山田裕貴、窪田正孝らを送り出した『ガチバン』から新たな世界『闇金ドッグス』へ 元木隆史監督がシリーズ映画に込めた想い

2016.12.9
インタビュー
イベント/レジャー

『闇金ドッグス4&5』元木隆史監督

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『闇金ドッグス』シリーズは、異色のヤンキーアクション映画『ガチバン』シリーズのキャラクター・安藤忠臣(山田裕貴)を主人公にすえてスタートした作品。『ガチバン ULTRA MAX』でヤクザの構成員として登場した忠臣が、その後組長となり、さらにひょんなことから闇金業者に転職。金と人間の欲望をめぐり、地下アイドルや主婦、悪徳芸能事務所の社長ら個性豊かなキャラクターたちと生々しいドラマを繰り広げてきた。『闇金ドッグス2』からは、シリーズ第1作で登場した元ホスト・須藤司(青木玄徳)が忠臣の相棒として参戦し、『闇金ドッグス3』では主人公として活躍することに。ここから同シリーズは、元ヤクザと元ホストの凸凹コンビが繰り広げる闇金映画となった。

そんなシリーズ最新作『闇金ドッグス4』が12月10日(土)に、『闇金ドッグス5』が2017年1月14日(土)に公開される。メガホンをとるのは、『ガチバン ULTRAMAX』で忠臣誕生に立ち合った元木隆史監督だ。元木監督は『ガチバン』シリーズ18作でメガホンをとり、山田以外にも窪田正孝、佐野和真ら若手俳優を送り出してきた。再び山田とタッグを組む元木監督は、あらたな『闇金ドッグス』の世界に何を持ち込むのか。また、そのキャリアのほとんどを‟シリーズ作品”に捧げてきた理由や、見てきたものを熱をもって語ってくれた。

 

山田裕貴、窪田正孝、佐野和真……数多の若手俳優を送り出した監督が見てきたもの

 

山田裕貴演じる安藤忠臣 (C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会

 

――元木監督が『ガチバン ULTRA MAX』(以下『ULTRA MAX』)生み出した安藤忠臣=山田裕貴さんとの再会ですね。また忠臣で作品を撮れることになって、どう思われました?

『闇金ドッグス』は企画が始まる段階から知っていたので、「自分とは違う忠臣を撮るんだ。どんな感じになるんだろう」と思っていました。で、観てみたらこれが面白くて。自分の中には“シリーズ監督”という考え方があるので、「このシリーズは土屋(哲彦)監督が撮られるんだろうな。山田が成長したらいいな」と、最初は観客目線でした。『闇金ドッグス4』や『闇金ドッグス5』があるなら、そばで客として観よう、というくらいに楽しんでいたんです。自分にお話が来たときは、単純に「山田を撮れるのが嬉しい」と思いました。『闇金ドッグス』というより、山田裕貴を、忠臣を撮れるのが嬉しい、と。

――『ガチバン』シリーズからのファンも、お二人の再タッグが嬉しいんじゃないかと思います。

『ガチバン』シリーズでは、素養がある人、華がある人、面白そうだなと思う若い俳優さんと何人も一緒にやらせていただきました。その中でも、山田には初めて会った衣装合わせのときから「気合が違う」「コイツは持ってる」という感じがありました。具体的に言うと「余裕がない」。芯があるんですけど、どこか探っている感じがあって、若い子なのでそういうのがあるんだな、と思いながら撮っていたんです。現場では非常に素直に思いっきりやってくれたので、「コイツ、いいな!」と思いました。

――『ULTRA MAX』の忠臣には、命を削っているような凄まじい迫力がありました。

彼は芝居を盛らないんです。的確に、そこでの芝居を感じ取ろうとする。(『ULTRA MAX』は)窪田が相手役だったからというのもあるんでしょうが……最近聞いたんですが、彼は窪田をすごくリスペクトしているらしいんです。当時は俳優として負けないようにという気持ちもあったでしょうし。若い俳優さんは悪い役だったり、迫力のある役だと芝居を盛りたがる。でも、彼にはそういうのは一切なくて、すごく素直に演じてくれました。『ULTRA MAX』では、窪田と彼と永野芽郁ちゃんが非常によく絡んで、とても印象的な輪になりました。それまでの『ガチバン』は週刊連載の漫画みたいなイメージで撮っていたんです。それはそれで自分の中では楽しかったんですが、『ULTRA MAX』はそうじゃない作品になったので、「こういう作品性が『ガチバン』で出てきて面白いな」と思わせてくれました。

