『エリザベス ペイトン』展をレポート カート・コバーン、ワーグナーなど様々な題材から”瞬間の美”を切り取る

レポート
アート
2017.1.24
"Pete and the Wolfman(From the NME)" 紙に色鉛筆、パステル 34.9 x 27.9 cm 2004  Private Collection, New York

"Pete and the Wolfman(From the NME)" 紙に色鉛筆、パステル 34.9 x 27.9 cm 2004 Private Collection, New York

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原美術館(東京・品川)にて日本の美術館では初となるエリザベス ペイトンの個展が開催中だ。「エリザベス ペイトン:Still life 静/生」と名付けられた本展では、ペイトン自身が選んだ42点もの作品を目にすることができる。

"Kurt Sleeping" 板に油彩 27.9 x 35.6 cm 1995 Private Collection, New York

"Kurt Sleeping" 板に油彩 27.9 x 35.6 cm 1995 Private Collection, New York

 

音楽は「自分の感情を引き出す存在」

彼女の作品といえば、真っ先にカート・コバーンをはじめとするミュージシャンらの肖像画を思い起こす方も多いだろう。本展では、そのカート・コバーンを始め、シド・ヴィシャスやピート・ドハーティ、ウルフマンなどが描かれた作品も展示されており、ロックやポップスのファンにとっても興味深い内容となっている。

"Pete (Pete Doherty)" 紙に水彩 35.6 x 26cm 2005 Charlotte Feng Ford Collection

"Pete (Pete Doherty)" 紙に水彩 35.6 x 26cm 2005 Charlotte Feng Ford Collection

"Sid and His Mum" 板に油彩 43.2 x 30.5 cm 1994 Collection of Meredith and Bryan Verona

"Sid and His Mum" 板に油彩 43.2 x 30.5 cm 1994 Collection of Meredith and Bryan Verona

またペイトンは、同じ音楽でも最近ではオペラについても関心を深めているという。メトロポリタン歌劇場で個展をやらないか、と声がかかったことがきっかけでレコードを聴いてみたところ、「自分でさえも気づかなかったような感情に気づかせてくれるオペラの魅力に引きこまれた」という。

"Richard Wagner" 紙に色鉛筆、パステル 21.9 x 15.2 cm 2010 Private Collection, New York

"Richard Wagner" 紙に色鉛筆、パステル 21.9 x 15.2 cm 2010 Private Collection, New York

『ローエングリン』など数々のオペラを手がけたリヒャエルト・ワーグナーの肖像画から、ワーグナーと同じくドイツ出身のテノール歌手で、グラミー賞を2度受賞しているヨナス・カウフマンを題材にした作品も展示されている。

"Parsifal(Jonas Kaufmann and Katarina Dalayman), NYC, 2013 板に油彩 30.5 x 22.9cm 2013 Private Collection

"Parsifal(Jonas Kaufmann and Katarina Dalayman), NYC, 2013 板に油彩 30.5 x 22.9cm 2013 Private Collection

このように、ペイトンには「音楽」を題材にした作品が多い。ペイトンは「一般の人と同じように音楽を愛している」と前置きした上で、絵を描くにあたって音楽は「自分の感情を引き出す存在」であり、特に「愛という感情を表現する際に音楽を用いることがある」と語る。

 

“日常”へ向けられた関心

また、音楽に関連した作品のみに限らず、身近な人物から歴史上の人物、映画のワンシーンや、花や犬などを描いた作品も多い。彼女の関心が日常の至るところに及んでいることがわかる。

"The Age of Innocence" 板に油彩 36.2 x 25.4 cm 2007 The Brant Foundation, Greenwich, CT

"The Age of Innocence" 板に油彩 36.2 x 25.4 cm 2007 The Brant Foundation, Greenwich, CT

