ブックディレクター幅允孝が選ぶ 「ARBANの書棚に入れておきたいJAZZYな5冊」

インタビュー
2017.1.1

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 今回、ご登場いただくのは、本にまつわるあらゆることを扱う『BACH(バッハ)』の代表・幅允孝(はば よしたか)さん。彼の肩書きはブックディレクター。カフェと本屋さんを融合させた先駆的な施設である六本木ヒルズの『TSUTAYA TOKYO ROPPONGI』をはじめ、『Brooklyn Parlor』、『la kagu』、『京都市動物園』のライブラリー制作など、さまざまな場所で選書をされています。また、自ら編集して本を制作したり、著者として書籍を発行することも。そんな本のプロに、「もしもARBANに書棚があったら」という切り口で5冊を選書していただきました。

本くらいは自分の直感を信じて買おう!

――ゆっくり読書でもしたいなと思いながら、ついついスマホをいじってしまったり、仕事が忙しかったり、なかなか時間が取れない世の中だと思うのですが、幅さんはどんなタイミングで読書をされることが多いですか。

カバンにはいつも4冊くらい本が入っていて。そのときどき、自分にストレスのないものを読んでいます。感覚的には食事選びに近いですね、がっつり肉が食べたい日もあれば、豆腐くらいで済ませたいときもあります。堅い本も読みますが、ヤンジャン(週刊ヤングジャンプ)とかも読みますから。でも、読書の時間帯は夜が多いですね。ソファでお酒を飲みながら、パジャマ姿でひとり本を読むのが一番好きな時間。

――ほっとする時間ですよね。本が面白いと、つい夜更かしをしてしまったり。普段、自分が読みたいものはどうやって探しているのですか。

本屋さんに行って、表紙とタイトルが気になったらパラパラめくって「おっ」と思ったら買う。基本的に迷ったら買います。何かしら気になっている時点で琴線に触れているわけで、そういう直感は信じないと。いま世の中は失敗したくない病にかかっている気がするんです。常にレビューサイトの点数を気にするのはどうかと思うんですよね。それよりも自分の直感を信じて、自分にとっての最高点を探すほうが素敵だなって。ITが進化したことで直感を反映できる場面は減っていますが、本選びくらい自由にさせてほしい(笑)。音楽もそういうところがありますよね。

 

幅広い視点で選ばれた、JAZZYな5冊

――確かにそうですね。でも、幅さんくらい本に接しているとハズレを引く機会は減りそうですね。

そもそもハズレという概念がないですね。こちらの心が開いていれば、どこかしらに美点があるんですよ。アタリハズレというより、いまの自分に合う本・合わない本があるくらい。一方で、年齢とともに苦手なものが減ってくるというのはあります。それはハッピーなこと。僕はレシピ本でも何でも読みます。

――ちなみに電子リーダーは使われていますか。

使ってますよ。漫画とか気になったらすぐに読めるのがいい。そこで「これはもう一度読み返すだろうな」と思ったら紙で買います。紙と電子はどちらがいいというものではなく、道具としてうまく使い分ければいいと思います。

――なるほど。では、本題の「ARBANの書棚に入れておきたいJAZZYな5冊」を紹介してください。今回はどういう観点で選ばれたのですか。

書棚を見ながらノリで選びました(笑)。でも、個人的に大好きな5冊です。

▼虚構と事実を織り交ぜながら書かれた、ジャズミュージシャンの物語

『But Beautiful』
著者:ジェフ・ダイヤー
訳者:村上春樹
(新潮社/2011年)

これは最高の一冊。著者は1958年生まれのイギリス南西部チェルトナム出身の方で、小説家というよりジャーナリスト。これまでに文学の批評家としてさまざまな本を書いています。そんな彼が初めて挑戦した小説がコレ。
主人公はジャズミュージシャンで、物語にはレスター・ヤングを始め、セロニアス・モンク、バド・パウエル、チャールズ・ミンガス、チェット・ベイカーなど、名だたるミュージシャンが出てくるんです。この小説の面白いところはフィクションと史実を織り交ぜながら書いている点。ジャズ好きの著者が、彼らの音楽を聴いて想像を膨らましながら、実際にあったエピソードを交錯させて彼なりのミュージシャン像を描いてみせている。例えば、チェット・ベイカーは色男でモテる人物であり、悲哀を含みつつ甘く優しいのだけれど、その優しさは実は誰にも向けられていないのでは? みたいな感じで、彼の孤独と優しさの関係を描いているんです。そのなかに、彼が麻薬に手を染めるにいたる、歯を折られる実際の事件などがリンクしてくる。その絶妙さがすごく面白い。
でも、音楽ってそういうものかなって。ミュージシャン本人というより、その人が出す音を聴いた人が、勝手に人物像を増幅させてカタチづくられていくというか。これはジャズ好きといわず、すべての音楽好きに読んでほしい。登場するミュージシャンを知らなくても、逆にこれを読んで興味が湧くことがあると思います。また、エピソードとして書かれていることは、細かくたくさん出典が載っていて、マニアにとってはたまらないかも。

 

▼新しいものが生み出される瞬間を捕えるべく挑んだ対談集

『キース・ジャレット 音楽のすべてを語る(JAZZ LIFE BOOKS VOL.1)』
著者:キース・ジャレット
(立東社/1989年)