 

(C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


――確かに、それまでの『ガチバン』とは印象が違いますね。

『ULTRA MAX』の最後、(忠臣が)山口祥行さん演じる兄貴を殺すカットでは、彼は現場を掌握してしまったんです。現場の全員が固唾をのんで、若い俳優が引き金を引くのを見ていた。手練れの、プロのスタッフが集まっていて、「どうせ若い俳優が拳銃を撃つんでしょ?」という雰囲気をガラリと一変させて、みんなが「すごいイイね!」と掴まれました。これが現場的には非常に嬉しい。この時の彼には、「作品の中に何か残してくれた」という感謝がありましたね。

――強烈なファーストコンタクトですね。

その後、『ガチバン NEW GENERATION2』で忠臣が組長として再び出てきて、そこでもやっぱり彼は素直に存在感を出していた。「面白い俳優だなあ」と思いましたね。

――『闇金ドッグス4』でも同じような強烈なシーンがあるんでしょうか。

『闇金ドッグス4』は、升さんとお金の貸し借りをするところが非常にいいです。スタッフもぼくも編集ラッシュは何回も観ているんですが、あの場面は固唾をのんで観てしまう。やってることはそんなに大したことないんですよ。ただ「20万円貸してくれ」と言ってきた男に、立ち上ってお金を貸すだけなんですけど、あれだけきっちり見せられるのは、升さんも含めた俳優部の力だとまざまざと思いました。

――ただ、今回の『闇金ドッグス4』は、初期の『ガチバン』シリーズのようなコミカルなテイストも入っていますよね。もともと、コミカルな設定を入れる予定だったんでしょうか?

脚本家の池谷(雅夫)さんもそうなんですが、プロデューサー陣も『ガチバン』シリーズとまったく同じなので。これは監督の人を見てネタをぶっこんできてるのかな、と思いました(笑)。「大丈夫なんですか? AVの話なんて下ネタじゃないですか」と言ったんですが(笑)。ぼくはそれを受けて立ちます、というスタンスでしたけど。ただ、土屋さん(編注:土屋哲彦氏。『闇金ドッグス』から『闇金ドッグス3』までの監督)は大丈夫かな、と(笑)。シリーズ途中からやるとなると、それは気になりました。

 

AV制作会社ドビュッシー企画会議 (C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


――元木監督と池谷さんが組むと聞いた時点で、ひょっとしたらコミカルになるかもしれないと思っていました(笑)。

ぼくは基本的にわりと受け身な監督なんですが、いやいやではなくて、「大丈夫です!」と自信を持ってやりました。意外にちゃんとできたと思います(笑)。

――『ガチバン』シリーズも本筋は真面目なんですが、ヤンキーがアニメーターを目指したり、韓流ホストクラブで働いたりと、おかしいところがたくさんありました。ドラマとぶっとんだ設定のバランスをとる秘訣みたいなものがあるんでしょうか?

『ガチバン』シリーズについて言えば、(製作陣は)「元木だったら上手くいくだろう」と思っていただろうし、自分でも「たぶん大丈夫だな」と思いながらやっていたのもあります。ただ、『ガチバン』では悪ノリしたところはあります。

――シリーズをよく知っている方は、ヤンキーものと思っていないかもしれないです(笑)。

『ガチバン』シリーズは、パッケージがヤンキーものらしくあればあるほど、「今回はダンスなんだけどね」「今回は受験ものなんだけどね」という作品なので(笑)。そこを非難されるようではおしまいだとは思っていたんです。だいたい『ガチバン』が好きな方は、「裏切られた」とは思わずに、パッケージのフタを開けて「今回はどんなのだろう?」と楽しんでいただいているようなので、そこは自分の悪ノリが通用していると思っています。本筋がブレないのは、『ガチバン』に関しては、キャラクターがちゃんと確立しているからですね。これはシリーズものの強みなんですけど、今まで森紋児(編注:佐野和真演じる3作目からの主人公)だったり、黒永勇人(編注:窪田正孝演じる7作目からの主人公)だったり、紅井レオ(編注:荒井敦史演じる15作目からの主人公)だったりを、みんなキチンと一回やっているので、それがどうぶっ壊れようが、絶対に彼らは元に戻ることが出来る。彼らが芝居やキャラクターを自分のものにしているのをわかってやっているんです。

――それは、俳優さんたちが一線を越えない感覚をわかっているということですか?

