The Best Album 2016 -ピーター・バラカンが選ぶ3枚-
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2016年はイギリスのEU離脱というショッキングな出来事をきっかけに、ますます深刻化してきた格差がもたらしうる変革を意識するようになりました。そういう意味ではトランプ現象も予想できたはずです。さあ、次は…? 大衆のためになる政治はもちろん歓迎しますが、嘘の公約を見抜くためには注意を払う必要があります。とにかく、メディアに携わる人間は権力をしっかりと監視する番犬としての役割を怠らないよう、これまで以上に努力しなければなりません。報道の自由が実質上圧迫されている今の日本では一人ひとりの意識が問われる時代です。
Charles Lloyd & The Marvels
I Long To See You
78歳の大ヴェテランのサックス/フルート奏者、40代のベースとドラムズ、そしてゲスト扱いのビル・フリゼルとグレッグ・リース、それぞれ非常に個性的で、しかも極めて相性のいい60代のギタリストという面白い編成。中身はゆったりとした美しい演奏で、ミュージシャンたちの心の息吹きを感じます。ロイドの昔の自作の他、ディランの「戦争の親玉」、賛美歌や子守歌など、そしてゲストのノーラ・ジョーンズが歌う「ユー・アー・ソー・ビューティフル」に痺れます。
Joshua Redman & Brad Mehldau
Nearness
うまくいった時のデュオほど満足感の高いジャズのレコードはない、と言ったら語弊があるかも知れませんが、やはり二人だけの対話に心を奪われることがあります。サックスのジョシュア・レッドマンとピアノのブラッド・メルダウの関係は90年代に遡りますが、久しぶりに共演した2011年のヨーロッパ・ツアーでライヴ録音された中からの選曲です。気心が知れた仲ならではのやりとりは、聞きやすいけれど同時に刺激的で、バックグラウンドのつもりで流してもついつい聞き入ってしまいます。
Jah Wobble and The Invaders Of The Heart
Everything Is No Thing
どんなジャンルの音楽に挑んでも、独特の重低音のベースが持ち味のジャー・ウォブルは70年代後半、ジョン・ライドンのPiLで初めて知られた人です。このアルバムでは、なんとそのちょっと前の時代のジャズ・ファンク(フュージョンと呼ばれる前)を再訪する形ですが、フェラ・クティの黄金時代を支えた名ドラマーのトーニー・アレンが登場する曲では、さらにアフロビートの雰囲気も加わり、ジャズの最先端がダンサブルな音楽でもあった時代の空気が濃厚に甦ります。
ブロードキャスター
1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動。「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(TOKYO FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。著書に『ロックの英詞を読むー世界を変える歌』、『ラジオのこちら側』、『ピーター・バラカンのわが青春のサウンドトラック』などがある。
http://peterbarakan.net