熱くがむしゃらに、客席を意識?!『柔道少年』宮崎秋人・中屋敷法仁インタビュー
『柔道少年』(左から)宮崎秋人、中屋敷法仁
注目のキャストで日本初上演
韓国で大ヒットした舞台『柔道少年』が、2017年2月9日より東京・大阪で日本初上演される。日本版の脚本と演出は、中屋敷法仁(劇団「柿喰う客」代表)が手がけ、主演は宮崎秋人(俳優集団「D-BOYS」)が務める。
柔道でオリンピックを目指す田舎の高校生が主人公の青春ラブコメディ。この直球のストーリーに、気鋭の演出家と人気実力を兼ね備えた俳優がどう向き合うのか。都内で行われた合同インタビューの模様を紹介する。宮崎が「(公演日程の)前半と後半で演技が変わります」と語る、男子ならではの意外な理由にも注目だ。
『柔道少年』
熱くまっすぐ、嘘のつけない舞台
――この作品の魅力を教えてください。
中屋敷法仁(以下、中屋敷):『柔道少年』は、素直さ、ひたむきさがある舞台になります。全力でまっすぐぶつかっていく、小手先ではどうにもならない熱い作品であることに好感を持っています。
(左から)宮崎秋人、中屋敷法仁
――主人公についてはいかがですか?
宮崎秋人(以下、宮崎):圧倒的におバカなところが魅力です!スポーツに全力で、でも恋にも突っ走ってしまう不器用な少年です。他の登場人物もまっすぐで熱くて、「青いな、かわいいな」と思い、好きになりました。
中屋敷さんがおっしゃるとおり小手先では届かない役だと感じています。そこから一歩はみ出したところに、この役、この作品のおもしろさがあるのだろうと考えています。
――お二人は、過去に朗読劇でご一緒されていますね。お互いの印象は?
中屋敷:秋人君は、今、見逃せない、一作品ごとに成長する伸び盛りの俳優さんです。観るたびに印象が変わるので、本当の秋人君はどんな人なんだろうと、これはファンの方も思われているんじゃないでしょうか。『柔道少年』では、その、“本当の秋人君”を観られたらと期待しています。
――宮崎さんから見た、中屋敷さんは?
宮崎:役者同士でも話になることがあるんですが、みんな中屋敷さんが好きなんです。役者と一緒に作品を作ろうとしてくださって、役者から投げかけたことを一度受けとめて、膨らまして、返してくれる。でも実は、知らないうちに僕らはリードされていて、ぐんぐん道をこじ開けていってくれている。それが中屋敷さんです。
宮崎秋人
――中屋敷さんにも宮崎さんにも、面識のあるメンバーが集まりましたね。
中屋敷:チーム感が求められる作品なので、キャラクターごとのキャスティングがどうかという前に、どんな俳優たちが共演するのか重要視していました。共演者同士のリレーションも大事になるので、できれば僕自身が緊張しない、あまりビックリしないメンバーだと嬉しいとは思っていたんです。それが、こんなにもビックリしないメンバーになるとは思いませんでした(笑)
宮崎:僕も、キョトーンとしました。このメンバーでいいの?って(笑)。でも台本を読んで、ベストなメンバーだと納得しました。この空気感、テンポ感は、嘘をつけないぞと感じるところがあるんです。どれだけ同じ時間を共有して、人間関係を構築できているかが、如実に反映されてくる舞台になると思います。
宮崎秋人
――共演の荒井敦史さん、池岡亮介さん、三津谷亮さんについてはいかがですか?
宮崎:3人とも引き出しの多い俳優です。敦史は、馬力があります。求められるレベルはすぐにクリアして、その上でじゃあどうしようかとやれる男です。
亮介は、人とちょっとズレてるかなと(笑)。与えられたオーダーに対して「その受け取り方であってるのかな?」と思うときもあるんですが、やってみせられたらそれで納得させられてしまう。そこに亮介が演じる意味があると思っています。
三津谷くんは、自分の見せ方に関して、ずば抜けたものを持っている俳優です。あと、普段から振り切っていて、それは周りへの優しさなんです。空気を読んだ上でそうしているところがあると思っています。それから、ちょっと突けばすぐ泣く人なので(笑)、どう突いたら、どんな感情が出てくるんだろうと今から楽しみです!