一線を越えないというより、振り切っても戻れると思っています。どこまで振り切るか、悪ノリにならない程度に振り切るということを、ぼくもプロデューサーもすごく言っていました。「面白くやっちゃダメなんだよ。彼らは真剣にダンスをやったり、真剣に受験勉強するからおかしいんだよね」と。それは決してキャラクターがブレているわけではなく、「彼らなりに一生懸命やっているけど、それを傍から見るとおかしくなる」ということになる。だから、思い切ってやってください、と。彼らは、「面白いでしょ?」という感覚ではやらなかった。まあ、そういうところもちょっとはありましたけど(笑)。

――あったんですか(笑)。

それはまあ、現場のお遊びということで(笑)。「面白いでしょ?」という感覚でやらないように、というのはプロデューサーの向井(達矢)さんにもきつく言われていましたし、ぼくも関西人なので悪ノリしないように、戒めつつ演出したのが本筋に戻れるコツなのかな、と思います。

 

(C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


――『闇金ドッグス4』でも、忠臣はAV制作会社ドビュッシーの企画会議で悪ノリしていませんね。

そうですね。『ガチバン』ではいろんな人をぶっ壊してきましたけど、忠臣だけはぶっ壊せていないです。彼はぶっ壊してはマズい気がする(笑)。

――『ガチバン』『闇金ドッグス』通しても、唯一“一線を越えてしまった”人物ですから、忠臣はちょっと特殊だと思います。

『闇金ドッグス』で忠臣がぶっ壊れてしまったら、たぶんそれは『闇金ドッグス Season2』になるだろうと思っています。悪い意味ではなく、今までの闇金モノという一貫したイメージを飛び越えた『Season2』になる。ただ、当分はぶっ壊さないんじゃないでしょうか。あと、付き合いはそんなに長くないんですが、ぼくは山田のことを信頼してるんですよね。彼はそれを知ってか知らずか、自分で好きに立とうとしてくれているので面白い。いつぶっ壊してやろうと思いながら、ぶっ壊せないまま来ています。

――『闇金ドッグス4』には升毅さん演じる先輩の元ヤクザ・豊田が出てくることによって、忠臣の過去が見えてきます。最初から忠臣の過去を掘り下げるつもりだったんでしょうか。

ぼくは受け身で、企画から「こうだと思います」と発信をあまりしないほうなので、自分から忠臣の過去を見せたいと思ったわけではないです。ただ、ミーティングでヤクザが出てくることになったので、必然的に忠臣の過去を出すべきだとは思いました。自分が『闇金ドッグス』を何も知らずにレンタルするなら、闇金の手口だったり、狡猾なキャラクターだったり、人の汚い部分だったり、いわゆるお金にまつわるロジックで色んな感情がうごめく、ちょっと大人っぽい楽しみ方を期待して観ると思うんです。『闇金ドッグス』3作目まではそれがキチンとできているんですが、『闇金ドッグス4』が特殊なのは、そういうロジックが出てこないところです。忠臣の過去を出したいから、というのもあったからかもしれないですが、どちらかと言えば人情ものになっています。編集していても、現場でも思ったんですが、間違いなく「金を貸す」ときと、「金を借りる」ときの重たさがある。すごくシンプルなんですけど、豊田と忠臣がお金を渡す、取るということにものすごく視線が奪われるし、そこにすごく注力できたので、ある意味ちょっと違う闇金モノなんだろうなと思えました。ものすごく満足できたし、自分の中でも新しいと思えました。

 

山田裕貴演じる安藤忠臣(左)と青木玄徳演じる須藤司(右) (C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


――忠臣の相棒・司役の青木玄徳さんのお芝居はいかがでした?