上記で紹介した『But Beautiful』を「ジャズに関する本で唯一友人に薦めた」と語っているミュージシャンがいるんです。それがキース・ジャレット。この本を読めばわかりますが、かなり偏屈なおじさんで(笑)。でも、音楽をやらない人でも何かしらインスピレーションを与えてくれる面白い一冊だと思います。
この本は、まず山下さんという日本人が、キース・ジャレットに手紙を出すところからスタートします。当時、「音楽界のジャイアント」と呼ばれていたキースには世界各国から本のオファーが届いていたようですが、ある質問が「いままで誰ひとりこんなことを僕に聞いてこなかった」ということで取材許可が下りて。1988年の11月1日~4日までの4日間、ニュージャージーの自宅でおこなったインタビューをもとに構成されています。
その質問とは「どうやったら音楽家になれるのか?」というもの。それは「どうすれば、これまでにない新しいものを作れるのか?」と同義で語られているんです。ですから、音楽家に限らず、すべての挑戦者に共通するような放熱がある。
内容的には、彼の音楽的な成り立ちがどうカタチづくられてきたのかを表そうとしている対談というか雑談。自分の内側にすごい集中力で向かっているのがわかります。そして、言葉にならないような彼の音楽観を、どうにか言葉にしようと努力している感じもたまらなくいい。ものができあがる瞬間を描こうとした作品はこれまでにもありますが、これは極限まで具体的に描こうと努力しているし、新しいものが生み出される瞬間をなんとか捕まえようとする対話が一冊に入っている。
また、本のなかにはキースの家の本棚やCDラックの写真もあったり、そのキャプションも面白い。「日本の編集者やるな!」と感じる素晴らしい一冊です。


▼クスッと笑える、ジャズマニアが共感する漫画

『ラズウェル細木のブルーノート道案内 All Blue-みんな真っ青』
著者:ラズウェル細木
(DU BOOKS/2013年)

ラズウェル細木さんってご存知ですか? 『酒のほそ道』という有名な酒飲み漫画を描いていたり、うなぎだけをテーマにした『う』とか、食とお酒に関する漫画が多いんですけど。実はラズウェルさん大のジャズ好きなんです。これは『BLUE NOTE CLUB』というEMI(現UNIVERSAL MUSIC)が運営している会報誌に、1996~2006年の10年間に渡って連載されていた漫画です。会報誌向けなので1話が6Pと短いですが、ブルーノートにまつわるどうでもいいような楽しい話が多くて(笑)。
例えば、ある日家が泥棒に入られるんです。そこでブルーノートの1500番台が全部盗まれたと。その後、盗難品が発見されて警察に行くと、「100枚のうち1553番と1592番の2枚だけがまだ見つかっていません。もう一度探しましょうか?」と言われるわけです。ここでマニアの方はピンとくるのですが、実は1553番は欠番になっていて、1592番はソニー・クラーク・クインテットの未発売盤だから「いえ、大丈夫です」と答えたというエピソードとか。そういうブルーノートにまつわるドタバタ話や、レコードマニアならニヤニヤできる話とかが描かれている。
若い人が読めば、ジャズマニアのおじさんの気持ちが理解できるかもしれないし、マニアからするとクスッと笑えるリアルな描写がいろいろあって面白いですよ。

 

60年代のジャズシーンを愛に満ちた写真で綴った

『JAZZ GIANTS THE 60’S モダン・ジャズ・ジャイアンツ』
著者:中平穂積
(講談社/1981年)

これは沖野修也さん監修のポップアップストア『JAZZY BOOKS』で買った一冊です。僕はコルトレーンの『Selflessness: Featuring My Favorite Things』に収録されている1963年のライブが大好きで。その年ではないですけど、ニューポートでコルトレーンが吹いている写真を発見して「これは買っておかなければ」と購入しました。
中平さんはジャズバー『DUG』の経営者として有名ですが、もともとは写真家。この写真集はジャズの黄金時代ともいえる60年代のものが集められていて、彼がのちにジャズバーを始める初期衝動のようなものが詰まっているように感じます。前書きを野口久光さんや和田誠さんが書かれているのですが、「これほど趣味を懸命に仕事化した人は知らない」「彼は写真を撮るジャズファンである」などと語られていて、とにかく好きなことに向かっていくバイブレーションが写真から伝わってきます。愛に満ちたいい写真ばかりでオススメです。


 

アンリ・マティス最後の作品集、タイトルは「ジャズ

『Henri Matisse・Jazz with a postscript by Katrin Wiethege』
著者:アンリ・マティス
(Prestel Verlag/2009年)*初版は1947年

僕が大好きなマチス最後の作品集。彼は晩年、身体を悪くしたこともあり、輪郭線がうまく描けなくなって悩むんです。そこで発明したのが切り絵の手法。この作品はアシスタントが塗った色紙をジャズ的な即興性で切り貼りしながらつくられています。モチーフになっているのは、サーカスなど彼が世界中を旅して目撃したもの。
リズムを持って色紙を重ねていく感じがわかるというか、うまく説明できないですけど、とても音楽的な作品集に感じます。マティスは有名なダンスのシリーズもありますし、昔から音楽的なつながりがあったのかもしれません。そう考えると、晩年に「ジャズ」というシリーズを残したのも納得がいきます。
楽しみ方は自由ですから、意味もなく眺めたりすると面白いと思いますね。言い過ぎかもしれませんが、一家に一冊はほしい作品集です。


――バラエティに富んだ5冊、ありがとうございます! どれも面白そうですね。ちなみに、これらはまだ手に入るのですか。

どれも絶版ですが、たぶん神保町に行けば見つかります。Webもよく探せば掘り出しものが見つかると思いますが、やはり足を使って探しに行くのが一番楽しいと思います。

――早速、探してみたいと思います。今日は本当にありがとうございました! 

 
この記事に興味を持ったらジャズを中心に良質な音楽・カルチャーを紹介するウェブマガジン「Arban(アーバン)をチェックしてみよう! http://arban-mag.com/
 
Text by 富山英三郎 Photo by 山崎瑠惟
 
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