一同:笑い
演劇でだけは、がむしゃらになれる
――嘘がつけない作品とのことですが、登場人物たちの「がむしゃらさ」には共感できますか?
中屋敷:僕は、ものすごいナルシストで、がむしゃらに何かをすることがすごい苦手な人間なんです。ただ唯一、演劇になると馬鹿になれるんですね。演劇ってイマジネーションの防空壕だと思っていて、自由で無防備になれる空間なんです。
中屋敷法仁
僕らだけでなくお客さんも、劇場にくると自由に、馬鹿になれますよね。いろんな夢とか希望を観たり、青春を味わったり。ピーターパンがワイヤーで吊られていても、皆気にしませんし、舞台上なら人が死んだっていいし、なんならそれを笑ってもいい。
僕自身には達観したところがありますが、演劇の力を借りてそんな自分の殻も少し破れるといいなと思います。
――宮崎さんはいかがでしょうか?
宮崎:僕も演じている時が、一番裸に、がむしゃらになれています。僕は役者には向いてないと思っているんですよ。
――ご自身が、ですか?
宮崎:はい。勉強もスポーツも苦労しないでできて、親からも「はやく挫折しなさい」って育てられたくらいなんです。それが、初めて「できない!」っていう挫折感をくれたのが演劇です。「演劇からは逃げずに一生向きあわにゃいかんな」と思えて、原動力にもなっている気がします。
一作品ごとに毎回どう評価されるかは恐いですが、挫折から始めたことなので、『柔道少年』の登場人物たちみたいに、熱く、全力、全開で、がむしゃらにがんばるしかないと思っています。
宮崎秋人
体温や息づかいも届く濃密な空間
――お二人の最近のステージの中では、珍しくお客さんとの距離が近い劇場ですね。
中屋敷:お客さんには、臨場感を楽しんでいただけるでしょうね。「俳優さんを観る」ではなく、「俳優さんと一緒にいる」という感覚になっていただけたら嬉しいです。
宮崎:演じる側としても、このキャパの劇場だと「みせる」というより「みられる」という感覚に近くなりますね。
中屋敷:体温や息遣いも届くキャパなので、汗流したり、よだれとか鼻水とか出しながら。
宮崎:そうなると思います。変な力がはいって、色々出ると思います(笑)。
一同:笑い
柔道少年
――舞台の上で、実際に柔道をされるのですね。
中屋敷:はい。バレーボールもバスケットボールも舞台にしたことはあるんですが、柔道は、見せ場の作り方が演出でどうこうということではなく、本当にこのメンバーで掴みあって、技かけあって絞めあわないといけないんで、すごいことですよ。殺陣とも違うよね?
宮崎:違いますね。物理的に触れ合いますからね。三津谷くんとか亮介くんとか、体が細いんで骨を折っちゃわないか心配です。
中屋敷:秋人君は、最近、体が大きくなっていくよね? 大きくなる盛りなんだね(笑)
宮崎:日に日に(笑)。みんなと一緒にご飯にいって、みんなの体も大きくしていかないと。あと、僕は、オリンピックを目指すぐらい体の強い役を演じるので、柔道を体になじませないといけないなと思っています。経験のない新しいスポーツに向きあえるのは、すごい好きで、やればやるほどできるようになるというのがやりがいでもあり、生きがいでもあるので、楽しみにしています。
マクベス、アポロ、それぞれの高校時代
――おふたりは、どんな高校生でしたか?
中屋敷:こわッ!その質問怖い!!
一同:(笑)
中屋敷法仁
中屋敷:ポケットに、シェークスピアを入れている高校生でした。「マクベス」をいれて休み時間には演劇雑誌を読んで、たまに友達からドラマの感想を聞かれると「あの俳優は〇〇っていう劇団出身だから演技が…」とか。「演劇部の人」っていう自分のキャラクターをものすごく大事にしていました。当時の日記には、観たドラマの全部に「このシーンのここが良かった」「ここはちょっと構成が悪いと思う」とか偉そうなことをメモしてあって、自分でひきましたもん。
宮崎:すごーい!