青木くんとは今回が初めてなんですが……忠臣もそうなんですが、今回は彼らが『闇金ドッグス』で作り上げてきたキャラクターだったり、お芝居だったりを受け入れようと思ってやりました。もちろん、台本にあわせていく部分もあるんですが、一回受け入れちゃおうと。それをやりたいと思ったので。青木くんは、すごくよく動くキャラクターだと思いました。

――司は忠臣とは対照的な陽のキャラクターですが、バディ(相棒)感がさらにまして、すごく息があっていました。

彼が俳優として持っている雰囲気で司をやると狡猾に見えてしまうので、それを感じさせないように、気持ちの方向にもっていくように作った部分はあります。青木くんの演じる司は、『闇金ドッグス5』でちょっとだけ壊れ気味になります(笑)。彼はそれを面白がって、受け入れてイキイキやってくれていますよ。

――高橋ユウさんも、忠臣と豊田の物語の“原因”になる元子をすごく自然に演じてらっしゃいました。

高橋ユウさんは凄く良かったですよ。彼女がビタッとノリきったのが、アパートで豊田と朝食を食べるシーンです。あそこで脂がのったというか、彼女の持っていたビジョンが元子にピタッとハマって、その場の全員が「いいね!」と思った。元子はクライマックスに酷いことになりますが、そのシーンで彼女が「どうやろう」「どうしてやろう」と集中しているのがビンビン伝わってきましたし、相手役のジェントルもそれを感じていて。表現としては、決してセクシャルなものを出していないシーンなんですが、とても悲しいというか、「よくぞこの表情を作ったな」と思いました。プロデュ―サーの飯塚(達介)さんに電話したくらいです。「高橋ユウ、素晴らしい表情が撮れましたけど……事務所は大丈夫ですか?」と(笑)。

 

高橋ユウ演じる元子(左)と升毅演じる豊田(右) (C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


――元木監督から見ても、そんなに上手かったですか。

上手かった……というか、ノッてましたね。元子が豊田にお金を渡して笑うカットもあったんですが、その表情にスタッフが惚れてました(笑)。監督としても「ええの撮れたわ~!」と思いましたし。升さんにほだされたのもあるでしょうけど、どんどん芝居が良くなっていって、演出冥利に尽きる画がいっぱい撮れましたね。

――『ガチバン』から『闇金ドッグス』まで、元木監督の作品では、若手俳優の方がみなさん素晴らしい演技をされています。

俳優さんの期待値というか、そういうものは最初の衣装合わせのときに、一発でわかります。「この子は出来そうやな」「この子は大丈夫や」とか、一発目から感じるんですよね。シリーズものをとっていて、全員がそうでした。衣装合わせで「コイツはいける」と思った人は、現場でもこちらが嬉しくなるくらい衝撃的なお芝居を、ちゃんとやってくれる。このロジックは間違いないと思いますね。俳優さんは衣装合わせを大事にしたほうがいいと思います。

――衣装合わせの時の立ち居振る舞いに素養が出るんでしょうか。

立ち居振る舞い、言動ですね。みんなそれぞれ違うんですが……何なんでしょうね。監督と最初に会うからなのか、衣装合わせは凄く大事だと思います。ビビッときますもん。

 

『ガチバン』から『闇金ドッグス』へ ”シリーズ監督”に込めた思い

 

(C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


――ほかのキャストですと、木村祐一さんがすごいキャラクターで登場していますね。標準語の職人AV監督で、ハナクソを食べる癖があるという(笑)。

「まさかこの役を木村さんが受けてくれるとは!」と思いました(笑)。やっぱり、現場でぼくも躊躇してしまうんですよね。すごく物静かな方で、挨拶に行ったらものすごく丁寧に「よろしくお願いします」と返してくださって。ぼくの中では「キム兄」は考えの奧が見えない人のイメージがあって。そんな人が、果たしてハナクソを食べてくれるのかな、と(笑)。

