音楽劇『君よ生きて』演出家・望月龍平に聞く
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音楽劇『君よ生きて』の過去公演から(蒼龍舎・龍平カンパニー提供)
望月龍平(撮影:五月女菜穂)
演出家、望月龍平 (元劇団四季メインキャスト) の率いる龍平カンパニーが、音楽劇『君よ 生きて』を2017年2月に再々演をおこなう。「シベリア抑留と引き揚げ」をテーマにした作品をどう魅せるのか。望月にその思いを聞いた。
戦争の苦悩、そして命のありがたさを知る。
亡くなったはずの曾祖父、善吉と出逢い、時空を超えた旅に誘われる。
ライフワークとして伝えていきたい
--2014年初演、2015年は全国ツアーをされました。今回、再々演を決めた理由は何なのでしょうか。
『君よ生きて』を一番最初に作った時に、創作していくにあたって文献だったり、実際にシベリア抑留を体験した方のお話を聞かせて頂いたりしました。知らないことがたくさんあって、これはライフワークとして伝えていかなければいけないことだと感じました。例えば、抑留されていた方のお話を聞いた時に印象に残ったのが、死ぬ時にみんな「おっかぁ(お母さん)」って言うそうです。「おっかぁ」って言ったら、「こいつあかんな、もう死ぬな」と。機会がないと、こういうことを知ることはないですよね。
2015年に舞鶴引揚記念館収蔵資料が「ユネスコ世界記憶遺産」に登録されましたが、それでもまだまだ日本の歴史教育の中でスポットの当たりにくいところだと思っています。僕たちは生まれた時から、70年間戦争のない世界が当たり前で、金銭的なことや人間関係で悩むことはあったとしても、飢えることはない国にいる。こんな豊かな国に誰がしてくれたんだろう?っていうことを僕たちは忘れちゃっていると思うんです。必死に生きた先人がいたからこそ今の僕たちの命がある、そう語り継いでいきたいんです。
音楽劇『君よ生きて』の過去公演から(蒼龍舎・龍平カンパニー提供)
父の死で改めて感じた「命の尊さ」
音楽劇『君よ生きて』の過去公演から(蒼龍舎・龍平カンパニー提供)
--「命の尊さ」ということですね。
そう。僕が劇団四季をやめて、当時NPO法人でスタートした旗揚げ公演『twelve』初日が2011年3月19日だったんです。稽古も大詰めの時に3.11があって。あの時に思い知らされたのは、当たり前のことは何もないんだ、ということ。電気もガスも水道も交通機関も家族でさえも。僕自身、2010年のクリスマスイブに父を癌で亡くして、命について非常に考えさせられていた時期だったので、色々重なりました。
「命は大切です」ということの本当の意味って簡単には教えられないんです。僕自身、父の死で気づかされたことがたくさんあった。危篤という連絡があって一時間半ぐらいして僕が病院に到着したんですけど、そのあと数分で父が亡くなったんです。明らかに父は僕を待っていてくれたんです。自分の死に様を息子に見せるって、そうそうできないぞ、と。親父すげぇなって思いました。父との葛藤もありましたが、もうそんなことより、感謝の思いがあふれ出ました。
そうして僕は幸運ながら、親に対する感謝や、自分の命が自分だけのものじゃないこと、それこそ戦火を逃れて必死に先人がつないでくれた命なんだ、本当に尊い存在が自分なんだ、同じように目の前にいる人も尊い存在なんだっていうことを感じられるようになったんです。それってすごく、豊かですよね。同時にそんな豊かさを僕たちも残していかなければ、と思っています。
音楽劇『君よ生きて』の過去公演から(蒼龍舎・龍平カンパニー提供)
--ご自身の体験が根底にあるのですね。
カンパニーのメンバーたちも『君よ 生きて』に関しては特別な思いを持っていてくれていると感じます。再演するという話が出たら「スケジュールを空けておきます」と。例えば、初演と再演で出演している青木結矢は今回キャスティングディレクターを担当していますが、彼は、自分が演者として関わらなくても、この作品はずっと応援していきたい、この作品を伝えていきたいって言ってくれるんです。
それから、先日、熊本のとある方からお手紙を頂きました。過去の公演のDVDをご覧頂いたんですが、「忘れ去られている大切なことを演劇活動を通じて伝えているんですね」と書いていただいて、抑留経験のある方の手記を同封してくださった。そういう、普通に興行やっているところとは違う角度からご縁がつながっていくのが非常に印象的です。
--再々演にあたって演出の変更などは予定されていますか。
美術に関してイメージしているものがあるんです。それを観に来てくれているお客様だけでなくて、亡くなられた先人たちが見守ってくれていると思っているので、彼らにも見せたいと思っています。
キャスティングも変わりました。僕ら異常な稽古量なんですよ。普通、本番始まったら稽古ってやらないんですけど、僕らはガンガンやります。1回の公演で最低100ぐらいのダメ出しが出て、修正に修正を重ねる。掘り下げ方も全然変わる。初演から出ているメンバー、再演から加わったメンバーもすごく楽しみですね。新たに今回から加わってくれるメンバーでも、親戚が引き揚げ経験者だった人もいるので、そういう意味では作品がより深まると思っています。
望月龍平(撮影:五月女菜穂)
劇団四季からの「守破離」