"(Pati)" 板に油彩 22.9 x 17.8 cm 2007 Private Collection

"(Pati)" 板に油彩 22.9 x 17.8 cm 2007 Private Collection

用いる画材や素材も様々だ。カンヴァスや板に描かれた油彩画を始め、新聞紙にチャコールで描かれたもの、色鉛筆やパステルを用いた作品など、描き出したいものを具現化するにあたって最も適した表現方法を模索している姿勢がうかがえる。また、作品のサイズも、約20センチ四方の作品から、縦幅が1メートル強の大型作品まで多岐にわたる。彼女の表現の幅広さを確認できよう。

"Ludwig Ⅱ Riding to Paris" 紙にチャコール 27.9 x 35.6 cm 1993 Charlotte Feng Ford Collection

"Ludwig Ⅱ Riding to Paris" 紙にチャコール 27.9 x 35.6 cm 1993 Charlotte Feng Ford Collection

"Carmen; Jonas Kaufmann(3)" 手漉き紙にモノタイプ 119.4cm x 85.1cm 2011 Collection of Susan and David Goode, Norfolk, VA, USA

"Carmen; Jonas Kaufmann(3)" 手漉き紙にモノタイプ 119.4cm x 85.1cm 2011 Collection of Susan and David Goode, Norfolk, VA, USA

 

静謐な美術館で人生を愛おしむ

ペイトンは本展覧会の開催が決まった際、はじめは「最近は静物画を描くことが多いので、静物画を展示しよう」と考えていたという。しかし「原美術館と周囲の環境が持つデリケートな雰囲気を目にした時、私の全体像を見てもらえるような作品を展示したい」と思い直したのだそう。そして本展覧会に展示されている作品は全て、ペイトン自身が「好きで思い入れがある作品」であり、また、「ロマンチックで情熱的で自分自身に意味が多いもの」を選定したという。

展示風景より

展示風景より

エリザベス ペイトンと"Irises and Klara Commerce St." 板に油彩 61 x 45.7 cm 2012 Roman Family Collection, London

エリザベス ペイトンと"Irises and Klara Commerce St." 板に油彩 61 x 45.7 cm 2012 Roman Family Collection, London

「Still life 静/生」という展覧会タイトルが表すように、本展で展示されている作品はどれも、絵画という静止画の中にドラマティックな物語性が感じられるものばかりだ。ペイトンの人生そのものへの愛のようなものさえ感じ取れる気がする。

原美術館という、静謐でありながら親近感の感じられる環境の中で展示されたペイトンの作品を通じ、人生の愛おしさを思い起こすような特別な時間を過ごせるだろう。また、会場にはペイトンが自身が所有する作品も展示されている。貴重なこの機会を逃さず、ぜひ足を運んでみてほしい。

"Ken and Nick (ken Okiishi and Nick Mauss)" 板に油彩 27.9 x 22.9cm 2005  Collection Glenn and Amanda Fuhrman NY, Courtesy the FLAG Art Foundation

"Ken and Nick (ken Okiishi and Nick Mauss)" 板に油彩 27.9 x 22.9cm 2005 Collection Glenn and Amanda Fuhrman NY, Courtesy the FLAG Art Foundation

 

※作品図版全て 
(c) Elizabeth Peyton, courtesy Sadie Coles HQ, London; Gladstone Gallery, New York and Brussels; neugerriemschneider, Berlin
※作品図版は全て転載不可。

イベント情報
エリザベス ペイトン:Still life 静/生

日時:2017年1月21日(土)~ 5月7日(日)
主催・会場:原美術館 http://www.haramuseum.or.jp
開館時間:11:00 am - 5:00 pm
(祝日を除く水曜は8:00 pmまで/入館は閉館時刻の 30分前まで)
休館日:月曜日(祝日にあたる 3 月 20 日は開館)、3 月 21 日
協力:一色與志子

特別協力:Sadie Coles HQ, London; Gladstone Gallery, New York and Brussels; neugerriemschneider, Berlin
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