――それは躊躇しますね(笑)。

内心、「イジりやがって」と思われているんじゃないかと、演出するほうとしてはナイーブに考えていまして。「申し訳ないですが……実はこれがハナクソなんですけれども」と言うと、「結構大きいですね」みたいな話になりまして(笑)。ぼくが「もう少し小さくしましょうか?」と言ったら、木村さんは「いやいや、小さくすると見えないですよね」と。いや、確かにそうなんですけど(笑)。

――そんなシュールなやりとりがあったんですか(笑)。

ということで、わりと大きめのハナクソを鼻に仕込んでもらいました。もちろん作り物の“食べられるハナクソ”ですが。お芝居は一連の流れでやらないと面白くない。そうするとやっぱり、仕込んでもらわないとまずい。「カットで上手く誤魔化さないとマズいかな​」と思っていたら、木村さんは「少し時間を下さい。できればリアルに仕込ませてほしいんで、何とかします」とおっしゃってくれて(笑)。非常に前向きにハナクソを仕込んでいただきました。

――プロ根性ですね。悪ふざけじゃなく、真剣に面白い人が出てくるのは、やはり『ガチバン』からのテイストですね。コミカルな演出といえば、ラストシーンがとんでもないと思いました。『闇金ドッグス5』があると知らなければ、ちょっとビックリしちゃいそうです。

 

木村祐一 (C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


そうですね。あまり言えないんですが……「出すべきが出さないべきか」「キノコみたいなのがポロンと出てきて終わるほうがいいんじゃないか?」とか、現場でああだこうだ言いながらすごく悩みました。

――今までの『闇金ドッグス』がきちんと決着をつけて終わっていたのが、シリーズものらしい終わり方でした。

ぼくは、シリーズをやれることに誇りを持っているんです。あまり原作モノはやっていないんですよ。これまで三十数本撮っていますが、受け身とはいえ、オリジナルを作るのはめちゃめちゃ大変だし、めちゃめちゃ苦しいです。でもすごく楽しいし、非常にやりがいがあると感じていて。毎回非常に考えなければいけないし、飽きられるかも、と考えたりもしますけど、いつもお客さんをくすぐってやらないと、と思っています。それに、「ほかのとは違う」という楽しみを見出していけるスタッフが、プロデューサー、メーカーさんも含めて集まっていて、楽しめる環境が整っています。その中で自由にのびのびやらせてもらえて、自分のやりたいことも作品に落とし込める。「なんていい商売だ!」といつも思っています。『ガチバン』に関しては、とくにそう思っていました。

――『闇金ドッグス』や『ガチバン』はオリジナルのシリーズもので、高倉健さん主演の『網走番外地』のようなかつて量産されたプログラムピクチャーの匂いがします。ちゃんとスター性のある俳優さんを使って、与えられた枠のなかでちゃんとエンタテインメントを作っていく。非常にまっとうな映画の在り方だなと。

ぼくは、10年以上前に撮った『プウテンノツキ』からプログラムピクチャーの監督になると決めてやってきたので、そういう風に見ていただけるとめちゃめちゃ嬉しいですね。ぼくの屋号は”銀幕キッド”なんですが、昔の映画には銀幕のスターがいて、みんなその人たちを観に行っていました。高倉健さんだったり、『木枯らし紋次郎』だったり……そういうことだと思うんですよね。

――そんな中でも、元木監督が表現したいものを入れこんでいたりするんでしょうか?

昔からそうなんですが、基本的に貧乏なアウトローを撮るのが好きというのはあります。それは山下(編注:山下敦弘。『リンダ リンダ リンダ』などの監督)や熊切(編注:熊切和嘉。『ディアスポリス』などの監督)もそうなんですけど、ぼくら(大阪芸術大学)の学年の芸風なんだと思います(笑)。そこに男として憧れを感じるから、そういう主人公像になるし、そういう人間がたくさん出てくるし、そういうキャラクターを可愛がるんでしょうね。

 

(C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会

 

――忠臣も司も、一度ドロップアウトした人間です。そういう人たちがもがく作品だから、『闇金ドッグス』は元木監督の作風とマッチしていたのかもしれませんね。

そうですね。山田も青木くんも、撮っていてしっくりくる作品だったな、と思います。現場でもみなさんに伝わったんじゃないかな、あれだけお芝居をちゃんとやっていただいたので。非常によかったです。

