市川右團次・右近が襲名披露『寿新春大歌舞伎』、海老蔵が9年越しの思いと祝福
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『襲名披露 口上』(左から)市川右近、市川右團次
海老蔵、梅玉、猿之助、中車らが華を添える
2017年1月3日、新橋演舞場で『壽新春大歌舞伎』が開幕した。市川右近改め三代目市川右團次襲名披露となる初日、夜の部をレポートする。
この日は初日公演とあり、開場前から大変な賑わい。ロビーには、鏡餅や人の背丈ほどある「矢の根」がモチーフの羽子板が飾られていた。和装の来場者も多く、満員の客席に彩りを添えた。
なお昼の部では、二代目市川右近(右團次の長男・タケル改め)が6歳ながら、初舞台『雙生隅田川』で猿之助、右團次との宙乗りを、さらに早替りも披露した。
『雙生隅田川』(昼の部)(左から)市川右團次、市川右近、市川猿之助
『雙生隅田川』(昼の部)(左から)市川右團次、市川右近
■『源平布引滝』~義賢最期~
夜の部の第一幕。平家が隆盛を極めた時代の、源氏・木曽先生義賢を市川海老蔵が演じる。平家に囲まれ孤立無援でも臆することのない雄々しさと、それに相反して「(平家相手に)甲冑はいらない」とあでやかな装束のまま立ち回る美しさが胸を打つ。
後半、2枚の襖を脚に、3枚目の襖を天板にした上(『コ』の字を左に45度回転した形)で見得を切った。そこから人の手は借りず、スライドするように襖ごと着地し、さらに見得を切ると場内は拍手、歓声、「成田屋!」の掛け声で湧き上がった。
奮闘もむなしく息も絶え絶えとなる義賢。最期の別れを惜しみ、白旗を託された小万(笑三郎)が、義賢の乱れた装束を直す場面では、客席のあちらこちらからすすり泣く声が聞こえた。絶命し、階段に向かって仏倒しになる(直立したまま倒れる)クライマックスに息をのむ。
『源平布引滝』市川海老蔵
■襲名披露口上
黒・柿・萌葱の定式幕が、髙嶋屋の家紋「松川菱に鬼蔦」をあしらった祝幕に替わる。幕が上がると、緋毛氈に列座する一同。上手より、海老蔵、右之助、男女蔵、猿之助、梅玉、右團次、右近、中車、門之助の9名。披露役は、中村梅玉がつとめた。
『襲名披露 口上』(左から)市川門之助、市川中車、市川右近、市川右團次、中村梅玉、市川猿之助、市川男女蔵、市川右之助、市川海老蔵
市川猿之助「長年叔父猿翁の元で修業されていた右近さんが大名跡を襲名することになり、澤瀉屋にとっても光栄なことです。門閥外の人を抜擢するなど人材教育に心血を注いでおり、その右近さんが大名跡を襲名することは澤瀉屋にとって、誠に嬉しいこと。また新右近さんは昼の部、6歳で宙乗り・早替りを立派に成し遂げており、これからが楽しみでございます」
さらに「昼の部もぜひ」とアピールし場内の笑いを誘った。
市川海老蔵「(今回の襲名を)自分のことのように嬉しく思っています。9年前、自分の結婚披露宴の折に右團次を復活しようという話を、右近さんと父の團十郎と話したことがあり、それがようやく今日、こうした形で叶い、このように嬉しいことはありません。また、澤瀉屋の型で『義経千本桜』の四の切を演じたいという際に、右近さんが、手取り足取り教えてくださった。私にとっては大恩人です」
市川中車「父の猿翁を41年の長きにわたって、そして澤瀉屋を支えてくださった右近さんの襲名、父に成り代わりましてお祝い申し上げます。私が歌舞伎の世界に入りましてから、歌舞伎のこと、澤瀉屋の事をいろいろ教えて頂き、ただただ感謝の言葉しかありません。心よりお祝いを申し上げます」
三代目市川右團次「長年名乗ってまいりました市川右近の名を改めまして、市川右團次の名跡を三代目として襲名いたす運びと相成りましてござりまする。81年ぶりの市川右團次の復活、この上は代々の右團次の名を辱めることのないよう懸命に努力精進を重ねて参る所存にござります」
『襲名披露 口上』市川右團次
大きな拍手が落ち着くのを待ち、右團次が右近に「では、新・右近さん。ご挨拶をどうぞ」と声をかける。
二代目市川右近「いずれもさま、ご機嫌よろしゅうございます。この度、父の名跡市川右近を二代目として襲名いたす運びと相成りましてござりまする。どうぞよろしくお願い申しあ~げ、奉りまする~」
『襲名披露 口上』市川右近
右近の、透明感のある、しかし芯の通った声での立派な口上。会場は一体となって温かな拍手を贈った。
■『錣引(しころびき)』~摂州摩耶山の場~
新・右團次が襲名披露狂言として演じる、極彩色の摩耶山で幕をあける。悪七兵衛景清を右團次が、三保谷四郎を梅玉が演じた。源平合戦の時代、平家の中でも猛将として名を知られる景清が、源氏の中で名の知られた武将の三保谷四郎と対峙する。お互いの力を讃える場面は清々しい。テンポの良い舞で兜をひっぱりあう様式美に溢れた一幕。飛び六方での引っ込みに、「髙嶋屋!」「三代目!」とこの日一番の掛け声と拍手が沸いた。
『錣引』市川右團次
■猿翁十種の内『黒塚』
老女の岩手(実は、鬼女)を猿之助、阿闍梨祐慶を右團次、山伏讃岐坊を中車が演じる。物語の世界観を損なわないよう、花道を映すモニターは消され、途中入退場も制限する徹底ぶり。舞台照明の効果が際立つ月明かりの中、岩手の恐ろしくも幻想的な舞から、目を離せない。
『黒塚』(左から)市川猿之助、市川右團次
今回の襲名により、右團次の屋号は、澤瀉屋から髙嶋屋へ変わった。その点について右團次は、「(屋号がわっても)澤瀉屋の精神を右團次の名を通して広く歌舞伎界に残していけるよう精進する」とくり返してきた。襲名披露興行で、澤瀉屋と縁の深い『黒塚』を猿之助と、中車とともに創り上げる。新・右團次の覚悟、意気込みを感じられる公演だった。
新橋演舞場『壽新春大歌舞伎』三代目市川右團次襲名披露は、2017年1月27日まで。
(取材・文:塚田史香)
■日程:2017年1月3日(火)~27日(金)
■会場:新橋演舞場 (東京都)
■出演:右近改め市川右團次、市川右近、中村梅玉、市川猿之助、市川海老蔵、市川中車 ほか
■演目:
<昼の部>
三代猿之助四十八撰の内 通し狂言 雙生隅田川(ふたごすみだがわ)
吉田少将館奥殿より 琵琶湖鯉つかみまで
<夜の部>
一、源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)
義賢最期
二、三代目市川右團次襲名披露 口上(こうじょう)
三、錣引(しころびき)
摂州摩耶山の場
四、猿翁十種の内 黒塚(くろづか)
■公式サイト:http://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/505