瀬戸内サーカスファクトリー、海外展開に向け、第2回国際創作サーカスフェスティバル「SETOラ・ピスト」開催
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現代サーカスをつくり、育て、広めるための機会、そしてその仕組みとしてスタートした「瀬戸内サーカスファクトリー」。2015年の秋に続き、これが二回目となる国際創作サーカスフェスティバル「SETOラ・ピスト」を開催する。ただ今回は“国際”とふた文字を付け加えた。もちろん、これまでも海外のアーティストは招へいしていたが、このフェスティバルが“世界の現代サーカスの人びとが集う場所になり、日本と世界をつなぐ場になりたい”という、強い意志を表明を示したものだ。覚悟である。瀬戸内の美しい景色、伝統芸能の源流などなどここにしかない風土を巻き込んだ、ここでしか体験することのできない唯一無二のサーカス文化を発信する、そんな覚悟。代表理事の田中未知子に聞いた。
田中未知子
日本人が忘れかけている芸能の源流をフランス人の目から探る
––––国際創作サーカスフェスティバル「SETOラ・ピスト」はより海外の現代サーカス関連団体との連携が強固になっている印象です。それぞれの団体について教えてください。
田中 リュジーヌ(l’Usine)との連携では、今年から2年かけて、人形浄瑠璃の勘緑と、カンパニーGdRA(ジェデラ)の共同制作を行います。フランス側は創作場所と劇場などを備える国立大道芸創作センターのリュジーヌ、日本側は瀬戸内サーカスファクトリーがプロデューサーを務める形で進めます。
これは、「伝統×現代」「フランス×日本」の初の本格的国際ツアー創作になります。表面的な共同作業ではなく、テーマを「日本の芸能の源流を探る=かつての芸能者たちの姿を描き出す」こととし、この作品では人形ですが、かつての芸能者がいかに生活の中の「祈り」「感謝」と結びついた活動をしていたか、また、ハレとケの場面によって身分までもが変貌するような特殊な立場であったことを浮き彫りにしたい、本質に迫りたい、という思いがあります。フランスのアーティストと組んだ理由は、芸能の源流は日本人が忘れかけ、興味を失いかけていることであり、かつデリケートな話題を含む場合もあるので、外国人アーティストの客観的な目線と、客観的な興味が創作を助けると思ったからです。
––––「シルコストラーダ」は欧州25か国80以上の劇場やフェスティバルなどが加盟する団体だそうですね。
田中 ヨーロッパ現代サーカスネットワーク「シルコストラーダ」を香川県にお呼びすることに関しては、今後、日本で日本人が創る作品がいずれ海外に招へいされ、公演できるルートをつくりたい、それが当たり前の状態を実現したいという思いからの連携です。シルコストラーダは私が2007年に「サーカスに逢いたい」という本を執筆していたころに受け入れてもらっていた国立大道芸サーカス情報センター「オール・レ・ミュール」が事務局となって創立されたネットワーク。当時から横でドキドキしながら様子を見ていましたが、本すら出版できる前で、ましてやシルコストラーダのメンバーのように創作や公演を主催するなんて遠い夢でした。だって取材のために会議を傍聴することすら断られたこともありますから(笑)。なのに、それが私たちのフェスティバルの時期に合わせて来日したいと言ってくれるまでになったのは、個人的にも本当に感慨深いです。だからこそ現代サーカスで日本とヨーロッパをつなぐ存在になっていかなければならないし、ヨーロッパだけでなく、アジア同士もつなぐ存在になっていきたいという思いになります。
––––そして新感覚と銘打たれた「IÉTO」についてご紹介ください。田中さんが新感覚というからには…
田中 彼らはサーカスらしい器具を一切使わず、板とデッキブラシのみで表現する作品を手がけています。究極のバランス感覚としなやかで力強いアクロバットがあるにもかかわらず、変な言い方ですが、そのことを感じさせない(苦笑)。だから物足りない、というのではなく、いったい何を見たんだろう、何だったんだろう?という疑問が後から後から湧いてくるんです。それが招へいの狙いです。その場が盛り上がるけど翌朝には覚えていない、ということがあると思うんですが、その真逆なんです。その時に何を見たか自分の中で明瞭でないままに会場を後にし、翌日になっても、翌月になっても、場合によっては翌年になっても後を引く。でもそれが現代サーカスだと思うんです。それは、誰かが決めた筋書にアーティストが出演者としてあてはめられてつくられるエンターテインメントとは違い、アーティスト自身が悩み苦悩しながら、絞り出すようにつくっていく世界。ゆえに唯一無二の忘れがたいものになるのです。IETOもその一つです。
芸能の源流である「祈り」への想いが、勘緑さんと私を引きつけた
––––話は戻りますが「現代サーカス×人形浄瑠璃」という組み合わせが気になります。サーカスと人形浄瑠璃にどんな化学反応が起こるでしょう?