――これだけシリーズものとしてのお話をしましたが、『闇金ドッグス6』が元木監督以外の方が撮られる可能性もありますよね(笑)。

『闇金ドッグス6』が別の監督になったら、このインタビューは何だったんだということになりそうですが(笑)。いや、それでもいいと思います。自分は『闇金ドッグス4』『闇金ドッグス5』をキチンとやったので。シリーズものの監督ってそういうことなんで、(監督が代わっても)意に介さないというか。「やってくれ」と言われたときに、自分の物理的な問題で(監督できない)もありだと思うし。やったらやったで、シリーズで一貫したものも考えながらも、その中でちょっとした戦いもあるじゃないですか。「他の監督より面白いものを撮りたい」とか、「他の監督よりも色を出したい」とか。他の監督も、もしかしたら「『ガチバン』からきた人間がおれの忠臣を……」と思っているかもしれないし。山田の取り合いじゃないですけど、そういう思いってあると思うんです。それは非常に正しいことだと思うので。違う監督が『闇金ドッグス6』を撮ることになったら、「4、5より面白いものを撮ってやる」と思ってほしい。

――監督によって色が変わるのも醍醐味ですよね。『ガチバン』からのファンとしては、『闇金ドッグス』とクロスオーバーすると面白いな、とも思います。クロスオーバーに限らず、元木監督がやってみたい作品はありますか?

これは正直な気持ちですが……『ガチバン』のファイナルは撮りたいです。やっぱり、シリーズの監督として中途半端に終わらせるのは自分の中では何か違うな、と思うので。決してAMG(編注:『ガチバン』『闇金ドッグス』の製作会社)さんがそう思っていないということではなく、みんなやりたいと思ってるんで、機会があれば「やりたい」と発信していきたいです。それが佐野や窪田にも届いてほしいし、AMGさんにも届けばいいな、と。何本続くのかもわからないですし、次が最後じゃないのかもしれないですが、ファイナルはやりたいですね。

――『ガチバン』も『闇金ドッグス』も続いてほしいです。

クロスオーバーもしたいですね。でも、『ガチバン』のキャラクターを持ってくると、「あの人はこうなっちゃったの?」みたいなことにはなりますけどね。

――すでに『ガチバン』のキャストが『闇金ドッグス』に別の役で出演されたりもしています。『ガチバンIV 最狂戦争』のギャングの元ボス役だった波岡一喜さんは、『闇金ドッグス』シリーズでは、ライバル・ひまわり金融の社長として登場しています。

『仁義なき戦い』シリーズで梅宮辰夫さんが、まったく別のキャラクターでもう一度出てきたみたいなもんでしょうか(笑)。波岡を『闇金ドッグス』で見たときは、「あ~出てきちゃったか。まあ、だいぶ前のことやし、ええか」と思ったり(笑)。ぼくが監督するなら、そこは守ろうと思います。荒井敦史を出すときは紅井レオ役で出したいですね。レオは金の亡者なので、『闇金ドッグス』の世界にマッチすると思います。佐野和真の森紋児は、『闇金ドッグス』の世界にあまりいれたくないところはあります。『ガチバン』の中の王子さまであってほしいので(笑)。そういうのは考えると面白いですよね。

 

(C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


――どんどん期待が膨らみますね。

彼らのことは全員好きです。俳優がどうのこうのじゃなく、彼らが演じているキャラクターが好きなんです。やっぱり何か作ってあげたいな、というのがありますね。そう考えると、(シリーズものの監督は)幸せな立場ですよね。

――オリジナルのシリーズものは、キャラクターが出来ていれば、そこから物語が膨らんでいくのでとても面白い。この作り方は、最近ヒットした『HiGH&LOW』シリーズに似ていると思うんです。なので、『HiGH&LOW』にハマった人にぜひ観て欲しいですね