--劇団四季時代から大切にしているもの、変わらないもの、もしくは変わったものは何かありますか。
僕の演劇の師匠と言ったら、浅利慶太さんをおいて他にはいないです。うーん……「守破離」(※型を「守る」→型を「破る」→型を「離れる」という、日本の芸道や武道等における師弟関係のありかた)は考えますね。四季時代は、基本的には「守」でした。そこで、演劇に対する幹というか根っこというか、そういうぶれないものを身に付けた。浅利さんについて色んな人が色んな見方をしていると思いますが、僕は、浅利さんが演劇に関して本当にピュアだと思っています。舞台を観ながら泣くし(笑)。演劇を通じて世の中に伝えたいことがある彼に僕は惚れていた。しかしその一方で、浅利さんの次の世代がどうなっていくかを考えることが、僕の次なるテーマだったのです。
だから、僕はずっと四季に居続けるという選択を取れなかったんです。でも、真にクリエイティブな戦いをしていくには、劇団がどうこうということではなくて、僕自身がそこから離れないとダメだ、と思ったんです。
浅利さんの演劇に対する、突き動かされるような信念というか、永遠の少年の心みたいな、そういう部分は引き継いでいきたい。それに加えて、僕たちの世代がどんな風に作っていくのかを考えた時に、調和や共に創造するということを僕は大切にしていきたい。例えば、四季はアドリブ一切禁止。ダンスも振付通りに踊る。だけど、うちのカンパニーは、台本というベースはあるにせよ、出てきちゃったアドリブに関しては、或る程度、寛容です。役者たちものびのびといろんな提案をしてくれる。
音楽劇『君よ生きて』の過去公演から(蒼龍舎・龍平カンパニー提供)
--四季を離れてから、自分のスタイルを見つけたということですね。
どこまで来れたのか分かりませんが、自分は天才だなぁって思う瞬間もあるし(笑)、まだまだだなぁって思う瞬間もある。僕は、埋もれている才能を、それは役者に限らずですけど、埋もれている才能を持つ人たちが活躍できる場を作りたいなと思っているんです。それがそもそもカンパニーを作った時の思いだったので。
音楽劇『君よ生きて』の過去公演から(蒼龍舎・龍平カンパニー提供)
お客様と一緒に、作品を深めていきたい
--浅利さんに観て欲しい気持ちはありますか。
そうそう、このあいだ四季を辞めて8年ぶりに浅利さんにお会いしたんですよ。すごく緊張しましたが(笑)。「今何やってんだ」って聞かれたので、「演出やらせていただいています」と答えると、「あぁ、そうか、すごいな」って言ってくれました。自分を育ててくれた人ですから観てほしい気持ちはありますね。
もっと嬉しいこともありました。僕が育てた若い子たちが最近、浅利さんの舞台に出演したのですが、浅利さんが僕のことを「彼本当にいい役者を育ててるなぁ」って言ってくれらしくて。それが回り回って聞こえてきた。そういう意味で少しは恩返しできたかなって思います。
望月龍平(撮影:五月女菜穂)
--改めてどんな人に『君よ 生きて』を観てほしいですか。
お客様の声で子供に観せたいという声が多いんです。僕の思いも同じですが。実際にお子さんに観せた方で、『君よ 生きて』を観劇後に、「おじいちゃんも戦争行っていたの?」と聞かれたそうです。嬉しいですね。先人の思いを伝えたいと言いましたが、子供たちからしたら僕たちも先を歩いている先人なんです。その子たちに僕らがどれほど誇れる未来とか国とか思いを残せるだろうかということは、僕たちのテーマでもあります。
「シベリア抑留と引き揚げ」というと、戦争物ズブズブというイメージですけど、同じくお客様から意見を頂いたのは「ストーリーの中に戦争を盛り込んでいるけれども、戦争物じゃなくヒューマンドラマ」だと。そんな風に言っていただけるのも、この作品の魅力かもしれません。
ひとつ次の段階に来たのかなと思っているんです。これからは、お客様と一緒に作っていく段階に来たのかなと。お客様が、具体的にこの人に見せたいというイメージがそれぞれ湧いてくる。そんな作品になるように、さらにこの劇を深めていきたいですね。
【望月龍平プロフィール】脚本家・演出家。18歳で劇団四季に入団。「CATS」ミストフェリーズ役、「エクウス」アラン役、その他「マンマ・ミーア」「ライオンキング」「美女と野獣」「ウエストサイド物語」等に数多くの出演し、2008年の退団までにメインキャストとして、2500ステージを踏む。退団後、渡英。俳優のみならず演出家・脚本家・プロデューサーとして異才をふるう、今もっとも注目される舞台人。「twelve」、「鏡の法則」、「文七元結 the musical」、音楽劇「君よ 生きて」など数々の話題作を世に生み出し、演劇界の異端児として業界に風穴を空け続けている。昨年「君よ 生きて」の全国ツアーを実施し、33公演、約5000人を動員した。また、東京フィルムセンター映画・俳優専門学校 教育顧問として学生指導にあたり、劇団四季を始め、有名劇団に沢山の合格者を輩出。劇団四季とロンドンで学んだアプローチで、役者の感性を開く指導法に特に定評がある。
取材・文:五月女菜穂
■脚本:まき りか
■音楽監督:ユウサミイ
■日程:2017/2/22(水)~2017/2/26(日)
■会場:天王洲 銀河劇場
■公式サイト:http://kimiyoikite.com/