田中 勘緑さんとの出逢いはとても不思議です。まだ勘緑さんが国立文楽劇場の技芸員をされていたころ、雲の上の存在だった時代に「サーカスが好き」と言ってくださり、ひとつめの壁がこわれたのだと思います。自分が瀬戸内に引き寄せられたわけをずっと考えていますが、戦後の西洋化された世界しか知らないはずなのに、自分の心や身体の奥深くにうずいている何かがあると感じていたんです。芸能の源流はひとしく「祈り」に結びついており(豊作、豊漁を祈る、好天を祈る)、日本人の心の在り方そのものだったこと。そしてしばしば、外部の人間としての芸能者の存在が、その祈りの役割を果たしていたということも、日本人が忘れてしまった、あるいは隠してきた部分であり、しかし決して消滅することのできない、うずくまる影として存在しているのだと思うのです。
それで、この『ESPRIT 憑リクルモノ』の原案を勘緑さんに相談したところ、驚いたことに、それこそ徳島の阿波池田で生まれてから人形遣いになるまで、あるいは国立文楽劇場の技芸員になった後も、ずっと勘緑さんから離れたことのない思いであり、それを表現したいと思っていらした、ということがわかったのです。最初は、それが自分のアイデアかと思っていましたが、実は、勘緑さんの強い思いに呼び寄せられたのでは、と思うようになりました。
––––ワークインプログレスということで、今回はどこまで行かれればよい思われていますか? そして東京、あるいはフランスなどを目指すなど今後の展開は?
田中 今回は、初対面だっ勘緑さんとカンパニーGdRAが互いを知り合い、互いに深いところで思いをつなげられたら良いと思っていました。実際には、私が思うよりもまったく早いペースでどんどん創られていき、世界があっという間に現れはじめています。この段階でもものすごく面白くなったと感じていますが、来年は、フランスのリュジーヌでつづきの滞在制作を行い、あと1人、2人、登場人物が増え、完成されたものがフランスのフェスティバルで発表される、という予定で動いています。その作品を凱旋帰国公演として、また香川で発表するつもりです。発表の場は、いくつか候補があり、その中には驚くようなところも含まれています。実現したらすごいことですね。がんばりますので、楽しみにしていてください。
瀬戸内サーカスファクトリー/サーカス堂ふなんびゅる代表理事。オール・レ・ミュール(フランス国立大道芸サーカス情報センター)日本特派員。北海道生まれ。1996年に北海道新聞社入社、事業局にてピカソ展、安田侃展、円空展、レオナール藤田展などを手がける。2004年『ヴォヤージュ』フランス現代サーカス公演の準備段階より、フランスとの交渉窓口として通訳翻訳業務を担当。2007年に退社、渡仏。オール・レ・ミュール(仏国立大道芸サーカス情報センター)を拠点に取材、執筆。2008年、アートフロントギャラリー入社し「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」にて、舞台芸術部門の運営を担当。2011年「サーカス堂ふなんびゅる」(屋号)として独立。2012年、フランス外務省からの招へいを受け、パリでの現代サーカス国際会議に参加。ことでん仏生山工場にて「100年サーカス」公演、瀬戸内生活工芸祭で「サーカスパレード」を実施。2014年、日仏共同創作公演「キャバレー」実施、ヨコハマ・パラトリエンナーレ パフォーミングアーツ部門ディレクター、東京都ヘブンアーティスト審査員などを務める。
(取材・文:いまいこういち)
■会場:サンポートホール高松 第1小ホール
■出演:IÉTO(イエト)
■入場料:前売3,500円/当日4,000円 ※未就学児入場不可
■会場:サンポートホール高松 第2小ホール
■出演:GdRA(ジェデラ)、勘緑・木偶舎
■入場料:前売3,000円/当日3,500円 ※小学生以下入場不可
■会場:サンポートホール高松 第1リハーサル室
■参加費:小~中学生の部1,000円/一般の部(高校生以上)3,000円
■日時:2016.12.15(木)14:00~16:00
■会場:香川県立ミュージアム講堂(地下1階) アクセス
■参加費:無料 ※交流会は17:00~18:30、同ミュージアム会議室にて参加無料