中屋敷:そんなやつが青森の片田舎にいたんですよ。演劇への憧れというレベルじゃなくて、気持ち悪いくらいに執着していました。あの頃の自分、本当に怖いです。
宮崎秋人
中屋敷:部活は?
宮崎:バスケ部にいました。でも全国を目指すような強い高校で、高一の夏に、それほどはバスケ好きじゃないなって気がついて辞めて、バンドでギターを弾いたりしたんですが…、思い出がないんです。何にも考えていなかったんだと思います。最近、ふと修学旅行が沖縄だったと思い出したことはあったんですが、行ったはずのその時の記憶も真っ白で。びっくりするほど高校時代の思い出がないんですよね。
中屋敷:幸せだよ!幸せだよそれは!!
一同:笑う
ヒロイン以上に客席の女性を意識?!
(左から)宮崎秋人、中屋敷法仁
――公演は2月9日からということで楽しみにしています。2月15日には、ちょっとしたイベントがあるそうですね。
宮崎:バレンタインですよ!男子高校生にとってバレンタインは、一年で一番大事な日なんです!公演初日から14日までの6日間、劇場で「どの役にチョコレートをあげたいか」の投票を受け付けて、15日に発表するというイベントがあるんです。
中屋敷:これ、一番盛り上がっているのはキャストですからね(笑)
宮崎:それはそうですよ!僕ら(俳優陣)にとっても年1回のビックイベントですからね!!クリスマスもハロウィンも年末年始も関係ありません。唯一、2月14日だけはソワソワ楽しめるんです!!
投票期間中は、僕らの芝居もちょっと違うものになるかもしれません。14日まではヒロインよりも客席の女性を意識して媚びた演技になるかもしれません。15日からは下心なしに純粋なお芝居として(笑)。中屋敷さんも出ますか?出ちゃいますか?
中屋敷:浮動票が流れてくるかもしれない。
一同:笑い
今年を振り返り、2017年へ向けて
――この1年を振り返ってみていかがですか?
中屋敷:演劇界全体の話になりますが、作品の種類が豊富になってきていると感じています。それに伴って、俳優さんに求められることも増えてきて、芝居だけでなく殺陣ができて、歌も歌えて、おしゃべりもできるようにと。大変だと思います。同時に、お客さんからのニーズも高まっている気がするんですね。もう、とにかく楽しませてほしい!あれもしてほしい!これもみたい!と。
中屋敷法仁
この流れに対して、僕自身は演出家として「もっと多くを吸収していかなければ」という思いがあります。今年1年は、生き急ぐように色々観てまわって吸収ばかりしていた気がします。
世の中に、テクニカルなものとかバラエティが増えていく中で、僕にとって来年最初の作品となる『柔道少年』は、すごい素直に作れる舞台です。これは恐怖でもあります。みんないろんな技は持っていますが、それは一度おいておいて、『柔道少年』はできるかぎり素直に、男と男が投げ飛ばされるだけでどれだけ面白いものを作れるのかから始めてみたいです。
――宮崎さんはいかがですか?
宮崎:今年はアガペストア、つかこうへいさんの作品、舞台『弱虫ペダル』まで、いい意味で一歩も止まらず走り続けられた年でした。先日、お芝居のワークショップを受けさせていただく機会があったんですが、勉強になることばかりでした。勝手にできた気になっていた演技の基本的なことにも気がつけたりしたんです。あらためて基礎の基礎から役者としての地を固めていって、来年の『柔道少年』では、さらに地を固めた演技をおみせしたいです。作品としても、それに演出の中屋敷さんもいますし、『柔道少年』はそれにふさわしい舞台だと思っています。
(左から)宮崎秋人、中屋敷法仁
■日程・会場
<東京>2017年2月9日(木)~21日(火)ザ・スズナリ
<大阪>2017年2月24日(金)~26日(日)ABCホール
■作:イ・ジェジュン、パク・キョンチャン
■演出・上演台本:中屋敷法仁
■出演:宮崎秋人、荒井敦史、三津谷亮、池岡亮介、桜井美南、小林正寛
■公式サイト:http://judo-shonen.dstage.jp/