・ラビン&ウェイクマンが来日した際のセット・リストは、今回分析したデータに加えても大丈夫だろうか―― YES!
<東京>
Bunkamura オーチャードホール (東京都)
2016年11月21日(月)~11月29日(火)
<大阪>
オリックス劇場 (大阪府)
2016年11月24日(木)
<名古屋>
Zepp Nagoya (愛知県)
2016年11月25日(金)
■会場:Bunkamura オーチャードホール
■日程:2017/4/17(月)~2017/4/19(水)
■会場:あましんアルカイックホール
■日程:2017/4/21(金)
■会場:広島クラブクアトロ
■日程:2017/4/22(土)
■会場:日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
■日程:2017/4/24(月)
■日時:2017年1月28日(土)18:00開演(17:00開場)
■出演:
金属恵比須
難波弘之 & 荒牧隆
塚田円 & 石嶺麻紀
WARM SOUND PROJECT
■料金:前売 4,500円 当日5,000円
■
11/25(居酒屋ROUNDABOUT)
11/26(e+)
■公式サイト:http://ameblo.jp/roundaboutkannai/