ありがとうございます(笑)。こういうテリトリーもあるということは、皆さんに知っていただきたいですね。

――『闇金ドッグス』は、世間的に『闇金ウシジマくん』にも似た作品とも思われていますが、実質は全く違います。

違いますね。『闇金ウシジマくん』にAV制作会社ドビュッシーは出てこないです(笑)。そして、願わくばリスペクトしている『ミナミの帝王』を闇金モノで越えたいですね。

『闇金ドッグス4』は2016年12月10日(土)より、『闇金ドッグス5』は 2017年1月14日(土)より、シネマート新宿ほか公開。

インタビュー・文・撮影=藤本洋輔
 

作品情報
『闇金ドッグス4』 
 

(C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会


山田裕貴 升毅 高橋ユウ 坂田聡 ジェントル 瑛蓮 百瀬朔 副島淳 / 木村祐一 青木玄徳

監督:元木隆史
脚本:池谷雅夫
企画・配給:AMGエンタテインメント
製作:「闇金ドッグス4&5」製作委員会(AMGエンタテインメント/JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)

【ストーリー】
ラストファイナンスの社長・安藤忠臣(山田裕貴)。若くしてヤクザの親分になったものの、稼業を引退して、闇金の世界へ足を踏み入れた。元イケメンホストだった須藤司(青木玄徳)と共に、癖のある債務者を追い込む毎日。ある日、ヤクザ時代の大兄貴分の豊田(升毅)が10年のお勤めを経て、シャバに戻ってくる。もう、あの塀の中には戻りたくないと、足を洗う事を宣言した豊田。男として、ヤクザとして、常に目標としてきた豊田に、忠臣は放免祝いとして30万を包む。常に債務者には冷徹な忠臣の意外な態度に、司は突っかかるが、「優遇は一度まで。次に融資する時は、きっちり回収する」とその信念は変わらない。しかし、出所した元ヤクザには、世間の風当たりも厳しく、就職先もままならない。それでも堅気になると誓い、喫茶店で慣れない履歴書に向かう日々を過ごす。そんな豊田の姿を微笑ましく見ていた喫茶店の店員・元子(高橋ユウ)の前に、突然チンピラが現れる。元子を拉致ろうとするチンピラを、圧倒的な腕力でぶっ飛ばし、元子と共に逃げる豊田。金銭トラブルを抱える元子と元ヤクザの豊田。頼る相手がいない二人は、束の間の安息を得て、共に惹かれあうのであった。幸せな時間を守る為、元子の借金を肩代わりする事を決めた豊田が向かったのは、ラストファイナンスであった。

(C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会
公式サイト http://yamikin-dogs.com/
『闇金ドッグス5』 

青木玄徳 菅原大吉 美谷和枝 牧野ステテコ 蒲生純一 副島淳 / 荒木宏文 山田裕貴

監督:元木隆史
脚本:池谷雅夫
企画・配給:AMGエンタテインメント
製作:「闇金ドッグス4&5」製作委員会(AMGエンタテインメント/JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)

【ストーリー】
女性債務者から、絶大の信頼を得ているラストファイナンスの須藤司(青木玄徳)は、かつて、街金から金を騙し取る為に、結婚離婚を繰り返し、戸籍上の名字を忘れてしまっている。そんなある日、銀行系のローン会社から、電話が入り、「あなたの奥様が借金をして、飛んだ。夫である貴方には支払いの義務がある」と。困り果てている司には、にべもなく、社長の安藤忠臣(山田裕貴)から、新規の客をあてがわれる。その客は、大手電機メーカーの下請け会社でエアコンの設置業者の契約社員として働く、沼岸光夫(菅原大吉)。ブラック企業では人扱いをされず、冷遇のなか必死にしがみついている。それは、ひとえに認知症を患っている母の為。だが、薄給で生活費もままならず、致し方なくラストファイナンスを利用している。沼岸の状況は悪くなるばかりで、理不尽な理由で急に解雇されてしまう。困った沼岸は、生活保護の申請をするも断られ、無職になったので、司から追加融資も受けられずにいた。そんな沼岸の前に、NPO法人で貧困ビジネスを営む五条礼(荒木宏文)が現れ、申請が通った生活保護費を不正に搾取されてしまう。母の病も進行が速くなり、生活は究極に困窮する。藁をもすがる思いで、沼岸はラストファイナンスを再び訪れた。

(C)2016「闇金ドッグス4&5」製作委員会
公式サイト http://yamikin-dogs.com/
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